医療系の国家試験は、2月、3月に行われます。これからが追い込みの時期のはず。試験のための勉強をすることに矛盾を感じていたのに、この頃になったら、そんなことはすっかり忘れて、国試対策の勉強に切り替えていました。ところが・・・・
試験とは関係のないことを勉強したくなります。その欲求とどう向き合ったらいいのか。そしてその選択がその後、どのような影響をもたらしたのか・・・・
ひょんなことから、もっと知りたい。調べたいと思ったのが、ヒトの「生殖」についてでした。
■国家試験を前に、いろいろな疑問が
〇受精後のホルモンの動きはどこで感知してる?
「排卵」があって「受精」して「着床」する。それによって変化する「ホルモン」の動き。「受精」しない時は、別のホルモンが働きます。
概要はわかるけど、どうして受精したことや、着床したのかを感知しているんだろう? 「卵子」が受精するしないによって、変化する「ホルモン」の動きが謎でした。どうやってコントロールしているのか・・・・
〇卵子は卵巣のどこで作られる?
「排卵」は「卵巣」からほぼ、月に1こ、排出されるのだけど、卵巣のどこで、どうやって作られているのか。その大元になっている物質はなんなのか。卵子を作るという代謝サイクルもあるのか。でも、そんな話、聞いたことなかったけど・・・・
〇卵管と卵巣の間はどうなっているのか?
卵巣から出てきて、卵管に卵子は捕捉されるのだけど、「卵巣」と「卵管」の間は、どうなっているのか? 解説図を見るとみんな空白で、そこがどうなっているのかがわからない。といった疑問が押し寄せてしまって前に進めなくなりました。
〇疑問優先か 国試が優先か・・・・
この後に及んで、こんなこと調べてみたところで、国家試験にでるような内容ではありません。調べ始めたら、かなり時間をとられちゃう。はっきり言って、時間の無駄・・・・ 今、するべき勉強は、こんなことではない!
でも、これまで、体の中のサイクルを探ってきたのに、その大元である「生まれる」ということについて、ちゃんと把握していなくていいのか。自分はどこから来たのか・・・・ どうやって生まれたのか。わかっているようで、実際のところは、全然、わかっていない。今、知っている知識は単なる断片にすぎません。これが繋がったら、人体というものが別の形でみえてくる気がしました。
よし、前の勉強法に立ち返って、「生まれる」「生殖」ということについて、いっちょ、調べてみますか・・・・ そんな感じで、生理学の「生殖」や「ホルモン」のあたりを復習しなおし、子宮の構造の見直しと、「卵巣」と「卵管」の間を調べるのに「解剖学」、そして卵子の大元を視覚的に確認するために「組織学」と、「生殖」という世界を科目を横断的につないでいきました。すると、これまで学習の範囲にはない、ない「発生学」なんてジャンルがあるらしいこともちらりと見えてきました。
今なら、インターネットでチャチャと、いろいろな情報が得られます。が当時は、手元にある辞典を引いて、手持ちの専門書をあたり、そしてもっと知りたければ図書館へ行き、参考書を探します。なければレファレンスに・・・・ でも、今、この時期、図書館まで繰り出して調べ出したら、もう、試験に間に合いません。その手前でストップすることにして、わかるところまで調べることに。
■ 妊娠のしくみ
簡単にその概略を紹介すると、よく見る子宮の構造がこれです。
「卵巣」でできた「卵子」が、「卵管」を通り、その間に「受精」して「子宮内膜」に「着床」するという図です。
〇卵巣の卵子はどうやって作られる?
ところが、卵巣で卵子ができるというのは、どのような仕組みでできているのかがわかりません。すると、こんな図が見つかります。
これは、「卵巣」の中で、「卵子ができるプロセス」らしきものが「卵巣」内に描かれています。子宮にぶらさがったグレーの袋の中に円形の赤いものが次第に大きくなっていく様子が描かれています。(ちなみに、生物においてこのような一枚の絵に時系列に同時に成長の様子を記載する表現方法は、鳥獣戯画の異時同図⇒【*1】と共通していると考察されている科学者がいました)
「卵子」の大元となっているのは「卵胞」です。あの「卵胞ホルモン」の卵胞なのでしょうか? 卵胞ホルモンって、ここから出てたってことなのかなぁ・・・・? 図によれば「卵胞」が大きくなりながらその中に「卵子」ができる「成長過程」を表しているというのが読み取れます。
「卵子」はいきなり、ポトンと、出てくるわけではないのでした。
〇卵子は何からできてるの?
