三菱一号館で「レオナルド×ミケランジェロ展」が開催されています。展示が遅れていた「十字架を持つキリスト」がお目見え。なんで開催に間に合わなかったの? ミケランジェロの大型彫刻を日本で展示するのは大変っていうけどなぜ? 苦労話を交えたブロガー内覧会。今回の目玉、「十字架を持つキリスト」を中心に取り上げて紹介致します。
写真撮影・掲載については主催者の許可を得ております。
- ■なぜ展示品が開催日に間に合わないの?
- ■蓋をあけて見ると・・・
- ■ミケランジェロの巨大彫刻展示は日本初
- ■見逃してはいけない理由
- ■見るポイント
- ■問題・・・・考えてみよう
- ■新たなキリスト 「ミネルヴァのイエス・キリスト」
- ■トピック
- ■まとめ
- ■開催情報
- ■参考サイト
- ■関連
■なぜ展示品が開催日に間に合わないの?
すでに、6月17日(2017)から始まっている「レオナルド×ミケランジェロ展」ですが、展示予定の《美しき姫君》が中止となったり、ミケランジェロの《十字架を持つキリスト》が、開催に間に合わなかったり・・・・ そのため、最初に見た人には、作品を見るためのチケットが配られていたそうです。
「何で、そんなことがおきてしまうの?」「何で間に合わせられないの?」
と考えてしまうのは、実に日本的な発想なんだということを、学芸員さんや館長さんのお話を伺って理解しました。日本人なら「決められた期限を守り、丁寧に正確に仕事をこなす」ということを当たり前に思っています。ところが、海外で仕事をする人は、外国人は時間を守らない、伝えたことが守られていなくて苦労をするということはよく耳にすることです。
美術展に置いて同様なことがおきているようです。今回は特に、貸出が決まったとしても、一転、二転、三転ぐらいしてやっと持ってこれたという状況。中には、ダメになってしまうものもあったと言います。
到着しても、額縁裏のビスがなくて、東急ハンズに買いに走りましたと岩瀬 慧学芸員。苦労話を始めたら終わらなさそうでした。海外の事情にお詳しい、高橋明也館長に言わせると「ちゃんと到着すれば御の字」とおおらかでデンと構えていらっしゃる様子です。とにかく始まるまでは何がおきるかわからないというのが、美術展の裏事情のようで、今回は特に大変だった様子がうかがえました。
■蓋をあけて見ると・・・
作品の搬入には現地から学芸員が来て、厳しいチェックをするという話を耳にします。飛行機で上空を飛ぶと低温となるため結露が生じます。何重にも梱包された木箱に温湿度管理をされて運ばれてくるそうです。まさか、梱包が甘くて、密閉も悪く、蓋をあけたらビショビショだったとか?! と思ったら、さすがにそれはなかったみたいでしたが・・・
梱包の際、開ける時のことを考えて、前側を上にして前後がわかるようにするそうですが、外装にはその印がなかったようです。
同行してきた学芸員に、どちらが上かを聞くと「多分、こっちだ」というあいまいな答え。「大丈夫なのだろうか?」と心配しながら開けてみたら、見事に裏側だったそう。 再度梱包し、クレーンでつりあげて、なんとか設置にこぎつけたのだそうです。
イタリア人気資なのでしょうか?(笑) それもあるかもしれませんが、フランスなど他の国でも、同様のことは起きるそうです。裏を返せば、日本人がいかに緻密で丁寧な仕事をし、約束を守るお国柄かということを確認させられたエピソードでした。
■ミケランジェロの巨大彫刻展示は日本初
ミケランジェロの彫刻を日本で展示するのは初めてで、これは世界的に見ても画期的なことだと言われました。当初、その意味がよくわからなかったのですが、上記のような苦労を考えると、まず、貸出の許可をとることからして大変で、その間に何がおきるわからないというハラハラドキドキ(笑)
また、この彫刻には顔に亀裂があるため、ミケランジェロが制作を放棄したと言われています。作品に亀裂があるということは、ちょっとの衝撃でも破損の危険を伴うことになります。それをはるばる日本に持ってきたというのは、貸す方も、借りる方も、緊張があったのではないでしょうか? (それなのに・・・・笑) そして作品には、かなり接近して鑑賞ができる状態で展示されていました。これは大英断だったのではと思われます。
