コロコロのアート 見て歩記&調べ歩記

美術鑑賞を通して感じたこと、考えたこと、調べたことを、過去と繋げて追記したりして変化を楽しむブログ 一枚の絵を深堀したり・・・ 

■絵を見る技術を学ぼう! 『絵を見る技術』出版記念イベントに参加して

美術史研究家の秋田麻早子さんが、『絵を見る技術』朝日出版社)を出版されました。それに伴い、出版記念イベントとして、セミナーが開催されました。書籍付きのチケットもあり、参加させていただいたので、その様子をご紹介します。

 

 

■彗星のごとく登場『絵を見る技術』 

美術をいかに見たらいいか・・・・ それは多くの人がかかえる課題です。書店を覗くと実にたくさんの、美術関連本が並んでいます。そんな中、ちょっとこれは何? こんなの初めて・・・ 今まで見たことも聞いたこともない・・・ 斬新な内容で構成されている本が、彗星のごとく表われていました。

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〇この本の出会い

さて、この本をどうして知ったかというと・・・・  

ツイートに 「いいね」をいただき、その方が、『絵を見る技術 名画の構造を読み解』の書籍やセミナーを紹介されているのを見たことがきっかけでした。どんな書籍なのか目次をチェックしてみると・・・

 

章見出しや、サブ見出し。そこには、私の心をつかむキラーワードが散らばっていました。「集中と分散」、絵画は「物質」、「黄金比」「ルート矩形」・・・ そして、この書籍はブログを元に出版されたそうなので、ブログも拝見すると(⇒Saper Vedere ~見る技術~β版)一連の見出しにも、ツボワードが一杯。実際にどのような本なのか書店で見てみることにしました。

 

 

〇直観的に購入を即決

いつも立ち寄る、美術書コーナーには、平積みになっていました。本を手にして中をパラパラめくるなり、これは「買い!」と即決していました。こんなことは、これまでになかったことです。

書籍を購入する時は、一連のプロセスがあります。まず「はじめに」と「あとがき」を読み、目次を一覧して、目新しい部分がどれくらいあるか。そして気になる部分を読んで、あれこれ考えます。それを何度か繰り返して購入に至るというのがお決まりコース。今回は、手にした瞬間、直観的に購入を決めていました。自分でもちょっと驚きです。 

 

ところが、書籍付きのお得なセミナーが開催されることを知ってしまいました。

↓ こちらのセミナーです。

 すぐ抱えて帰りたいのを抑え、セミナー当日を待つことに・・・

 

 

■書籍付きセミナーに参加

〇本のエッセンスを抽出

会場は、

booklabtokyo.com

初めての場所でしたが、素敵な空間でした。セミナーは早々に満員となったようです。

最初に、6章から成る新刊の構成が示され、そのエッセンスが示されました。各章から抽出されたエッセンスは次のとおりです。


①絵の主役はどこ?
②目の動かし方
③バランスがいいとは?
④配色
⑤構図の意味
⑥部分と全体


この項目に沿って画像を示しながら解説が行われました。著者から直接、抽出された濃縮液をいただいたようなものです。全体を俯瞰した上で読み進めることは、羅針盤となります。

また、自分が今、見ているポジションを常に意識しながら読み進めていくことができます。0からスタートして理解するのは労力がかかりますが、全体像が見えているので、情報が染み込むスピードも格段に速いはず。

 

 

〇絵は見ただけでわかることがある

知識がなくても、センスがなくても、絵を見ただけでわかることがある

これは心強い言葉です。目の前の絵画を「自分の目で見る」そして「良し悪しを判断する」目を持てるようになるというのです。

絵の見方を理解すれば、おのずと、良し悪しや、描かれているものが浮かび上がって来る!

 

〇観察力を鍛えよう

そのためには、絵を「観察」することが重要。絵の中に隠されているヒントを引っ張り出す観察眼が必要になってきます。ただ見ていただけではダメなのですが、要は、絵の見方、隠されたヒントの見つけ方、それを知っているか、いないかの問題にすぎないということのようです。その上で見る力を鍛える。

これは、美術初心者にとって朗報です。

よい絵かどうかは、主観だと思ってきました。しかし、世間一般的に言われる「いい」「悪い」は、それを判断する決まりごとがあったのです。その存在を知り、ルールを理解していれば、だれでも絵の判断ができるようになるということです。⇒(*1

 

 

〇理由を言葉で説明しよう 

素晴らしいと感じることの裏には、理由があることがわかりました。それを言葉で表せるようにする。そのためには、知識や言葉を持つことが大事だということです。理解をするために必要な枠組みの一つ一つを丁寧に解説していただきました。

