九州の「ななつ星」のデザインで一躍有名になった水戸岡鋭治氏が、関東圏で初めて豪華列車をプロデュース。職人技があちこちに投入され、技術の粋が詰め込まれた走る美術館ともいえます。車両の見どころなどスタッフの方から伺ったお話を交えて紹介します。車両を美術品という視点でとらえてみます。
■水戸岡デザインについて
水戸岡デザインで有名になった豪華観光列車の数々。さぞや製作費をかけて作られているものと思われるのですが、実は経費は極力抑えられていると言います。
車両を新に製造するわけではなく、旧車体を改良してそのまま使うことでコストを下げ、さらにこれまで九州で培ったの技術を利用することで低コストで仕上げることができるようになっていると言います。
このメリットは・・・・
少ない予算で、レベルの高い観光列車が導入できるのであれば、資金力のない鉄道会社にとってこんなにありがたいことはない。
出典:なぜ"水戸岡列車"が全国各地で増殖中なのか | 特急・観光列車 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
つまり、どこも経営が厳しい。その中で低コストで最大限の効果を得るには、水戸岡氏の手法は願ってもない方法・・・・ といった予備知識を持って乗車しました。
■発車時のひっかかり
車内に一歩、踏み入れるとそんなことはすっかり飛んでいました。真新しい列車に、最新の高性能列車が導入されているものと思っていました。出発の時間がきてスタートしました。
スタート時、何かひっかかるというか、違和感が・・・・ スムーズでなめらかな発車ではないのです。真新しい車体とその動きにアンバランスな印象を受けていました。
聞くと車体は20年ほど前のアルファリゾート21。改良をしたとはいえ、今の新型車両に乗り慣れた体には、スタート時のひっかかりを感じさせられたのでした。見事にリニューアルされた高級列車の真の姿を垣間見たようでした。
元の姿はこんな感じ・・・・
ロイヤルエクスプレスは…
大変身! 色のイメージって大きいですね。
■乗車直後に目に入ってきた格天井(ごうてんじょう)
車内は新車の香が・・・・ いや、それはふんだんに使われた木の香りが漂っていたのでした。
〇列車の中に寺社様式?
そしてまず目に入ってきたのがこれ・・・・
格子状になった天井です。これって、多分、社寺建築の天井を模しているのではないでしょうか?
〇過去に見た格天井
始めてそれを知ったのは日光東照宮でした。
この天井と同じような天井をのちに冨士屋ホテルで見ました
館内の見所 | メインダイニングルーム「ザ・フジヤ」の見所 | 箱根・宮ノ下富士屋ホテル
冨士屋ホテルの支配人は日光、金谷ホテルから婿入りした山口正蔵。
東照宮を思い出してこの天井にしたのだそう。
その後、金谷ホテルに泊まるとここにも格子の天井が…
冨士屋ホテルの山口正造は、実家の天井を模したのかも…
その後、若冲ブームあって、その時に金毘羅さんの天井画も描いていたというのも格子の天井でした。
〇カーブの格天井
この格子状の天井をこれまで見てきましたが、みんな平な格子でした。カーブを描いた天井を見たの初めてです。こういう作りのところもあるのでしょうか?
スタッフさんにお聞きすると、やはり、これは寺社の天井で「格天井」(ごうてんじょう)ということを教えていただきました。この様式は知っていましたが、名称までは知りませんでした。格天井は、「こうし」と読むと思っていました。列車のようなRタイプの天井を用いた建築があるのでしょうか? 水戸岡さんのデザインは、「R」使いが多いのが特徴で、列車の形状を生かして丸みを帯びた天井にしたとのこと。そのあと「格子天井」を画像検索してみたのですが、Rの天井はありませんでした。
〇R効果
車内はとってもゆったりとしています。
それは幅の広い通路にサイズの大きな椅子。それらが影響しているかと思います。しかし上部をRで絞られた天井にすることによって、視覚効果でより広く見せているのではないでしょうか?
◆格天井(ごうてんじょう)
格天井とは、日本や中国、台湾などで多く見られる、木材を使った伝統的な天井様式です。最も格式の高い天井様式といわれ、有名なお寺や神社、お城の天井に多く使われています。二条城二の丸御殿や日光東照宮外陣などの格天井が有名です。
出典:格天井特徴
最も格式の高い天井様式・・・・ それがわかると、最高のおもてなし体制で臨んでいるということが伝わってきます。また、この格天井の作りはとても手がかかるものだと聞いていましたが、さらにR構造で組むというのは、かなり大変なことだったのではないでしょうか? しかも走る列車の振動や古い車両のゆがみなどもあったのでは?
天井には間接照明で照らされていて、微妙なニュアンスも醸し出されています。
入って、いきなりこれだけの仕掛けを目の当たりにしました。このあとに控える仕掛けに期待が高まります。
▲ひょっとしてこれは網棚のなごり? これは、まさか荷物置き場だったり? と思ったらこれはデザインでした(笑)
■天井ウォッチング
天井のことを伺っていると「各号車で天井の様子も違いますのでそれも比較して御覧になってみて下さい。特に3号車がおススメです・・・・」と。 果たして、どんなふうにすごいのでしょうか?
