東京国立博物館の東洋館で「イスラーム王朝とムスリムの世界展」が本日、2月20日まで。13室(第8~15章)を把握していなかったのでの終了間際に訪れました。今後、イスラームの歴史を学ぶ際のイスラム文化の広がりを知る資料として章別に写真を整理。
- ■イスラームの歴史について
- ■章構成
- ■第 8 章 サファヴィー朝とカージャール朝
- ■第 9 章 武器と外交
- ■現代絵画
- ■第11章 イスラーム書道芸術
- ■第12章 マレー世界のイスラーム王国
- ■第13章 ムガル朝
- ■第14章 オスマン朝
- ■第15章 中国のイスラーム
- ■「12室」を見た時のツイートより
- ■参考
- ■感想
- ■脚注
■イスラームの歴史について
あまりなじみののない「イスラーム」
「イスラーム王朝」というのは、「イスラム」という国がありその国の歴史を意味すると思っていました。ところがイスラームの成り立ちは、独立した国家ではないというのが、今回の展示で理解できた歴史認識です。
ムスリムとはイスラム教徒のこと。イスラム王朝はムスリム(イスラム教徒)が支配する王朝という意味で、特定の地域に限られてはいません。時代とともに新たな王朝を築き、全世界に及んだという経緯があります。(ムスリムはキリスト教に次ぐ数)
関連:スラヴは「スラヴ」という国があるわけではない ⇒
【イスラム教の広がり】
7世紀、イスラーム教が創始されました。預言者はムハンマド(アラブ人)。唯一神に対する信仰を説きます。イスラーム教は
「西アジア」⇒「ヨーロッパ」⇒「北アフリカ」⇒「中央アジア」⇒「東南アジア」⇒「東アジア」へと広がりました。
【イスラム文化の成り立ち】
イスラーム教を受容した世界各地では、多くのイスラーム王朝が成立し交替していきます。広がった先では、それぞれの地域の文化を融合させて、独自のイスラーム文化を展開しました。
【ムスリム王朝の年表】
この年表は一つの地域の王朝の変遷ではなく、時代が下るにつれ広がりながら興亡を繰り返していることを意味しています。
【イスラーム王朝興亡年表】
下記の年表の上部の黄色の行が地域を表しています。初期は、広範囲をイスラム教徒によって支配されていましたが、次第に分裂しながら興亡を繰り返し、再度、統合されたりしながら今に至っていることがわかります。
イスラム教徒が広がりその地域で王朝を作り上げていった様子は、各時代の地図を見ることで理解が深まります。
参考:日本の歴史と世界の歴史 ⇒*1
日本の歴史観とは全く違うため概要を把握するのに戸惑いました。イスラームの歴史の基本の流れを知らずにざっくり全体の展示を見ていた時は、イスラームという国(一か所に存在)は、いろんな国の影響を受け、それらのテイストが入り込んで文化を形成したのだと思ってしまいました。
イスラム教を媒介にして世界に広がり、その地域と融合してはぐくんだイスラーム文化。この展示はその美術の部分にフォーカスした歴史を追っていることを理解しました。今後のイスラームの学習の参考資料として【13室】後半の第8~15章ののまとめです。
■章構成
世界規模で広がったイスラム美術を紹介しています。
東洋館の地下1階の「12室」と「13室」の2室を使って15章から構成。古い時代から、各地域の王朝や王国、地域を軸にしつつ、部分にもスポットをあてた章構成。フロアマップの番号は章番号で展示ゾーンを示しています。
【12室】第1章~第7章
第1章 はじめに ムスリム世界の歴史と文化
第2章 初期イスラーム王朝
第3章 モスクの美術
第4章 北アフリカおよびスペイン
第5章 セルジューク朝
第6章 マムルーク朝
第7章 イル・ハーン朝とティムール朝
【13室】第8章~第15章
第 8 章 サファヴィー朝とカージャール朝
第 9 章 武器と外交
第 10 章 現代絵画
第 11 章 イスラーム書道芸術
第 12 章 マレー世界のイスラーム王国
第 13 章 ムガル朝
第 14 章 オスマン朝
第 15 章 中国のイスラーム
13室の章を示すサインが、どのエリアを示すのかわかりにくい部分が一部あり、どこからどこまでがその地域なのか混乱する部分がありました。(12章・13章)
各章とムスリム王朝の対応。左の数字は章番号です。
