コロコロのアート 見て歩記&調べ歩記

美術鑑賞を通して感じたこと、考えたこと、調べたことを、過去と繋げて追記したりして変化を楽しむブログ 一枚の絵を深堀したり・・・ 

■ヨコハマトリエンナーレ2020:インゲラ・イルマン「ジャイアント・ホグウィード」を見て

ヨコハマトリエンナーレ2020は「わからないことを楽しむ」ことを掲げています。自由に想像し連想して広げ「独学」を楽しむ。今回は特に「毒」というKWがポイントで共存を考えようというもの。「ジャイアントホグウィード」を見て、想像を膨らませて、気になったことを調べてみました。

 

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■インゲライルマン「ジャイアントホグウィード」について

開幕前に、記者会見で紹介されて知った作品。インゲライルマンの《ジャイアントホグウィード》このモチーフは何でしょう?想像しても、想像のかけらも浮かびませんでした。

 

〇記者会見の解説

オンライン記者会見(2020.06.22)で、作品に関する解説がありました。

作 家 インゲラ・イルマン
作 品 ジャイアント・ホグウィード》
 巨大な立体作品 
原 産 中央アジア
和 名 イカルハナウド セリ科  巨大化させた作品。
広がり ヨーロッパ、西欧に上陸 花がきれいなので
観賞用として世界中に広まる
毒 性 光毒性 触るとかぶれたり手が切れる
作 品 巨大化して布などの素材で製作
鑑 賞 大きな植物の間を歩きまわりながら、光と毒との共生
毒が美しいということなどを考えて欲しい。

 

 

 

〇「ジャイアントホグウィード」に関する疑問

上記の解説を聞いて考えていたこと。

【植物の形態は?】

〇きれいというけれど、作品の形からはきれいとは思えない 
〇乾燥している? 枯れかけ?  
〇咲いている状態はどんな状態? 咲いている時は美しいのか?
〇美しいと思う花の概念が、ヨーロッパとは違う?

 

【広がった原因は?】

〇広がったのはいつ頃の話なのか?
〇花の美しさによって広がったというのは、プラントハンターの影響?
〇誰が発見し持ち込んだのか

 

【皮膚症状は?】

〇かぶれって、どの程度のかぶれ?
〇手が切れるというは、どんな感じ? 
〇擦り切れがいっぱいできるの? あるいは、ナイフで切ったような鋭い裂傷?

 

植物によるかぶれ 自宅のハゼノキで、家人がひどいかぶれになったことがあります。

 URUSHIOL BLISTERING.jpg
Joelloughead - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, リンクによる

ここまでではありませんでしたが、かなりひどい状態でした。これまで、枝卸をしていてもなんでもなかったのに突然おきました。明日はわが身と思うと怖いです。

また、ハゼノキは、接触しなくても、ウルシオールが揮発性のため、近くに寄っただけで、かぶれることも。きれいなハゼの横で写真を撮った人が、翌日、かぶれたという話もあります。

ジャイアントホグウィードのかぶれは、きっと、ハゼの比ではないのだろうと想像。こちらも、さわらなくてもかぶれたりするのでしょうか?毒の成分はどんなもので、どんな作用をして、どんな症状をおこすのか、興味深々・・・・

 

〇実際に作品を見て感じたこと

・ぐるぐる何度も回りを回ったけど、やっぱり美しい花とは思えないなぁ…
・花びらが乾燥しているみたいだし、うなだれている。採取から時間経過していそう

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・あるいは、咲いている状態でもこんな形態なのだろうか?
・作品はモチーフの植物を巨大化したと解説されていたけど、もともとこの大きさのような感じがする。

・どこに毒があるのだろう・・・ 花びらではなさそう・・・ カサカサしてるから

 花びらのカサカサ感がよくわかります。


・茎のトゲトゲが怪しそう。 茎の着色も、色合いが毒々しい
・茎にツクシの袴みたいのがある

・葉っぱは、クタンとしてる。元気なさそう。
・茎にはどのようについているのか? 横向き写真からは袴のところから出ていた 

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・毒のある場所、一番、怪しいのは切り口・・・・ 茎の中央が空洞になってる

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植物の茎の中心って空洞だったっけ?組織が詰まっていた記憶があるのだけど・・・ 乾燥して空洞になってしまたのか・・・・ この植物の特徴的な形態で空洞だとしたら、切ると樹液が染み出し、皮膚にダメージを与えるのでは?毒を含む樹液がこの空間にたっぷり蓄えられているのかも。

 切り口のヨリの写真を撮影されています。中が赤い・・・・ なんだか毒々しい

 

この植物の茎、本当に空洞だったこと確認できた!

