東京都庭園美術館にて「北澤美術館所蔵 ルネ・ラリック アール・デコのガラス モダン・エレガンスの美」が開幕。それに先立ち内覧会が開催されました。本展を監修された池田まゆみ氏のご挨拶から、見どころや展覧会への思いなどを交えご紹介します。
本展覧会は、池田氏の多大なるご厚意のもと、写真撮影が可能となったそうです。開催中に危険を感じた場合は、中止になることもあるとのこと。マナーなどに配慮して撮影を心がけたいところです。
*内覧会時の様子、ペンライトによる照明の撮影、掲載について許可を得ております。
■【追記】2020.02.11 ガラス工芸品鑑賞のコツ いつ見る?どこを見る?
- ■池田まゆみ氏による見どころ解説
- ■アール・デコの館 旧朝香宮邸
- ■さまざまな光の中で
- ■通常は見れない部屋、入れない部屋も
- ■新館にも注目
- ■世界と日本のかかわり
- ■【追記】2020.02.11 ガラス工芸品鑑賞のコツ いつ見る?どこを見る?
- ■補足・脚注
■池田まゆみ氏による見どころ解説
アール・デコの代表ともいえるラリック。彼のコレクションで有名な北澤美術館の名品が、アール・デコ建築の代表ともいえる旧朝香宮邸、現東京都庭園美術館で開催されています。ラリック研究で著名な池田まゆみ氏による監修で、ラリックの新たな姿を浮かび上がらせてくれます。また、担当学芸員より伺ったお話もこぼれ話の中でご紹介しております。
〇コレクター魂に燃え命を懸けて手に入れた最高の作品
ラリックの作品は、同じ形のデザインがいくつも生産されているので、他でも見る機会があります。しかし仕上がり、色、明瞭な型が出ているなど質のよいものを、一つ一つ選んで集めたのが北澤コレクションです。
よりすぐりの作品を厳選して集めていることで定評のある北澤美術館のラリック作品220点が、東京都庭園美術館に集結しました。
北澤美術館に行っても見ることのできない作品ばかりで、倉庫の中に眠っていることの多い作品のほとんどが来ています。ラリックファンには垂涎の展覧会です。
【こぼれ話】
日本のラリックをはじめとするガラスコレクションは、世界に誇れるラインナップだそうです。日本では、同じ種類の作品を、違う美術館で見ることができる環境にありますが、これは大変恵まれたこと。
わざわざガラス作品を見るため、オルセー美術館や、ナンシー美術館に訪れたのに、ガッカリして帰ってくる人がいると言います。
ガレとラリック作品は、名品の2/3が日本にあるのではとのこと。それは日本人の審美眼の高さを意味することだと池田氏は語ります。
〇アールデコを盛り上げた人々が設計した建物の中に展示
ラリックと同時代の作品が内部を飾る「アール・デコの館」旧朝香宮邸という最高の環境の中で展示されるラリック展です。インテリアのブームというのは、ブームが過ぎるとリニューアルされてしまい残ることがありません。そのためフランスの本国では、アールデコの建物がないのだそうです。
アールデコ様式の建築が、日本の地で今に引き継がれているというのは、奇跡的なことなのかもしれません。
ご夫妻のアールデコへの情熱と、当時のアールデコにかかわる人たちの情熱、そして、それらを蒐集してきたコレクターの情熱がぶつかりあった展覧会です。
ラリックの作品と同時代の建物というベストマッチな舞台の中で、世界に誇る最高の作品が展示されるという、至福な鑑賞の時間をお過ごし下さい。
【こぼれ話】
アールデコに魅了された朝香宮殿下は、私費を投じて邸宅を建てました。公費で建てたと誤解されることもあるようです。ご夫妻の心頭ぶりが伺えます。
迎賓館の役割も果たしたという朝香宮邸。各国の要人を迎えるにあたり、日本の玄関口となります。そこは、日本の文化レベルを示す役割も担っていました。当時の世界のトレンドも取り入れた日本の玄関口にラリックのレリーフが選ばれたのでした。
〇新館のラリックの来歴展示にも注目
本館は、全て北澤美術館のコレクションで構成されています。一方、新館は、なぜこの館にラリック作品が存在するのかがわかる構成になっています。
池田氏のご研究は、ラリックと同時代に入ってきたラリック作品を調査・研究されているそうです。なぜ、どのような機会に入ってきたかを新館で紹介され、池田氏の研究の一端に触れることができます。
【こぼれ話】
ご研究の苦労話もご紹介されました。
