コロコロのアート 見て歩記&調べ歩記

美術鑑賞を通して感じたこと、考えたこと、調べたことを、過去と繋げて追記したりして変化を楽しむブログ 一枚の絵を深堀したり・・・ 

■小泉八雲旧居:八雲が愛した庭 著作「日本の庭園」との対比

八雲が松江で過ごした時に暮らした小泉八雲旧居。この家の庭は、八雲の著作『知られざる日本の面影』の中で「日本の庭園」として紹介されています。旧居内には、著作の部分をパネルにして展示しています。紹介文と庭を照らしながら庭を見てみます。

*自分の感覚でとらえているので、正しいかどうは悪しからず

 

 

小泉八雲旧居の庭ウォッチング

〇居室から臨む

玄関から、受付のあるあがり口を通り、最初の6畳間に足を踏み入れると、いきなり開放的な景色が広がります。南側と西側は縁で結ばれており、透明なガラス窓で囲まれています。6畳の空間から見えるひとつながりの庭は、左右に限りない広がりを感じさせ、パノラマを見るようです。
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 左側が南庭  右側が西庭

 

〇南の庭

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塩見縄手の通り側の南庭 

 

〇西の庭

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隣の小泉八雲記念館と隣接する境界の西庭 

 

 

小泉八雲旧居の庭 建物と庭の位置関係と方角の確認

庭と建物の位置関係を理解するにために、マップで建物と庭、方角を確認。

〇南庭:入口側、道路側に面した庭 入口を入って左手の庭
〇西庭:床の間ある部屋の前の庭 隣の壁で分けられた庭
〇北庭:八雲のデスクのある部屋、セツさんの部屋から見える庭 

 

室内から見たそれぞれの庭

〇南庭:道路側に面した庭 

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〇西庭:床の間ある部屋の前の庭 隣の壁で分けられた庭

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〇北庭:八雲のデスクのある部屋、セツさんの部屋から見える庭

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小泉八雲作品で描かれた庭

小泉八雲の作品『知られざる日本の面影』の中の「日本の庭園」の中で、この住居の庭について紹介されています。「西の庭」から「南の庭」にかけて描写されており、パネルになっていました。 

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〇北庭から西の庭へ

この文章を元に庭を追ってみます。 

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(写真左)・・・・その主な区分は、南に面して・・・・⇒南庭について紹介 

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2019.08.30撮影  夏の「南側の庭」から「西の庭」

(写真右)そして西にのびて北の区分の境に至り・・・・ ⇒西庭から北庭の紹介
旧居の庭のメインは、南側の庭で、そこから、西の庭へ、そして北の庭へと、建物を3方向に囲んでいます。

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2019.08.30撮影  夏の北庭 

 

❶その境とは妙な隔ての壁で半ば分かたれている

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2019.08.30撮影  西の庭と北の庭の境のあたりの壁
北庭と西庭の境から「妙な隔ての壁」で別れていると表現した八雲は、この壁の何を妙と感じたのでしょうか?

北庭と西庭の境界から、南庭へ同じように延びている壁です。

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この壁のどこが妙なのか・・・・ 

 

❷苔の厚く蒸した大きな岩があり 

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苔むした岩は、いくつかあります。それらのどの岩のことを言ってるのでしょうか?

 

❸水を入れて置く妙な石鉢

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庭の中で石に水をためるという造形や習慣を、妙と感じたのでしょうか? 石の水鉢のようなものは、西庭の北側にもあります。

  

➍年月の為に緑になった石灯篭

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水鉢の横にある石燈篭(西庭)

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南庭にも石灯篭が、さるすべりの足元にあります。苔がびっちり (⇒*1

 

 

❺城の屋根のとがった角にみるようなシャチホコが一つある

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南側と西側の角にシャチホコが。八雲は、シャチホコについて「鼻を地につけ、その尾を空に立てた、理想化した海豚の、大きな石の魚」と解説しています。⇒(*2

 

〇水の流れ

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 ➏「古木」がそれに植わっている「微細画式の小山」があり

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2019.08.30撮影  西庭

この古木は、西庭の前に植えられた椎の木と考えました。⇒(*3

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この古木の存在感は、威容を感じさせます。幹には洞があり・・・・

根元にも洞ができていました。

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こんもりと盛り上がった「微細画式の小山」に古木は立っています。

夕方になると、この木は、独特のフォルムを壁に映します。
(写真左)妙な影の犯人は・・・・

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(写真右)幹に寄生した植物が、陰を浮かび上がらせていたのです。

この植物は人為的に付着させているようです。造形的な部分で、何か効果を狙っているのでしょうか?(⇒*4

この庭を長年、見守り続けてきた主のような貫禄を感じさせます。

 

❼花の灌木が影をあたえている

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2019.08.30撮影  南庭

夏に訪れた時、さるすべりの花が咲いていました。この木を示しているとすると、「日本の庭園」の文章は、西庭から、急に南庭に移動したことになります。この庭で影を与える「花木」といったら、この木ぐらいのような気がします。(西庭にウメがあること確認)