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引用:Giant Hogweed (Heracleum mantegazzianum) - Plants | Candide Gardening

 

そしてトウダイグサを思い浮かべていました。 

Toudaigusa.JPG
Σ64 - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

花の付き方が「散形花序」で同じように見えます。トウダイグサの白い汁にも毒があります。

散形花序

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引用:散形花序(さんけいかじょ)とは - コトバンク

散形花序の例にハナウドが挙げられていました。ジャイアントホグウィードの和名は、イカルハナウドです。

なんだか、美術鑑賞というより、植物観察をしてる感じ・・・

 

〇事前の予習はせず、ファーストインプレッションを大切に

鑑賞前する前に、作品がジャイアント・ホグウィード」だということがわかりました。この花が美しいと解説があったので、せめて本物は、どんな花なのかぐらいは、知っておきたいと思いました。

しかし、以前、海岸に打ち上げられたクジラの標本作りの光景を見たことが頭の隅に残っていました。生体サンプルは、必ずしも新鮮とは限りません。時間がたって乾燥した状態なのかも。それをモチーフとして、作品にしていることも考えられます。

本物がどんな花かは、調べればすぐわかるはず。今回は、あえて調べずに、作品を見ることを優先しようと思いました。

もしかしたら、作品の写真とは違って、本物の作品は美しいのかもしれないという期待もありました。実際には、見ても美しくは感じませんでした。

作品の解説もその場では読まず、写真に撮ってあとから確認することにしました。 

 

 

ジャイアントホグウィードについて

戻ってから調べてみました。参考にしたのは下記のサイトです。本物はやはり、美しいです。でも、作品とは似てもにつきません。

調べていてわかったのは、採集して標本にする時は、乾燥させるようです。作品から伝わる、乾いた感じは、生えている状態をモチーフにしたのではなく、乾燥させた標本を元に、制作されたのだと思いました。

(作品を見た方たちは、これを美しいと感じたのでしょうか? 「美しい」と解説されると、美しいと思ってしまう・・・ そんな先入観を植えられていないかと感じていました。)

 

〇参考サイト

 上記のサイトを参考にまとめました。

 

 

ジャイアント・ホグウィードの名称

Herkulesstaude fg01.jpg
Fritz Geller-Grimm - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

英名 : Giant Hogweed
学名:Heracleum mantegazzianum
和名:イカルハナウド。

セリ科多年生植物

*「独学」植物は学名がわかると、調べる内容の精度や範囲が広がります。

 

〇写真で見た印象

毒性があるというわりには、毒々しさは全くなく、楚々とした花です。日本でもよく見かけるような気が・・・・ 西洋人が美しいと感じる花は、バラのような派手な花かに思っていましたが、このような繊細な花も好まれるのだと認識を新たにしました。

あるいは、派手な花の中に、繊細さが際立ったのでしょうか?

その一方で、鋸歯状の葉は、存在感があり権威的な気もします。大型というところが、権威層には、好まれるのかもしれません。

そして生花は生き生きしていています。作品は採取して時間がたち乾燥したものを元に制作しているのでは?と思われました。

 

 

■植物の形態や繁殖

 

〇成長は?

