コロコロのアート 見て歩記&調べ歩記

美術鑑賞を通して感じたこと、考えたこと、調べたことを、過去と繋げて追記したりして変化を楽しむブログ 一枚の絵を深堀したり・・・ 

■東京国立博物館 特別展『茶の湯』《曜変天目茶碗》を見てきました

物議のあった曜変天目茶碗。世界に3つ。なかでも一番美しいと思われる静嘉堂文庫美術館の別名《稲葉天目》を東博で見てきました。この茶碗、見方を変えて物理学的に鑑賞したらどう見えるのか・・・という視点でレポートします。(「静嘉堂文庫美術館」は以下「静嘉堂」)

 

 

東京国立博物館にて、特別展『茶の湯』 が行われており、さまざまな茶碗が展示されています。茶碗に関する基礎知識が全くないため、どう見たらよいのかよくわかりません。茶碗の価値というのは、茶碗のそのものの価値だけでなく、由来や伝来、誰が手にしてきたかによっても大きく変わると耳にしました。今回はそういうことを抜きにして、「茶碗」そのものを科学の目で鑑賞したらどう見えるのかを《曜変天目茶碗》に絞って、掘り下げてみようと思います。

 

それにあたり、下記の書籍を参考にさせていただきました。

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おそらく茶の湯、茶道における「茶碗」という点から考えると邪道な見方なのだと思います。しかし、ものの見方というのは、いろいろであっていい・・・ということで、こういうとらえ方もあるのか・・・と思っていただけたら幸いです。

 

 

■思っていたイメージと違う!

正直な忌憚のない第一印象は・・・「これですか?」でした(笑) 私がイメージしていたものと全く違いました。もっと七色に輝く、神々しい茶碗かと思っていたのに・・・・ 

それは、これまでの来歴を耳にしたり、興味を持って調べた写真や映像。本物を見る前に目にした情報によって、勝手に、こういうものだろうというイメージを作り上げてしまっていたことによるものです。ただ・・・「実物は思っていたものと違った・・・」そういうことではないものを感じました。

 

これは、「どう見せるか・・・・」という問題なのだと・・・

 

 

■茶碗にどんな光をあてているのか?

自分がイメージした印象と違う原因は、茶碗にあてる光だと思いました。茶碗にどんな光をあてているのか、細かく観察しました。基本として、光はあてていないことがわかりいました。床からの反射光を利用しているようです。どういうことかというと、上部に据えられたライトは、茶碗にはあてずに、床に向けられていました。その床からの反射光で見ているのだと理解しました。

この光の当て方を変えれば、《曜変天目茶碗》の見え方は、きっと変わるはず・・・・ なぜか、内部の変化よりも、外側の色の変化の方が顕著で興味深いと感じられました。

また《曜変天目茶碗》よりも、「そのあとに見た珠光天目茶碗の方がよっぽどきれい・・・」と感じてしまったのです。ところがその茶碗の上部をみたらコウコウと照明が照らされていました。それでわかった気がしました。

 

 

釉薬は「特殊ガラス」という視点で見ると

『碗の中の宇宙ー曜変天目茶碗の研究と成果』 の中で、著者の安藤堅氏は、次のようなことを語っています。

 

  釉薬は特殊ガラスだ

 

これは、とても示唆に富む視点です。この視点で曜変天目茶碗を見ると、同じ茶碗が、全く違う見え方になります。陶器の茶碗ではなく、ガラスに光をあてていると想像して鑑賞すると、いろいろなことが見えてきます。

 

 

曜変天目茶碗の見方はダイヤモンドの輝きの確認法と同じ?

ガラスではありませんが、ダイヤモンドの輝きを見る時のことを思いだしました。ダイヤモンドの輝きのすばらしさを紹介するお店のスタッフの方は、よくペンライトをあてて、「こんなにきれいな輝きを持っています」と紹介します。ところが、これは、邪道で本当に美しい輝きのダイヤモンドは、光がなくても輝くため、ペンライトを当てるのではなく手で覆っても輝くかどうかが、品質を見るポイントだとされています。

ところが、この手で覆って見る方法も間違っていると言われています。ダイヤは光の反射によって輝くので、光がなければ輝かないと・・・・

 