卵子の大元は、何からできているのか? それは「卵胞」。卵胞はどうやってできるのか。卵胞(原子卵胞)は生まれた時から形成されていて、人それぞれに、数が決まっているというのです。(だから初潮が早い人は閉経も早い。妊娠期間は排卵されないから、その分だけ、閉経も先に延びるなんて話を見たような・・・ あるいは、ネット時代に見たのかもしれません。)
自然発生的に、卵胞から卵子はつぎつぎにできるのかと思っていたら、そうじゃないのです。女の子は、生まれた落ちたその瞬間に、一生にいくつの卵子を排出できるかが決められてこの世に送り出されていたのでした。大体、400~500だそうです。
〇卵胞を組織図で確認
卵子の大元は「卵胞」 じゃあ、「卵胞」を「組織図」で見てみたくなりました。
(出典:http://www.agri.tohoku.ac.jp/keitai/scope.html)
実際に私が見た、組織図は、上記のようなものではありませんでしたが、「卵胞」の中に「卵子」が出来上がっている様子が確認できます。この卵胞がはじけて、卵子が排出されるのだということがわかりました。排出が終わった「卵胞」は、「黄体」に変化しているということが、上記の組織図からわかります。あの「黄体ホルモン」というのは、ここから放出されているホルモンのこと? と思いながら。
〇卵子は卵管へどうやってたどりつく?
放出された卵子は、卵管へと入っていきます。ここで、ずっと疑問だったことがありました。もう一度、この図を見て下さい。
「卵巣」と「卵管」は、つながっていません。離れています。この間はどうなっているのでしょうか? この間は、どんな組織で埋まっているのか。卵子はどうやって卵管にたどりつくのでしょうか・・・・ 何かを運ぶ時には、「管」が必要です。なのに「卵巣」と「卵管」の間には何もありません。
〇卵管と卵巣の間の組織がみつからない
その間はどうなっているのか? 結合組織で埋められているのかな? と思っていたのですが、だとしたら「卵子」は、結合組織の中をどうやって移動するのでしょう。解剖学の参考書をいろいろ見るのですが、「卵管」と「卵巣」をつなぐ組織が何であるのかという記載がどこにもないのです。なぞです・・・・
〇卵子は腹腔内に放出の衝撃
何でわかったのかは、忘れてしまいましたが、この卵管と卵巣の間は空洞であることをやっと突き止めました。その場所はお腹の中だったのです。つまり、「卵巣」から放出された「卵子」は、一度、「腹腔内」を漂っていたことになります。これにはもうびっくり!
卵子は、一度、腹腔内に飛び出しちゃってたわけ? 迷ったりしないの? 間違えて、お腹の中をぐるぐる巡ったりすることだってあるでしょ。まるで子どものような疑問(笑)
これまで人体の仕組みを見てきて、何かを運ぶ時は、必ずと言っていいくらい「管」の中を移動していました。ところが「卵子」は、「管」に守られることなく、広い腹腔内に飛び出してしまうんです。それなのに卵管(采)をみつけてそこにたどり着いちゃうわけです。
〇なぜ、卵子は迷わず、卵管に向かうのか
なんでそんな離れ業ができてしまうのでしょうか? 卵管あたりから、何か誘導物質が出ていて、卵子を引き寄せいるのかなぁ・・・ 当時、その理由まではわからず、あきらめていました。しかしながら、しょっぱなから人体の神秘にあてられていました。
今も同じ質問をしている方がいました。
卵巣から卵管采まで、卵子はどこを通る? - その他(健康) 回答数1 | 【OKWAVE】
最近の卵巣と卵管の図は、イソギンチャクのような卵管采が、
排卵の時期になると、卵巣に近づくらしく、
卵子をキャッチしているらしいです。
正確な情報は、しかるべきサイトで確認のほどを・・・
■ホルモンの動きの謎
卵子の大元は? 組織図だとどれ? 卵子と卵管の間は? そんな疑問を解決する一方、受精「する。しない」 着床「した、しない」で、その後に排出されるホルモンが変化するというのも不思議で、どういう仕組みなのかを調べました。
何で、受精したことがわかるのか。着床したことがわかるのか。
それをどこでどうやってキャッチしているのか・・・・
これについては、とても複雑で、ホルモンの基礎知識なども必要なので省きますが、下記がわかりやすいのではないかと参考情報としてご紹介いたします。
