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コロコロのアート 見て歩記&調べ歩記

美術鑑賞を通して感じたこと、考えたこと、調べたことを、過去と繋げて追記したりして変化を楽しむブログ 一枚の絵を深堀したり・・・ 

■『椀の中の宇宙 曜変天目茶碗の研究と成果』

図書館でミュシャ関連の大型本を探していたら、焼物の大型本が目に入りました。そうだ、曜変天目茶碗の写真でも見ておこう! 今度、東博静嘉堂曜変天目も来るようだし・・・と思い、別の書架を見たら『椀の中の宇宙 曜変天目茶碗の研究と成果』という本が目に入りました。パラパラ見ていたら面白かったので借りてみました。

 

 

■書籍概略

書名:『椀の中の宇宙 曜変天目茶碗の研究と成果』

著者:安藤堅

出版社:新風書房

初版:2003年9月9日

 

 

■著者略歴

1927東京千駄ヶ谷に生まる(以降、杉並・中野に転宅)。44海軍兵学校、終戦にて復員。
1946 旧制一高(現東大教養学部理科)入学
1949 同校卒業。極度の栄養失調にかかり、自宅療養。
1952 化学工業会社2社に勤務、研究・新製品開発に従事
1974 依願退職「科学と芸術」の両面から前人未到の対象をライフワークとする。
1977 秋、試作第1碗成功(朝日新聞に掲載)。
1978 春、NHK:科学ドキュメント「甦る秘宝―曜変天目茶碗再現の記録」放映
1981 中国政府の招きにより「曜変」1碗寄贈のために訪中し、
    福建省国立博物館に永久保存。「建窯跡」をも見学す。
1991末  心臓発作に襲われ、以後療養生活の間も、牛歩の製作続行。
2000  大阪府堺市の現在宅に転居し、現在にいたる
(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
 

      出典:Amazon CAPTCHA より

 

 

■内容

世界に3つと言われる曜変天目茶碗。それは不思議な輝きを持ち、それを再現させようとする試みは過去800年という長きに渡り陶芸の世界で行われてきました。しかし、成功したためしはありませんでした。

そこに上記のプロフィールを持ち、化学工業界で活躍してきた著者が、すべての仕事をなげうって、曜変天目茶碗の制作に取り組み始めました。

自身が身を置いた化学研究をもとに、「科学と芸術」を融合させるべく新たな仕事として打ち込むことになったのです。

 

当時、私人であった著者は、曜変天目茶碗を目にすることすらできない状況。詳細を観察することもできなければ、まして手にすることなどはもってのほか。ただひたすら、既存の公刊された写真だけを見てそれがいかなるものであるかの本質を見抜くということに、時間を割きました。

 

化学畑から陶芸という世界に足を踏み入れる。遠いところからアプローチをした試みでしたが、意外にも短期間のうちに成果を見ることになったのでした。

 

そのアプローチ方法がとてもユニークというか、科学者ならではの視点で、ある意味、曜変天目茶碗はできるべくしてできたともいえる結果をもたらしました。その作品は曜変天目茶碗を超えた傑作ともいえる完成をみたのでした。

 

そして安藤氏はこう語ります。これは、曜変天目茶碗の「再現」ではありません。安藤堅氏は「再現」という言葉にとてもこだわっていました。曜変天目茶碗の「再現」はもともとできないといいます。「再現」とは、大元茶碗がなんたるかがわかっているからこそできるもの。現在、曜変天目茶碗は、いかなるものであるかがわかっていません。わかっていないものをどうやって「再現」するのか。できたものと大元のものが同じということを証明することはできない・・・・ いかにも科学者らしい言葉を残されていました。

 

 

 以下、気になったことをピックアップします。

 

 

■第一部 研究の経緯より

〇科学者の本でありながら、表現が文学的。専門用語を使わないようわかりやすいを意識して書かれている。

曜変天目茶碗については、「誰に聞いてもわからない」のが現状。一番、心がけたのは陶芸界の強烈な引力から脱出を図ること。それは、既存の陶芸界の憶測や流説に惑わされない。