成長すると4mにも達するのだそう。作品の解説では、小さい植物を巨大化して表現したように受け取っていました。巨大化した作品なのではなく、もともとこの大きさなのでは?と思いました。

実際に、展示作品のような大きさに成長することがわかりました。おそらく、植物が持つ迫力が、植物そのものの大きさなのだと感じさせたようです。

丈が成長するとともに、複葉の幅は1.5m。白い頭状花は、幅75cmになります。

 

〇繁殖について

大型で多花なので、花芽が多く、それが種となるため、強い繁殖力を持ちます。成長して密集し群生を形成します。群生が大きくなると、10万個以上の種子をつけ拡散します。その伝播力を想像すると・・・・

ジャイアント・ホグウィードは(多年生植物)一生に一度花を咲かせ、2万個もの種を拡散するという記載もありました。リュウゼツランも、30~50年で成長し一度だけ、花をつけ子孫を残して枯れます。枯れる前に子孫を残すとう植物の本能でしょうか?

 

〇周囲への影響

大型の葉は影となり、周囲の固有植物を駆逐してしまいます。
定着すると、周囲の養分をすべて食い尽くします。ホグウィードの「hog(がつがつ食らう)」の意味があります。(豚が食べるという意味も)

他の植物を影にして光を奪って駆逐し養分も吸収。強大な繁殖力で、世界に広がりました。また、この植物は毒性があるため、動物に食べられないという生存特性もあります。

ジャイアントホグウィードが生えている場所を、ペットの犬が通り抜け、その毛にふれただけでも毒性を発揮するほどです。

 

非常にインパクトのある外見は、鑑賞用の植物として、19世紀の終わりころに西ヨーロッパに持ち込まれ、20世紀初頭にアメリカ合衆国にも持ち込まれました。

アメリカ合衆国では、多くの州が、侵略的外来種の専門窓口を設けているそう。ジャイアント・ホグウィードだと思われる植物を見つけた時には、写真を撮って、最寄りの専門家に相談することをよびかけています。

 

〇繁殖の状況

元々は鑑賞用にイギリスに持ち込まれたのですが生育旺盛で庭から自然界に広がってしまいました。今年は暖冬と雨のおかげで例年以上に生育しているらしく、またコロナのせいで駆除も十分にできていない地域もある

引用:自粛生活、散歩のススメ。自然の力を借りよう♪ | あぶそる〜とロンドン

 

ジャイアント・ホグウィードは、大量の種を拡散し、生育が迅速です。そのため、侵略的外来植物の典型としての特徴を全て備えています。一方、鳥などを利用して広範囲に種を拡散することは不得手です。(鳥が拡散するという記載もあり・・・訳ちがい?)

新境地での生態系の繁栄を得るために、複数の戦略を試す必要があり、能力を獲得したと考えられます。

 

〇導入の歴史

原産:中央アジア  コーカサス山脈(青マーク)に自生 インパクトある外見に注目

19世紀:英国に鑑賞植物として輸出が始まる。
20世紀初頭:欧州各国やアメリカ合衆国北アメリカ大陸、カナダへと広がる

1917年頃:米国 NYに観賞用として持ち込まれる。
1930年代:ブリティッシュコロンビア州で生息している記録あり。

 

 

〇特定外来種指定

・カナダと米国で特定外来種として扱われている。
・1974年:米国 連邦政府により有害植物に認定

米国 連邦政府では、『一見紛らわしいと思う植物があれば、政府に一報願いたい。有害植物は繁殖を防ぐべきだし、政府の物が伐採に伺う方針だ。』と言っている。

カナダ王立植物園は常にジャイアント・ホグウィードに目を光らせている。見つければすぐに伐採。

イギリスでも問題視。1970年代にこの植物で遊んでいた数人の子供が酷い水ぶくれに見舞われる事故発生。

 

生息地域:中央アジアニュージーランドアメリカ、カナダ、ヨーロッパ地域(イギリス、ドイツ、フランス、ベルギーetc…)

   

〇日本には生息している?

欧州や米国が草々に輸出禁止にしたお蔭もあり、幸い日本では輸入されておらず、生息も確認されていないようです。しかし生息地域は拡大しており、気象変動による生存適正も獲得しつつあるようです。

人が海外との行き来も多くなれば、人に種が付着して持ち込まれる可能性もあるかもしれません。あるいは、ヒアリのようにコンテナ船から入ってくることもあったり?