すごーく、簡単に言ってしまうと、卵巣から血中に放出される黄体ホルモン(プロゲストン) 卵胞ホルモン(エストロゲン)の濃度を脳の視床下部が感知して、どんなホルモンを放出したらよいかの指令を出しているという感じ。その指令も脳で2段階で調整されていて複雑。
また、その指令は、体の状態によっていろいろなパターンがあって、妊娠(着床)の準備をしたり、着床を維持させたり、着床しなかった場合は,準備したものを、リセットしたり・・・ その機構の複雑さ、バランスの妙、連携にただただ驚くばかりでした。
■生命の営みに対する感動を伝えたい
その時にこの仕組みを通して感じたことを手紙にして伝えずにはいられない衝動にも駆られていました。このすばらしさをわかる人と共有したいと思う気持ち・・・・
ホルモンの動きをわかりやすく説明できないことが、もどかしいのですが、本当に、すごいんです。人間の体ってこんなにも精巧にできていたんだ。自分が、毎月、毎月、生理としてして受け入れていたことの裏には、こんな壮大なシステムが動いていた・・・・ そう思うと、人知を超えたものすら感じてしまうのでした。
今、一個の個体としての人間のすばらしさを感じています。どうしてここまで完成された生命を営んでいるのでしょう。不思議になります。誰が作りあげたのでしょうか? 生きているということのすばらしさ。一個の人間が生きている。寝て、起きて、物を読んで、書いて、考えて、食べて話して・・・そんな日常、当たり前の行動。その裏には、ごくごく小さな、当然、目にとまるはずのないさまざまな細胞がお互いに関わり合って平衡を保って私たちをささえています。生きていくには実に様々な人の力が必要です。しかしその一人一人を支えているのは、自分自身なのです。
あらゆる刺激に反応し対応する。非常に複雑な機構を持って・・・ あらゆる刺激には物理的刺激はもちろん、精神的刺激も含まれるでしょう。こうした生命を営む仕組みの複雑さ。それゆえのおもしろさ。それを感じないではいられませんでした。そして、この仕組みは人間に限られたものでなく、この世に生を受けたもの全てが持つ営みなのでした。
生きている物すべてが同じなのです。人間を始めとしてすべてのものが、生きようと努力をしているのです。完璧と言わないまでも、かなり高度に完成された生命。生きるということを大切にしたいと思います。
イルカの「いつか冷たい雨が」のフレーズが浮かびました。
自分本意でかわいがったり
オリに閉じこめて
バカにしたり、きたながったり
人間だけがえらいだなんて
ことだけは思わないでください。
人間以外のもの達にも
もっとやさしくしてください。
同じ時を生きているのだから
朝が来れば夜も来るし 生まれてそして死んで行く
私が土になったら
お花達よ そこから咲いてください。
■今、ふりかえって・・・・
私のアイデンティティーは、ここで形成されたとのだと思いました。「生命」について学び、「生きる」ということを折々で考えつづけた学生時代だったと思います。しかし、最後の最後、国家試験を目の前にしながらも、「生命の誕生」「生まれる」ということについて、ちゃんと理解できていない。自分なりにとらえ直したいという、何か突き動かされるようなものがあって、調べ出していました。命が生まれる時の複雑なホルモンの動き。イメージで理解しているだけ。そこを、ちゃんと理解しておきたいと思わされたのです。
命をつないでいくための「生殖」 それは、生命の根源的なこと。そこを抑えずにこのまま終えてはいけない。そんな気持ちにさせられていたように思います。
この時、試験勉強の方が優先。という判断をしなくてよかったと思います。卒業したら、専門分野に進むので、ジャンルを超えた総合的な知識は、この時がピークだったと思うのです。だからこそ「生まれる」「生きる」「生殖」ということを総合的に理解できたのではないかと思うのです。
■「いかに生きるか」はすべてにおいて大命題
時を経て、医療からは遠のき、20年以上の月日が・・・・ 自分の興味の赴くまま、趣味に走ってきました。いろんな興味を追いかけていくと、必ず、この国家試験前にどうしても、自分で調べたい、学びたいという欲求にかられた「生きる」「命をつなぐ」「生殖」というところにたどりついていくのです。
美術を見ていても、心惹かれる作品は、自然をとりあげ、命を取り上げ、そこからいかに生きるかを問いかけてくるような・・・ いかに生きるかの答えを示してくれているような・・・・ そんな気がするのでした。