昔に購入した工芸品を探すというのは、砂漠の中からケシ粒を探すようなものだと、その大変な労力について語られました。写真の中に花瓶をみつけ、ここに写っている・・・といったことから、地道に紐解いていかれるとのこと。
それを体験できるような展示もされています。
一番最初に入ってきたと考えられている、昭和天皇が外遊された時のお土産の花瓶も特別展示されます。
〇ラリックのガラスは自然光の中で見るのが一番美しい
池田氏によると、ラリックのガラスは、自然光の中で見た時が、一番美しいと語られました。
今回、3館で巡回しますが、自然光で見ることができるのは、東京都庭園美術館だけです。所蔵館の北澤美術館でも、自然光で見ることはできません。よりすぐりのラリック作品の美しさを、ラリックの館の生活空間で、しかも自然光で見る。またとない至福の時間をぜひ、体験して下さい。
■アール・デコの館 旧朝香宮邸
〇玄関 ガラスレリーフ
本格的なアール・デコ様式を取り入れて建てられた旧朝香宮邸、現東京都庭園美術館の正面玄関は、ラリックに依頼したガラスレリーフ扉がお出迎えします。
旧朝香宮邸正面玄関ガラスレリーフ扉 1933年 東京都庭園美術館蔵
これは、宮邸のための特注品です。そのオーダーのやりとりの様子が、新館で紹介されています。
〇レリーフのデザイン画
ラリックが日本の工房とやりとりをした下絵は、北澤美術館に保存されています。現在、設計に関するフランスからの資料は一切なく、保存されていないので、これが唯一の史料です。
デザイン画《朝香宮邸玄関扉》1931年 北澤美術館蔵
ラリックのメモ書きが加えられており、裸婦像から着衣の天使に変更された経緯などが読み取れます。
〇レリーフイメージ
ガラスレリーフを拡大して展示しています。
玄関レリーフの再現
〇アール・デコ博覧会
朝香宮鳩彦王夫妻が日本にアール・デコ建築を建てるきっかけとなったのは、パリ滞在時、「アール・デコ博覧会」(1925年)に訪れ、アール・デコ様式に魅了されたことからでした。
「アール・デコ博覧会」鳥観図(「イラストラシオン」より)
ラリックと共に同時代を過ごしたフランスでの様子、そして日本にラリックが入ってきた様子が、新館で紹介されています。
世界の人を迎え入れる迎賓館として、ラリックのレリーフが選ばれる背景となった「アール・デコ博覧会」。導入時のやりとりは、妃殿下自らが行い辞書を片手に夜遅くまで、手紙を訳されていたそうです。当時は、この扉から出入りをしていたそうです。
〇大客間 シャンデリア
ラリックは、大客間の天井シャンデリアも手がけました。
フランスは伝統的に生活の中に美を取り入れることがうまく、ラリックはそれを端的に表現した作家だそう。
ラリックの照明にも注目です。
葉のようなギザギザしたデザイン。葉であり歯車もイメージしたと言われているシャンデリア。歯車は近代化を象徴しているとも・・・・
複雑に見える造形も下から見るとこのようなシンプルなフォルムです。
《ブカレスト》
〇日用品と宮邸の空間
ラリック作品は、鑑賞用としてだけでなく、実用することを意識しています。生活の中のあらゆるものをガラスで表現する中で、テーブルウェアも手がけました。宮邸の生活空間の中にある様々なガラス作品を堪能しながら、食卓の再現により作品の真価が存分に伝わってきます。
テーブルセット
ラリック作品には都市の名前がよくつけられ、こちらのシリーズは《トウキョウ》と名付けられています。土地からインスピレーションを受けたというわけではなく、識別の意味合いが強かったらしいのですが、宮邸の仕事のがきっかけでネーミングされたと考えられるとのこと。
グラスに液体が入ると、ベースの水玉文様がゆらゆらとゆらぎ、見て使って楽しむというデザインが計算しつくされていると言います。
水玉の原泉は真珠ではないかという説があるそうです。
6客セットのすべてが欠けることなくそろっていることも特筆すべき点です。
マティラス用グラスセット《ひな菊》1935 1936 北澤美術館所蔵
アールデコの粋を極めた旧朝香宮邸。ラリックと時代を共にした朝香宮ご夫妻がオーダーされたガラスパネルや照明のもどで、ラリックの作品を鑑賞するという、この上ない舞台です。
大食堂の照明も、ラリックが手がけました。
食堂ふさわしいパイナップルとザクロのレリーフの照明が取り付けられています。・・・・
《パイナップルとザクロ》
照明だけでなく、天井の間接照明の階段状のレリーフにも注目です。