このパネルの王朝のカラーは、各章の該当地域のマップのカラーに対応しています。以下、13室を章別に紹介。
各章では、大画面の油彩画などが展示され、描かれた当時のイスラーム文化を伝えます。描いたのはヨーロッパの画家が主なので、ヨーロッパ人の目を通したイスラーム文化です。
解説パネルも設けられ、関連アイテムの紹介もされています。
またリリース情報や1089ブログでとりあげられた展示物を紹介。章全体を構成する作品からすと小さく見逃してしまいそうなものもあります。
■第 8 章 サファヴィー朝とカージャール朝
イランで展開したサファヴィー朝とカージャール朝の文化を紹介。
地図はムスリム王朝年表と同じカラーで示され、世界地図のどのあたりかを示しています。
展示風景 第8章 サファヴィー朝とカージャール朝
『シャーナーメ』の挿絵 イラン(カージャール朝)18~19 世紀
『シャーナーメ』はイランの詩人フェルドウスィーが古代ペルシアの神話、伝説、歴史を謳った長編叙事詩。この挿絵は、英雄ロスタムが、自身の息子と知らずに戦った兵士を打ち負かす悲劇の場面。
『マンスール解剖書』写本(No.99), 右:解剖学用人形(No. 100)
■第 9 章 武器と外交
イスラーム王朝の王族や貴族は武器を戦闘の道具としてだけでなく、権威を象徴のために身に着けていました。武器と外交をテーマにしたイスラーム美術の展示です。
102 「武器商人の店先」
黄色の商人(?)は火縄銃を手にし、壁には火打石銃や鉄の盾がかけられている
107 鉄盾
儀仗 北インド 19 世紀 金、宝石 王家が所有した金製の仗(写真中央)
■現代絵画
イスラーム書道の伝統は今も受け継がれ、新たな作品が生み出されています。現代絵画の表現に見るイスラーム文化を紹介。
光の放射を黒でイメージされた絵だと思っていたら… これは文字! ある時から、日本の書画、文字は絵画だと認識するようになりましたが、イスラムの文字、アラビア文字も絵画であることがわかります。
「アル=ハディード章 第 1~6 節」 本田・フアド・孝一 画 2005年
神の言葉である『コーラン』を美しく書くために1000年以上もの時間をかけて磨かれてきたアラビア書道。ピカソもその美を愛した、世界でも例のない文字芸術に挑んだ日本人がいる。本田孝一、イスラム世界でも認められた日本人書家はアラビア書道で何を伝えようとしているのか。
■第11章 イスラーム書道芸術
イスラム文化で重要視された書。イスラームの書と書に関する文房具などを紹介。
見逃してしまいそうなインク壺ですが…(左から2つめ)
青銅インク壺 イラン(セルジューク朝) 12~13 世紀 青銅、銀象嵌
イスラーム書道芸術において、 カラム(ペン)が書家の剣で、 インク壺は全ての道具の母であると称されるほど重要なものです。
神の御言葉を伝える啓典クルアーン。その文字は イスラーム世界の書家にとって、技能を磨き、言葉を理解するための努力を必要とします。そうした鍛錬の末に、モスクや宮殿の寺院の装飾を1000年以上、担ってきた歴史があります。
アラビア文字の教本の写本。このイスラム文字を習得するための本。
■第12章 マレー世界のイスラーム王国
マレー世界(インドネシアやマレーシアなど)に広がったイスラームの文化。
小さくスルーしてしまいそうなベルトの装飾ですが、見どころポイントらしいです。
宝飾ベルト金具 マレー半島 20世紀初(右)
■第13章 ムガル朝
インドで展開したムガル朝の華やかな文化を代表するジュエリーと細密画の世界。
こちらの展示は描かれた絵画の中の装飾品が反対に壁に展示されています。
宝飾ネックレス 南インド 18世紀 金、宝石 金、宝石
ダイヤモンドとルビーをはめ込んだ花形パーツ、ペーズリー形パーツなどをつなげたもので、インドの宝飾品。
宝飾ターバン飾 インド 18~19世紀
ムガル朝の皇族がターバンに付けたアクセサリー(右中央)真っ赤なルビーは力と生命を象徴。豊穣と繁栄を象徴する常緑のエメラルドがきらめく。
■第14章 オスマン朝
帝国として繁栄したオスマン朝。ここで展開したイスラーム美術を様々なジャンルの作品から紹介。
こちらの宝石箱、ふたを開けると…
宝飾小箱 トルコ(オスマン朝)17~18 世紀 宝石 金、宝石
