コロコロのアート 見て歩記&調べ歩記

美術鑑賞を通して感じたこと、考えたこと、調べたことを、過去と繋げて追記したりして変化を楽しむブログ 一枚の絵を深堀したり・・・ 

■酒器の美に酔う:年1回の曜変天目茶碗の展示

静嘉堂文庫美術館を代表する曜変天目茶碗が、現在開催されている「酒器の美に酔う」で公開されています。曜変天目茶碗を見ることができるのは年1回。今年(2018)は6月17日までです。これまでの曜変天目茶碗の展示とは一味違います。曜変天目茶碗にスポットをあててレポートします。

*写真の撮影、掲載は、主催者の許可を得て掲載しております。

 

 

■今年の曜変天目茶碗は何かがちがう!

静嘉堂文庫美術館の顔とも言える《曜変天目茶碗》、年1回関連展示の時に登場。今年は陶器磁器のつながりでしょうか?「酒器の美に酔う」で展示です。 

今年の《曜変天目茶碗》は、一段と美しく見えます。ガラスの反射が抑えられた専用のガラスケースが新調されました。⇒(*1:変更前のガラスケース

鑑賞に適した光で妖艶な光を放ちます。茶碗の内側全てを見ることができる高さで展示されるのは静嘉堂文庫美術館ならではです。 

 

■新しいガラスケース 

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 こちらが新しいガラスケースの照明です。曜変天目茶碗に合せた特注品とのこと。そしてガラスも低反射ガラスを使っており、非常に見やすくなっています。(ガラスは旭硝子、ケースは岡村製作所

 

そして、ケースの四隅の一部に下記のようなキャップがあります。 

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これは何かというと、ここにスポットライトを仕込めるようになっているのだそう。反対側にもありました。

 

これが何を意味をするかというと、曜変天目茶碗にスポットライトをあてて、展示をすることもできるということなのです。ガラスなどの作品は、スポットライトを当てると、全く違う表情を見せます。

曜変天目茶碗の釉は、薄いガラス質のようなものと聞きます。そこにスポットライトを当てると、これまでとは全く違う表情を見せるのだろうなと思っていました。曜変天目茶碗にスポットライトをあてて観る。そういう機会があるといいなと思っていました。

この先、いつになるのかはわかりませんが、「スポットライトをあてた曜変天目茶碗を目にすることができる」という新たな楽しみの期待を持たせてもらえます。

 

 

■3回見た中で一番の見栄え 

これまで静嘉堂曜変天目茶碗を3回、見ました。昨年、東博で行われた「茶の湯」と静嘉堂の「かおりを飾る~珠玉の香合・香炉展」。そして今年の「酒器の美に酔う」です。

【参考】昨年の静嘉堂の展示の様子

■静嘉堂文庫美術館:曜変天目茶碗を見た!(かおりを飾る〜 珠玉の香合・香炉展にて) 

 

まだ、3回目ですが、特注ガラスケースの曜変天目の輝きはぴか一でした。昨年の展示は、館長が、照明を目いっぱい上げるように支持されたそうです。(しかし本音を言うと、まだ弱い…と思ってしまいました。)

今年は、この茶碗のために作られた照明です。その輝きが、存分に引き出され、虹彩がはっきり確認でき、これぞ曜変という姿を見せていました。

 

不覚にも撮影失敗・・・・・ twitterよりお借りしました。 

 

  

茶碗の底の部分(茶溜まり)まで見ることができるのは、所有館である静嘉堂ならではです。底の部分が見えてこそ‥‥と思います。

 

 

■酒器と曜変天目茶碗の関係

一見、酒器と曜変天目の関連性って? と考えていました。陶器、磁器という素材の共通性の他には? と思っていたら、こんな展示があってわかりました。器にはお刺身が乗っています!

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茶の湯では、お茶の前に茶懐石がふるまわれます。濃茶を飲んで胃に負担をかけないためですが、お酒も供されます。茶碗とお酒は、関係ないようでいてつながっていたのです。茶懐石の懐石というのは、懐に温めた石を入れて暖をとった懐石を意味しますが、料理の懐石との結びつきはいくつか由来があるらしいです。

 

いずれにしても、お茶の前に懐をあたためておくという意味があるようで、茶懐石の酒器は、鉄地で直火にかけて温めて提供されていました。次第にそのまま鉄の酒器を持ち出されるようになったそうです。鉄の材質の特性、そこに備わったデザインが、機能美となって懐石の席に登場し、目に触れるようになりました。

 

お酒は、神への捧げもの。時を経て茶の湯文化、そして生活の中で息づき今に伝わって来たこともわかります。食文化が日本人の心、アイデンティーの形成にも影響していると松下幸之助は語っていたそうです。茶の湯の懐石から発展した一汁三菜の作法にもも日本の心が備わっていたのかもしれません。

 

(子供の頃、ご飯を食べ終わったあと母が茶碗にお茶を入れて、おしんこなどできれいにしながら飲むのがどうも、貧乏くさくていやだと思っていました。

>最後に出される香の物と湯桶で料理の盛られていた器をきれいにして主人に感謝を表すのが、食事をしたあとの一般的な礼儀

↑ のような礼儀を今、見て、茶の湯の礼儀が変化形として生活の中に入り、ご飯粒を最後まで食べる。お茶碗をきれいにしておく(昔はこびりついたものがおちにくかった?)という生活の知恵の習慣だったのかもと思いました)

 

 

■お酒と神 そして食文化

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「天の美禄」「百薬の長」として称えられ、酌み交わされてきました。様々な場面で盃が酌み交わされてきて、「酒器の美に酔う」の開会式においても、鏡開きが行われました。多くの来館者を祈願してお酒がふるまわれました。お酒は祝いや別れの場面に欠かせません。