つまり、光が入るからからこそ反射して輝けるわけです。そして光の種類によってもダイヤモンドの輝きは変わります。LEDの強いライトをあてれば、それはそれはきれいな輝きになります。オレンジの照明の場所ではオレンジ色に、対面する方の衣服の色が反射してブルーに見えたりすることも・・・ダイヤモンドは、光をあてなければ輝かないのです。そして反射した光が目に届くので、あてる光の性質、あるいは回りの色も取り込んでしまいます。

 

今回、《曜変天目》の器の表面が特殊ガラスで覆われたものであると理解すれば、このガラス質の釉薬に光をあてれば輝くし、その光の量が足りなければ輝かないということなのだと理解しました。 

 

 

■昔は照明なんてない時代だった

そんなことを思っていたところで、気づきました! そううかぁ・・・・ 昔は、光なんてなかったんだ・・・ 屏風を鑑賞するときにも同じことを体験しました。作品の鑑賞は、その時代と同じ状況で見る。というのが一つ鑑賞法です。そのため、この《曜変天目茶碗》は、昔、見ていた状態と同じような状況で見ているのだと理解したのでした。

 

 

■写真は・・・ 映像は・・・

しかしながら、これまで見てきたこの茶碗をとらえる写真や映像は、明らかに光があてられていると考えられます。曜変天目茶碗本来の特徴を引き出すための演出(?)が入っているということなのでしょうか?。

  

 

静嘉堂文庫美術館 絵葉書 パンフ 自ら撮影

 

▼「曜変~陶工・魔性の輝きに挑む~」

自然光の当たる場所で展示 アップの撮影は・・・

 

しかし、東博の間接的な照明でも、注意深くみていると、茶碗い細やかなきらめきが確認できました。しかし、それ以上に外側の茶碗の七変化の方が興味深いと思いました。茶碗の回りを周回したり、上下に移動してみたりしました。

曜変天目茶碗》の側面には、模様はでないとされていますが、「静嘉堂」のものだけは模様があると聞いていました。じっくり見たのですが、私ににはその模様を認識することができない・・・と思っていたら・・・⇒【*1

この茶碗の位置をもっと、低い高さに置いて真上から見たらどのように見えるのでしょうか。真上から見たい衝動に駆られます。

 

 

■照明について確認

この茶碗に向けられたメインの照明は4つでした。その照明が実際に、どこに向けて当てられているのか、スタッフの方にも伺ってみました。やはり、茶碗には向けられておらず、床に当てられているとのことでした。床からの反射の光だけを(?)を利用しているようです。

それでわかりました。だから側面の変化がより顕著に見えたのでしょう。記憶がうろ覚えなのですが、茶碗の影は出ていなかったと記憶しています。⇒【*2

 

 

■貴重な借り物には特別な配慮が必要?

借り物のため、光をあてることができないといったようなことをおっしゃっていました。確かに他の茶碗のライティングと明らかに違っていたのです。他の茶碗は、それぞれの特徴を引き出されるような照明が当てられていました。

しかし陶器、磁器の場合、絵画のように照明によって作品の劣化などの影響があるのでしょうか? MOA美術館で《色絵藤花文茶壺》が常設展示していると伺い、光の影響は大丈夫なのかと伺っていました。その時、陶器は問題がないと聞いています。ガラス作品も、ラリック美術館で自然光のもとで展示されたことがありましたが、やはり絵画ほどの影響はないと聞いています。やはり世界に3つしかない国宝・・・・ともなれば、ちょっと過剰といえるくらいの配慮が必要ということなのでしょう。

 

この《曜変天目茶碗》は、静嘉堂でもめったに見られない茶碗なのだとばかり思っていました。ところが、常設で扱われている茶碗なのだそうです。3年に1回、展示されるというような作品ではないことがわかりました。静嘉堂ではどのようなライティングをして見せているのか気になりました。

スタッフの方も思ったような輝きではなかったと言われていました。会場にいた見学者の方と立ち話になり、その方も「あんなものか・・・」と思ったと言われていました。

 

 

■常設展示を行き来して、日本人の好みを知る

そのあと、東博の常設展の茶の湯のコーナーを見たり、法隆寺東博内のボランティアガイドに参加したりして、「茶の湯」の展示を行ったり来たりしました。そのたびに、まずは、この茶碗を見てから他の見学していました。