 

美術鑑賞をしていてずっと、感じてきたことがあります。

説明が漠然としていてよくわからないことがしばしばありました。たとえば、「バランスがいい」「構図がすぐれている」「デザイン的にすばらしい」「調和がとれている」しかしそんなこと言われても「どこがどうなっているから、そういうことになるのか」そこのところがわからないのです。ずっと心の中にモヤモヤをかかえていました。

 

〇なぜそう感じるのか

絵を見て感じた印象を、なぜそう感じたのかを説明しようとすると、壁にぶつかります。なぜこの絵が、良い絵、素敵だと感じるのか。そこには、人をひきつけるだけの論理が隠れているからだったのです。

それらについて解説されました。取り上げたのは西洋絵画が中心で、「知識」と「感覚」の両側面からアプローチされました。

 

絵画を見る時、自分の感覚で、いい・悪いを判断するのも一つの見方。一方、時代背景や技法などを理解して見るのも、一つの見方。それに加え、絵が持っているルールを理解し、見ただけわかる情報を拾い上げられるようにすることによって、絵画への理解は、さらなる理解の広がりが得られそうです。

「絵画の構成って、こういうふうになっているのか・・・」「この絵からこんなことを感じたのは、こんな理由があったんだ・・・」という気づきを通して、言葉にするということが、次第にできるようになることがわかってきました。

 

〇西洋と日本の橋渡し

解説は西洋絵画でしたが、その時代、日本はどんな時代だったかを、さりげなく盛り込まれていました。西洋美術がご専門の方は、日本美術をあまり御覧にならない方もいらっしゃるようですが、書籍の中でも、日本美術が含まれており、セミナーでも西洋と日本を橋渡しされています。

 

 

〇これまでの美術の見方

冒頭で、これまで美術の見方は、大きく2つの「派」にわかれていると解説されました。

⇒好きなように見る「派」
⇒歴史や生い立ちなど、知識を持って見る「派」

 

これは私が漠然と感じていた感覚的なニュアンスを、ズバリ表現された言葉だと思いました。それぞれの見方についての主張は、決して、自分たちが絶対とは言っていません。でも、どうも「派」という壁のようなものが感じられるのでした。⇒(*2

 

「好きなように感じたまま見ればいい」と言われると、自由でいいのですが、本当に全く知識がないと、どう見たらよいかわからず、ただ見ているだけで、何も感じないという暗闇の時代を過ごさなくてはならなのです。

 

 

 

〇これまで語られなかったこと

絵の研究は、「意味」と「形」の二本柱で成り立っているといいます。「意味」については、最近、その重要性が語られるようになりました。一方、「形」、つまり造形的な線や色、バランスや構図と言ったことについて、触れられるこがありませんでした。

この本では、そこの部分をクローズアップし、一つ一つ、丁寧に解説をしていくという構成になっています。

 

 

セミナーを受講して 

フォーカルポイント、構図、色、バランスなどのキーワードをいただき、これらを理解し読み解けるようになれば、これまでとは違った鑑賞の広がりができ、絵を理解する一助になるだろうという大きな期待を持つことができました。 

 

〇沸き起こる疑問

そこで、いくつかの疑問が出てきたので質問をさせていただきました。

絵画には、様々なセオリーがあることがわかりました。では画家はこれらの理論をどのようにして習得していたのか。見ることによって経験的に得ていたのでしょうか。あるいは体系づけられた知識としてどこかで学ぶ機会があったのでしょうか?

またこれだけの絵画を見るための理論があるなら、美術を学ぶ人たちは、学んでいないのでしょうか?今回、初めて聞くことばり。なぜ、これまで、このような情報が語られてこなかったのでしょうか?

 

〇意を得たりのお答え

画家は、模写などを通して構図などの理論を身に付けていきました。模写をすることで、いろいろなことが理解できます。また、工房に属すことが多く、そこでも、理論を習得しました。

そして、理論は学問体系として、アカデミーの場で古典などから学んでいました。

ただ、これらの理論は、言語化されていない暗黙知というもので理解されている部分がありました。そこには、あえて言語化しないという側面もあったといいます。

 

暗黙知」というキーワードによって、これまでのモヤモヤが一気に晴れました。どこか、あえて語らない空気というのを感じていました。言葉にしないところに、美学がある・・・というか、わかる人にだけで語る。芸術の世界が持っている、一種独特の世界観・・・・⇒(*3

絵を見て語るためには、それを語るための共通言語が必要で、言葉にならない言葉を理解する必要があったのです。

 