〇1枚の写真を見て、自力で考えられうる推察を列挙し、外界の雑音に耳を傾けない。

〇当初は、陶芸の伝統という引力の影響をうけなかったが、しばらくするとその力が及んでくる。それに影響を受けないことが肝要。

〇長き渡る伝統は貴重。それがあるからこそ、花が開く。しかし伝統という養分は、解きに薬害をもたらす。引力に負けた時、花はしぼむ。

〇伝統は大地。宇宙は伝統に息吹を与える。しかし「曜変」に「伝統」は全くないことを肝に命じるべき。

 

以上のような信念のもと、曜変天目茶碗との対話が始まりました。

 

 

■無言の対話

それは、一冊の「天目」といういう平凡社から発行された「陶磁体系 第38巻」その中の3枚の写真。その写真からあらゆる推理を巡らせました。実際に持ち主に電話をして見せて欲しいと頼むも、そんなことは受け入れられるはずもなく、〇年先の展示を見て下さい・・・と。

 

「実物なんてみなくても、自分で研究方向を探し出す!」

 

写真と対峙し、浮かぶ推理、仮説、そのすべてを洗いざらい書き出す。その数2000。この段階の手抜きがその後の研究に致命傷を与えることは、これまでの経験から、十分承知していたと言います。どんなにささいなこと、とるに足らないこと、間違っていようが関係なし。正しいかどうかは、二の次。とにかく考えられるすべてを、今は、ここに列挙することが大事。その重要性は、研究生活の中で、身につまされて染み込んでいたことなのだろうと思われます。

 

一つのことに打ち込んで、なにがしかの形として残すことができた人というのは、全く違うジャンルの世界に行っても、難なくこなしてしまうもの。著者曰く。陶芸の本を前にして推理することに何の違和感も感じなかったと言います。それば物理化学の世界にいたため、すべての基本にかかわる問題を対象にしてきたから釉薬と言っても、特別なものではなかったようです。

 

〇物理の目で陶芸作品を見る

つまり、その物質が何であるか、それがどんな特性を持っているかという物理という世界にいたことは、陶芸の世界でも、物質の分析という視点で物を見ることと同じだったのでしょう。目の前の物体は、陶芸作品ですが、研究者の目には、「特殊ガラス」にしか見えなかったと・・・・

 

そこで、釉薬を従来のガラスという性質から導き出しつつ、陶器を覆うガラスとして、どういう性質を有していればよいか・・・ あるいは色から想像して、どんな金属が用いられているか、研究に本腰をいれたらすぐにわかることでした。

 

 

〇技法を流動学でとらえる

そして、「星紋」「虹彩と言われる文様についても、物理学でとらえればさほど難しいことではないと考えていました。流動学の考えを適用し、「星紋」は「島」ととらえ、漆黒の地虹彩」は「海」ととらえればよいと・・・

 

つまり、漆黒の海に、異質のものが混ざって「島」が浮かぶ。海の分子となじみの悪いものが寄り添って島を形成する。これを「曜変」と考えればよいと・・・・この考え方をもとに、3つの曜変天目茶碗を改めて観察。そして「星紋」は次のようにできるのでは? という仮説をたてました。

 

釉薬の表面に集まる成分は何かはわからないが、海とは違うもの

①お互いに結合しやすい成分のもの

②「海」の主成分とはどうしてもなじめないもの

③量が多すぎて「海」に溶け込めないもの

 

上記の仮説をもとに3つの曜変天目茶碗を写真だけで細部に渡り違いを明らかにしました。3つは曜変の条件を満たしているけども、異なるものだろうと推察しました。これらのことは、写真を見ただけの推察で、参考書籍の本文は読んでいなかったというのですから、驚きです。

 

〇新しい「曜変」の創造

そして、出来上がりの過程が違うため3つのタイプができたのでは? と想像をしていたそう。そこで、自分が進む道は、新しい「曜変」の創造意外にないと認識をしました。

 

〇物理における「写し」と「再現」

陶芸の世界に「写し」と「再現」という言葉があります。しかし、科学の世界に「写し」という言葉は存在しません。が、「再現」という言葉はあります。それはより厳密な意味を持ち「もとのものの全容が明らかになっているものを再び作り得た場合のみ」再現と言えます。しかし、「曜変」の場合は、全容は全く不明。非破壊検査ができていない状態では、「再現」はありえない。というのが、安藤氏の考えでした。

 

そして、「私は安藤タイプの曜変を創造する。それができた暁には中国に感謝をこめて贈呈する」と誓ったそうです。

 

