コロコロのアート 見て歩記&調べ歩記

美術鑑賞を通して感じたこと、考えたこと、調べたことを、過去と繋げて追記したりして変化を楽しむブログ 一枚の絵を深堀したり・・・ 

■島根県立美術館:野外彫刻 『WAVING FIGURE』 建畑覚造

島根県立美術館の前に広がる公園に、野外彫刻があります。いくつかある中で気になったのが、建畑覚造氏の『WAVING FIGURE』でした。いろいろな角度から見ていると、表情が変わり、面白い作品です。いろいろなアングルから撮影したので紹介します。

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■最初に見た時の印象

最初に見た時の印象がこちらです。実は、あまりよくわかりませんでした。

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⑥『WAVING FIGURE』建畑覚造(1998年)

そのあと、いろいろな角度から見ていると、どんどん表用を変えていき、次第に面白くなってきました。

 

 

 ■タイトルは『WAVING FIGURE』

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タイトルが『WAVING FIGURE』ということが判って、波々の形状は波を表していたことを理解しました。宍道湖の波、あるいは、水の都、松江の水路の波‥‥ 

ところが、「WAVING」は、この作品では波そのものではなく「波打った」という意味で使われているようです。この波の部分に宍道湖の自然を写し込んでいるとのこと。

鏡のように磨いた波状の曲面が複雑に光を反射し、宍道湖や周囲の自然を映し込んで風景に溶け込みます。

 

〇作品に映し出されるもの

作品に映り込んだものを、いろいろな角度から撮影してみました。

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▲ウェーブのウロコのような出っ張った部分だけに、空が映りこんでいます。

 

▼平坦なトップ面にも、空が反射しています。 

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▼裏側から見たら、面白い造形が確認できました。まるで石のようです。台座の石が映りこんで、ステンレス素材が石のように見えています。 

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〇作品に映し出すもの

しばらく、作品に映りこむ景色を撮影していたのですが、次第に、意図して、この作品の回りの「これ」を「ここ」に映し込みたい。と思い始めました。

地面に生えている芝のグリーンをこの裏面全体に映し出して、石に見えている状態を、芝生に置き換えたいと思いました。この部分に、一面、芝生を映りこませるには・・・・ 見る高さや角度を調整して、全体が芝生になる位置を探しました。

しかし、緑の芝生を映せたのは、これが精いっぱい。このステンレスの裏面、全体をグリーンにできるポジションは、見つかりませんでした。

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こちらからの方向は、地面に芝生が生えていないので土ばかり・・・・

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しかし、ウェーブの波の部分には、空と雲が映りこみ、周囲と一体化しています。素材が持っている反射によって、空と大地のコントラストが作りだされました。

 

〇ラインが一直線になる? 

次に解説を見たら波状のはずのラインが直線になるポイントがあるというので探索。

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⑥『WAVING FIGURE』建畑覚造(1998年)

 

 

 

■天候が変わると

午後になると、天候が変わりました。青空はどんより曇りだし、雨も降ってきました。作品の表情は全く変化して、そこに映し出されていたものは、消えてしまいました。

 

作品に映りこむ景色が全く変わりました。

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映し出すものが消えてしまったのか、空の色が映し出されているのか・・・・ あるいは、光量が足りないからなのか・・・・

 

太陽が隠れ、雨が降り出したら、ステンレスには水滴が付着しました。

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水滴はまだ、流れ出してはいません。雨が強くなると、一筋の水の流れになるのでしょうか? 

 

ステンレスの表面に映し出されるものは、何もありません。

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午前中の青空が見えた時と、雨模様になった時を比較すると・・・・

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全く表情が違います。受け取る気分も変わります。

 

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 (左)晴れ (右)曇り

同じ作品でも、どのような環境の中で出会うのか。それによって印象や受け止め方というのは、かなり変わることが判りました。1日でもこれだけの変化をしています。作品との出会いは、その瞬間の偶然性にも影響されるということを感じさせられました。

夏の終わりに、始めてこの作品を見たのは、茜色の夕空が背景でした。

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季節やお天気、時間、背景によって変化する作品。また、どの場所から、どれくらいの距離感で見るのか、どれくらいの時間をかけて向き合えるのか。全ては、その時に置かれた状況がもたらす、偶然によるのでした。

