コロコロのアート 見て歩記&調べ歩記

美術鑑賞を通して感じたこと、考えたこと、調べたことを、過去と繋げて追記したりして変化を楽しむブログ 一枚の絵を深堀したり・・・ 

■ヨコトリ2020:ガイドサポーターによる「オンラインガイド」取材レポート

ヨコハマトリエンナーレでは、市民によるガイドサポーターが、来場者をつなぐ役割をはたしてきました。しかし、2020年は、新型コロナウィルスの影響により、Zoomを利用したオンラインガイドに切り替えて、活動を継続しています。ガイドサポーターの奮闘ぶりを取材させていただきました。 

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オンラインガイドが行われる会場より

8月21日(金)より、ガイドサポーターによる「オンラインガイド  ココがみどころ!」がスタートしました。

 

 

 

■オンラインガイド会場より

〇美術館8階展望フロアから

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イヴァナ・フランケ《予期せぬ共鳴》2020©Ivana Franke ヨコハマトリエンナーレ2020展示風景より

オンラインガイドの会場は、横浜美術館の「8階展望フロア」から行われます。丹下健三氏による、左右180mのファサードに、8階建ての半円柱が貫いています。その中央部に弧を描いたガラス窓があり、この窓の部分が展望フロアです。(展望室の公開は行われておりません。)

 

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オンラインガイドが行われる横浜美術館8階展望室より

展望フロアからは、横浜美術館の中央の三角屋根やトップライトを眼下に見ながら、マークイズみなとみらい、グランモール公園を望みます。美術館前の「美術の広場」は、『海』をテーマにデザインされ、ウォーターフロントに立地する公園として、美術館と商業施設をつなぎます。美術館と一体となった緑の広がりある芝生広場を展望することができます。

 

 

〇会場の様子

オンラインガイドは、お二人のガイドサポーターと、運営スタッフの3人で進められます。それぞれの間には、透明の防護版やシートで仕切られています。

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オンラインガイド 会場より 

 

〇 Zoom画面と参加者

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オンラインガイド 会場より

この日の参加者は、群馬からです。同じ職場で美術に興味のあるお仲間たち。5人以上のグループで申込が基本となっています。

 

 

■ガイドサポーターについて

〇ガイドサポーターとは?

ヨコハマトリエンナーレを盛り上げる市民サポーターで、市民ならではの来場者に近い視点から、ヨコハマトリエンナーレの魅力やアートの楽しさをお伝えしてきました。10代から70代までと年齢層は幅広く、中には何回も参加されている方もいらっしゃるそうです。

従来の活動は、対面で、鑑賞前のグループへのガイダンスや作品を解説しながら展覧会を巡ったりすることがメインでしたが、今回は、新型コロナ禍の影響を受け「オンラインガイド 」として実施することになりました。

 

〇研修について

開幕前から研修やグループワークを通して学び、研鑽を重ねています。オンラインガイドの原稿を作成し、トークリハーサルを行いながら、必要な知識や経験を身につけてきました。

 

〇ガイドサポーターへの期待

2020年は、新型コロナウイルスの影響で、多くの活動を中止にすることが余儀なくされました。その中で、ガイドサポーターの活動は、オンラインという新たな試みを通じて、市民ならではの感性を載せて伝えていくという、新たなチャレンジの年となりました。

withコロナの中で行われる展覧会。これまでも美術館では、様々なオンライン活用が試みられてきました。一般の立場のボランティアによるオンライン活用は、初めてのことと思われます。その活動には期待と注目が寄せられます。

 

 

 

■ガイドの様子

広い会場の中、ガイドサポーターの前と横にも透明シートが張られています。

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オンラインガイド 会場より

後ろの机は、個人用の荷物置き場。ここも防護シートで仕切られており、細やかな配慮の元、万全の体制でスタートしました。 

 

ヨコハマトリエンナーレについての解説

ヨコハマトリエンナーレとは? 過去にさかのぼって紹介されました。7回目を迎える今回のタイトルAFTERGLOWについて、アーティスティック・ディレクターの紹介や、今回のコンセプト、ソースの共有など、基本的な情報が伝えられます。光をつかまえるという意味は、見える光もあれば、見えない光もあります。

次に2つの作品ついて、それぞれのガイドサポーターより解説が行われました。

 

 

〇イヴァナ・フランケ《予期せぬ共鳴》

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イヴァナ・フランケ《予期せぬ共鳴》2020 ©Ivana Franke ヨコハマトリエンナーレ2020展示風景より

美術館に訪れて、このような状態を見た時、見る人によって様々な反応をされると言います。「何で隠すの?」「どこから入るの?」「工事中?」本来あるべき当たり前の姿とは違う状況に戸惑ってしまいます。これは、美術館の姿がゆらいだ状態で、それによって、感受性を高めることができると言います。

近づいてみると2つのシートが、重なっていることがわかります。これが離れたり近づいたりすることで、モアレ模様が浮かびあがるのだとか。右側から見たり、左側から見たり、内側から空を見上げたり・・・ いろいろな角度から見て感じて下さいとのことでした。

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イヴァナ・フランケ《予期せぬ共鳴》2020©Ivana Franke ヨコハマトリエンナーレ2020展示風景より

 

ファーミング・アーキテクツ《空間の連立》 

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ファーミング・アーキテクツ《空間の連立》(2020)ヨコハマトリエンナーレ2020展示風景より

プロット48の裏手側に設置された木枠。斜め45度で組まれており、プランターや水槽も設置されています。

この作品は、次世代のエコロジカルな循環型有機農法を想起させる展示です。魚の養殖と植物の栽培を一緒に行うアクアポニックスという考え方を、木組みでプランターと水槽をつなげて表現しています。実際には機能はしていないのですが、都市環境でも、自然エネルギーを循環させて、異なる動植物でも一緒に共生できるという世界をイメージしてみて下さい。

デッキ部分の棚には、ガイドサポーターなどが提供した本が置かれています。ここでゆっくり本を読みながら、木の香りに包まれ、のんびりしてみてはいかがでしょうか?