フラットな天井にせず、階段状にすることで、光の回り方が均一ではなく段階的に変化させています。⇒*1
■さまざまな光の中で
〇自然光で見るラリック作品
自然光の中で見るのが一番美しいと言われるラリック作品。また、使うことを考えて作られたラリック作品は、生活空間の中でこそ生きます。
一般的なガラス作品の展示は、ガラスの特徴を浮かび上がらせるため、照明を落とした暗い展示室に、スポットライトをあてる手法がとられますが、今回は自然光のもと、見ることができるまたとない機会です。
カーテンを開け、自然光の中で見ることができるようになっています。午前中の光、午後の光、夕方の光、1日の変化を楽しんで下さい。
天井の間接照明と自然光の中に、文具・印章・灰皿など暮らしを感じさせるアイテムが、書斎で展示されています。生活の一部として溶け込んでいます。
日の落ちたあとのエントランス
立像 《両手をあげた裸婦》1921 北澤美術館所蔵
〇光の違いを
晴天、曇り、雨、天候によっても表情は変わるはずです。また午前、午後、夕方、夜でも・・・・ 順行、逆光、窓を背にして反対側から。一日の変化する光の中で楽しむとう贅沢な鑑賞を味わうことができます。
厚みのある装飾パネルの厚みを、自然光を通して見ることも・・・・
壁面装飾パネル《鳥と渦巻》北澤美術館蔵
ガラス厚を自然光を背景に時間を変えて・・・・
(左)16:40頃 (右)17:40頃
〇見る方向を変えてみる
作品にスポットライトが当てられています。オパールセントは、左右方向を変えてみると全く表情が変わります。あるいは、上から下から、裏からも・・・ 七変化するガラスの魅力に魅了されます。
花瓶《バッカスの巫女》(1927)北澤美術館蔵
自然光をバックにすると、オパルセントガラスは、オパールのような神秘的な光
裏側からは、青みを帯びた半透明、乳白色地。全く表情が違います。
左から 右から
展示ケースに映りこんだカーテンのベールに包まれて・・・
(左)立像《シュザンヌ》 (右)立像《タイス》
左から右から
〇日が落ちてから
夕暮れ時をすぎ、陽が落ちると(18時頃)太陽光は入らなくなります。一般的な展示と同じような状況で鑑賞することになります。青みが強くなり、見る方向による変化はあまり見られなくなります。
花瓶《バッカスの巫女》(1927)北澤美術館蔵
下から見たり、上から見たり・・・・
陽が陰ると、太陽光の影響がなくなるためか、光が均一に近い感じ・・・・
(左)立像《シュザンヌ》 (右)立像《タイス》
〇裏から見る
(左)立像《シュザンヌ》 (右)立像《タイス》
テーブル・センターピース《三羽の孔雀》(部分)1920年 北澤美術館蔵
テーブルを飾るセンターピースに光源を仕込み飾ることと実用の両立を追求しました。
溶かした透明ガラスを強烈な圧搾空気でプレスすることで、シャープかつ微細な表現がされています。
表と裏の表情が全く違います
繊細な羽根や、型に押し付けられた様子が見てとれます。厚さ2㎝。型押しガラスが張り合わされているということでしょうか?肉眼で見た時には、貼り合わせた跡を確認できませんでしたが、写真で見ると、張り合わされているようにも見えます。ラリックの技法は複雑でわからないものもあるそうです。
〇ペンライトをあてると
内覧会では、ペンライトを使って解説が行われました。展示用のガラスケースのスポットライトとはまた違う世界広がります。
花瓶《菊に組紐文様》北澤美術館蔵
透明ガラスをプレスして成型し、裏に銀引きされています。拡大すると、銀引きの状態が確認できるような感じがします。
ライトを当てると銀引きの様子が浮かび上がります。
展示用の照明で
花瓶《ナイトアード》
スポットライトをあてると・・・・
複雑な発色がみられます。
ガラスケースから離れた位置から、拡大で内部
■通常は見れない部屋、入れない部屋も
今回、多数の作品を展示するため、展示場所も足りなくなり、普段、見ることができない部屋を開放したり、入ることができない部屋に入ることができるのも、ひとつの見どころです。
〇浴室
円形置物《ドガ》北澤美術館蔵
展示場所は浴室。従来は公開されていない場所です。
作品タイトル《ドガ》 白粉ケースの蓋が踊り子のスカート拡げたデザインに。持ち手は、上半身を立体的に造形されています。ドガは、バレエの踊り子の控室でスケッチをしていました。本来は入れないところに出入りしたドガにかけているのでしょうか?
