コロコロのアート 見て歩記&調べ歩記

美術鑑賞を通して感じたこと、考えたこと、調べたことを、過去と繋げて追記したりして変化を楽しむブログ 一枚の絵を深堀したり・・・ 

■神奈川県立歴史博物館:洞窟遺跡を掘る ー海蝕洞窟の考古学ー

神奈川県立歴史博物館で開催されている「洞窟遺跡を掘る ー海蝕洞窟の考古学ー」はちょっとユニークな展覧会。これまで見たことのないようなチャレンジがいくつもされていて、考古学のことがよくわからなくても見ているだけ楽しい展覧会です。

 

 

■資料整理も展示

展覧会が始まって間もないころ、中に入るとこんな状態でした。スタートしているのにまだ準備中?と思ったら…

ここは「考古資料整理室」という設定。出土した資料の再整理を行う様子を再現しています。奥に作業をしている方もいます。ここにいる人も展示物、作業風景も展示物だそう。なんて斬新な!

 

企画担当者からのご挨拶。

会場には、膨大な量の出土品が並んでいます。ここに並ぶまでには、様々な工程を経てお披露目されます。それは細やかで根気のいる作業。気が遠くなりそうな作業みたいですが、それこそが一番、わくわくする作業らしいのです。

考古学展示の裏には、そんな整理をする「人」の存在があることをぜひ知ってほしい!と思ってこのような部屋を設けたのだそう。

 

本来なら目にすることのできない作業部屋。もう一度、じっくり見たいと思い再訪しました。作業する人たちのワクワクをこの部屋から探してみます。資料整理室の様子は、最初の頃からまた変わってました。

 

サメのぬいぐるみが増えてます。(なんだかオボちゃん、思いだしました…)

洞窟からサメの骨が発掘されるそう。ということは「サメが相模湾沖に現れていた」ということを意味する展示。手書きの解説で伝えています。他の場所も配置が変わったり、解説も増えています。資料整理室を、端からウォッチしてみます。

 

 

■洞窟調査って大変! でも楽しい!

洞窟調査に必要な発掘機材。左が昭和の機材。右は今。より高機能の機材もありますが、「掘る、探す、測る、記録する」の基本は変わっていないと言います。

 

どんな道具があるのでしょうか?

〇掘る

昔使っていた掘るための道具 シャベルやスコップ類

 

今のスコップやシャベル 変わらないですね。でもチリトリが登場?

 

〇測量

掘り始める前には、洞窟の測量をします。工事現場みたいです。

 

結果を記録。現在はあまり使われていない平面図を書く板。

 

現地では測量しながら状況を記録。こちらは初めて三浦半島の海蝕洞窟の調査をした赤星忠直先生が残されたもの。とっても丁寧で細やか。

 

〇ふるう

発掘したものをふるいます。昔は手でふるっていました。今は機械化しています。

 

グルグル回って網目をすり抜けるた細かいものは網の下の容器に落ちます。大きなものは緑の「箕(み)」と言われる部分に出てきます。 

 

網目の大きさ、これよりも小さいものがふるいおとされます。「箕」には残骸が残ってました。

 

しかし手作業も健在です。

エントランスのビデオ上映から

 

ホワイトボードには、管理番号一覧が張られています。デスクにはラベリングの色分けシールでしょうか?

 

〇保管する

神奈川県立博物館が特注で作った保管用の木箱。1960~1970年の年代もの。

 

中に入っているものはこんな感じ… プラスティックのケースも使われています。

 

〇まとめる

調査をしたあとはまとめて報告

 

 

■展示の中に見る実際の作業

細かな作業にはいろんな手が加わったあとが見えます。

 

〇整理する ナンバリング

大量の荷札… こんなにどうするのでしょうか?

 

古くは赤星先生の時代から使われています。そして今も、荷札でラベリングされていました。

 

テーブル奥には、発掘したものをまとめて袋に。荷札でラベル。貝殻にも一つ一つに荷札がつけられています。

 

〇分類してラベル

分けたものをシャーレに入れたり、資料に直接書いたり…

 

割れた壺の欠片を地道につなげて元の形に。そしてナンバリング、なんて細かい字!

 

石の見えないところにも覗くとナンバリングされていました。

 

細かい資料は一つ一つ袋に入れて名前つけ。小さなアクセサリーは糸に通して…

 

小さい資料には、こんな小さなラベル

 

さらに細かい資料もあります。なんと魚の歯! そんなものまで… フルイにかけた中から取り出しています。どうやって見つけ出すのでしょう? 気が遠くなりそうです。

 

これらが魚の歯と認識できることもすごい。

 

〇鹿の角を分ける

大量の鹿の角が見つかった池子遺跡。その角をずらりと並べてあり圧倒的な量です。ただ並べているわけではありません。よ~く見ると「生え変わる時に自然に落ちたもの」「解体するときに切ったもの」そして「切断面が鋭利なもので切ったもの」に分かれていたそう。そんなところに着目するんですね。

展示は無造作に並らんでいるようですが、白い紐でちゃんと区分けされていました。切り口の様子を要チェック!

 

〇住民に向けて第一報

日々、発掘しながらその進捗状況は、近隣住民の皆さんにいち早くお知らせします。

 

次の調査のための申し送りもきちんと整理して…

 

 

 

■手作業の力

人の手から紡ぎ出される様々なものにハンドパワーを感じます。

〇手書きのキャプション

今回、担当学芸員さんの手書きのコメントが好評のようです。妙に目をひき、ついつい読んでしまうのです。「きたない字ですみません」とお断りをされていましたが、活字の中の手書きはインパクトがあります。逆に読ませる効果絶大でした。

ハイ! インタビュー、読みました。

 

活字のキャプションでは伝えられないメッセージも伝えやすい。 

 

いろいろな思いや行間が伝わってきます。

 

そして図録の中にも手書きが随所に!