■見逃してはいけない理由
そんな紆余曲折のある貸し出しを始めとする企画に尽力したのは、岩瀬学芸員。苦労の結晶ともいえる交渉は2年前から、そして3年かけてこぎつけた展示です。また図録の解説はすべて日本側で用意したという力の入れよう。ぜひとも、今回の目玉である「十字架を持つキリスト」と合わせて図録も見て欲しいとのことでした。
〇ミケランジェロの大型彫刻を展示するのは世界的にもまれ
大型彫刻を移動させるということがいかに大変なことであるかがわかりました。はるばるイタリアの地からやってきた彫刻、ぜひともこの機会を逃したら、イタリアまで行かないと見ることができません。
〇自然光の中で見ることができる
展示にあたり、通常は閉めている窓をオープンにしてたそうです。自然光の中で彫刻を見るというのも、屋外展示以外ではあまりないのでは? 絵画と違って立体の彫刻は、陰影が生まれます。光の方向によって、その影も変化し、表情が変わりそうです。朝の光、昼の光、夜の光・・・ キリスト像はどんな姿を見せるでしょうか?
〇写真撮影が可能
今回、写真撮影が許可されています。部分アップもOKとのこと。
ただし、人が多く集まりすぎた場合は、撮影中止になることもあるそうです。また、最近は、撮影ができる美術館も多くなってきていますが、ここぞとばかり、パシャパシャ連続撮影をしているケースも見かけます。他の鑑賞者がいぶかしく思っている状況も生まれているのを感じます。鑑賞者の妨げとなっていると判断した場合などは、撮影を禁止することもあるとおっしゃっていました。撮影の際は、迷惑にならないように配慮したいところです。
〇360度 全方向で見ることが可能
現地はこんな状態で背面を見ることができません。
出典:宿命の対決!レオナルド×ミケランジェロ | Girls Artalk
サン・ヴィンチェンツォ修道院付属聖堂蔵
しかし三菱一号館の展示では・・・ 《十字架を持つキリスト》
正面からはもちろん 背面からも鑑賞できます。
■見るポイント
いくつか見る上でのポイントになる部分を紹介
〇顔の黒い筋
鼻筋から口、髭にかけての亀裂が!
ローマの貴族、メテッロ・ヴァーリの依頼でミケランジェロは、1514年、着手しました。ミケランジェロ39歳です。ところがこの亀裂がでてきたのを見たら、制作を放棄してしまいました。完璧主義!なんですね。注文主は、しかたなくそれをもらい受け、中庭に設置していました。しかし子孫は売却してしまったのだそうです。
その後、どのようにさまよったのかわらないのですが、17世紀始め、別の彫刻家によって完成されていて売りに出されたという記録があるようです。ミケランジェロ(1475 -1564)なので没後約50年ほどした時期です。作品が作成(1514-1516)されてから、90~100年後ぐらいたって、修復されていたことになります。
修復した彫刻家はミケランジェロ作と知って手を加えていたのでしょうか… あるいは、没後50年たっていますし、ミケランジェロは自分の作品とは言いたくなかったと思われますので、自分が制作したものとして売り出していたして? といろいろ想像してみるのも面白いです。
無名の彫刻家のようですが、うまく亀裂を顔の表情や、髭に紛れ込ませて仕上げられていると思うので、界隈では名の知れた彫刻家だったかもしれません。無名の画家なのに、なかなかの技術ではないかと思います。ほうれい線に亀裂を重ね、髭のあたりはほとんどわからなくなっています。そしてこの傷に合わせるために顔の向きを決定して、体とのバランスをとっていることになるので、相当な力量がありそうです。
〇ひざ・重心のかけ方
←この角度が好み
左足に重心を乗せ、右足をそえるバランスが絶妙。個人的には、右側の写真の角度が、きれいなバランスになっていて好みでした。周回して、しっくりと見える足のベストポジションをみつけてみては?