 

❽川土手のような緑の長い傾斜地があり

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2019.08.30撮影  西庭

この描写は、当初、南庭だと思って探していたのですが、西庭ではないかと思いました。

写真画面、奥の方から青砂利で川の流れが手前に向かって流れてきており、その両端は川の土手のような緑の傾斜が長く続いています。
 

 ❾小島のような緑の饅頭山がある

南庭に、3つの小島があります。また急に、南庭に飛びます。夏と冬では植物の茂り方が違います。冬は刈りこんで管理しているようです。

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(左)2019.08.30撮影  夏の南庭 小島
(右)2020.02.14撮影  冬の南庭 小島

 

❿青々とした欺ういう高みは総て皆、
⓫その表面が絹の如く滑らかな、
  ⇒これは、冬の庭の刈り込んだ様子を示してる?
  ⇒あるいは、コケの生えた状態、ベルベッドのような状態を絹と表した?

⓭淡黄色な砂の地面から高まって居る。

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淡黄色の砂が、古木が植わっている小山の盛り上がりにつながっています。(⇒*5

 

〇川を渡る石

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⓮・・・・が、その砂地は、まさしく小川を横に渡る踏石のように、

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青石の小川を、古木のはえた小山から横断する踏み石のルートのことを言ってるのかな?

 

⓯次から次とやや不規則な距離に置いてある。

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⓰荒く削ったままの平たい幾列かの石を伝って、
⓱種々な方向に横切ることができる。

川に見立てた青石の途中には、荒く削りだした平たい石が、不規則に置かれています。この石を伝えば、向こう岸にたどりつけ、いろいろな方向に渡ることができます。


⓲ある静かな流れの感銘である。

 

■八雲が見た日本の庭

西洋人である小泉八雲が日本の庭をどのように見たのか。私が感じたこと下記にまとめました。(これは、旧居に設置されているパネルの解説をもとに、私が感じたことなので・・・・ のちに、訳者によっても訳が違い、庭の捉え方が変わることを知ります。)

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西庭の苔むした岩は、奥深い山の岩の間から、清水が染み出している様子を表していると思われます。その雫が集まって細い流れとなり、次第に川となって、山奥から流れ出しています。 

 

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小さな川の流れは、青石で見立てられ、次第に広がっていきます。川の途中には、向こう側に渡れるように、石がステップとして置かれています。意識は、ミニチュアの庭に潜り込み、ステップを渡りながら、あちこち散策を始めます。

庭の広さは、視覚を超えてさらに広がり、イマジネーションを膨らませて大きく広がっていきます。実際は、小さな庭なのに、その中に広がる大きな世界観。そのような庭を作り自然と対話している日本人。そんな精神性に興味を持っていたのではないでしょうか?

 

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そして川は大海に注ぎ、さらなる大海原を表現しています。そこに浮かぶ島には、季節に応じた植物が茂ります。島と島の間は、流れも感じさせます。 

 

全体の感銘は、ある眠くなるようなもの寂しい気持の好い処にある。
ある静かな流れの岸の感銘である。 

知られざる日本の面影』(原題:Glimpses of Unfamiliar Japan)  第16章「日本の庭園」 

 

日が暮れる間際、あるいは夏の昼下がり・・・・ 
一滴の清水が、雄大な流れとなって大海に注ぐ様に、感銘を受けながら、ぼんやり眺めていると・・・・ 水の揺らぎが睡魔をもたらし、一抹の寂しさを感じながらも、心地よさにつつまれる時間を八雲はすごしていたのかもしれません。

 

 

■当時のまま引き継がれてきた庭

そんな日本の庭、日本人の庭の楽しみ方を、八雲自ら暮らした松江の武家屋敷を通して、海外に向け紹介したのが、120年余前のことです。

その庭を、120年後の今、同じように追体験できることの意味。庭は変化していくもの。その中で、今につなげるための努力が関係者の間でされきたことを物語っています。

 

八雲が根岸家の武家屋敷に住むことになった経緯や、今日まで維持されてきた経緯について書かれたものについて紹介

小泉八雲旧居・・・パンフレットの記載

小泉八雲旧居 : ぶらりデジカメ・・・・12代当主夫人根岸道子氏による手記紹介

三番目の庭・・・・近現代日本文学研究者の根岸泰子氏による日本の庭ー『知られざる日本の面影』より・・・・写真とハーンのテキストとの対比

根岸道子氏によるリーフレット『ヘルン旧居覚え書き-歴史遺産と根岸家』(1997.8発刊 これは1997.5から「読売新聞(島根版)」に6回にわたって連載されたもののまとめ)

・松江観光における小泉八雲の文化的資源的変遷 リダイレクトの警告

戦時下から戦後復興期までを扱い、八雲評価の高まりと、それに連動
した松江観光における文化資源としての変遷

航海記 ♪歌いながら行くがいい♪ 松江旅情 33 小泉八雲旧居 ④「日本の庭にて」

明治25年(1892年)から42年間(昭和9年:1934年まで)に松江を訪れた3,614人の外国人が
「ハーンの『知られざる日本の面影』を読んで日本に惹かれて来た♪」(´∀`σ)σ📖

