コロコロのアート 見て歩記&調べ歩記

美術鑑賞を通して感じたこと、考えたこと、調べたことを、過去と繋げて追記したりして変化を楽しむブログ 一枚の絵を深堀したり・・・ 

■MIHO MUSEUM もう一つの耀変天目

MIIHO MUSEUMで所蔵されている「耀変天目」が、先日まで展示されいました。なかなか展示される機会のない茶碗です。意外に、穴場で、行列することもなく鑑賞することができました。大徳寺曜変天目の記事が長くなったので、独立させました。

 

 

■MIHO MUSEUMの「耀変天目」

〇第4の曜変天目

ミホミュージアムには、第4の曜変天目と噂される茶碗が所蔵されています。

耀変天目ツアーのバスガイドさんからは、見逃さないようにと案内をされました。「こちらは全く並らばずに、じっくり見ることができます」と・・・ 

私は、次にMIHO MUSEUMUを訪れるとしたら、この第4の曜変天目が展示されるとき、と決めていました。これ1つのためだけでも、訪れようと思っていたほどの茶碗です。それが、大徳寺龍光院曜変天目と一緒に展示されるという夢の競演に恵まれました。

 

〇認知度が低い? 人がまばら

ケースの前の人は、まばらです。全く並ぶことなく見ることができてしまうというのはちょっと拍子抜け。基本的に、並ぶのはいやです。でも、全く並ばないというのも寂しいです。注目の低さ、関心のなさを意味するようで、なんとも複雑。過疎っていると寂しくなる。なんとも勝手な感情です。

作品の横でスタッフの方が、パンフレットを配っていました。

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パンフレットの写真

 

〇フォルムは建窯

この茶碗の高台を見ると、まさに建窯の茶碗であることを感じさせられるフォルムや質感です。口縁部もすっぽん口のようなフォルムで、建窯で作られたものだろうということが、私でも見てとれます。他の曜変天目の形とそっくりです。

 

〇来歴は?

この茶碗の来歴は、あまり耳にしてませんでした。

大正時代の茶器図鑑『大正名器鑑』に載っていたそう。そこには「曜変」という名の6碗が記載されその1つだと記されていました。

6椀というのは・・・・

静嘉堂文庫美術館大徳寺龍光院 ・藤田美術館 の3椀に
・MIHO MUSEUMU ・徳川美術館  ・根津美術館 なのだそうです。

MIHO MUSEUMの茶碗は、前田家由来で、小堀遠州が「曜変」と箱書きをしました。大佛次郎が所蔵したという来歴があります。

1953年、重要文化財に指定されました。

 

〇表記について

ミホミュージアムの茶碗は、「曜変」でなく耀変天目」と表記されます。小堀遠州は「曜変」と記載したようなのですが‥‥ スタッフさんによれば、学芸員さんのこだわりで、「耀変」と記載していると、言われていました。それぞれの所蔵館では、こだわりがあるようで、曜変天目「茶碗」としたり、MIHO MUSEUMでは、他と違う唯一無二という意味が込められているらしいです。

 

 

■実際に見た感想

曜変天目? 油滴天目?

第四の曜変天目・・・とも言われていますが、スコープで覗き込み、外側を見た瞬間、これは油滴天目じゃない?と思いました。今回の企画を通して、国宝の曜変天目、3椀を全て見たのですが、その経験から判断すると、曜変天目とは一線を画している茶碗だと思いました。⇒*1

油滴天目に限りなく近いです。しかし、油滴天目とは、明らかに違います。曜変天目と、油滴天目の中間的な位置付けのような茶碗だと思いました。

油滴天目が生成される過程で、なんらかの条件によって、曜変天目になるらしい。と聞いた記憶があります。この茶碗を見ると、油滴天目と曜変天目が、同じ生成過程にありながら、突発的な何かの力によって分かれた。でも両者には関連性があるということが伺える茶碗だと感じました。

油滴の斑文は、曜変天目とは違って、まばらに散らばっています。そこに油膜の層で包まれていると感じました。イメージとしては、水に油をたらした時にできる虹色のような感じ。

 

曜変天目と耀変天目の違い(推測)

「耀変天目」(重文)は、「油膜」のような「薄い」膜による構造色。
曜変天目」(国宝)は、「モルフォ蝶」のような「厚み」のある構造色。
両者の違いは「被膜の厚み」。

 

「耀変天目」(MIHO MUSEUMU所蔵)に見られる構造色は、ガラス質が薄い膜がベールのようにコーティングされて光を反射。膜が薄い(薄膜干渉)ため、色の変化が少ない。 


図1 薄膜干渉の原理 
引用:http://mcm-www.jwu.ac.jp/~physm/buturi06/kouzou/kouzousyoku.html

 

一方、国宝の「曜変天目」は、「膜が厚い」(多層膜干渉)ため、薄い膜が何枚も、重ね合わされた状態となるので、目に届く色数も増える。そのため変化も大きい。


図2 多層膜干渉の原理
引用:http://mcm-www.jwu.ac.jp/~physm/buturi06/kouzou/kouzousyoku.html

 

国宝と重文では、見え方の深みに差を感じました。それは、釉の厚さが明らかに違うことが理由と思われました。(「耀変天目」を見た4日後、静嘉堂文庫美術館曜変天目を自然光の元で見ました。明らかにテカテカとした分厚いガラス質に覆われている釉薬の存在が認識されました)

 

MIHO MUSEUMの「耀変天目」を見たことで、他の3つの曜変天目とは、明らかな違いを感じることができました。そして、これまで見た油滴天目とも違うことがわかります。

この茶碗は、独立した存在で、希少性が高く、唯一無二のものだと感じます。そのため、あえて耀変天目」と表現するのは、名は体を表していると思いました。

専門家からも油滴天目という指摘があるとの解説がありました。ちなみに油滴天目は、水面に油の滴が散って浮いているように見えるからだそう。私の油滴の捉え方と、違っていました。見込みに薄い油膜で覆われているから油滴。そんなイメージでとらえていました。

 

曜変天目の定義は?