〇手
何をつかもうとしている手でしょうか? 中指、薬指小指がリアル。でもちょっと「人差し指」長すぎませんか? そして第一関節が短くて、第二関節の手のひらからの長さが長い気が・・・? 中指より人差し指の方が長く見えてしまうのは気のせいでしょうか? また、親指と人差し指の切れこみ(?)が深すぎるような・・・・
〇髪
レオナルドは、髪の毛を水流の渦との共通性を見て絵にしていました。ミケランジェロはどんな表現をしたのでしょうか? ミケランジェロとレオナルドは丁々発止のバトルを繰り返していたので、髪の毛の表現もミケランジェロなりのとらえ方があるのでは? と思って髪の毛を撮影してみました。
〇腰回り
ここにも大理石に模様が見えます。この模様は気にならなかったのでしょうか? そしてお尻の筋肉がどうも、違うような・・・・
■問題・・・・考えてみよう
弐代目青い日記帳主宰Tak氏より、岩瀬学芸員にこの彫刻でミケランジェロが制作したと考えられる部分はどこかという質問が投げかけられました。
Q1 ミケランジェロが制作した部分はどこ?
A1 「膝から足」 「左手」「トルソ」(胴体部分)
「膝から足」とくに重心の置き方が、ミケランジェロだと言われたのですが、その意味がよくわかりませんでした。ミケランジェロの彫刻を調べてみたら確かに、片側に重心を置き、もう片方に残す。そんな共通点がみてとれます。
二つ目は「左手」 そして「トルソ」(胴体部分)だそうです。
以上が、ミケランジェロによるものだと考えられるとのことでした。それらの部分と他の部分を、じっくり観察して違いを探してみるとおもしろそう。
〇ミケランジェロがかかわっていない部分(私見含む)
「腰回り」顔の傷を気にするなら、腰のあたりの斑点は気にならなかったのかしら? と思っていたのですが、そこは、ミケランジェロが手を下した場所ではないとわかりました。
ミケランジェロが、制作していた時には、まだ斑点が見えるほどは彫り込まれておらず、放棄したあと無名の彫刻家が、背中から腰のあたりを掘っていくうちに出てきたのだろうと考えられます。これは、背面はミケランジェロが、かかわっていないことの証明にもなると思いました。
ちなみに腰回り、臀部の筋肉。なんだかおかしいです。お尻回りの筋肉の走り方って、こんな感じ・・・・ 彫刻の方はちょっと違います。
出典:第2章 エルゴノミクスで必要な人体の知識« エルゴシーティング株式会社
▼《背を向けた男性裸体像》ミケランジェロ 素描 (1504-1505)29歳
上記はミケランジェロに、フィレンツェ共和国のピエロ・ソデリーニが発注した、ヴェッキオ宮殿の壁画。《カッシナの戦い》のために描かれた習作です。ミケランジェロ、29歳の描写力がこれです。絵を彫刻のように描くミケランジェロの本領発揮?(←この「?」は実はそう思っていないため)のような素描です。
一方《十字架を持ったキリスト》を制作したミケランジェロは、39歳。
ぶらぶら美術館によれば、ミケランジェロは「尻フェチ」だったそう。このお尻の素描を29歳で描いた人が、39歳の時に制作したイエス像のお尻がこれというのは、考えにくいと思いました。尻フェチが制作するお尻ではないと思うのでした。
「背中」高橋館長の解説をずっと、この背後の位置で聞いていました。どうもこの後姿、肉厚でバランスが悪いのでは? と思いながら伺っていました。肩甲骨らしきものが見えないですし、腕の肘上のあたりの筋肉も変だし・・・
ミケランジェロって実際に解剖もしていた人で、(18歳から)筋肉を彫刻でリアルに表現した人だと聞いています。それなのに、どうも変なところが多いなと感じてしまうのです。
上記の《背を向けた男性裸体像》の素描の背中と、この彫刻の背中。お尻と同様、ミケランジェロが制作したとは考えにくいと思いました。
実際の筋肉と比較してみました。背中には「僧帽筋」と言われる大きな筋肉があります。下記はその筋肉の図です。
(プロメテウス解剖学アトラスより)
出典:解剖学 | てあて整体スクール 東京/名古屋で開業を目指すなら - Part 2