 

常設展会場に本草図譜」がありました。

  

 ▲写真は東京国立博物館 常設展より

それを見ていたら、江戸時代の園芸における日本人の趣向を思い出しました。斑入り植物は、外国人には病気のように見えて嫌われていたのですが、日本人はこの斑を愛で、その入り方を競い合うという文化があるのです。なぜ、日本人が、この斑模様の中国では嫌ったこの茶碗を好んだのか・・・・ なんとなくわかった気がしました。斑の病的、不吉と感じるものを好むという趣向によるものではないかと・・・

 

茶の湯展を見ていて、「価値」とは何か・・・を考えさせられました。

どんな茶碗が好まれるのか。それは時の権力者、あるいは貴族階級の好みが価値の基準になっています。しかしのちにその階級とは違う武家や町人の価値が台頭し、庶民レベルにまで広がると好みは多様化します。そうした価値の変遷を、今の時代から見る私たちは、どう見ていくのかを問われていると感じました。

 

 

■閉館前 一人で鑑賞

閉館間際の30分間。ほとんど人はいません。ひとりかぶりつきで曜変天目茶碗を鑑賞できました。すると、

 

さきほどまで見ていた見え方と全く違うのです!  

どういうことなのでしょう? 茶碗内部が七変化しています。

 

ライティングを変えたのでしょうか? パナソニックミュージアムは、時間によって照明を変えています。東博でも夜になったら照明を変えているのでしょうか? いや、そんなことはないと思われます。 

わかりました! 

この器にあたっている光は床からの反射光です。さきほどまでは、人だかりがありました。そのため床から反射した光は、さえぎられてしまい茶碗内部には届いていなかったのです。今は私一人だけ。茶碗を周回しながら、思う存分鑑賞ができます。さきほど見たものとは全く違う表情を見せてくれたのでした。 

 

もし、昼だけ見て、それで終えて帰ってしまったら・・・・曜変天目茶碗ってそんなに騒ぐほどのものなのかな・・・と思ってたかもしれません(笑) あの七変化は、照明によって作られたもの。そんなふうに思ってしまったかもしれません。昼と夜、人が「いる・いない」で印象が全く違ったのです。

 

 

■『碗の中の宇宙 曜変天目茶碗の研究と成果』を参考に鑑賞

安藤堅氏の『碗の中の宇宙』をとりだし、静嘉堂曜変天目茶碗を観察された下りと突き合わせながら見ていました。すると、何度も行き来しながら見ていた茶碗とは、全く別ものに見えてきました。

 

〇茶碗の傾斜と「星紋」の関係

茶碗が焼かれている状況。その組成、成分、そして茶碗を構成している物質の分子が動いている様子がイメージされてきます。茶碗の傾斜によって、物質が移動し変化するというくだり。緩やかな勾配では、ゆっくり移動急こう配の部分は速く・・・ その原理を理解して見ると、なるほど、だから、底の部分に星がたまるのだと納得。

 

 

静嘉堂文庫美術館の絵葉書     ▲茶道具の美(静嘉堂パンフ)

 

茶碗の傾斜に合わせて、流動体が移動したと考えると、傾斜のきつい「腰」のあたりは流れが早いので、流れた跡が筋になっています。上部の「胴」のあたりは停留しているように見えます。 

静嘉堂美術館 絵葉書

 

そして急傾斜から流れ落ちたものが、底の部分「茶溜り」にたまっていることがわかります。

 

     茶碗の名称

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(出典:御茶碗 各部の名称

 

 

以上を図解するとこんな感じ・・・・

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〇海と島に分けて考える

( 出典:『碗の中の宇宙』安藤堅著(p4)より拡大 ) 

黒い模様は「島」 濃いブルーの部分は「海」 その辺縁の変化は干渉⇒*3によるもので色素ではない。ということが上記の写真の様子を見ると、その意味することがとてもよくわかります。 

黒い部分も枠と中の部分に分かれています。それもグラデーションになっています。こうして模様を漠然と見るのではなく、部分で分解して見ることで、物質が移動して黒い枠になっている姿が浮かびあがっているようです。またその分子の移動の拡散も見えるように思えます。釉薬の中を移動する分子の姿が見えるような気がしてきました。茶の湯の世界の茶碗を科学の産物として見る。「芸術と科学」そういうとらえ方を、嫌う人もいそうですが、私はおもしろいと思いました。