あるいは、ガーデンビジネスとして、イベントや都市部の緑化に、日本のガーデナーや園芸家、プラントハンターが招聘され、珍しい木を『シンボルツリー』として持ち来んだりするのを、耳にしたり目にします。そこに毒を持つジャイアントホグウィードなどが、持ち込まれる可能性もあるかもしれないという指摘がありました。

人は物珍しさや、はじめて見るもの、人が持っていないもの独占したがるというのは、歴史が物語っています。導入にあたっては、知識を持った人によって行われないと、危険が隣り合わせになってしまいます。

 

 

ジャイアントホグウィードの毒性

〇どんな皮膚症状をおこす?

上記のサイトに皮膚疾患の映像があります。「閲覧注意」の注意書きがつくほどかなりひどい状態です。記者会見の解説で「触るとかぶれる」と解説されたましたが、「かぶれる」という表現とは異にする症状です。(ハゼのかぶれを経験していたので、ジャイアント・ホグウィードは、それ以上のものだと想像されました。それが、いかほどのものなのか、実際に確かめておきたいという思いがありました。)

医学では、火傷(熱傷)の程度をⅠ~Ⅲで表わします。ジャイアントホグウィードの皮膚症状は、Ⅲにも及ぶことがわかりました。それは、「かぶれる」とは全く違います。表皮・真皮の組織はなくなり壊死し、切除も必要となるケースです。真皮を超え皮下組織まで達するほどの火傷を、樹液がおこすというのは信じがたい毒性です。

熱傷深度

引用:やけどの種類・重症度を詳しく解説 正しい処置・早く治す方法とは? | メディカルノート

 

ただ、必ずここまでの状態になるわけでもないので、炎症や水膨れの状態で留まるケースもあります。しかし水膨れは見たこのないような状態になっています。非常に痛みを伴い、やがて傷跡となり、その跡は数ヶ月から、長いと6年も消えないことがあると言われています。そんな樹液が目に入ったとしたら・・・ 失明の恐れもあります。

 

引用:樹液を触ると、やけどを発症 謎の植物「ジャイアント・ホグウィード」の恐るべき被害 - ログミーBiz

皮膚は光に反応します。また黒い斑点が残ることも。これは、皮膚が光によって引き起こされたダメージを、メラニンという色素を生成して光を吸収することによって、修復しようとするためです。当初に受けたやけどが治癒した後も、いったん樹液が付いた皮膚は、数年に渡り日光に敏感になってしまいます。

 

〇毒性の成分フラノクマリンについて

・白く水っぽい樹液は、フラノクマリン類の有機化合物毒を含む。
・植物性光線皮膚炎の原因となる。

・フラノクマリン類の有機化合物には、細胞を死滅させる作用あり。
・危険性を考慮し、触れたり掘り返す際は、防護服とゴーグルを着用する事が義務。

・この毒は、動物によって食べられることを防ぐ効果もある。
・また光毒性で、人間の皮膚を紫外線に過敏にさせる。

・皮膚細胞に浸透し、細胞核のDNAにまで届く。
・紫外線に晒されると、DNA内の2種のヌクレオチド、チミンとシトシンを刺激。
・DNAの鎖内に、本来あってはならないDNA鎖間架橋を生成。

・不要な混乱が生じ、細胞はその機能を停止してしまう。

DNAのダメージは、植物性光線皮膚炎という症状。
 植物学では「phyto」
 光学的には「photo」
 皮膚の疾患としては皮膚炎とされる。

光毒性と聞いて思い浮かべたのは、柑橘系のレモンパックが光毒性を示すという話。昔、レモンパックがはやり、そのあと光にあたると、帰ってシミになるという問題がおきました。レモンは、 ソラレンという成分ですが、フラノクマリンはグレープフルーツに含まれています。

 

〇同じ系列の植物

ジャイアント・ホグウィードと同じ系列の植物も、同様に有害な有機化合物を生成します。ニンジン、セロリ、シロニンジンや、一部の柑橘類、イチジクの類もフラノクマリンを生成します。接触による、やけどの報告がありますがあ、これほど毒性の強いものはありません。

