コロコロのアート 見て歩記&調べ歩記

美術鑑賞を通して感じたこと、考えたこと、調べたことを、過去と繋げて追記したりして変化を楽しむブログ 一枚の絵を深堀したり・・・ 

■ラリック・エレガンス 宝飾とガラスのモダニティー -ユニマットコレクション- ギャラリートークから

練馬区美術館にて「ラリック・エレガンス」が開催されています。残すところ、4月21日までとなり、2週間を切りました。11日に学芸員によるギャラリートークが行われました。会場を埋め尽くす沢山の参加者に、ラリックの人気の高さが伺えます。解説の中からいくつか印象に残った作品をご紹介します。

*画像は、使用許可をいただいております

 

 

■人気の高さがうかがえるラリック・エレガンス

ギャラリートークの参加者は、フロアにあふれるほどの盛況ぶり。3月16日には、監修者 池田まゆみ先生のご講演会も行われました。事前申し込み制で、多くの申込があり、落選した方も多かったそう。そのリベンジ参加も多かったようです。

 

 

■ラリック作品について

ユニマットから目新しい作品が

今回のラリック展の特徴は、展覧会タイトルにもあるよう、「ユニマットコレクション」からの展示で、700点のラリック作品を所蔵し、その中から230点が展示されいます。

これまでラリックを見る機会は、箱根のラリック美術館、ポーラ美術館や、庭園美術館などで目にしてきました。また、デパートの催しなどでも目にすることがあります。

 

ところが、そのいずれでも見たことのないような作品を見ることできるのは、ラリックの作品の幅の広さと同時に、「ユニマットコレクション」によるところが大きいと言えます。ユニマットというのは、このマークの企業と言えば、思い出す方も多いのでは・・・・

unimat group

引用:ユニマットグループ紹介 | ユニマットリック

 

〇宝飾とガラス、アールヌーボーアールデコで頂点

 

監修の池田まゆみ氏の毎日新聞への寄稿

 

今回の展覧会は、ラリックを大きくとらえて、次のような展示になります。

アールヌーボー時代・・・・ジュエリーで頂点
アールデコ時代・・・・‥・ガラスで頂点

 ⇒「ジュエリー」と「ガラス」の2つの分野で頂点を極める。
 ⇒「アールヌーボ」と「アールデコ」の2つの時代でも頂点を極める

2つの「分野」、2つの「時代」で頂点を極めたたぐいまれな才能を持つラリック

 

〇量産されたものは価値が低い?

その一方で、これまでに何度か目にしたことのある作品もいくつかありました。いわゆるラリック作品であることを物語っています。すなわち、ラリックが一点物の工芸品から、工業製品へと創作活動を変化させ、量産体制を整えたことを物語っています。制作の新しいスタイルの息吹を吹き込んだことが見てとれるように感じていました。

 

しかし、それは、今の時代から見る感覚であるという解説に目から鱗でした。

 

人は、唯一無二を求め、オリジナルに価値をみます。いっぱいあることは価値が下がるかのような捉え方をしてしまいがちです。しかしラリックのこの時代で考えた場合、クオリティーの高い様の美を各家庭にもたらしたというようにとらえられるとのことでした。

 

今の時代の感覚の「量産」なのではなく、もともと、一般家庭では手に入れることができないような工芸品です。それをさらに質の高いデザイン性のあるものを、量産したということなのだそうです。

オートクチュールからプレタポルテへ。しかし一般家庭でそれらは高嶺の花。ユニ〇ロを利用している・・・・ そんなイメージでしょうか?

 

 

■新たな価値を、宝飾に与える

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(左)ペンダント/ブローチ《女性像とチュベローズ》1899-1900年頃 金、エナメル、透胎七宝、象牙バロック真珠 
(右)ペンダント/ブローチ《女性像とチュベローズ》1899-1900年頃 金、エナメル、透胎七宝、象牙バロック真珠

 

ラリックは、宝石の価値の転換を行いました。それまでは、宝飾品というのは、宝石の価値、つまり、種類や大きさによっていましたが、ラリックの特徴は、宝石を使わないことです。

金銀細工でデザイン性の高い凝ったものを制作します。デザインの発想は、ロンドンで培われました。

また、不揃いのバロック真珠をペンダントのトップにもってきて、価値を高めるなど、ラリックならではの使い方を確立。

 

  

ジャポニスムの影響 

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 扇と櫛《落ち葉》1899-1900年頃 獣角、金、エナメル、絹製リボン

 

扇はまさに日本の工芸品で、そこに描かれたモチーフは枯葉。西洋の人が枯葉を描くことはなく、東洋の影響が明らかにみられる作品で、機能面では使用に絶えず、装飾的な意味あいの作品。

 

 

■香水瓶を香水のイメージに合わせる

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 香水瓶《アンブル・アンティーク》コティ社 1910年 透明ガラス、型吹き成形、栓はプレス成形、サチネ、パチネ

アンブルとは、コティ―社の香水の名前。マッコウクジラの腸内の結石が香料で、龍涎香と言われるギリシアの話がもとになった香水。アンブルとは琥珀のことで、その色をイメージして着色し、ギリシアの人を描く。

 アンゴル=琥珀・・・パチネ
 古色・・・・表面着色
 つやけし・・・・サチネ

 

 

■香水瓶がランプに

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 常夜灯《日本のリンゴの木》1920年 透明ガラス、型吹き成形、装飾板はプレス成形、サチネ/ベークライト製照明台付

 

この形は、香水瓶としておなじみのティアラ型。これをランプにしました。作品名となっているの《日本のリンゴの木》は、日本のボケのことをさします。ティアラの部分の肉厚ガラスにほどこされた《リンゴの木》が繊細で、表から見ると凸面になっていますが、裏はモチーフが凹面に。どのように制作されたのか、あれこれ想像をめぐらせていました。

 

 

■アール―デコ期の代表作

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 カーマスコット《勝利の女神》1928年 透明ガラス、プレス成形、サチネ

カーマスコットは全部で30ほど制作されたとのこと。ちなみに、トヨタ博物館では、ラリックのカーマスコット全てを持っているそうです。このカーマスコットは、出光のマークのヒントになったと言われています。

展示の流れ星のタイプは珍しいそう。

 

 

■まとめ

想像以上のラリックの人気ぶりに、ちょっとびっくりしました。ラリックの何に魅せられるのでしょうか?日本人の感覚になじみやすい部分が大きいのかもしれません。

同時期のガラス工芸家に、ガレ、ドームがいます。彼らとの大きな違いは、色を使わなかったところだといいます。そして、アールデコのシンプルさが受けているのかもしれません。

ラリックは、経営の才にも長けていて、需要と供給のバランス感覚を持ちながら、創作活動をした人という認識でずっと見ていましたが、その時代おける創作活動を、もう一歩、踏み込んでみることができるようになった展覧会でした。

表面的な時代のとらえ方から、その時代の生活にもう一歩、近づいてみることで、作品のとらえ方も変わります。