 

〇無言の対話の大切さ

以上のような写真との対話と、本文との対話、そして論文の抜粋との比較。そこから得られた2000の推論と仮説は、一日で作業がなされたといいます。

 

研究が終盤になり最初に考え抜いたことが的を射ていたことがわかり、スタートの「無言の対話」がいかに大切であるかを語っていました。常に対話の相手は変化します。写真から、粘土に、そして釉薬に・・・・どんな場面であっても、妥協のない対象物との対話。それによって真実に近づけるということのようです。

 

この自問自答は、頼りにできるのは自分だけ。そんな自分が頼りなくなってしまった、さらに自問自答できるための頼れる唯一のものになると言います。そのために可能な限り、多くの仮説を洗い出します。中にはそうそうに、消し去るものもあり、実験するまでもないことも含まれています。そして残ったものは実験で確認されるまでとっておいたそうです。

 

 

■物理学の知識が茶碗づくりのコツをつかむ 

陶芸の全くの素人が、誰に教わることもなく、茶碗を30分で作りあげてしまった。そこには物理学の知識が、存分に影響していました。

 

陶芸は素人でしたが、彫刻を趣味にしていたので粘土の扱いは慣れていました。ろくろも、その原理がわかっているため、抵抗なく使いこなせたといいます。

回転するろくろを手で成型するなら摩擦は少なくするのは当たり前。そのため、手も粘土にも水をかけます。粘土の中心が狂えば、遠心力が働きより狂いを生じます。菊揉みも知らずに行っていたそう。粘土に空気が入れば、焼いているときに、破裂するのは必然。また硬さにムラがあれば、ろくろの抵抗で変化し失敗するのも当然。粘土の空気を抜き、硬さを均一に・・・

以上のようなことは、誰に教わるまでもなく。自らの知識をもとに当然のことのように行って、30分ほどで出来上がってしまったのだそう。

 

 

■幻の名器 曜変天目を再現

物理学の知識を存分に応用して制作を試みて、1年半ほどで曜変天目茶碗らしきものができあがり、新聞でも取り上げられ話題になりました。

 

鑑定者からも太鼓判がおされ、そこには、「大阪芸大 東洋陶芸史教授」「名大名誉教授、無機化学釉薬)」「静嘉堂文庫文庫長」「東博東洋課長」の言葉として、「風格文様の鮮やかさでも「国宝級」とはまだ言えないが、改良の余地があり、基本的には曜変の再現に成功したことは間違いない」という評価を与えられていたと言います。

 

安藤氏は、前出にもあったように「再現」という言葉は、曜変天目茶碗においてはないと考えていたので、ここで「再現」と言われることに忸怩たる思いがあったようです。

 

また、その後の業界のさまざまなアプローチに辟易し、業界の暗部を見たようにも感じていたそうです。しかし、その中で、椀の鑑定者の一人で、科学者の山崎一雄教授からの補足の手紙を見て、自分の理解者を得たと思ったと言います。

 

「”曜変”は”再現”ではなく新たな曜変の創造であること」

「それは基本のものの素性もわからず、さわれず、基本分析もできないという状態で、”再現”という言葉ないと思われていたのではないか・・・・」という安藤氏の気持ちを察する言葉に、やはり科学者は違う・・・とつくづく思われたと言います。

 

そして、50年以上も前に書かれた破片による論文を目することができたそうです。曜変天目の化学成分がわかっていたこと。そして青色の光彩が何であるか、斑点が何であるかが記されていました。それは、自分が最初に仮説を立てたことと大きな誤りがないことがわかったのでした。

 

 

■中国人民政府に招かれる 

新たな曜変天目、それを完成した暁には中国へ贈呈。それが実現に至りました。そして、中国の陶磁器研究者、物理学者、考古学者との技術交流、故郷の窯の見学が目的の訪中です。

 

交流会で聞かされた思いかけない言・・・・

また、中国側の異例中の異例ともいえる対応。これまでどんな陶芸家が来ても見せることのなかった陶磁器工場に訪れ、さらには中国政府の者でも案内されない場所を見学させてもらえたそう。そして本丸の窯へ・・・・

 

そして釉薬の解けすぎた破片、底に乱雑に「御供」と刻まれたものなど貴重なものだったが、手にして写真もどうぞ・・・という待遇。

 

さらに曜変天目の伝来の明確な記録があるのだということもわかったそう。この訪中は、外務省や政府、代議士、関係団体の口添えなしに中国国家首席に面談したと言います。

 

曜変天目茶碗の南宋からの伝来について

中国側によれば伝来の年次まで明らかだとのこと。では、なぜ、日本の専門家は名言しないのか・・・・ 日本にもそのような話もあるらしいです。もしかしたら、日本からの逆輸入かも・・・ 専門家にゆだねたいと結ばれていました。

 

 

2003年に発行された書籍です。その後、どうなったのでしょうか?