そして、美術教育では学ばないのか・・・・については、大人の事情があって、カリキュラムの中に入らなくなってしまったそうです。そのため、今回、本に書かれた内容は、目新しいことばかりということが、起きていたわけです。

 

 

■ 『絵を見る技術』を直観で「いい」と感じた理由

「いい」と感じることには理由があります。では、この本を「いい」と感じたのか理由を言葉で表してみることにします。

 

手にしてめくった時の、紙の質感が心地よかったです。カラー写真満載の解説。そして適度な大きさの写真。絵の解説を伴う書籍で、白黒写真では理解は難しいです。また小さい写真だと解説部分の理解ができません。

そして価格に見合ったコストバランスのよい紙質。紙質を上げれば、価格も上がってしまいます。そのギリギリの選択がされていると感じたこと。

 

そして、絵画に引かれている多数の補助線。これが購入の一番の決め手となりました。

これまで、いろいろな絵の見方について、情報を見聞きしてきましたが、このようなアプローチを見たことがありませんでした。これが一部に掲載されているのでなく、全編にわたり網羅されています。知らないことが満載の本であることを、直観として感じ取りました。

また、予め、目次を見ていて、ツボワードも多く、それは、こんな感じの内容なんだろうな?と予測していました。その想像が裏切られ、はるか上を行く内容だったこと。これはいつものように、内容を読んで確認するまでもない。と判断し、買いだと即決できました。

 

そして、知りたい欲求がムクムクと湧き上がっていました。

構図を理解するための、補助線について、もっと知りたいと思いました。それは、北斎の”神奈川沖浪裏”の解説で、沢山の補助線が引かれた構図解説を見たことがあります。その時、こんな複雑な補助線を引いて、絵を描くわけがない。解説者のこじつけ、自己満足と思っていました。

また、学芸員さんも視線の誘導について解説されていたのですが、私にはそうは見えませんでした。そんな見方は普通はしないと思っていたのです。

ところが、ここに描かれた一連の構図の図解を見た瞬間、こういう補助線の引き方の理論があったことを悟りました。あの時、ありえないと感じたことには、理論的な背景があったのでは?と、見方が変わったのです。

構図を解釈するための理論線や視線誘導の基本的な考え方を知りたい。知らないから、そんなのはこじつけ、やりすぎ・・・と思ってしまうわけです。それを理解すれば、新たな北斎の理解につながるかも。学芸員さんたちの言いたかったことが、見えてくかもしれない・・・・ と思ったからというのもあります。

 

常々、直観にも必ず理由がある・・・・と思っていました。この本がいい!と即決したのはなぜかと考えてみると、やはり、これまでのいろいろな経験から、総合的に判断していることが見えてきます。

 

 

■構造を知ること

今回得た、新たな知は「絵の構造」を知るということでした。絵の構造には、いくつかの要素があります。

つまり、この本の構成、構造をあらかじめ知った上で理解を進めることができていることになります。個々の要素は、全体の中でどのあたりに位置しているのか・・・・について意識的になれます。

 

ということで、いつものように、本にインデックスをつけました。

これで、『絵を見る技術』の構成要素は、常に視界の中に入ります。どのような要素があるのか、自然に頭の中に入ってくるはず。また、個々のページを見ている時に、全体のなかのどのあたりを見ているのか見失いがちです。それを認識しながら読み進めることができます。そして、見たいところをすぐに、引き出すという本来の役割も。

 

今回、インデックスをつけていて、この本の優れている部分をみつけました。章扉がカラー印刷されているので、章の区切りが明確になっていました。

インデックスをつけなくても、全体と部分の把握ができます。

 

さらに各章の中に、どんな項目があるのか・・・さらにサブインデックスつけると、この本の階層構造までバッチリ把握ができます。サブ見出しは裏から見て見える状態にしました。⇒(*4

   

 

■本を観察して見えてきたこと

本の見返しの部分が黒です。これは、珍しいかも・・・・

金のペンでサインをいただきました。(私だったら銀色を選ぶけどなぁ…と思いつつ)サインのイラストの構図はいくつかのパターンがあり、好みで選びます。金色、黒バックに映えてます。

 

カバーをはずすと表紙には、対数螺旋が金色で描かれていました。表紙の帯はゴールド。これらの配色バランスから金を選ばれていたのだと納得しました。

 

 

 

■最後に

セミナーを受けたあと、絵を見る時は、早速、構図の分割線を意識するようになっています。すぐに補助線が見えてくる絵もあります。効果テキメンです。そのうち、慣れてくれば、構図に着目して絵をみることができるようになれそうです。(まだまだ、時間はかかると思いますが・・・)

