建仁寺に所蔵されている《風神雷神図屏風》のレプリカのもう一つは、高精細複製品です。陶板の「風神雷神」にちょっとがっかりしたあと、思いがけず高精細複製品と出会うことができました。念願の自然光、そして座位でみる風神、雷神の目はどこを見ていたのでしょうか?
【2016.11.07記す】
鈴木其一 《風神雷神図屏風》鑑賞に向けて 3つの《風神雷神図屏風》
を元にリライト
■大書院へのいざない
「小書院」から「大書院」への渡り廊下へ移ります。
↓ 「大書院」
廊下の右手の「潮音庭」見ながら長い廊下をまっすぐ進むと・・・
廊下の彼方先に見える文字を見た瞬間、この文字が「風神、雷神」の構図であることがわかりました。どの文字がどう配列しているかまでは、すぐに理解できませんでしたが、建仁寺に若い女性の書道家が、書を提供してというのを、どこかで見たことを思い出しました。その文字は、書体がまるで「風神」「雷神」となって屏風の中を舞っているような構図で書かれていました。その片鱗が、この距離感からも確実にとらえることができました。
これを見たことで、すっかり忘れていた、もう一つの《風神雷神図屏風》の存在を思い出させました。きっと、この書の屏風の先、この奥に《風神雷神図屏風》があるはず。
それは近づくにつれて確信に変わっていくのでした。
金澤翔子さん ダウン症の書家ということでも注目を浴びている方です。
■念願の《風神雷神図屏風》のお出まし!
「風神雷神」の書の横に《風神雷神図屏風》が鎮座していたのでした。
建仁寺のレプリカが3種類あるということは、調べる中で分かっていました。展示されるのは、そのうちの2つで、どれが展示されているかは、その時の運に任せようと思っていました。場合によっては一つしか見れないこともある。というので、それはそれでいい・・・と思うことにしました。そのため、最後は見ることを諦めていました。
今回は、もう一つの風神雷神はなかったと諦め、それも忘れさせようとしていたところに、突如、現れたのでした。
無理だとあきらめていただけに、風神雷神図屏風を目の前にしたときは、それはもう・・・・ やっと出会うことができたという思いがあまって、目の前がかすんでしまったくらいでした。
もう一つの風神雷神が、最後の最後でサプライズのようにいきなり登場! 大感激でした。その前に座わってしばらくじっと向かい合っていました。
ここで展示されていたのは、キャノンの高精細画像の複製品です。
〇「風神」「雷神」としばし対話
「ここに来るまで、最初に陶板の「風神」「雷神」を見て、ちょっとがっかりしちゃってね・・・」「でも、海北友松の墨画を見たら、そんなことどうでもよくなっちゃった」「自分が知らない絵師でも、いいものはいいって思えるようになったって思うと、少しは成長してきたのかな?」って思えたの。
しかも、その襖絵、風神、雷神と同じ、高精細画なんだもの。本物じゃないって聞いてびっくりしちゃったわ。本物っていったい何なのかしらね。法堂の龍を描いた小泉さん。本物を見る前にネットの画像で見て、すごいなぁ・・・って思ったのだけど、実際に見たら、海北友松がすごすぎたら、う~んって思っちゃったのよね。失礼なヤツでしょ(笑)
でもホント、ここ建仁寺でいろんな発見させてもらえたわ。とっても充実した京都旅行になって、最後の最後に「風神」「雷神」とも出会えてたから最高~!
すると、「風神」と「雷神」が語り掛けてきました。
〇風神雷神が語りながら目くばせをした?!