ニンジンは、同じセリ科の植物で、花もよくにています。

Wortel bloeiwijze Daucus carota.jpg
Rasbak - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

 

 

参考:

 

〇治療で使うステロイドの問題

治療には、強力な局所ステロイドを用います。効果がなければ、経口プレドニゾロンを使用。体の免疫力を奪うステロイドを使用するため、その恐ろしさを知る米国は、真っ先に輸入禁止に乗り出しました。

 

 

■毒との共存

〇この植物の研究がもたらす有用性

研究者たちは、一部の外来種の植物が侵略的外来植物と化し、環境、経済、人の健康に対して、深刻な害を与える理由を研究しています。

侵略的外来植物には、特徴があり、ジャイアント・ホグウィードは、そのすべての特徴を有しているまれな植物です。この植物を研究することによって、災厄をもたらす園芸種について、予め判別するという期待が寄せられています。

 

〇毒は薬にもなるはず

 毒は薬にもなります。ジャイアントホグウィードにも、薬になるような有益性もあるのではないかと考え調べてみました。次のような情報がみつかりました。 

 

海外サイトの翻訳版のようです。翻訳によって読めてしまいますが、このサイトの信頼性について判断ができません。提供される広告が怪しそう。海外サイトの信頼性の精査は難しい。情報も侵略する毒となりえそうです。

 

 

〇採取の重装備はコロナ対策並み

ch.nicovideo.jp

*サイトは転載サイトと自称しておりますが参考になったので・・・

全身を防護服とゴーグルを着用した3人組が、ジャイアントホグウィードの危険を周知するため、標本にするために採取している様子の画像が掲載。ジャイアント・ホグウィードに触れたり掘り返す時は、防護服とゴーグルを着用する事が義務つけられており、このような重装備で作業を行います。

 

今回の採取は、この植物の危険性を世間に周知するため、酷い火傷を負う危険を冒してこの研究室に持ち帰り、標本を作る様子を紹介しています。

完全防備で採取し、標本作りも、木、段ボール、犬のトイレシート(湿気を吸収するため)などでフレームを作成。標本を新聞紙で完全に包み、さらに念のためもう一重に包んでラチェットで締めるなど、ものものしい作業です。

ところがその後、カビがはえ、アルコール処理したところ、劣化してしまったそう。再度、別の標本を探したと言います。

研究室での観察は、次ののように紹介されていました。

茎はがっしりと太く、紫のアクセントがある。また短い毛に覆われている。90センチにもなる葉は鋭角的で複雑な形状をしており、雪の結晶にも似ている。茎の上部には小さな白い花のクラスターが傘状に咲く。

作品を周回しながら観察した特徴のポイントとほぼ一致しており、心の中でガッツポーズ。全く知らない植物でしたが、記者会見で得た少しの基礎知識から、意外にいい線行ってました。

 

 

■なぜ危険な植物を持ち込んだのか?

 

採取には防護服が義務づけられるほどの、ひどい皮膚症状を示す危険な「ジャイアントホグウィード」です。そんな危険な植物をなぜ輸入していたのかが謎です。採取時の危険性は、情報として駆け巡ると思うのですが・・・・

19世紀に導入されたと言います。この時代、プラントハンターが活躍していました。まずはイギリスが鑑賞植物として取り入れたことからも、プラントハンタ―の関与が考えられそうです。しかし、そのあたりの情報がありません。いったい、だれがどのように見つけて導入したのでしょうか? その時の皮膚症状は、どのように伝えられたのでしょうか?