鍍金装飾のほか、ダイヤモンド、ルビー、エメラルドをはめ込んだ小箱で、オスマン朝時代を代表する宝飾品の一つ。
■第15章 中国のイスラーム
イスラーム文化の広がりは、東アジア、中国にも広がります。中国で製作されたイスラームに関連する文物を紹介。
中国のお皿みたい…と思ったら、中国で発展したイスラーム教に関する美術品でした。
左の香合の蓋にはイスラム文字のような文様が描かれています。
七宝合子 中国(清) 19 世紀 エナメル、銅合金
■「12室」を見た時のツイートより
〇イスラムの歴史概要について
【イスラームの歴史】「イスラーム王朝とムスリムの世界」(東洋館)の展示「ムスリム王朝の年表」をたよりに、イスラームの歴史を紐解いてみた。「タペストリー」に掲載された王朝興亡年表を見て、イメージしていた歴史観の違いに驚く。同じ場所で王朝が変わるイメージで見ていたが、まさに興亡状態。 pic.twitter.com/MRHuFBhA5R
— コロコロ (@korokoro_art) 2021年10月3日
〇イスラームの広がり
「イスラーム王朝とムスリムの世界」東洋館
— コロコロ (@korokoro_art) 2021年10月1日
世界規模のイスラーム美術の展示を実現。イスラムではなくイスラーム? 7世紀、ムハンマドを預言者とする一神教。信者はキリスト教に次いで世界で2番目。西アジアからヨーロッパ、北アフリカ、中央アジア、東南アジア、東アジアへと広がった。 pic.twitter.com/8Pf01ZZDAC
〇日本の歴史との違い
国境が変わらず侵略のない日本の歴史と世界の歴史の違いを地図によって再認識した。イスラームが世界各地に勢力を広げたという意味がわかる。各時代におけるイスラームの分布地図。世界の境界は時代によって大きく変化している。 pic.twitter.com/WmzF3vXGU4
— コロコロ (@korokoro_art) 2021年10月3日
〇ラスター彩に注目
「イスラーム王朝とムスリムの世界」東洋館
— コロコロ (@korokoro_art) 2021年10月2日
展示品よりラスター彩をピックアップ
【ラスター彩】焼成した白い錫の鉛釉の上に、銅や銀などの酸化物で文様を描き、低火度還元焔焼成で、金彩に似た輝きを持つ、9世紀-14世紀のイスラム陶器の一種。ラスター(luster)とは、落ち着いた輝きという意味。
■参考
〇【記念講演】マレーシア・イスラーム美術館精選 特別企画「イスラーム王朝とムスリムの世界」
会場で上映されていた映像
■感想
世界3大宗教の一つに数えられ信徒数も2位のイスラーム教。世界に広がっていくためには、柔軟にその地域の文化も取り込みながら変化できることがあげられると思いました。
産業の発達とともに人の移動もより遠くの地域へ… それによって人が拠り所とするる宗教は変化をしながら広がり、その地域に根差していったことがわかります。
それは美術品という形に変わり地域の文化も形成。その場が持っている美しさを内包させ、多様な形を見せていることがわかりました。
個人的に興味を持ったものは、ラスター彩の道具類です。曜変天目茶碗の美しさを追いかけていく過程で、ラスター彩という焼き物を知りました。そのルーツから各地に流れイスラーム美術の中に見ることができました。イスラームと曜変天目につながりがあるとは想像もできませんでしたが、中国との関係性もあるかもしれないということが、イスラームへの興味を引き寄せてくれます。
■脚注
*1:■世界史対照年表
引用:日本人のルーツが隠された二大神社「伊勢神宮」と「出雲大社」の秘密 | 神社チャンネル
年表の一番下が日本です。世界中で、ここまで長く王室が続く国はないと言われています。
ライーの総督のマンスール・イブン・イシャク(d.914-15)に捧げられた。0巻からなる。
1-6巻:理論的な側面⇒食餌、衛生、解剖、生理、一般病理、薬学など
7-10巻:実践的な側面⇒診断、治療、個別の病理、外科が論じられる。
のちのアラブ・イスラーム世界の医師たちによって大いに利用。
またラテン・キリスト教世界にも大きな影響を与えた。
参考:医学史とはどんな学問か/第3章 アラブ・イスラーム世界の医学 - けいそうビブリオフィル - Part 2