風神が語ります。
「今回、いろんな面白いものを、みつけてきたようだね。でも、まだまだ、世の中にはいっぱい、面白いものがあるんだぞ。それくらいで満足してたらだめだな・・・・ ほ~ら、あっちの方見てごらん。その先にだていろいろあるよ・・・・」
とニコニコしながら、私がみつけたことよりも、もっともっといろんなことを知っているような表情で、楽しそうに語ったのです。その目線は、屏風の枠からはずれていて、ずっと遠く向こうのほうを見ながら、何かをさし示してくれているように見えたのでした。
そして、雷神を見たら、風神に負けじとばかりに、「こっちにだって、もっと面白いものはあるぞ・・・・ほ~ら・・・・ 」どうだ! とばかりに力強く拳を突き出してきたのでした。
やはりその目線も、屏風の画面からははみ出していて、斜め下のずっと先を見つめて、何かを教えてくれているようでした。
〇視線は見る人が決める 見る人が感じるもの
風神雷神の目が、どこを見ていのか・・・・ 座る場所や高さによって見え方が変わる。それを確かめる・・・・ とういう当初の目的は、どうでもよくなって、そんなこと、ナンセンスだと思わされました。
人によってもいろいろな見解を示されますが、しかし、そんなことは、見る人が好きに感じればいいことなんだと思いました。
今回に限って言えば、この風神雷神は、屏風の中のどこを見てるかなんて、そんなちっぽけな視点で描いた絵ではない。もっともっと、外を見ていて、大きくとらえた世界観を描いている。私にはそう思えたのでした。
私がどこに立って、どんな位置から見ようが、その視線は、はるかかなたの画面の外を見ている。さらに私の風神雷神は、目線だけでなく声までかけてきました。「屏風の中のどこを見てるか」なんてそんなちっぽけな視点で物を見るのではなく、広い視点で見るようにと言ってきたのです。
〇視線は鑑賞者の心を表す
絵は見る人の心を映すとよく言われますが、まさにこの旅行では、それを感じさせられました。いろんな発見がいっぱいあって、とっても充実していると感じていました。そんな旅行で感じた満足感を、風神雷神は、ちゃんとくみ取ってくれて、狭いところに留まっていたらダメだよ。もっともっと、外の世界を見なさい。と語りかけてきたのでした。
行くまでは、見る場所を変えて見たら、視線がどう変わるのかさぐってくるぞ~! と意気揚々とでかけました。ところが、見る側の気持ちで、見え方が変わる・・・ ということに気づいてからは、そんなことは些末なことだと感じるように変化していました。風神、雷神がどこを見ているか・・・・ それは見る側の気持ち次第。
その日の私の風神、雷神は、狭い視野でなく、もっともっと広い世界を見つめていたのでした。
■《風神雷神図屏風》の複製品について
〇高精細複製品について
〇京都文化協会とキヤノン、高精細で複製した国宝作品を建仁寺へ寄贈 :日本経済新聞
◆ 国宝《風神雷神図屏風》の高精細複製品
繊細なデジタル画像を大判プリンターにて出力した後、伝統工芸士の方が金箔を貼ったもので、忠実に再現されています。
さてもう一つの複製画はどのようなものでしょうか?
〇デジタル高精細複製品の前のバージョン
出典:建仁寺で風神雷神図屏風を撮影!紅葉も楽しめる京都最古の禅寺を楽しんでみた! | まあくんのなんでも体験記。
出典:建仁寺で風神雷神図屏風を撮影!紅葉も楽しめる京都最古の禅寺を楽しんでみた! | まあくんのなんでも体験記。
デジタル高精細複製品が作られる前に作られた《風神雷神図屏風》で、技法などを以前、伺ったのですが、失念してしまいました。色のかすれ具合など現状の宗達の風神雷神のイメージに一番近いのではないでしょうか?
ネット内で、このタイプの《風神雷神図屏風》がないか探してみたのですが、どうもみあたりません。もしかするとこちらは、新しい複製品ができたため、ほとんど登場しなくなっているのではないかと想像されます。この写真は貴重な一枚かもしれません。
■展示場所、ライティングによる違い
建仁寺の《風神雷神図屏風》の複製品は、3種類あるようですが、現在、展示されているのは「陶板タイプ」と「高精細複製画」の2タイプのようです。そこに金澤翔子さんの「風神雷神」の書が加わります。
そして、これらの複製品と書は、展示されている場所が、行く時期によって変わっています。光の当て方なども違っています。
建仁寺の《風神雷神図屏風》 を画像検索して、飾られている場所別に分けてまとめてみました。出典を明記した上で画像をお借りしておりまが、掲載に問題があるようでしたら、ご一報いただければと思います。
〇ビデオ解説エリアの高精細複製品の展示
出典:京都 建仁寺 紅葉の季節! | 大阪のボサノバギター教室 & ウクレレ教室 uncherry
出典:ぶらり冬の京都(4) 建仁寺の風神雷神図屏風と海北友松の襖絵 - 気ままに
この場所に高精細複製画が展示された場合は、さえぎるものがなく直接、間近に見ることができます。屏風のどこにライトを当てるか・・・ あるいは、照明も夜をイメージしたと思われるものあります。そのあたりに注目して見るのもポイント。
〇大書院に展示された高精細複製画
Fujin Raijin zu 風神雷神図屏風 俵屋宗達筆:まさじの写真回廊2
建仁寺 紅葉 京都祇園の隠れた紅葉の名所 :京都もよう KYOTO MOYOU
風神雷神に巨大な龍!京都最古の禅寺「建仁寺」で堪能する日本文化の煌き | 京都府 | トラベルjp<たびねす>
ぶらり冬の京都(4) 建仁寺の風神雷神図屏風と海北友松の襖絵 - 気ままに
大書院での展示は、ガラスの中に展示されてしまうので、ガラスへの反射がちょっと気になります。ガラスの向こう側の展示となるので、風神、雷神も手の届かない遠い存在の神になってしまう感じ・・・・?