(のちに疑問に思っていた、背骨のくぼみは、この僧帽筋によるものだと判明。脊髄は僧帽筋の下になるので、脊髄の突起は皮膚表面には出てこないようです)
「腕」私は、この腕の筋肉の走り方が、どうもおかしいと思って、自分の腕と何度も見比べていました。腕の筋肉の付き方だけでなく、肘らしき部分もありません。腕の筋肉や関節って、こんなだったっけ?と・・・ ミケランジェロって、解剖をしてリアルを求めていた人じゃなかったの?(笑)
【図1】 【図2】
【図2】 出典:上肢付筋肉トルソー,33分解,両性,ヨーロッパ仕様
彫刻の腕の筋肉と、【図2】の筋肉を比較してみても、やはり筋肉の走り方が違います。彫刻の腕は肘のあたりに横方向の筋肉の流れが認められます。しかし【図2】を見るとに横方向の筋肉なんてみあたりません。解剖をしていなくても、自分の腕を見たら、そんな筋肉はないと思うのですが・・・・
以上のことからも、「腕」は、「ミケランジェロではない」と私も思いました。
「手」左手はミケランジェロによるものとされているそうですが、部分的に指の長さがどうも気になります。特に人差し指。そして親指と人差し指とのつながり。ただ手の握りはリアルに感じました。ミケランジェロが手を制作したのだと思うのですが・・・ 後世に仕上げた彫刻家が、バランスを考えて、あるいは強調しようとしたのか指を長くしてみたとか? ところが「人差し指」なのに「中指」と間違えてしまったのでは? と思ってしまうくらい長い・・・・(笑)
とあれこれ想像して楽しんでいました。「背面」は別の彫刻家によるものと聞いて納得しました。
Q2 「十字架を持つキリスト」を仕上げたのは誰か?
A2 ベルニーニ説
仕上げをした彫刻家がベルニーニだった可能性があるという解説が、学芸員さんから紹介されていたようです。私は、聞き漏らしていました。というか、ベルニーニという彫刻家を解説を聞いた時点では、知らなかったので、耳に留まらなかったのだと思います。
ミケランジェロの彫刻の足の重心の置き方を調べていて、ダビデ像を見ていた時に、「プロセルピナの略奪」という作品をつくったベルニーニという存在を知りました。それを見た時、ちょっとした衝撃を受けていました。
出典:【画像】ミケランジェロ作「ダビデ像」のディテールが素晴らしすぎる - e-StoryPost
上記の解説では、ダビデ像に劣らないとされていますが、個人的にはベルニーニの方が上ではないかと思ったくらいでした。かつて、聞いたこともなかった「海松友松」を始めて見た時に衝撃を受けたのと同様のものを感じさせられました。この人のこと、ちょっと知りたくなってきました。
〇ミケランジェロは解剖を元に制作をしていたの?
ミケランジェロに対する本音の感想を言えば、解剖学的視点に立った彫刻を制作したと聞いていたので、楽しみにしていました。レオナルドが解剖に基づく絵を描いていたことで、絵画に興味を持つきっかけとなりました。
これまで彫刻には縁がなかったのですが、これを期に、ミケランジェロによって、彫刻への興味を喚起させられる! この展示がその契機になるというストーリーを描いて鑑賞したミケランジェロ展でした。ところがこの背中を見た瞬間、なんだこれ? って失礼ながら思ってしまったのでした(笑)
←こちらは「河神」ですが・・・
解剖学的に見たら、この肉体表現ってどうなんだろう・・・というのが正直な感想でした。せめて肩甲骨ぐらいは、表現しようよ・・・ それに背骨も、凹んじゃってるし・・・って(笑)
これまでミケランジェロは、解剖も実際に行っていて、それをもとに彫刻を制作していたと聞いていたので、解剖学者が、これらを見たらどう思うのかなぁ・・・・ と素朴な疑問が生じていました。そんな視点から語っている情報を探してみました。
なんと、解剖学者が「十字架を持つキリスト」に関する論文を書いていました。ところが、それは閲覧することができませんでした。
(⇒CiNii 論文 - 解剖学者がみたミケランジェロの彫刻
(16)十字架をもつキリスト(2)キリストの裸体は何を主張するか?)