 

プラントハンターの歴史

18世紀:英国帝国が世界の動植物を収集。キューガーデン設立
1700年代:バンクス
1787年:カーチス植物学誌・・・上流階級の読み物から大衆へ
19世紀:新種植物商業化 プラントハンターも職業に
1834年:ウォードの箱 
1823年:シーボルト日本に
1800年代:ツンベルク、フッカー、フォーチュン、ウィルソン

18~19世紀のプラントハンタ―の歴史の中で「ジャイアントホグウィード」の名を、これまで聞いたことがありませんでした。これだけの毒性がある植物なら、何等かの逸話が残っていて耳に届いてもおかしくないはず。(初めて採取した植物の話というのはいろいろな形で語られています。)改めて調べてみても、出てきません。ちょっと腑に落ちません。

19世紀になると、プラントハンターは、職業として確立したそうです。(wikiphdhiaより)もともと、医者、学者といったエリートがプラントハンターとして世界を旅していましたが、この時期は、ビジネス的な面も加味されたのでしょうか?商人であり知識人だった。

ジャイアントホグウィード」は、19世紀に発見。この時代なら、ある程度の情報は、駆け巡ったはずです。危険は、プラントハンターの間では、周知のことだったと思われます。それでも、危険を冒してもなお、得るものが大きかったから、依頼主の元へ採取して届けていたのでしょうか?

 

ふと、思い浮かんだのは、今回のソースの「分割」で知った、社会構造の分割でした。下水道の整っていないインドでは、排泄物の処理を手でくみ上げます。社会における階層構造は、排泄物処理という社会の毒に触れない階級と、それを行う階級に分割されており、今もそれが続いています。権力を持つものは一生、それに触れることはないし、一生、それに向き合わねばならない階級の仕組みが存在しています。⇒インド:カースト制度が強いる生業としての排泄物清掃 | Human Rights Watch

 

プラントハンタ―も、その時代、もしかしたら、エリートと言っても、階級社会の中では、従属的立場であったのかも。たとえ火傷のような状態になったとしても、その仕事を全うしなければならない上下の階級関係があったとか。秘密裏に収集が行われ、皮膚の状態はスルーされてしまったとか?

依頼主の美しく珍しい花を所有したいという欲望を満たすために、もしかしたら、情報統制されていたり? というのは考えすぎでしょうか?

マイセンなどの技術が流出しないように職人は幽閉されて制作していたといいます。物を所有したいという飽くなき人間の欲望の裏に、隠された存在になっていた? と想像をたくましくしてみました。植物を取り巻く人間のエゴという毒も見えてきました。

【追記】2020.08.02

プラントハンターについてちょっと調べていたら、奴隷制度ともかかわりがあったことがわかりました。植物を採取したり、希少な植物を育てたり・・・ 危険な植物採取は、そうした人たちに担わせていたとか? また、発見された植物を商業的に利用するのは、プラントハンターでなくてもいいわけです。また別の階級の人達が商業利用を考え、危険を冒してでも、採取しなければならない社会構造というのが存在していたのかも・・・・  

 

 

■今の問題と重なっていく

幸い日本には、入ってきていないようですが、昨今、何かと話題になっているプラントハンターのプロジェクト。珍しいものを導入したいという気持ちが、この植物を乱入させる可能性を懸念する声には、考えさせられるものがあります。

植物が世界をめぐるきっかけを担っていたプラントハンター。その裏に人種差別の問題があったとは、知らなかったことでした。

ニック・ケイヴの作品を通して奴隷制度の歴史を知ったけど、ここにも、そんなことが潜んでいたことを知りました。

 

また、人の往来が激しくなった今、外来種が、いろいろな形で紛れ込むことが考えられます。日本は大丈夫と安心していられないのかもしれません。

そして、奇しくも、中国から不明の種が送られてくるという珍事件が、同時期に起こりました。この種がこの植物ではないかという噂も出たようです。想像もできない形で、種が紛れ込むことも考えられます。

現代美術とは、アーティストがこれから社会で起こることを予知してつかまえてくるものだと言います。今回、掲げられていた「毒」というKWに、新型コロナという毒が現実として追いついてしまいました。

さらには、「ジャイアント・ホグウィード」という聞いたこともなかった外来種の広がりという問題まで、思わぬ形で現実となって追いついてきてしまった! 現代美術の予見力ってスゴイ!!と踊りそうになりました。

しかし、待てよ・・・とブレーキがかかります。その種、本当にジャイアント・ホグウィードなの? だれが、どこでそんなこと言ってるの? 元ネタはどこ?