 

 

■安藤氏による観察のあとをなぞると

〇写真と展示作品の部分を一致させる

安藤氏は『陶磁大系 38巻「天目」』(平凡社発刊) この写真、一枚だけから、観察による数々の推論が示されていました。

 

( 出典:『碗の中の宇宙』安藤堅著(p4))

 

まず、この写真は茶碗のどの部分にあたるのかを特定しようと思いました。ところが、何度も何度も周回しながら茶碗を見たのですが、一致しないのです。そこで気づきました。写真は上下逆転しているんだ・・・と。そこで逆さにした状態で照合すると、見事一致する場所がみつかりました。 

 ( 出典:『碗の中の宇宙』安藤堅著(p4)の写真を反転 )

 

 

〇「虹彩」の観察

確認できた場所からじっと観察をしました。書籍では、次のような推論が示されていました。

(「曜変」「星紋」については、こちらで説明しています⇒〇技法を流動学でとらえる

 

以下は、「虹彩」についての観察です。

〇漆黒の「星紋」があって、すぐとなりには「虹彩」が始まるのではなく、あたかも遺跡の古墳を中空から見下ろしているように微かな城壁のようなものが取り巻いているのである。 

 

この解説を、何度も繰り返し読み返して理解しようとしたのですが、「遺跡の古墳を中空から見下ろしている城壁のようなもの」という意味は結局、理解することができませんでした。

が、改めて文字を読み直したり、写真を見ていて、これのことだと理解しました。

 

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 出典:『碗の中の宇宙』安藤堅著(p4) 拡大) 

上記の写真の黒っぽい輪郭、これを遺跡の城壁と表現されたのでは?と思いました。東博の展示で、拡大鏡を持参するのを忘れてしまったので、この辺縁の様子を肉眼では細かく認識ができなかったのかもしれません。

 

また、「星紋」について次のように語られており、この写真からもその様子がよくわかります。

静嘉堂の椀は漆黒のものが多いが、中には薄く茶色を帯びているものもある。しかも「星紋」の中がすべて薄茶ではなく中心部だけでその周囲は薄茶から漆黒へと変わっていくものである。

 出典:『碗の中の宇宙』安藤堅著(p7)

 

この「星紋」と「虹彩」について 

「曜変」が「星紋」と、それを取り巻く虹彩」が併存するのであるなら、今後の研究を進めるに際し、絶えず結晶あるいは結晶群が釉薬の中に発生するときその輪郭部と周辺の様子を実体顕微鏡で追わねばなるまい・・・と改めて意を固めたことを思い出す。

 出典:『碗の中の宇宙』安藤堅著(p8)

 

今、顕微鏡ではありませんが、スマホで写真を拡大してみるだけでも、「星紋」「虹彩」の状況がより明確に理解できます。物理化学の研究者が、顕微鏡で見たとしたら・・・ それがどんな成り立ちのものであるかは、より明確に把握できたのであろうことが想像できます。

 

 

 

この時点で、安藤氏はたった3枚の「写真」だけで「星紋」「虹彩」の因果関係を、かなりのところまで読み解いていました。「星紋」「虹彩」を別々に観察を行われており、静嘉堂曜変天目茶碗の「虹彩」については、次のような考察もされていました。

 

全体を概括的にみると、”青色”が主体のように見受けられる。だが、細部について、見ると桃色、黄色、藍色橙色などが見受けられる。”赤桃黄緑青藍紫” これは正しく「虹」の七色を表している。となると虹彩なるものは、”光の干渉現象”によるものであると確信しても差し支えあるまい。色素による発色でないと考えてよかろう。

 出典:『碗の中の宇宙』安藤堅著(p9)

 

上記に示された色を私も、なぞるように確認していました。観察していると確かに色素の発色ではなく干渉によるものだということが、私でもわかります。ただ、ここで言われた「橙色」だけがどうしても、私には確認できなかったのです。これは、東博で使われた光源の種類によるものなのかなぁ・・・・と思いながら見ていました。

 

ところがその後、静嘉堂美術館の内覧会に行く機会がありました。そこで売られていた絵葉書を目にしてびっくり! どう見ても確認することができなかったオレンジの発色が、はっきりくっきりと映し出されていたのです。