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ファーミング・アーキテクツ《空間の連立》2020 ヨコハマトリエンナーレ2020展示風景

 

 

〇参加者から

参加された方は、ガイドサポーターの活動や、研修などに興味を持たれていました。様々な質問が飛び交い「作家さんに質問などもできたのですか?」という質問も・・・ 直接的にはできませんが、学芸員が間に入り、オンラインのやり取りの中で、返事が返ってくるといった、オンラインならではのリアクションがあったとのこと。

また、参加者の方は、実際に訪れたときのことを想像して、会場の立地状況や移動時間、回り方など、具体的な配置の質問もされていました。当初は「行くのは難しいけども・・・」といった様子でしたが、次第に行きたいという思いが募ってきているようでした。

 

 

■ガイドサポーターの勉強法やモチベーション維持は?

参加者から、ガイドサポーターについての質問が、いくつも投げかけられました。それらとともに、インタビュー内容を紹介します。

 

〇どんな勉強をしたの?

当初は、美術館側から提供される資料や動画配信で学んでいました。その後、開催が決定してからは、自分の関心のある作品ごとに、グループに分かれてグループワークに移行。Zoomを利用しながら、自分で調べたことを持ち寄り、グループで情報を共有をして知識を深めていったそうです。

 

〇モチベーションの維持は?

開催されるかどうかわからない時期は、与えられるものをこなしている感じだったと言います。開催が決定してからは、グループで情報を持ち寄ることで、自分だけでなく新しい見方ができ、刺激を受けたことが、モチベーションを高め効果的だったそうです。

最初はなかなか情報がみつけられなくて、苦労したそうですが、海外文献も集まり、英語の得意な方が内容を紹介して下さり、どんどん情報が集まるようになりました。

仲間がいて、それぞれがみつけたものを持ち寄る。情報がどんどん膨らんでいき、それら一つ一つをみんなで協力しなら、理解し消化していくという状況に、今回のキーワード「友情」も感じられたと言います。

 

〇ガイド内容は、ガイドサポーターによって違うの?

オンラインガイドの原稿は、グループ単位でまとめられています。グループで集めた情報は膨大で、すべてを紹介することができません。たくさんの情報から、取捨選択する作業をするのですが、 すべての人の情報を網羅できるよう配慮して仕上げていったそうです。原稿は、みんなの力を総結集して仕上げた力作だと、胸を張って語られる様子が印象的でした。

オンラインガイドはシフト制のため、申し込んだ日のガイドサポーターが担当する作品になるとのこと。

 

〇おすすめの回り方は?

最初に横浜美術館で、《予期せぬ共感》でびっくりして、感受性を刺激して下さい。それから、横浜美術館、プロット48の作品に触れます。作品数も多く、長時間の映像作品もあります。またプロット48はより刺激的な作品もあります。おそらく最後はヘトヘトに疲れを感じてしまうでしょう。そこで、プロット48の最後の作品、木のぬくもりで囲まれた空間で、体と脳を休めてリフレッシュするという回り方をおすすめされました。

そして、横浜美術館からプロット48の移動には、好評のヨコトリの光のスペクトラムをプリントした日傘の紹介もされました。

f:id:korokoroblog:20200901021951p:plainヨコトリ2020のオリジナル日傘(販売はありません)

 

 

■オンラインガイドの申込

オンラインガイドの申込は、下記に詳細が紹介されています。こちらを参考にしていただければと思います。www.yokohamatriennale.jp

 

また 、個人でも参加ができるようになりました。

www.yokotorisup.com

 

 

■取材を終えて 

むずかしいと言われがちな現代アートです。その魅力や楽しさを、プロの立場ではなく等身大に近いガイドサポーター目線でとらえ、オンラインで発信していく。この試みは、参加者にとっても現代アートを身近に引き寄せるチャンスとなるのではないでしょうか?

行ってみたいけど、腰が重くて行動に移せない。あるいは、新型コロナが心配、遠方で行くことができないといった様々な障害(毒?)も、超えやすい仕組みです。

居ながらにして、3年に1度のトリエンナーレの空気に触れることができるのは貴重な体験になるはず。

「わからないを楽しむ」というラスクからの提案。そうは言っても・・・と二の足を踏む方たちのハードルを下げることもできるのではないでしょうか?現代アートへの新たな扉、入口として、この「オンラインガイド」が機能してくれそうです。

AFTERコロナの世界は、現代アートの種が全国に蒔かれた状態になれば・・・ 現代アートを通して、世の中の問題、未来のことに目を向けられる芽を育てる。今は、わからなくてもいいから、自分の中に種を蒔いておく。そのうち種は発芽し、独学を続けていれば、苗が成長して大きな木に育つはず。その木は、きっと未来の自分も支えてくれると思います。