 

ところで、「鏡開き」は、お正月のお餅も鏡開きで、お酒も鏡開きです。「鏡」とはは神を意味するそうで、お餅は神様に備えたものを開いていただくという意味。お酒も神(鏡)に備えたものをいただくということ。

そういえば、鏡はご神体として祭られています。

 

そして、河野館長からお酒は、猿が一度口に入れて噛んだものを出して、保存したことから発見されたと伺いました。またお酒の原料というのは、その土地で一番、とれるものから作られるそうです。その理由は、たくさん作ることができるから…と、お酒がいかに、その土地の気候や風土に根差したものであるか大変興味深いお話がありました。

酒器を入口にして、お酒のことがわかり、その周辺の、食のことにも広がっていきます。もしかしたら、曜変天目茶碗でお酒を飲んだこともあるのでは? と思ったのですが、それはなかったようです。

 

酒器と曜変天目茶碗 同じ器つながり。その先にある食にもつながっています。静嘉堂文庫美術館では、ビアガーデンもオープンしています(5/6まで)

nikotama.keizai.biz

 

 

 

■関連アイテム

曜変天目茶碗に関するDVDがおすすめ

今回、曜変天目茶碗に関するDVDも制作され、地下で上映。由来など詳細を含め詳しく紹介されているので必見。曜変の輝きは、色素ではなくモルフォ蝶や貝殻の内側と同じで構造色という解説あり。

 

参考: モルフォ蝶の青の発色について

翅の表面にある形の鱗粉で光の干渉が起きるため、光沢のある青みが現れる。
このような現象を
構造色という。

 ■モルフォ蝶の鱗粉

 ■世界一美しい「モルフォ蝶」の色を人工的に再現(基礎研究最前線)

 

 

〇ニッポンの国宝100 No4 FILE8 曜変天目

好評「原寸美術館」さらに5倍拡大図  この雰囲気が伝わる展示です

 

 

〇月間茶道誌 淡交 2018 1

新連載「ロバートキャンベルの名品に会いに行く」の栄えある第一回に静嘉堂の「曜変天目」が選ばれ特集記事が掲載されています。

https://www.photojoiner.net/image/iBFVRFKo

見る視点が違うと思われたのが、私は強い光をあてて、その輝き見たいと熱望してきました。ところが、ロバートさんは、あえて暗い自然光を望まれ、その中で曜変天目茶碗をご覧になったそうです。「光が少なくてよくわからなかった‥・」なんてことはおっしゃらないのです。

そして、印象的だったのが、多くの人が曜変天目を「宇宙」と表現されるのに対して、「深海」と言われたことでした。渦を巻く海というのは、宇宙の成り立ちと共通しています。その捉え方に、生命の根源のようなものを感じさせられました。

 

先日、科博でシアター360という3D上映があり、「宇宙138億年の旅–すべては星から生まれた–」を見ました。これまでも何度か見ていたのですが、ロバートさんの着眼を知って見ると、また違うように受け止めることができます。まさに宇宙の成り立ちは、海に直結していました。宇宙の元素の一部が、海にとりこまれ、そこから生命が誕生しているのでした。宇宙と海は一体、そしてアーティストはそのような視点に立って作品を制作しています。曜変天目茶碗と共通の作品をガレの中に見ました。

 

それが、このガレの作品です。曜変天目と同じ世界観に思えました。この作品も、「宇宙」と「水」を感じさせられます。(⇒■新たな作品との出会い))

 

■講演会 改め 口演会開催

館長による「お酒の絵 上戸館長口演す」と題したおしゃべりトークも開催されます。

河野元昭館長のおしゃべりトーク
日時:2018年6月3日(日)
題目:「お酒の絵 上戸館長口演す」
講師:河野元昭静嘉堂文庫美術館館長)

 

 

■概要

場  所:静嘉堂文庫美術館
開催時間:10:00~16:30
会  期:4月24日(火)~6月17日(日)
      前期:4月24日(火)~5月20日(日) 
      後期:5月22日(火)~6月17日(日)

 

曜変天目茶碗 裏話

 こちらのセミナーに参加しました。そのころ東京国立博物館で行われていた「フランス人間国宝展」で、長年、曜変天目を再現するべく(?)チャレンジされてきたジルレさんが、静嘉堂文庫美術館に来館され、曜変天目とご対面されたのだそうです。

その時に流された涙に、一同、ジワリ。そして、婦人がそっと差し出すハンカチで涙を拭く‥‥といった下りが饒舌館長のブログで書かれています。

ところが、ここで、ハンカチと書いたけども、実はティッシュだった。ティッシュじゃどうもカッコがつかないので変えたと、笑いを交えながらの楽しいトークが披露されました。

 

質問タイムがあり、私は河野館長は、大徳寺曜変天目茶碗は御覧になったことがあるのかずっと気になっていたので、いい機会だと思い、質問させていただきました。御覧になったことがあるそうです。

 

そして、あるルートから漏れ聞こえてきたところによると、曜変天目茶碗の再現に力を入れている陶芸家の方の密着番組が現在進行中で行われているらしいです。そして大徳寺曜変天目の写真をお持ちの一般の方を探されているようなのです。

館長さんだって、見ることができるのかどうかわからない大徳寺曜変天目茶碗。一般の方でご対面させていただいた上に、撮影までさせてもらうことが可能なのかどうか。写真は果たしてみつかるのかどうか。いつのOAなのかわかりませんが、どんな形で紹介されるのか楽しみにしたいと思います。

 

*1:■変更前のガラスケース(追記:2019.05.27)

2013年の照明情報・・・電圧をかけると自ら発光する有機ELは蛍光灯使用