とあった警察の調査書を読んだのだ。
これを読んだ磐井氏は、松江の観光都市としての振興のためにもとハーンの住んでいた旧居の保存を思い立つのである。

根岸家 | 八雲会 | The Hearn Society:小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の研究・顕彰・・・管理の変更について

小泉八雲が愛した古民家「小泉八雲旧居(ヘルン旧居)」で、古き良き松江に触れる | 島根県 | LINEトラベルjp 旅行ガイド

 

 

 

■雑感

西洋人の八雲は、日本の庭をどのように見ていたのでしょうか? また、八雲が見た日本の庭を、今の私たちはどう受け止めればよいのでしょうか?

庭の構造物に対し八雲は「妙」という形容をいくつかしていることが気になっています。何に対して妙と感じたのでしょうか? そのあたりを探ってみようと思います。

 

 

■関連情報 

ストリートビュー

ストリートビューで旧居内を見学できます。しかし、実体験には及びません。ぜひ、訪れてみて下さい。

 

〇ちどり娘のガイド

www.youtube.com

 

〇根岸泰子氏による「日本の庭」のテキスト対比

preface to Hearn's photo page
南側の庭

現代日本文学研究者、根岸泰子氏による、小泉八雲の「日本の庭」に描かれた松江の庭を、写真とハーンのテキストを対比がされいます。

あとになってこちらのサイトを知りました。自分でとらえた実際の庭と解説パネルの部分と、根岸氏との対比とにずれがありますが、悪しからず。

 

日本の庭と尾宇部仁の眼差し-桃山学院大学学術機関リポジトリ

明治期に日本に滞在、あるいは居住した欧米人による日本庭園に関する記事を比較。日本と西欧との交流史に彼らの眼差しを位置付ける。

 

〇関連ブログ

garden-guide.jp

cassiopeia.a.la9.jp

www.onestory-media.jp

ameblo.jp

 小泉八雲の著書、角川ソフィア文庫「新編 日本の面影」と対比されます。

 

gunship07sungship.blog.fc2.com

 

ameblo.jp

 

小泉八雲関連記事 

 

 

■脚注

*1:■苔がいっぱいついているのは・・・ 
燈篭には苔がびっちり盛り上がるようについています。これは、島根の代表的な石材、来待石ではないかと思われます。(ニッポンぶらり鉄道旅「島根の百年モノ”を探して JR山陰本線」にて紹介)来待石は、凝灰質砂岩で柔らかく加工がしやすい。風化も早いため、苔がつきやすいのだとか。こんなにこんもり盛り上がった苔を見るのは初めて。

城山稲荷神社のたくさんのキツネも壊れやすい石だと言われていたような・・・ 同じ来松石でしょうか? かつては2000もあったという狐像。今は400ぐらい。風化しており苔がはえていあます。

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八雲が愛した狐像 かつては 右が傷んだ狐が好きだったそう。復元し元の門に設置

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*2:■ウィーン万博のシャチホコ
1873年オーストリア、ウィーン万博で、名古屋城金鯱が出展されています。八雲はそれを知っていたのかもと思いました。八雲が松江にきたのは1890年。1873年頃は、シンシナティ―でジャーナリストをしており、黒人との結婚が問題となっていたころ。八雲が日本に興味をいだき始めるのは、1884年ニューオリンズ万博のあたりから。1873年頃は、アメリカでジャーナリストをしていたので、ウィーン万博に出展されたシャチホコのことを知っていたことは考えられるかも。

 

 

*3:■「日本の庭」の描写は南庭? 西庭?
夏に訪れた時、この文脈からは、シャチホコの近くの木を指していると考えていました。ここからの描写は、南庭と理解してウォッチしていたのですが、どうも対応ができなくなってしまい、立ち止まってしまいました。
今回、再訪し、庭と文章を合わせてみると、南庭ではなく西の庭を表現しているのでは?と、思い始めました。それは、ガイドの方が、西の庭の山あいから、水が流れ込み、南庭は海を表しているいるという解説がヒントになりました。

西と南の庭を連続性を持って表現したと思っていたのですが、目についたものを、頭に浮かんだものを、散在的に並べていったのでは・・・・ 南庭、西庭と制限せずに考えてみました。

 

*4:ブレーメンの音楽隊
ドイツのグリム童話。動物が重なりあって陰つくり、人間驚かす話。怪談を書いた八雲の住居。夕暮れ時の木の陰で、お化けをイメージさせようとしたとか?

 

*5:■淡黄色の砂はどこなのか? 
淡黄色の砂は、ここの部分にしか見られなかったように思われたので⇒3つの島の回りの石は、日が陰ってしまったため、青~グレーの色に見えていました。実は島の回りの海は淡黄色の石のようです。そうなると、「淡黄色な砂の地面から高まって居る」のは、3つの島を描写しているとも考えられます。