コロコロのアート 見て歩記&調べ歩記

美術鑑賞を通して感じたこと、考えたこと、調べたことを、過去と繋げて追記したりして変化を楽しむブログ 一枚の絵を深堀したり・・・ 

■三菱一号館美術館:三菱の至宝展(3)曜変天目

三菱一号館美術館で行われている「三菱の至宝展」 数ある至宝の中の至宝ともいえる曜変天目茶碗。通称「稲葉天目」は特別室が設置され、この作品一点だけが展示されています。これまでに見たことのない表情をしていました。

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*写真はブロガー内覧会にて許可のもと撮影

 

 

■特別展示のアプローチ演出

展示室に向かうアプローチも期待を駆り立てる心憎い演出。足元を照らすライトに誘導され、細い通路を進みます。なんだろう…

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その先には、照明が落とされた暗闇が広がり、その中にぽっかりと浮かぶ茶碗。そこには、これまで見たことのないキラメキが放たれていました。

 

 

曜変天目の展示空間

大きな解説パネルが壁面に掲げられています。これだけでも展示への力の入れようが伝わってきます。

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パネルの前に、半円形の空間が広がります。

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中央に透明度の高いアクリルガラスケースが設置。光はケースからではなく天井から注がれていました。曜変天目茶碗は宇宙に例えられます。その世界観を演出しているようです。まさに宇宙の闇に浮かぶ茶碗。

 

〇ぐるり一周

ぐるりと一周してみます。

・入口側

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*②

・パネルに向かって

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*④

 

・パネルを背に

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*①

 

・パネルを背に

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*①

 

〇上から覗き込んでみます

・入口側

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*③

 

・パネルに向かって      

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*④

 

・パネル側左隅

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*①②

・パネルを背に

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*①

 

〇横から

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曜変天目の正面は?

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ところで曜変天目に正面はあるのでしょうか? 展示ケースにキャプションはありませんでした。正面はないということ? キャプションはないけども正面は設定している? 今回は大きなパネルが設置されています。パネルを背にして見る方向が、これまで正面と思われる方向と一致していました。

〇曜変天目茶碗の正面はどこ?

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静嘉堂文庫美術館 絵葉書

 

静嘉堂文庫美術館で見る曜変天目との違い

この展示が行われる前、静嘉堂文庫美術館「旅立ちの美術」で展示されました。丸の内に移転前、最後のお披露目でした。所蔵館と出張先、展示空間が変わることで見え方の違いを鑑賞するのも一つの楽しみです。

静嘉堂最後の展示で、茶碗の見え方は一期一会の瞬間であることがわかりました。そして光を当てる向き、光量によってもまた、輝き方は大きく変わります。 

今回はどこにスポットをあて、どんな一瞬を見せてくれるのでしょうか? 静嘉堂の展示で確認ができなっかったきらめきは、こちらの展示ではどのように見えるのでしょうか?

三菱一号館の美術館展示は、煌々と照らされ、すべてがまぶしく輝いているようでした。曜変天目は展覧会によって環境や、見せ方が変わります。出会うたびに新しい表情がみえ、発見をもたらしてくれます。今回のようにキラキラ輝く曜変天目は初めてです。おそらくこの見せ方は今回限りと思われます。

この先「稲葉天目」とは何度となく出会うことはできます。しかし今回のような、きらめく表情を見ることは多分、今だけ・・・ 後期も展示されるので、まばゆい曜変天目、ぜひお見逃しなく。

初めて見る方はその美しさに心奪われるでしょう。何度も見たことがある方は、それぞれの見え方の好みがあると思われます。ちょっとギラギラしてると感じるかもしれません。パツーンと飛んでくるような勢いを持った輝き。

静嘉堂で見る、微妙で繊細、はかなさも感じられたニュアンスは、強い光で隠れてしまったような気がします。というか、全体が強い光によって繊細な部分もあぶり出したように感じました。

いろいろな環境の中で、何度か見るうちに、好みの光の具合がでてきたのを感じます。またこのように見たいという要望も持つようになってきました。

直近で見たから・・・ とは思わずに、直近の記憶がまだ鮮明なうちに、三菱一号館の稲葉天目を見るとその違いに驚かされます。  

 

korokoroblog.hatenablog.com

 

■使われたことのない茶碗

岩崎小彌太は「天下の名器を私如きが使うべきでない」と言って一度も使うことはありませんでした。

小彌太の三回忌、孝子未亡人の希望により、この茶碗が使われたと聞きます。その時、立てたお茶を飲んだのだと思っていましたが、そのお茶は小彌太に「献茶」されました。唯一の使用と伝えられている場面でも口にした人はいません。

この茶碗で白茶を飲むとそこにはどんな世界が広がるのでしょう・・・・ それを見た人は時を遡り何人いたのでしょうか。茶碗には茶筅のあとが残っています。

小彌太に「私如きが使うべきではない」と言わしめる茶碗。人を魅了する一方で、寄せ付けない気品、あるいは畏怖を感じさせる茶碗なのかもしれません。

 

 

■茶碗に注がれる光 宇宙の中の茶碗

暗いと感じた空間でしたが、写真で見ると結構明るく感じられます。(もしかしたらカメラの補正かもしれませんが…)

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壁からの光の反射も利用しているようです

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ガラスケースを通していろいろな方向性を持った光が注ぎます

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天井の光は、宇宙にまたたく星のようです。

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茶碗から離れると見る位置によって広がる世界が変化します。 

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茶碗の周りは銀河系の宇宙。茶碗はそこに浮かぶ惑星。茶碗の中の斑紋や光彩は惑星を構成する星の集まりのようです。

 

 

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これまでは茶碗の中に広がる宇宙を感じてきました。今回は、茶碗の外にも広がる銀河の宇宙を感じさせられます。宇宙はどんどん広がっているという話を聞いたことがあります。「多元宇宙論」というらしいです。1895年、アメリカの哲学者で心理学者のウィリアム・ジェームズによって提唱されました。(もっと新しい時代の捉え方だと思っていました。)

 

12世紀、建窯で制作され、15世紀室町時代、日本にやってきました。その後、17世紀江戸時代初、稲葉家へ。様々な時代を経て伝えられ今ここに。曜変天目を宇宙ととらえるようになったのはいつ頃からでしょう? それぞれの時代の宇宙観はどんなものだったのでしょうか? 宇宙観も時代によって変わっていきます。
茶碗の斑紋を一つの宇宙ととらえ、茶碗内を「多元宇宙」と見立てたり、ロバート キャンベル氏は「深海」に見立ていました。様々な見立てができる曜変天目。何に見えるでしょうか?
 
 

■開催概要

会 期:2021年6月30日~9月12日
休館日:月曜休館
開館時間:10:00~18:00

会場:三菱一号館美術館