しかし、幸い著作になっていることがわかりました。
(⇒解剖学者がみたミケランジェロ/篠原治道 : マイケルと読書と、、)
現在の解剖学から見て、ミケランジェロの表現に疑問を感じるような部分も、実際はこうだけど、ミケランジェロがこう表現したことには意味があるはずだ。という視点で、芸術家としてだけでなく「解剖行為」が現在よりはるかに困難であった時代の「先達」への敬意も感じられ、
上記にもあるように、ミケランジェロは、世間で言われているほど、解剖学的な表現をしているのだろうかというのが、彫刻を見た率直な感想でした。おかしなところは、結構ありそうな気がします。でも時代性や、芸術表現の中では、リアリティーだけの追究ではない部分もある・・・ということを、レオナルドの言葉で気づかされました。
正直、ミケランジェロの彫刻に対して「なぁ~んだ」と思っていたところに、下記のレオナルドの言葉に出会いました。芸術は、リアリティーだけじゃないんだよ・・・と。
すべての筋肉を見せようとするな。それを守らないなら・・・
一方、ベルニーニの「プロセルピナの略奪」を見た瞬間、衝撃がはしり、人体表現、そして芸術表現ともに、すばらしいと感じられました。個人的にミケランジェロよりも上ではないかと思ってしまったのでした。私はミケランジェロのことをほとんど知らなかったので、今回の展示を通して、ミケランジェロの偉大さを感じたいと思っていました。ところが、思わぬダークホースの登場となりました。
そんなことがあったので、あの「十字架を持ったキリスト」の後ろの部分が、ベルニーニの手によるものであってほしくないという気持ちがあります。あれがベルニーニだとしたら、「プロセルピナの略奪」を見たあの衝撃はなんだったのか・・・ あのような彫刻を作成する人が、あのキリストの背中、お尻、髪の毛のようなものを作るはずがないと思うのでした。
ミケランジェロと、ベルニーニの生没年と、完成させたとされる時期にベルニーニが何歳で、そのころどんな作品を制作していたかをまとめてみました。
17世紀初に「十字架を持ったキリスト」の修復が行われたとされており、ベルニーニは20代。若くして才能を認められており、主要な作品を制作していた時期とも一致します。あの《プロセルピナの略奪》が制作された1621-1622年は23歳。17世紀前半の時期とも完全に一致することなどから、ベルニーニが完成させたのでは? という説が出てくるのも納得できます。でも、私は、あの表現ができる彫刻家なら、あんな背中にはならないのではと思うのでした(笑)
【追記】(2017.07.14) 背骨は凹んでいた!?
脊髄というのは、下記のような構造になっていて、背中側に突起があります。
↓ 【お腹側】
↑ 【背中側】 【背中側】 【お腹側】
- 出典:株式会社法研「からだと病気のしくみ図鑑」
- 監修:川上 正舒 自治医科大学名誉教授 地域医療振興協会練馬光が丘病院 院長
- 野田 泰子 自治医科大学医学部解剖学部門 教授
- 矢田 俊彦 自治医科大学医学部生理学講座統合生理学部門 教授
- 出典:【図解付き】背骨が神経をガードするしかけ - gooヘルスケア
背骨を触ると中央に出っ張りがあって、その両側が溝になっているのがわかります。そのため、彫像も中央に出っ張りがあって、その両側にくぼみがあるものとばかり思っていました。ところが、背中の映像を見ると・・・・
上記のように中央が窪んでいました。これにはちょっとびっくり! 認識を新にしました。と思ったのですが、背中はとても大きな、僧帽筋という筋肉で覆われいます。(名称は修道士のフードに似ていることに由来しています)「背骨」は、下記ような僧帽筋に覆われていることがわかりました。背中の中央のくぼみは、この僧帽筋によるくぼみだったことを理解しました。
↑ ↑ wkiki peedhia 僧帽筋
画像引用元:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器 第一版 医学書院
出典:肩甲骨の周りの筋肉はこの3つだけ知っていれば十分 専門医解説
たまたまみつけたレオナルドが描いた脊椎。こんな内部まで詳細に解明していたことにびっくり! 神経の走り方まで理解してた?