以前「感性は知識」だということを知って、絵の見方が飛躍的に変化しました。そして今、これまで見てきた着眼点とは全く違う、「形」から見る。構図や構成を見るという知識を得ることができました。これは第2のブレイクスルー到来の気配です。

ただ、ここで注意しておきたいと思うことがあります。この見方を身に着けると、得るものも大きいですが、失ってしまうものもあるということなんです。何もわからずに見ていた目線には戻れなくなってしまうと思うのです。一度、乗れるようなった自転車は、乗れない状態に戻ることができないのと同じです。

「構造を意識せずに見る」「構造を意識して見る」 この両方の見方を、いつまでも持ち続けていたいとと思いました。初心を忘れないこと。知らなかった時の絵の見方も忘れないように維持しておく。いつでも立ち返って、両方の間を行き来できるように保っておきたいと思います。

まずは、いつもの見方で絵を見る習慣を・・・・ それから、構成を意識して見るようにしたいと思います。一度、構図が見えてしまった絵は、アハ体験と同じで、見えない状態には戻れなくなるはず。いつもの見方で見た記憶を忘れないように意識下に留めておくことも、心がけたいと思います。 

 

「絵の構図や構造を意識しないで見る感覚」を忘れないようにすることを肝に銘じつつ・・・・・

 

 

 ■参考サイト

『絵を見る技術』に関する参考サイト 


■関連

絵の見方に関する拙ブログより

 

■補足 

*1:■ルールを知る 見るを深める

野球の「ストライク」と「ボール」の判定に例えられるかもしれません。ストライクゾーンに入れば〇 入らなかったら×。判断するには、ゾーンのルールを知っているかいないか・・・・

そして、見定めるための必要な観察力。ただ「見る」のではなく、「観たり」「視たり」見方を変えること。医療では「診る」「看る」もあります。患者さんを「見る」のではなく「観る」ことが大切だと言われます。つまり、ちゃんと観察をするという意味で、絵を見ることと、共通点が見出せます。

 

*2:■絵の見方の壁

同じ対話式鑑賞にしても、全く知識を入れてはいけない。ファシリテータの言葉も誘導を伴わないよう、細かに制限するなど、一つの流派が分化し、そこに壁のようなものを感じさせられました。

 

*3:■語らないことで伝えること

オペラやバレエの世界は、今のような高尚な世界ではありませんでした。そんな過去をオブラートに包んで隠すかのように特権化し、今では、崇高な趣味へと昇華させています。日本の歌舞伎や能も、一般の人たちが楽しんでいたものが、現代では、高尚な趣味として、奉られている感じがあります。一般の人には理解できない暗黙知が存在し、それを理解できる人の間で楽しむ特別な世界に?

 

ところが、これ足元を見れば、科学の世界も似たようなところがあります。専門的な技術を説明する時、一般の人には、説明してもわからない。基礎を知らないところに、説明はできないと考えてしまいます。理解するための基礎用語、基礎知識が必要なため、無意識のうちに排除していることがありそうです。あるいは、周囲では排除されたと感じられていることも・・・どの世界も同じだったのです。

 

一方、言葉でなく伝えるというのは、芸事では、セオリーとして受け止めています。古典芸能の音楽は、楽譜はなく口移しや見よう見真似で覚えます。落語などもそのように聞きます。工房で伝わるということについても、つい先日、刀剣の刃文を出す技術で伺ったことでした。科学を伴うような技術を、昔はどうやって理解していたのか。それは、工房という組織の中で伝承されていったといいます。私が過ごした検査の世界でも、教えてもらうのではなく、先輩の技術を見て盗めと職人のようなことを言われました。

 

【追記】2019.06.02

東博の東寺展の密教についても言葉では語らずに伝えるということが行われていました。

密教とは、大日如来が説く真理で、菩薩でも理解ができないほど奥が深い境地。経典でもあえて説明をすることがない秘密。空海はそれを立体曼荼羅で伝えようとしました。

 

*4:■書籍の構造・構成を把握 そして全体と部分

書籍にインデックスをつけることは、その構造を知る手がかりとなります。そして、自分が学んでいる部分のポジションが把握でき、常に全体と部分を意識しながら進めることができます。 

 

こちらの本は、美術史全体の歴史のバーが小口に示されています。今、どのあたりの歴史を見ているのか常に確認ができると思って購入した本です。

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日本史全体を把握するために、こんな定規も・・・ 西洋美術史と日本史の対応にも利用できます

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セミナーでも、「全体と部分」ということが語られました。個人的なツボワードで、この視点は、至るところに必要な大切なことだと思うので、共感の嵐でした。