 

 

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曜変天目茶碗」 その名も、その存在についても、なんとなく聞いたことがある程度でした。それが一変したのは、あの番組によるもの。

 

曜変天目茶碗とは・・・・

wiki pedhiaによると

・内側の黒い釉薬の上に大小の星と呼ばれる斑点(結晶体)が群れをなして浮かぶ。

・その周囲に暈天のように、瑠璃色あるいは虹色の光彩が取り巻いているものを言う。
・この茶碗の内側に光を当てるとその角度によって変化自在、七色の虹の輝きとなって跳ね返ってくる。

 

以上が、曜変天目茶碗にそなわっていなければならない不可欠の条件である。

 

 

〇『椀の中の宇宙』p98 より

「曜変」にははっきりとした定義ともいうべきものがある。

・「星紋」の周囲にのみ「虹彩」がある

・「虹彩」は「光の鑑賞」により7色の変化を示す。決して青だけではない

 

曜変天目茶碗は、当初、4~7椀あると言われたりもした。それは、感覚的な観察によるものであったようですが、昭和28年に刊行された研究論文が最も信頼できるとされています。

論文の発表者は、文化財保護委員会の小山冨士夫氏

        名古屋大学理学部 山崎一雄氏

 

前者の小山氏は文化財を誤りなく保護、調査する立場、山崎氏は、できる範囲で科学的な研究を報告している。両氏により詳細の観察結果から3椀を曜変天目茶碗で国宝という結論になったと言います。

 

 

■新たな曜変天目茶碗

現在の3つの曜変天目茶碗を科学的見地からも認定したと言われている山崎一雄氏が、安藤堅氏の器を、新たな曜変天目茶碗と認定したという事実があったことを、この本を通して知りました。

 

しかし今、そんな話題は耳にもしません。

 

古い話といえば、古い話で、安藤氏は1927年生まれ、今年90歳。1991年に心臓発作に襲われ療養中で、2003年にこの本が出版されてから14年がたっています。その後のことについては、

 

 

曜変天目茶碗とはいかなるものか・・・・

今度、行われる特別展「茶の湯

www.tnm.jp

 

そこに静嘉堂文庫の曜変天目茶碗が展示されます。

 

 

科学者からみた曜変天目茶碗、その制作に全精力をつぎ込んだ一人の研究者がいたこと。それは「再現」ではなく、「安藤タイプの曜変」の創出であったこと。作り出したいという執念と、科学的判断力の成否とご本人は語っています。

 

陶芸界にも科学の力を・・・・ それは小手先の科学でなく、より根深い科学的な考え方が大切だと語られています。

 

 

目の前にある曜変天目茶碗かと言われるものに対して、小手先の科学でない判断が求められるのだと思うのですが、どのような分析をしたかを明らかにしないことが科学といえるのでしょうか・・・・ 科学とは再現性だと言われています。同じ測定を20回行ったら、その分析機器は、どんな結果を示すのでしょうか? 分析機器の精度、手技の精度は変動係数という指標があります。蛍光X線分析にもそのような指標はあるのでしょうか? 所詮、バラエティー番組発の情報にふりまわされて騒いでいるだけという気がしてしまいます。

 

 

西洋の磁器の生成の苦労を知った時、これは化学反応だと思いました。しかし「曜変天目茶碗」が科学による生成物であることには気づきませんでした。物質の生成、熱による変化という目で見ると、それぞれの模様がどのように作りだされるのか。そのヒントは、すでにわかりました。そういう目で展示される茶碗を見るとまた違う見方ができるような気がします。

 

東博の「茶の湯」 ちょっと楽しみです。

 

 

 

■【追記】「御物」と書かれた茶碗の破片がいっぱい