【追記】(2017.07.14) 天使の羽根のような肩甲骨は女性に顕著?
肩甲骨というと、「天使の羽根」と言われたりして下記のようなイメージがありました。ところが、男性の肩甲骨で、このような後姿があまりないのです。
出典:広背筋を鍛えて背中に天使の羽を作る!肩甲骨のエクササイズ
男性の後ろ姿で肩甲骨が見えないのは鍛えられた筋肉によって、見えなくなってしまうようでした。ミケランジェロの彫刻の後ろ姿は、鍛えられた筋肉を表現されていたためだったのかもしれません。
Q3 作品がミケランジェロであるという決定的な表現は?
高橋明也館長より補足がされました。
A3 キリストが全裸で描かれていること。
アポロのような古代彫刻とキリストを合体させることができたのは
ミケランジェロ作の証。
【追記】(2017.07.14) 全裸だとなぜミケランジェロ作なのか?
ミケランジェロ以外の彫刻家は、全裸の彫像は作成していないなかったのでしょうか? ミケランジェロだけが全裸で表現していたのか? あるいは、ミケランジェロだけに許されていたのか? そうだとしたらそれはなぜなのか? 実力が認められていたから?
そして、ミケランジェロは、なぜ全裸で表現しようとしたのでしょうか。
解剖学者がみたミケランジェロ/篠原治道 : マイケルと読書と、、 より
また、とかく性的嗜好の話になりやすい、ミケランジェロの裸体表現についても、
男性と呼ぶ人間と女性と呼ぶ人間がもつ目印を描いているに過ぎない。彼にとって性器はそういった人間あるいは神の子の種類を識別するためのひとつの目印に過ぎなかった。つまりは彼が描く対象は男女を越えた、人間であった。(第16章 十字架をもつキリスト〈二〉)
など、何冊本を書いたところで、ミケランジェロには一向に近づけないような有象無象が好きそうなネタには一切なびかず、むしろ、通説となっているようなことには、敢然と異論が語られていて、随所で溜飲がさがるというか、胸がすくような思いがしました。
純粋に「人」というものの「構造」「形態」を忠実に表現する。ということにポイントを置いていたと著者はとらえています。局部を表現することは、「男」であるとか「女」であるとかではなく「生物」としての視覚的な違い、マーカーでしかなった。というのは解剖学者だからこその視点だと思いました。人体へのあくなき興味は、性差を超越し、一旦、「人」であることさえも超えて「モノ」として受け入れて、目の前の臓器を忠実に写し取っていくというプロセスを経験します。
以下は、解剖実習というカリキュラムをどう受け入れていったかという自身の軌跡なのですが、目の前に横たわる人がいつしか人でなくなっていく瞬間を経験します。
⇒■解剖実習前の戸惑い(学生時代のレポート) - コロコロのアート 見て歩記&調べ歩記
きっと、ミケランジェロもそのような目線で人を見ていたのでは? と思われます。局部も局部とは思っていなかったのではないか。顔の鼻の出っ張りを造形として表現するのと同じように形作っていたのだと思いました。
諸家が筋表現に乏しいこの木彫十字架像のキリストを評して「どうみても(ミケランジェロのような)解剖をした者の作品とは思えない像である」と書いたとしても不思議ではない。 しかし、私はこの際明確にしておきたい。解剖学者が日常的に見ている死体はサン・ピエトロ大聖堂のピエタにおけるキリストとは遠くかけ離れており、木彫十字架像のキリストにこそ似ているということを。
まがりなりにも、私も、ミケランジェロの彫刻を見てそのように感じてしまったのですが、日常見ている肉体と、芸術表現としての肉体は違う。ということを十分理解した解剖学者の言説は、とても興味深いと思いました。
■新たなキリスト 「ミネルヴァのイエス・キリスト」
ミケランジェロは、メテッロ・ヴァーリの依頼を放棄したあと、再度、十字架を持つキリスト像を作成し、ローマのサンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会の主祭壇の左に設置されています。
「あがないの主イエス・キリスト」
「ミネルヴァのイエス・キリスト」
「十字架を運ぶイエス・キリスト」
ミケランジェロ作(1521年)大理石像
出典:サンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会 - Wikipedia
「十字架を持つキリスト」の7年後、46歳の作品です。
会場にこちらの写真が展示されていますが、現在、写真撮影禁止です。上記はwiki phethida より転載しています。
この写真と展示品を比べると、全く違うのが「顔」です。人形は顔が命・・・ 転じて彫刻は顔が命・・・? 名もない彫刻家は頑張って傷をうまく同化させましたが、やはり巨匠にはかなわない?