曜変天目とは・・・・ という定義を調べた時、どうもその定義がはっきりしていないという印象を受けていました。今回、ブルータスでは、定義を明確にされていました。ということは、これまで曜変天目の定義が、明確ではなかったことを意味しています。

ただ、ブルータスの企画内で決めた定義が、美術界全体のコンセンサスを得たものと考えていいのか。こうした定義は、本来、だれがどこで、どのように決めるものなのか。改めて考えてしまいました。

 

 

曜変天目にまつわる情報

〇幻の曜変天目 織田信長所蔵

バスガイドさんが車内で解説されました。第四の曜変天目があるとされているが、それはどんな茶碗か。私は、MIHO MUSEUMの茶碗のことかと思ったのですが‥‥

足利義政が秘蔵していたという曜変天目があったそう。曜変天目の中でも、最も優れたものと言われており、発色は錦のようだったといいます。のち織田信長が所有し、常に持ち歩いていたため、本能寺の変で、消失したと考えられるらしいです。

知りませんでした・・・・ そんな曜変天目があったとは。MIHO MUSEUMの《耀変天目》の冊子内でも紹介されていました。

 

〇ガイドさんのポイントを押さえた解説

今回のツアーのガイドさん、要所要所で、小ネタを盛り込み、それぞれの場所で解説を的確に盛り込まれいました。バスを降りたら、どの方向へ進み、どこに何かがあるか。今回の見るべきものを漏らさないように、最初に見るべきものを伝えていただけました。場所の把握をする手間が省けたので助かりました。

陶芸家が作った曜変天目が、150万円でショップに売られているのでぜひ見てきてくださいといった情報。こんな曜変天目のお土産もあるのでおすすめ。そんなこともご紹介いただきまいた。

この陶芸家の作品は、私が行った、丁度、1週間ほど前に、売れてしまったとかで、見ることができなかったのですが・・・

  

 

曜変天目をめぐる足跡

過去に曜変天目と言われた茶碗が、6椀あったことを知りました。また、幻の曜変天目があったらしいことも・・・

曜変天目という茶碗が、メディアを通して話題にのぼり、それはどんなものかと調べた時に、3椀、とか4椀あると言われているとWikipediaに書かれていました。それなら、まずは、それらを実際に見て確かめてみることから始めようと思って2年。

意外にも早く、4椀を見ることが実現できました。

 

手を出さないつもりだったtwitterを始めたきっかけは、大徳寺曜変天目について調べていて、いろいろとどめておきたいと思ったからだったようです。

 

昨年(2017)静嘉堂文庫美術館曜変天目を見た時に、VTRで知った、青色は、モルフォ蝶や貝と同じ構造色という解説。それまでも構造色がよくわからず、さらにモルフォ蝶とは違うんじゃないか・・・と思って、折々で、目にした情報をストック。構造色の意味が次第にわかってきました。


そして今年、MIHO MUSEUMの耀変天目を見た時、これらの構造色に関する知識が生かされました。国宝と重文の膜構造の違いが見えたように感じられました。

また、この茶碗、油滴天目では? と直観的に感じられたのですが、専門家も油滴天目と指摘する声もあるといのは、感慨深いものがありました。

 

「名前を聞いたことがある」という程度の知識しかなかった「曜変天目」 何を持って曜変天目なのかは、今もわかりません。「国宝vs重文」一段格下に位置付けられているように感じさせられる「耀変天目」も見ることができました。実物を見たら、違いは明らかです。しかし、MIHO MUSEUMの「耀変」が好きという方もいらっしゃるようです。

MIHO MUSEUMの「耀変天目」を見たことで、国宝の3椀がより、理解ができたように思います。どれが好きかは好みの問題。それとともに、どういう見せられ方をするか、どういう環境の中に存在しているのか。さらに、その茶碗をとりまく背景を、どれだけ理解できているか。それによって、受け止め方が変わってくるし、それに伴って見え方も変化すると感じています。

いろいろに思うところのあった、大徳寺曜変天目。そしてMIHO MUSEUMという場所。そこが所有する曜変天目。そういうことを抜きにして、それぞれの茶碗を見ながら、今までとは、違う目で見ることができました。大徳寺龍光院の、渋さの中に佇む、凛とした存在感に魅力を感じています。そしてMIHO MUSEUM の耀変天目はいろ~んな意味で別格。

 

みんな違って、みんないい・・・・

 

動画が、曜変天目の模様に見えました 。

 

■関連・参考

日本最高峰の拝観謝絶寺院の展覧会_滋賀 MIHO 龍光院展 5/19まで - 美の五色 bino_gosiki ~ 日本と世界の美しい空間,コト,モノ ~

曜変天目、そして油滴天目・禾目天目・鷓鴣斑天目‥‥天目茶碗(下) 陶のもたらす美 ⑮:黒田草臣

〇 油滴天目茶碗 - e国宝

〇 【白洲式“見る眼の育て方”】第19話

【茶道】発見された五つ目の耀変天目『三好天目』 | 習心帰大道《都流茶道教室■月桑軒》in 池袋

*1:■油滴であることは写真でもわかる?

パンフレットの写真を見れば、茶碗をある程度、見ている人なら、油滴だと感じられるとは思います。そういうことではなくて、うまく言えないのですが、実物を見て感じる直観的なもの・・・ そして、国宝3椀とは、やはり何かが違うという感覚的なもの・・・