昨年に見た、国吉展。そこで心のフィードバックの状況を、この時のホルモンの動きがイメージされていました。そして恒常性の維持ということが引き出されました。体の恒常性の維持もあるけども、精神の恒常性の維持ということをイメージしたのでした。⇒【*2】
絵を見た時の解釈は、自分の見てきたもの、学んだこと。経験してきたことによって形成される。そして、主たる根幹をなすのは、高校を卒業したあたりで学んだことが、通奏低音のように流れていて、それをベースにして思考は構築されるのではないかといいうのが、私の今の思考についての考察でした(笑)
そして、どんなジャンルにいても、「生きるということ」 そこにたどつきます。自分がいいな、興味を持つアーティストは、みんなそう・・・・ イルカも、ユーミンも、中島みゆきも・・・・ みんな生きる、自然というテーマに帰結していくという世の中の理・・・・ ⇒【*3】
そんなわけで、カテゴリー分けの時も、「生命」「連鎖」「輪廻」をサブカテゴリーとして分けています。鑑賞を通してみつけたそれぞれのアーティストの「生きる」ということへ模索や答え。その表現法を見ていこうと思っています。
■関連
■思考:生きているということ ←ここ
■脚注
*1:■
Research ─ 研究を通して ─:異時同図−動きをみる - JT生命誌研究館
より
↑ 2015.5.31 国宝 鳥獣画展 国立博物館 3時間の行列だとか・・・
絵巻物から、この時、スルーしていていた「異時同図」が気になりました。
1枚の絵の中に、異なる時間の瞬間を同時に描くことを
「異時同図法」というらしいです。
鳥獣画にもこの手法があるとか
異時同図-動きをみる より
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分析に傾斜してきた生きもの研究に改めて「観る」ことを呼び戻し、
本質の理解につなげようと考え、古今東西の芸術表現の知恵の中にそのヒントを探る。
(観るということの共通性)
絶えず変化する生きものの動きを、ミクロからマクロまで様々なレベルで追う生物学には、動きを解説する図版が不可欠で、異時をとらえる表現は大変興味深い。誤解が生じたり、煩雑になったりするのを避けて、コマ割り式で示す図版が主流だが、時折、“異時同図図版”に出会うこともある。物理の教科書でも、自由落下運動や放物運動のストロボ写真を見る事ができるし、太陽や月の軌跡、弧を描く星の動きも1枚の写真で理解した記憶がある。時間を入れた現象の理解は科学の基本である。
素早くて目では見えない動物の動きや、逆にゆっくりした植物の生長など、さまざまな時間を上手に表現する方法の工夫は今後も続くだろう。)
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*2:■ 国吉康雄展:②-1 最晩年作品 《ミスタ―エース》と自己対話型鑑賞
↑ 「命のために走る」という言葉。フィードバックしながら走る・・・ということが浮かび、「ホメオスタシス 恒常性の維持」という言葉が頭に浮かんでいました。
最初に見た時にも、なぜかその言葉が浮かんでいたのですが、関連づけられずに、すみに置いていました。それが、今、私の中ではつながった感じ・・・・
生きるということは、恒常性を維持すること。何かの刺激に対して、それを緩衝するように体は反応する。それは、心に対する刺激も同じで、平穏に戻そうとする機能がある。
そうやって、維持させながら、人は、人生を走り抜けていく。
う~ん、なんか違う気もするけど、頭に浮かんだことでした。
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HAPPYな日本美術:聖なる山 富士山 →古径の富士山は優しい。女性的。全てをつ包み込むような・・・・ 富士山の洞窟は胎内と言われ子宮を感じさせられるとも。ユーミンの「やさしさにつつまれたなら」の歌詞がうかびました。そのサビの部分が・・
♫ 目にうつる 全てのことはメッセージ ♫ 古径の絵からのメッセージを感じたのでした。
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