〇書斎
・自然光で
16:30 外光はブルーに染まります (日没時間 )
電動置時計《二人の人物》(1926)
・照明の元で
陽が暮れると、照明がともり書庫全体が明るくなります(18:10頃)
2020.01.31の日没は、17:07
正面から:女性はほとんど確認ができません。
後ろから:背後のスポットライトから男性が浮かびあがります
と思ったら、背後の右側からもスポットがあたっていました。
斜めから見ると・・・・
■新館にも注目
新館展示風景
2013年、新館が竣工しました。展覧会の展示はどうしても、アール・デコの本館に注目が向かいがちになるそうです。今回は、建築家、永山祐子氏が展示のデザインを行いました。ラリックが日本に入ってきた歴史を、皇族のヒストリーと重ね、ストーリーを持った展示となっています。
何度か訪れている方でも、新たな発見がきっとあるはず。隅々まで堪能できる構成となっています。
〇来歴の確認できる写真とともに
こちらの作品は、宮様が使われていたものと同型のセンターピースです。
テーブルセンターピース《火の鳥》 朝香宮家購入品と同じデザイン 個人蔵
1933年 殿下の居間で同型のテーブルセンターピースが使われていることが確認できます。果たしてどこにあるでしょうか?
このような写真調査等によって、ラリックが日本にいつ頃、どのような形で入ってきたかが解明されていくようです。
妃殿下の居間でも、使用されていることが確認できます。
中型常夜灯《キュービック》1920
妃殿下の居間で使用されていることが確認できます
〇日本で初めてのラリック作品
ルネ・ラリック 花瓶《インコ》一対 1919年 個人蔵
今回の特別展示作品、昭和天皇が皇太子時代(1921年 大正10年)見聞を深めるためヨーロッパ各地を回り、パリでお土産として購入された花瓶。内閣の閣僚全員に、ペアで下賜されたものです。ラリック作品が初めて日本に入ってきたものだと考えられています。
通称、インコと言われている花瓶ですが、新館では、自然光で見ることがかないません。光を通して見たらどのように見えるのか気になります。きっと、美しい世界が広がっているはずです。
ペンライトの光を通して拝見することができました。
順光でライトを当てた様子。インコが浮かび上がり、黒く見えていた表面には、パチネと言われる錆色に曇らせる加工がされていることがわかります。
背後から光を当て、下方から見るとまた違う世界が広がります。
木に止まっているペアのインコ。生物学者であった昭和天皇らしいお土産と感じました。が解説の「籠の鳥だった生活から自由を経験した」と語られたお気持ちも現れているかもしれません。
【こぼれ話】
陛下御自身がこの花瓶をお選びになったかはわからないそうで、フランス側のおすすめだったことも考えられると言います。いずれにしても、現在、入手年が確認できる中で、最も早い時期にもたらされたラリック作品であることが確認されているそう。
ラリックというと、遠い昔の人というイメージがありますが、昭和天皇と接点をお持ちであることがわかると急に、ラリックが近いしい存在に感じられます。
ペンライトがなくても、天井からの光をかすかに透過しています
見る角度によってはこのように見えたり・・・・ 目のあたりが光って見えるのは意図的?
■世界と日本のかかわり
令和という時代が移り変わる時、皇室とその歴史に触れる展覧会に触れる機会も多くなりました。こちらの展覧会も、旧朝香宮邸という皇室ゆかりの建物とともに、アール・デコの一時代を築いた作家と、皇室がいかいにかかわり、日本の生活に浸透していった様子を知る機会となりました。
「出雲と大和」や「高御座と御帳台」などの展覧会を通して日本の伝統を守り続けることを担ってきた皇室の役割を感じさせられました。同時に他国の歴史も守ってきた日本の姿も浮かび上がります。
作品の鑑賞は、様々なシチュエーションの中で展示されますが、このような機会に、今後、遭遇できるかどうかはわからない貴重な体験になると思われます。
そして、この展覧会は、オリンピック・パラリンピックが開催される2020年を盛り上げる文化の祭典「Tokyo Tokyo FESTIVAL」のひとつだそうです。諸外国の文化を受け入れる窓口であり、それを維持し伝えてきた歴史を持つ場所。またあらたな文化を受け入れる窓口となって歴史を重ねていくことにも期待したいと思います。そんな歴史の一幕に触れてみてはいかがでしょうか?