 

 

〇映像も手作り

「かなチャンTV」で放送されている動画。自撮りをしながら「かなチャンTV」のスタッフさんも同行して撮影、編集をした映像だと思っていました。エンディングのテロップで、神奈川県立博物館の学芸員さんによる制作とわかりました。編集作業も、テロップまで入っています。なんだかいろんな部分に手作り感満載です。

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マンパワーもすごい

登場する人、それぞれのマンパワーもすごい。なかでもオオツタノハの捕獲をされている研究者、忍澤成視さんの命の危険を伴う捕獲。

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オオツタノハを求めて… その採取捕獲をめぐる動画が、会場で上映されています。考古学は掘るだけなく「潜って」も獲る!この貝は波の荒い場所に生息するので非常に危険。潜る人の安全を確保するために、常に同行する人もいます。

そんな捕獲を長年続けてわかった分布。そこから推測される当時の人々の暮らしぶり。さらにこれからの研究の一助にも。それぞれの地道な研究が、他の研究者の参考になり新たな真実の解明につながっていきます。

 

〇古代人の知恵もすごい!

現代人もすごいけど、古代人だってすごかった。漁猟の道具。水中で矢を放つと、頭部の矢は外れる仕組み。そこに紐がついているので、魚が逃げても紐を引っ張ると捕獲できるという優れ技には驚いた!



■科学の力も借りて

〇機械化もすすんでる

ハンドパワーだけでなく機械の力も駆使しています。

形態の記録は、タブレットで3D計測が可能になっています。

 

それでも、手書きで記録する部分も…

 

〇科学分析がすごい!

骨のコラーゲンの窒素と炭素の同位体比を調べると、何を食べていたのかがわかるんですって!(すご~い)それらの分析から、洞窟の集団ごとに、食習慣の傾向がわかる! と思いきや・・・・そんな単純にはいかないらしい。 

遺跡の周辺から出土する食物情報も考慮して総合的に判断する必要があるのだそう。まだまだ解明への道は長い? でもデータが集まってくればいろいろなことが見えてくるはず。

池子遺跡の赤い□は、下記に示した骨を調べた結果です。現在も調査は進行中…

 

〇おまけ ポスター・チラシも手作業 

広報物の原画イラストの展示

 

文字もいろいろなパターンで試し書き。悩む姿もいろいろな線で描かれています。

 

ラフ?や本描を経て… 



仕上がりをチェックして、ポスターになりました。

最近は、パソコンイラストも多くなっている中、手書きには味わいがあります。

 


図録のページの数字も、採取袋の中に…

 

 

■赤星DNAのつらなり

〇赤星直忠先生の教え

先生の教えてを受け継いだ人たち。川口徳次朗さんは学生の時、調査に参加しその後、神奈川県立歴史博物館の学芸員になったという御縁。先生の教えを後輩たちにも教えています。

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赤星直忠博士文化財資料館館長、剣持輝久さんが語る、赤星先生の指導方針が印象的でした。身体が未発達な時期に体を酷使する発掘作業はさせない。それは身体への影響を考慮してのことだったと言います。外で見て覚えなさいと教えたそう。今のスポーツ指導者にも必要な視点です。(個人的にはこの指導が、ウルウルポイントでした)

若い時に出会った指導者の教えというのは、その後にいろいろな意味で影響を与えてくれるものだと思います。そして次の世代へと引き継がれていきます。

 

神奈川県立博物館、初代考古担当学芸員、神澤勇一さんが使っていた椅子もまた、博物館の資料として残され展示されていました。研究者のマインドを引き継ぐアイテムとして胸熱の伝統を感じます。

 

〇いろんなところでみかける赤星先生

赤星先生の標本は、トーハクの展示物でもお見掛けしました。

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赤星先生が寄贈された資料が展示されていました。

 

 

頼朝のお墓のことを調べていた時も、赤星先生のお名前を目にしました。

 

〇展示もつながっている

前回、行われた「赤星直忠と神奈川県立博物館-赤星直忠コレクション展-」は、この展覧会の前哨戦のような位置づけでしょうか?

 

大浦山遺跡で目にした奇妙な形のものは・・・・

 

それは新保田中村前遺跡の展示につながります。

 

 

■洞窟でいかに生きたのか?

研究によって様々なことが明らかになってきました。中にはショッキングな事実もあります。何を食べていたのか。そこには人食の形跡も認められるといいます。また指を切ってアクセサリーにしていたという事実も。

その時代の生活の中で人々が何を思い、考え行動をしていたのか、想像力を働かせて考えてみる。生きることに精一杯だった時代の思考や習慣を考えることは、現代の価値観から離れ、その時代に身を置くことになります。それは現代社会の立場や価値観の違いを理解することにも通じるのではないでしょうか?

身近なものを加工してアクセサリーに・・・ 時に指や歯も加わります。さらに、捕獲が困難な貝を危険を冒して捕りにでかけたりもしました。

現代の価値観では理解しかねるような行動も、今の私たちとつながっていると考えると何か理解の糸口が見えてくるのかもしれません。

今も昔も人は頭で考え、手を使いモノを作り出して生活を支えています。道具やアクセサリーなど、そこにはその時代を生き抜くための技術や魂が宿り、エネルギー源になっていたと思われます。

採取したモノから、様々な事実を積み上げ、想像を確かなものにしていく。遠いけども繋がっている過去の人々の暮らしぶりを紐解くことで、今を知り未来も見えてくる。考古学のワクワクはそんなところにあるのかなと思いました。

過酷な環境を生き抜く力は古代人の方が優れていそうです。学べることもたくさんありそうです。