定かでない情報はどんどん広がっていきます。そして、動物行動学者を標榜する方が、不確かな情報をツイートされ、その情報が広がっています。一方、注意を促す情報は、スルーされてしまいます。人間という動物の行動学なのでしょうか?刺激的でセンセーショナルな情報の方を好み、正しいと思われる情報は・・・・ そんな人間の行動パターンが垣間見えます。

ヨコトリ2020開催の記者会見で、逢坂氏から次のようなご挨拶がありました。新型コロナの蔓延で先行きの見えない今、情報を吟味し踊らされることなく、自らの力で学びとり、多様な他者への配慮を深め、ウィルスと共に共存していかなくてはいけないと。

毒が蔓延するとそれに伴う情報も、いろいろな形で飛び交います。情報の真偽を精査する力をつけ、自らたくまく学ぶ。現代社会では、情報も毒として働くことも感じさせられました。毒を判断するには、学びが必要ということです。 

そして、薬剤の問題も、この植物の裏には潜んでいました。人間に大きなダメージを与え、それを直すための薬剤、ステロイドの問題にまで広がります。

さらに巨大化して回りの植物を駆逐し土壌の影響も吸収。大きくなって多花で種を一杯つけ、繁殖力も強い植物です。生態系も脅かすという毒も持ち合わせています。そんな毒の広がりの裏には、人の所有欲やエゴのような毒も存在していることもみえてきました。

現代美術が、扱う今の問題。コロナ禍により、本来なら、刈り取られているはずの「ジャイアントホグウィード」が刈り取られずに成長しているといいます。たくさんの花をつけ、種はどこに飛ぶのでしょうか? そんな今、直面している問題も見えてきました。

また、風船に種を入れて飛ばすというプロジェクトは、あちこちで行われています。

 

生態系のことを考えた時、ヒマワリの種なら大丈夫なのか?どこまでならよくて、どこまでがアウトなのか・・・・  持ち込まない、持ち出さないが基本と私は考えるけど・・・・いろいろな視点から学ぶ必要を感じていました。

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この作品は、丁度、ソースを通して学ぼうと思った興味につながっていました。

 

こちらの作品ファーミング・アーキテクツ、都会の緑化にもつながります。

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森美術館の「未来と芸術展」で見た緑化された高層ビルを思いだしました。

ミドリムシで酸素を発生させる建築などにもつながります。 

 

ジャイアントホグウィードは、アントン・ ヴィドクルの映像「これが宇宙である」 に登場するらしいです。 

 

ジャイアントホグウィード」の作品解説によれば、我々が持ち込んだ外来生物に悩んでいる様子を、慈悲と知恵の象徴でもあるツェリン・シェルパ作品が見返していると書かれていました。 

 

作品どおしもつながりあいながら、社会の問題も複雑につながりあって語り掛けてきます。 

 

 

 

■作者プロフィール

〇記者会見より

活動:スウェーデン 
作品:中央アジア原産の美しい「ジャイアント・ホグウィード」を巨大化させた作品。あっという間に広がったが、光毒性があり、触るとかぶれたり切れたりする。

鑑賞ポイント:巨大植物の回りを歩きながら、光と毒の共生を考えたり、毒の美しさを体験して欲しい。

 

〇サイトより

生まれ:1985年、カルマル(スウェーデン
活 動:マルメ(同)を拠点
作 品:イルマンは、植物や生物をモチーフとして、工芸的な手法によって巨大なオブジェを制作。
それらをシアトリカルな設定で配したインスタレーションにより、今日の自然環境と人間社会との関係に問いを投げかける。

活 動:展覧会のほか、パフォーマンス、インスタレーション、文筆作品、舞台美術など多岐にわたるメディアで横断的に活動を展開
2016年、光州ビエンナーレ
2019年、ヴェネチア・ビエンナーレ参加。

 

〇解説パネル

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■作者関連サイト

Ingela Ihrman:We Thrive –クーパーギャラリーでの新しい展示 2018年2月22日木曜日 

https://www.dundee.ac.uk/news/2018/ingela-ihrman-we-thrive--new-exhibition-at-cooper-gallery.php