初めて見た時は、近づいて見る時間のゆとりはありませんでした。

旅行先での作品との出会い方・・・・ それは旅の行程の中、どんな時間の流れの中に組み込まれるのか。その条件によっても、大きく印象を左右していたのでした。

この時は、時間がなく、遠くからざっとしか見ることができませんでした。近づく余裕もなく、じっくり見る時間もない。他の作品も同様でした。

 

 一日で、目まぐるしく変わるお天気の中で、表情が変わる彫刻を見るチャンスに恵まれました。しかし、彫刻そのものは、何も変わっていないのです。

 

 

■ 興味をひかれた作品

〇反射する素材

2回目、秋に訪れた時、気になる作品を撮影しようと思っていて、同様にいろいろな角度から、撮影した作品がありました。
それは、野田正明氏の「オープンマインド・オブ・ラフカディオハーン」です。

(⇒■小泉八雲 オープン・マインド

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2つの作品の撮影しながら、作品に共通性を感じていました。それは、作品が、回りの環境を映し出していることでした。そして、環境の中に溶け込んでいる作品でもあるということです。

 

〇素材の特性

2つの作品には、共通した素材の特性がありました。それは、ステンレスという素材が持っている反射という特徴です。

◎平面のステンレス

『WAVING FIGURE』は平面で構成され、『オープンマインド・オブ・ラフカディオハーン』は、曲面で構成されています。その形状によって、映りこむものの情報量(?)が違うと感じていました。

最初に撮影した『WAVING FIGURE』は、実に様々なものが映し出されるので、何をそこに投影しようか考えながら撮影することに面白さを感じていました。この表面は鏡のような状態ですが、その加工の滑らかさが変わると、写り方も変わるのだろうなと思いながら見ていました。

また、雨が降ってきたことで、このステンレスの曇りのなさにも注目しました。鏡面のような状態を保てるからこそ、いろいろなものを映し込んで遊べたのだな・・・・と。

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フラット面は、鏡効果があります。そこに何を、映し出すか、景色だけなく、作品の素材感も明らかになりました。

 

◎曲面の『オープンマインド・オブ・ラフカディオハーン』

曲面で構成されているこの作品は、映し出されるものが多くありません。ここに何かを投影するというよりも、見る方向によって変わる形の変化に興味がシフトしていきました。

 

◎素材と形

曲面と平面、さらに素材の面積によっても、同じ反射という性質を持ちながら、全く違う見え方になることに面白さを感じていました。

一方、入口で見た作品は、形状の変化の予測があっても、そこに映し出される情報量が少なくて、立ち止まることがなかったのかなぁ…と思われました。

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〇撮影から見える興味を持つ作品の共通点

何気なく撮影しているようでも、そこに撮ろうという意思が働いているので、何かを受け止めそれを納めていると考えられます。

1回目、夏に時間のない中で撮影した時も、この2つの作品が中心でした。2つの作品の中には、無意識に惹かれるものがあったのかもしれません。その共通点を探ると、素材が持つ特性に惹かれていたのかもしれません。

環境によって跳ね返すものが変化する素材。あるいは、環境の中にどう溶け込むかという面白さを感じていました。。

同じ日に、違う条件の中で、同じ作品と向き合えた幸運に感謝。環境によって変化するのは人も同じ。また環境の中にどう溶け込むか・・・そんなことも考えさせられます。。

 

 

■見る 見えることについて 

現代美術作品を見ていて、行きつくのか、「見る」という行為についてです。作品に映し出される景色を見ていましたが、この作品に何を写し込もうか・・・・ と自分でコントロールし始めました。これは「見えている」から「見えるようにする」に変化しています。

「見えるようにする」ということは、光を反射させて「見えるようにしている」ことになります。「見る」という行為を、光の反射でとらえるようになります。受動的に見ていた状態から、能動的に積極的に「見る」に変化しています。

この作品の中に、空を見る、雲を見るのは、「見えていた」状態。そしてその裏にある、光の反射という法則を感じるようになっていました。

大地を見る、芝生を見る・・・・ それには、対象物をどこに置いて、光をどう反射させれば目に届くのか・・・・を考えながら作品を見るという、また違う見方になっていました。

現代美術にふれると、光の反射がどう、網膜に届いているのか。そして周りの環境によって変化する見え方など、 最後には、そんなところにたどり着くことが多いです。私たちの見るという行為は、その形を見ているわけであなく、光によって反射したものを見ている・・・・ということを意識づけられます。そして、作品の素材、物質性にどうしても、目が向いてしまうのが、自分のモノの見方だと認識させられます。

 

 

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