▼ダイニングルームの車両はダークブラウンでおちついた雰囲気です。
▼2号車はファミリー向け車両なので天井も明るいく・・・・
▼1号車はカジュアルな感じ 木々の中にいるよう
▼そして圧巻の3号車、多目的車両の豪華絢爛な天井です
天井が金であしらわれています。
こちらは電気鋳造技術を使ったメッキのような技術でプロフェッショナルでも紹介されていたようです。プラスとマイナスの金属イオンに通電することによって加工されているそうです。天井のパネルにこの技術を使ったのは初めてなんだそう。
ここではコンサートが行われますが、利用者の目的に応じて、結婚式やイベントなどに使うことができます。金屏風と同様、光によって微妙に反射が変化して輝きが変わります。
細かい細工も・・・・
▼この技術は、食堂車のカウンターにも使われています。
こちらは銀と金の組み合わせです。
▼また、5号車のトイレだけこの金の加工が施された黄金のお手洗いです。
これは、ご案内をいただかないとわからないことです。写真に納めようとすると、扉を開けていないと引きがなく難しいです。スタッフに声かけをするといいです。
■造作ものがいろいろ
▼組子細工
車内至るところにこの格子が見られます
▼組子細工のアップ
動く列車でこの細工をすることはとても大変なこと。接着はされているのでしょうか?
▼床は寄木細工で
車両ごとに違うパターンが…
▼食堂車のスタッフ出入り口の取っ手
こちらはプロフェッショナルで紹介された取っ手。人の手に一番なじむ形状なのだそう。
▼1号車 子供用の木のプール
木を基調にした水戸岡デザインの定番らしいです。
今回は、子供連れでここを利用している方たちがいらっしゃらなかったようです。誰もいなかったので、「ツボ押し効果がありますから、中に入ってみて下さい」と言われ子供用プール体験。足裏のツボが刺激されて、いた気持ちいい状態。
木のボールはよく見ると色や大きさ違います。そして細長い楕円形のものもあります。
↑
この入れ物の周囲はくぼみのあるレール状になっています。ここにボールを乗せると転がる仕組みになっていて、ガラスはそのガード役なんですとスタッフの方が教えてくれました。
■ライティングに注目!
車両によってライトが違うのも見どころ。
実は海岸線を走るロイヤルエクスプレスなのですが、海よりもトンネルの中を走っている時間がかなり長いのだそうです。そこで、トンネルに入った時の照明に、とても気を使っているそう。照明はトンネル内に入ったり出たりで切り替えているわけではなく、トンネル内の明るさ基準にあわせてつけっぱなし状態で走っているとのこと。昼でも夜の設定になっているそうで、そんなところにも着目すると…
▼トンネル内では表情ががらりと変わります
▼食堂車のトンネル内
天井にあしらわれたロゴが光によって反射するところもあれば、しないところも…
サーブする人の高さのあたりの照明と、食べる人の高さの照明 女優ライト効果?
▼トンネル内では窓に内部が反射してちょっと幻想的
▼ファミリーエリアはクリアな光
照明がいろいろ工夫がされています。
■座席
▼7号車:4人がけはブースがあり独立性が高いです
▼反対側にはこんなサブデスクと椅子
後ろ向きの人も、気分を変えて場所がえができます。
▼2号車:窓際にはこんなテーブルも
椅子やテーブルにも工夫があります。肘掛の長さが左右違うのは、通路に出る時に出やすいための配慮だったり、テーブルが折り畳み式になっています。食事をする時と、出入りする時の利便性が考えられています。
シートの布も一枚一枚別の柄で折られていて、車両によっても椅子も違い、至るところにいろいろな配慮がなされています。
■展望
〇展望席
▼1号車の展望車両
車内は階段状になっていて、運転席の後ろの部分、その後ろに海側を向いた座席、山側の椅子は若干高くなっています。
旧車両の様子
海側を向いた座席
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〇図書席
最後部 8号車の図書席 プレミアムプランの方が利用できるフリースペース
前車両の階段部分が生かされ、一人席になっていて、ソファも特別?
▼ここは書斎に見立て手紙を書いたり仕事をしたり?
わざわざ仕事する人もいないと思いますが ▲本棚には水戸岡本が…
▼スタッフさん一押しの場所
そしてこの図書席がご案内いただいたスタッフさんの一押しの場所なのだそう。先頭車両の最前列で景色を眺めるのもいいですが、過ぎゆく景色を見るのもなかなかよいものです・・・・と。
列車の座席は、進行方向の席が好まれます。しかし実をいうと景色が目に入りすぎて疲れてしまうのだそうです。進行方向に対して背を向けて座わると、景色が背後から流れtいくので疲れが少ないとのこと。そう考えると、ここは最高のポジションということになります。
このあと水戸岡デザインアートや写真撮影のスポットやコツなどについて
(続く)