 

 

静嘉堂文庫美術館の絵葉書 

 

しかし、どのように見たとしても、このような見え方は、東博で展示された静嘉堂の《曜変天目》においてはしていませんでした。 

 

また、橙色が確認できるといわれた写真がこれですが、

  出典:『碗の中の宇宙』安藤堅著(p4)

 

確かに、「虹彩」のあたりから、なんとなく橙色は見受けられるような気はします。しかし、東博の展示では、それを認識することができず、まして静嘉堂の絵葉書のような橙色は見られません。絵葉書のオレンジ色は、オレンジ系のライトをあてたから、東博でオレンジが認識できないのは、ライトが弱いから? 

 

オレンジが確認できないのは、ライティングが違うから・・・と理解し、では、どんなライトをあてるとこのように見えるのでしょうか? 次の静嘉堂の展示が楽しみです。

 

安藤氏の観察により虹彩が色素によるものではなく「干渉」によるもだとわかったことで7色に変化させることは、それほど難しいことではないと考えたと言います。それは洋食器や古代ペルシャの陶器にも見られるものなので、その技法を使えばよいということです。そういえば、洋食器の量産品の中でも虹色に輝くもの見たことがあります。

 

干渉によるものとして、ティファニー朝顔型の花器を思い出しました。

▼ルイスCティファニー 花形花器

(出典:ポーラ美術館名作選 p133)

 

 

↑ 朝顔の縁          ↑ 台座部分

 

曜変天目茶碗と同じと思われる干渉による色あいが見られます。

 

〇「星紋」の成り立ち

「椀の中の宇宙」(p9)よりまとめました。

 

釉薬の母体を「海」ととらえます。これは焼かれることによって高温になり高粘度の液体になります。その中をさまざまな分子が飛び交っているはずと想定。精一杯、動き回る分子は互いにぶつかり化学反応をおこし、反発を起こす。その時、母体である釉薬の海の分子と、なじみの良いものと、なじみの悪いものに分かれなじみの悪いもの同志で手をつなぎあい島を形成する。

この海と島は、プラスチックのように明確に分かれることはないはず。天然原料が混じってしまっていることが考えられる。分子も釉掛けの時のままで高温になるとも考えられない。

 

たとえは酸化鉄の場合、3種類が基本としてあるが、この周りに他の分子がひしめいていたと考えると、手をつなぐものをもとめてのばし、海や島を形成することが考えられる。この時、どのような文様を作るかは、誰とどのように手を結ぶのか、ということを明確にすることは科学が発達した今日でも不可能では?(2003年談)

 

これを読んだ時に、茶碗の釉薬の中で、盛んにぶつかり合う分子のエネルギーみたいなものを感じていました。「文様」は分子の動きによってできた・・・というようにこの本を読んだ時には理解していました。これでちょっと人とは違う見方ができるぞ・・・・と思っていたのです。

ところが、いざ、茶碗を目の前にすること、そんなことはすっかり忘れていました。茶碗全体の模様として見ているのです。

 

改めて、この文章を傍らに置いて鑑賞すると、分子の動きによってもたらされた化学による産物・・・・というように見えてきました。茶碗が全く別の世界のものとして広がっていくのを感じさせられます。

 

 

釉薬を分子レベルで三次元でとらえる

安藤氏はさらに続けます。

『碗の宇宙』(p10~)まとめ

釉薬の厚さは1~5mm。薄いと思われるかもしれないが、分子のサイズから考えると非常に厚さをもったものになります。ここで器の鑑賞で二次元的な見方、三次元的な見方について、語られています。

二次元的な見方というのは、茶碗を手にして鑑賞することで、それは茶碗の表面しか見ていないため、2次元的な見方だと言われています。

そこで、三次元的見方というのは、茶碗の厚さの姿を頭に描きながら見るというのが、三次元的な考え方だという解説がありました。

 

 ▼ぽってりした釉薬は5mmぐらい?