■【追記】2020.02.11 ガラス工芸品鑑賞のコツ いつ見る?どこを見る?
〇自然光で見る時のおすすめの天候は?
できれば、晴天の日を選んだ方が、自然光で見るメリットを享受できます。曇りの日だと多分、太陽光を通したガラスの魅力がちょっと半減してしまうかも・・・・
(ただ、曜変天目茶碗を見た時は、薄曇りの日に思わぬ効果があったりしたことも。雲っていても、太陽が顔を出すこともあります。その違いに遭遇できたらラッキーです。)
〇おすすめの時間帯は?
建物の方向と位置、各部屋の向きを確認し、太陽の光の入り方との関係でみるとよいかもしれません。
【1階】
【2階】
間取り図は下記より引用させていただきました。
晴れ 時々 マーケティング:東京都庭園美術館 - livedoor Blog(ブログ)
・午前中のおすすめ部屋
上記の建物の配置から考えると、入口のある玄関は東側なので、午前中の朝の日差しに玄関レリーフが映えそうです。ただ10時となると、日は入りにくくなっているかもしれません。
1階は、東側に面した居室は「第一応接室」と「客室」ですが、窓が小さいため、外光の印象があまり残りませんでした。2階には「書斎」「書庫」「若宮居間」「若宮合の間」「若宮客室」に東側の窓があります。午前中は、展示された作品の東側の窓から入る光を背に見るとよさそうです。
・正午から夕方にかけておすすめ部屋
メインとなる1階の「大客室」「大食堂」 2階の「殿下居間」「妃殿下居間」は、ほぼ南向きで面積の大きな窓があります。正午頃から夕方にかけて見頃となるのではないでしょうか?
美術館が開館する10時頃は、日差しが直接的には入ってこなさそうです。直接受ける光との違いを比べて見るのも面白いかもしれません。
・夕方のゴールデンタイム
日没時間の前後、30分はマジックアワーと言われ、太陽の光線が日中より赤く、淡い状態となるため、空が黄金色に輝きます。(⇒■夕日・夕景鑑賞はあきらめない チャンスをみつける)おそらくこの時間帯の太陽光をガラスに通して見ると、幻想的な瞬間を見ることができるのではないでしょうか?
日没後も、写真の世界では、ブルーアワーと言われるシャッターチャンスの時間。日没前後に見る、ラリックのガラスも、きっと期待できるに違いありません。(ただ、屋外と室内ではちょっと条件が違うかもしれませんが・・・ 日没の時間は、地平線に沈む時間なので、回りの環境でも変化し早まると思われます)2月の中旬の日の入りは、17:30頃です。(⇒日の出入り@東京(東京都) 令和 2年(2020)02月 - 国立天文台暦計算室)このマジックアワーを狙ったガラスの鑑賞は、これまで見たことのない世界を体験できそう。
外光は、日没30分前、ブルーに染まりました。
16:30 書庫(東窓)日没約30分前のマジックアワータイム(2020.01.31 日没17:07)
16:30 書斎(南窓)日没約30分前のマジックアワータイム(2020.01.31 日没17:07)
・日没後
日が沈んでしまったあとのガラス作品自体の変化は、それほど大きくなさそうです。(⇒〇日が落ちてから)しかし、館内のアールデコ時代の照明が灯るので、その中でラリック作品を鑑賞するというのは、一興だと思われます。(⇒・照明の元で)
照明がどのタイミングで点灯するのか時間は、わかりませんが、おそらく日没前後と考えられます。閉館は18:00。日がまだ短い2月中なら、アールデコ時代の照明の元で作品を鑑賞ができるのでは?