〇「十字架を持つキリスト」と「ミネルヴァのイエス・キリスト」の違い
うろ覚えの解説ですが、「十字架を持つキリスト」の立ち姿は正体なのに対し、ミネルヴァのキリストは複雑なひねりなどが入っていて、作品のより発展形であるという解説がありました。しかし、なんだか、重心を複雑にひねりすぎてしまった感があり、私は、今回展示されている方がシンプルだけど、身体構造をよく表現しているように思えていいなと思いました。
■トピック
〇十字架にジョイントのあとがあります。分解されてきたのかと思ったら、このままの状態で運ばれてきたそうです。
〇この作品は、ここに来る前は、6月25日までロンドンのナショナルギャラリーで展示されていました。そこから移動してきたのですが、搬入搬出であれやこれやあったから、展示が遅くなったのかな?と想像がされます。(フライヤーには7月11日から展示と書かれていました)
〇また、搬入されてもすぐに開けることはできず、しばらく立てたままの状態で置いたままにするそうです。日本の空気に慣れさせるということのようです。
冷凍したコーヒーやお茶を開封するときには、常温にもどしたり、熱帯魚などもすぐに水に入れず、温度など同じなるのを待つのと一緒ですね。
〇ブルーの枠に覆われていて・・・・ と展示エリアにいた方が、状況をよくご存じだったので、開封に立ち会ったのかを伺ったら、そのようでした。もしかしたら、見学の時にいらっしゃれば、そのあたりのお話を伺えるかも?
〇「ミネルヴァのイエスキリスト」の写真撮影は、禁止ですが、撮影禁止理由は、撮影許可が下りていないからだそう。現在、確認中とのこと。許可が下りれば、こちらの撮影も可能になるかもしれないとのことでした。
ぶらぶら美術館 OA
■まとめ
ということで、ミケランジェロに見放され、名もない(?)彫刻家が手を加えてくれたようですが、その後、売却されて行方不明に。ところが2000年! ローマ郊外のバッサーノ・ロマーノのサン・ヴィンチェンツォ修道院修道院で納められていたキリスト像が、ミケランジェロによるものだった! とわかりました。ミケランジェロによるものだと判定した経緯をもう少し知りたいと思いました。
宗教改革、第二次大戦などの戦禍を乗り越えて400年の眠りが解けて現れたという数奇な運命たどったミケランジェロの「十字架を持つキリスト」 そんな彫刻が今度は日本にやってくるという奇跡を起こしました。このキリスト像は、災いを乗り越える力を与えてくれるかもしれません。また不可能かに思えるようなことも、コツコツと努力を重ねることで、実現に導くことができるという象徴的な展示とも言えます。現地ではキリストの背を拝むことはできないようです。360度、ぐるっと回って全周し、巨匠の手から引き継がれ、今の時代に至った彫刻をじっくり観察するチャンスです。
ぶらぶら美術館を見ていたら、残された作品もミケランジェロの手で破棄してしまったものも多いとのことでした。またレオナルドの馬の像は、戦禍のあおりを受けて、射撃の的になってズタズタにされてしまった話などを聞くと、500年という時を経て、今に至ったことは、軌跡的です。そして日本にやってきたことも・・・・
レオナルドが鳥を見て空を飛ぶことにあこがれ、飛行機の原型をつくったのは1505年でした。
レオナルドは予言しています。「巨大な鳥の名を持つ山から、名高き鳥が飛び立ち、世界をその大いなる名声で満たすだろう」と。