▲出典:茶道具の美(静嘉堂パンフ)

 

 

そして碗の勾配を考えると、「垂直に近いところ」「緩やかな部分」「底辺」という構成になります。

▲出典:茶道具の美(静嘉堂パンフ)

 

 

高温となり粘度を持った釉薬を流体ととらえ、傾斜に合わせて流れ落ちていると考えたと言います。さらに、釉薬の厚さを1~5mmを分子レベルでとらえると「素地の部分」と「表面の部分」に分けて考えられ、素地側の方が早く流れるとのこと。そして素地と接した部分は、素地の成分と反応することも考えられ、釉薬の表面には、「海」となじみの悪かったものがたまることが多い・・と言います。

 

釉薬を特殊なガラス質と考え、1~5mの厚さの中で繰り広げられている分子の反応。それを三次元的にとらえると、曜変天目の「星紋」がどのようにできるのかについて、3つの仮説が立てられていました。それそれの仮説を写真との突き合わせによって、あてはめて考えられていました。

静嘉堂曜変天目について、詳細な考察がされていたので、詳しくは、『碗の中の宇宙』(p11~)にあります。

 

 

以上、『碗の中の宇宙』で安藤堅氏が、曜変天目茶話にチャレンジした足跡をたどりながら鑑賞をしてみました。 

 

 

 

曜変天目茶碗とガラスの関係

岡田美術館魅惑のガラス、ガレ ドーム展が開催されています。そこで、ガレ研究の第一人者、鈴木潔先生のお話を伺う機会がありました。

 

そのお話の中で《曜変天目茶碗》のことを何度もお話されていました。ガラスと光、そして《曜変天目茶碗》は密接な関係があると感じていたことと一緒でした。

 

  ⇒〇ガラスは曜変天目茶碗に通じる

 

ガラス工芸品も、透明のガラスを上からコーティングされているという解説がありました。その中の化学変化であることを説明されました。私がガラス作品に興味を持ったのも、ガラスという芸術が化学反応によって作られたということからだったことを思い出しました。

 

釉薬は特殊ガラス・・・ ガラス作品と曜変天目の妙な一致を改めて確認することになりました。

 

作品の解説でガラス作品に強いライトが当てられていました。ライトをあてての解説は初めての体験だったのですが、ガレ作品の所蔵で有名な北澤美術館では、ライトをあてて解説をしていると聞きました。やはり、曜変天目茶碗も、本当の曜変を見るには強い光が必要・・・・ ということも分かった気がします。

 

 

静嘉堂文庫美術館の次回の展示は、

~かおりを飾る~ 珠玉の香合・香炉展 <期間>2017年6月17日(土) ~ 8月13日(日) <休館日>月曜日(7月17日は開館)、7月18日(火)

 

www.seikado.or.jp

 

どんな表情を見せてくれるのか楽しみです。

 

■関連

■曜変天目茶碗「奈良大学が分析」 なぜ徳島県の調査を断り奈良大学へ?
                            (追記あり)

■『椀の中の宇宙 曜変天目茶碗の研究と成果』

■「茶碗の中の宇宙」&「特別展『茶の湯』」がコラボのお得なチケット

■東博「茶の湯展」に行った人 《曜変天目茶碗》に興味がある人は・・・

■(2017/04/16)  /  [04/15] 東京国立博物館:特別展『茶の湯』

■(2017/04/20)  /  [04/16] 静嘉堂文庫美術館:挿絵本の楽しみ

 

■静嘉堂文庫美術館:曜変天目茶碗を見た!(かおりを飾る〜 珠玉の香合・香炉展にて) 

 

 

■脚注

*1:■あとで確認すると、静嘉堂ではなく、藤田美術館のものが側面に模様があることが判明。勘違いだったことがわかりました。

「模様がある」という先入観を持って見ると、模様が見えてきてしまうことってありがちだと思います(笑) でも、見えないものは見えないし、見えるものは見える・・・・ ちゃんと自分の目で見れるようになっていると実感(笑) 
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*2:■他の茶碗は2つの影がはっきり出ていました。メインのライトは2方向なんだな・・・と思って確認しながら見ていたのですが、曜変天目茶碗についてはその記憶がありません。

曜変天目茶碗が撮影された画像がありました。茶碗の下は、外側が見えるような半透明のアクリルのボードのようなものでした。

特別展『茶の湯』をレポート この春、東京国立博物館で日本の美意識に触れる
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*3:物理学における干渉(かんしょう、: interference)とは、複数の波の重ね合わせによって新しい波形ができることである。(wikipedhiaより)
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