〇スポットライトをガイドにして鑑賞
・スポットの当たっている部分に注目
展示ケースには、スポットライトが据えられています。ライトがどの位置からどの向きで、作品のどのあたりに当てられているかは鑑賞する時のポイントになります。光が、どこを照らそうとしているのか・・・・ 展示する側は、見せたい部分に光をあてているはず。そこに思わぬ景色が広がります。
・スポットが当てられた裏から
次に、スポットライトを当てた部分の反対側に回ってみましょう。(回遊できる場合)作品の裏側から、反対側のスポットライトが目に入らないポジションに体を移動させます。作品を光にかざすようにして見ると、ハッとさせられるような幻想的な世界が広がることがよくあります。
特に、正面から当てた部分を見ても、何を見せたいのかよくわからない・・・・と思った時、反対側に回って、光を背後に作品を見ると、その意図がわかるケースに、何度も遭遇しました。
スポットライトは、展示している作品の見せたい部分をクローズアップしていることが多いです。展示する側が何を見せようとしているのか、読み取るためのガイド役を果たしていることが、見ていくうちに次第にわかってきました。思わぬ表情と遭遇できます。
〇一日滞在のすすめ
おすすめの時間や、時間帯別のおすすめの居室を考えてみましたが、一番いいのは、開館から閉館までずっといることです。
一つの作品を朝、昼、夕で見ると、それぞれの表情の変化が見えると思っていましたが、外光は作品を周回してはいないことが、間取り図を見てわかりました。窓は全方向にはないので、見るためのおすすめ時間、ベストタイムというのもありそうです。
特別鑑賞会の終了19:00頃・・・・
訪れる日に制限があって、天候や日を選べない事情もあるかもしれませんが、時間を忘れ、一つの作品と光とともに遊んでみると、時間による見え方の変化だけでない何かが見えてくるかもしれません。
自然光で鑑賞する機会というのは、これまでもいろいろなケースがありましたが、ただ、漠然と見ているだけでした。今回は鑑賞のあと、建物と太陽の方向、そして各部屋の窓がどこにあって、どの方角を向いているかを、建物図面で把握しました。自然光をより効果的に取り込んで鑑賞ができる部屋と時間帯、窓の位置など頭に置いておくとよいことに気が付きました。
関連:自然光で見る 時間を追って変化をするのを見るのが好き
この時も、自然光の元でガレの作品を見ることができました。
この展覧会は日を変えて3回訪れました
曜変天目の釉はうすいガラス質のようなもの。ガラスの工芸品を見るのと共通点があります。
人の目に映る色や形というのは、それが持っている固有の色なのではなく、当たる光が反射することによって目に届いているということが、この茶碗を通してとてもよく理解できました。
多様な波長を持つ光の一部が、反射して、今、目に届いている。その自然光は、宇宙の彼方からやってきてた光であること。これだけたくさんの色を持った光を、曜変天目の表面がプリズムのような役割をして、届けてくれているということを、感じさせられました。
照明のなかった昔。自然光の中から、選択されて返ってきた光を目にしていました。そんなことを知らない時代でも、自然と一体化し抱かれている感覚があったのではないかと思います。瑠璃色の地球、海底、銀河の宇宙などがイメージされます。
目の前にあるガラスの作品は、宇宙から飛んできたたくさんの色(波長)を持つ光の中の、いずれかを反射させて、自分の目に届いています。どんな光を反射するかは、一期一会、その時の状況によって変化します。
目の前に見えているガラス作品、今、目に届いている形や色は、宇宙の摂理の中にあるものなのかも? 古代からガラスが珍重された理由も見えてくるように感じさせられました。
同時に、アールデコの1920年代は電気が家庭に普及し生活を激変させました。現代社会でごく一般になった人工的な光が登場する端境期です。ラリックは、技術革新によってもたらされた新しい光を効果的に利用し作品作りに生かしています。
自然光と当時の間接照明によってもたらされる作品から、見るということは、どういうことなのか。光の反射を目の網膜に映し出しているという、人体の仕組みにも思いを馳せさせられました。
■補足・脚注
*1:■参考:2.「アール・デコの花弁 旧朝香宮邸の室内空間」
上記のリンク先は、過去の展覧会で、照明を中心に鑑賞した時の記録。
この時は、照明だけに注目して鑑賞していたため、窓側と反対のレリーフの形状の違いなどにも、目が向いていました。《ブカレスト》のシャンデリアの上のレリーフにも気づいています。
ところが、今回、居室に魅力的な作品が展示されていると、目は作品に奪われてしまうようで、今回は気づくことができませんでした。
建物や内装を目的に訪れると展示品が邪魔をすると言われてしまうことがあると言います。知っていたはずなのに、スルーしていました。忘れてしまっているということもありますが、大食堂のレリーフを見ると、これは、何かあったということは、思い出していました。この漆喰、垂れやすいため、直角を出す技術がむずかしいのだそう。