ミケランジェロの永遠のライバル、レオナルドは、鳥の羽ばたきの観察と分析から飛行機の設計に関する考察を行い、飛行機の原型を考えていました。今やそれは現実のものとなって、世界を飛び回っています。ミケランジェロは、自分が放棄した彫像が、そのまま500年という時間を経て保存され、さらにライバルが原型を考えていた乗り物、飛行機に乗って、日本という国でお披露目されてしまうなんてことは、考えもしなかったことでしょう。当時、ミケランジェロは、日本の存在を知っていたのでしょうか? 日本は室町時代、東山文化の時代でした。
そんな500年も前に作られたキリストを見て、レオナルドが解き剖いたあとの解剖学を学び、今の人体解剖図を見ながら、ミケランジェロの筋肉と比べてああでもない、こうでもない・・・と言って眺めている日本人がここにいますよ~とミケランジェロに伝えたいです。
↑ 上記をクリックして表示された写真をクリックすると
写真による360度ぐるりと周回したムービーが見れます。
■開催情報
展覧会名:レオナルド×ミケランジェロ展
開催期間:2017年6月17日(土)~ 9月24日(日)
会場名:三菱壱号館美術館
■参考サイト
〇twitter Insta
〇三菱一号館美術館 Photos & Videos on Instagram - Orepic
〇Media content of レオナルドミケランジェロ展
〇ブログ
〇【レオナルド×ミケランジェロ展 三菱一号館美術館】 : ピアニスト南野陽子の「見聞録@ヨーロッパ」
〇レオナルド × ミケランジェロ展:別冊 梅屋千年堂:So-net blog
〇レオナルド×ミケランジェロ展〜性格真逆な2人のガチ展覧会の感想と解釈〜 : アートの定理
〇鑑賞の前に~レオナルド×ミケランジェロ展 - eriie's room
〇レオナルド×ミケランジェロ展 - この世はレースのようにやわらかい
〇《十字架を持つキリスト》関連
〇「レオナルドxミケランジェロ」展の「十字架を持つキリスト」<波乱万丈の物語> - Mas Ciclismo Diary
〇「十字架を持つキリスト」の腰巻をめぐる考察?!|MC's Art Diary
〇古代と現代をさまよう“さわらびT”ブログ:「十字架を持つキリスト」像
〇裸体のキリスト:ミケランジェロ展@National Gallery,London
〇雑誌寄稿
〇Naoko Aono | Blog | Pen Online
〇ルネサンスを代表する天才の素描を見比べる!「レオナルド×ミケランジェロ展」で“宿命のライバル”対決の目撃者に。 | News&Topics | Pen Online
〇ダ・ヴィンチVSミケランジェロ ルネサンスの巨匠対決を東京で | 文春オンライン
〇ルネサンス2大巨頭の《素描》が華麗に競演!「レオナルド×ミケランジェロ」展 - サライ.jp|小学館の雑誌『サライ』公式サイト
〇美術と解剖 ミケランジェロと解剖
〇感覚をひらく|Louvre - DNP Museum Lab 布施英利 美術表現における身体性
〇バチカン・シークレット★ミケランジェロの謎を解け | ドキュメント鑑賞☆自然信仰を取り戻せ!
〇解剖学者がみたミケランジェロ 篠原 治道 感想・レビュー - 読書メーター
〇「ミケランジェロと解剖学」(日本語講座)ご案内|Art is Life 英語でアート☆アートで英語(「三木成夫シンポジウム」にて「解剖学を必要とした芸術家」の講演)
〇日曜美術館「熱烈!傑作ダンギ ミケランジェロ」 - チャンスはピンチだ。篠原氏登場
〇世界天才紀行: ソクラテスからスティーブ・ジョブズまで -
〇医X美:「レオナルド&ミケランジェロの解剖学」から「次の形」へ - ideomics
■関連