〇方丈の「室中」に展示
↑↑ ここ
・「栄西と建仁寺」展
建仁寺方丈の中央の間、室中に展示されたこともあったようです。
「栄西と建仁寺」では、この室中が、東博内で再現されたそうです。
・細川護熙「襖絵と屏風の世界」
出典:京都 建仁寺 細川護煕「襖絵と屏風の世界」 - あべまつ行脚
〇金澤祥子氏 書と一緒に大書院にて
あとぴナビ/スペシャルインタビュー | アトピー性皮膚炎 総合情報サイト「あとぴナビ」
〇なんと本物が展示されたことも
出典:「風神雷神図屏風」公開/京都・建仁寺で8日から | 全国ニュース | 四国新聞社
〇雲林院(?)に展示?
Urashimaメモ 建仁寺を訪ねて ( 宗教 ) - アメリカ便り Letters from the Americas - Yahoo!ブログ
〇ここはどこ?
設置場所が不明の展示もありました。
出典:京都 建仁寺 Kennin-ji Temple 天空仙人の神社仏閣めぐり 庭園 写真
出典:国宝『風神雷神図屏風』 -建仁寺- - ブログ 禅 -Blog ZEN-
〇唐子の間
下記のサイトで紹介されている《風神雷神図屏風》が展示されている場所もまた、別の場所です。
■コロタイプ
《風神雷神図屏風》のレプリカは、3種類あるようですが、現状は、陶板と高精細複製画の2種類が展示されているようです。
もう一つ、宗達ではありませんが、光琳の《風神雷神図屏風》の裏に、抱一が《夏秋草図屏風》を描いた状態だったものを、保存のために分離されたといういきさつがありました。それをもとに戻そうというプロジェクトクトがありました。
〇尾形光琳「風神雷神図」コロタイプ復元複製 里帰りプロジェクト
「コロタイプ」という100年以上前から京都の地に受け継がれた伝統的な職人技です。丹精込めて作り上げられる複製は、コロタイプでしかなしえない存在感を表します。特製の顔料インキや手漉き和紙を使うことで高められた耐久性は、1世紀にわたる実績で証明されています。
そして、建仁寺でロコタイプの光琳《風神雷神図屏風》(裏は抱一)と、宗達の風神雷神図屏風を同時展示ということもあったそうです。
■まとめ
同じ《風神雷神図屏風》のレプリカですが、建仁寺では、その時々によって展示の場所が変わったり、当てる光が変わったりしています。また、特別企画の展示などもあり、過去には、国宝の《風神雷神図屏風》が展示されたこともあるようです。同じ複製画でも、コロタイプという技法で作られた光琳の《風神雷神図屏風》と同時展示されたりすることも。一口に複製画と言っても、味方を変えるといろいろに楽しめるものだと思います。まずは複製画とは思わずに、なんの潜入感を持たずに見ることから初めてみてはいかがでしょうか? 風神雷神の新しい側面が見えてくるかもしれません。
■参考サイト
〇京都シルヴプレ 141 建仁寺 3 風神雷神図屏風 : Tolliano Rive Droit
→ JR東海 そうだ京都行こう! 風
〇「風神雷神図屏風」の魅力に迫るリン! | 京都国立博物館公式キャラクター トラりん