コロコロのアート 見て歩記&調べ歩記

美術鑑賞を通して感じたこと、考えたこと、調べたことを、過去と繋げて追記したりして変化を楽しむブログ 一枚の絵を深堀したり・・・ 

■静嘉堂文庫美術館:自然光で見る曜変天目 (「日本刀の華 備前刀」にて)

国宝曜変天目3椀 同時公開の快挙は、偶然だったのだとか・・・ その中でも、ひときは鮮やかで、好みと評されることの多い静嘉堂文庫美術館曜変天目。5回目の鑑賞となりました。今回の目玉は、なんといっても、自然光で見ることができることです。

*写真は許可を得ています 

 

 

■過去の曜変天目(稲葉天目)の鑑賞記録

過去に4回、曜変天目茶碗を見ました。これまでに見てきたレポです。展示の高さが違ったり、照明が違ったり、その時、その時で様々な表情を見せてくれました。

 

〇1回目(2017):(於)東京国立博物館  間接照明

 

〇2回目(2017):(於)静嘉堂文庫美術館 旧ガラスケース


〇3回目(2018):(於)静嘉堂文庫美術館 新ガラスケース


〇4回目(2019):(於)静嘉堂文庫美術館 自然光(夕方・晴れ)

■内覧会で見た時の曜変天目

 

 

 

■自然光で見る曜変天目の楽しみ

〇2019年度は3回の展示のうち、1回が自然光

2019年、国宝3椀の曜変天目が、同時展示されるという情報は、早くから駆け巡っていました。さらに静嘉堂文庫美術館では、2019年度は3回の展示が予定されています。年内2回、2020年にも曜変天目の展示が予定されます。

となると、いつでも見ることができると思ってしまいます。ところが、今回の展示は、唯一、自然光の元で見ることができる貴重な機会です。

これまで、静嘉堂曜変天目は、3回、ガラスケースの照明で見てきましたが、「自然光」で見るのはこの展示が初めてです。どんな姿を見せてくれるのか、とても楽しみにしていました。

 

〇天候、時間帯による違い

以前、自然光のもとで映像に映し出された動画を見たことがあります。全く表情が違っていました。晴れ、曇り、雨によっても、違うはず。午前、昼、夕方による違いも興味があります。

内覧会で、夕日に浮かぶ曜変天目を見ていますが、せっかくの機会なので、条件を変えて見たいと思っていました。

3椀のコンプリートができたので、天候による違いも、比べてみたいところです。しかし、日を変えて天候の違う時に見るというのは、なかなか難しいので、朝から夕方までの変化を追ってみようと思っていました。⇒*1

 

静嘉堂文庫美術館の鑑賞券付きツアー

今回利用したツアーがこちらで、静嘉堂文庫美術館の招待券付きという特典がありました。

【9:00発ー18:30頃着予定】 国宝『曜変天目』奇跡の同時期公開記念ツアー 京都発着2館周遊バスプラン | Peatix

<ツアーのポイント>

  1. 世界に僅か三碗しか現存しない『曜変天目』が奇跡的に同時期公開!

◆当ツアーは、奈良国立博物館奈良市)とMIHO MUSEUM(滋賀県信楽)を貸切バスで周遊します。個人では行きにくい2館を1日で鑑賞できる便利なツアーです。奈良国立博物館では、優先してご入場いただけます。

静嘉堂文庫美術館(東京)「日本刀の華 備前刀」会期中にご利用いただける入館券付!

 

このような↓ チケットがついてきました。

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「日本刀の華 備前刀」会期中に利用できる入館券とありましたが、その期間でなくても利用できる招待券でした。

 

■職方実演会「日本刀にたずさわる職方の技」

今回「日本刀の華 備前刀」の企画内で展示です。

曜変天目のツアーに参加したのは、5月12日でした。ちょうどその週の5月18日(土)に「日本刀にたずさわる職方の技」がありました。時間が午前10時~12時、午後1時~午後4時30分に行われます。

2つの曜変天目茶碗を見た6日後というのは、よいタイミングです。かろうじて記憶が残っているタイミングでイベントが開催されたため、静嘉堂文庫美術館へは、この日に決めました。天候は運任せ。

開館時間ともに、イベントを見ながら、曜変天目の観察をする予定だったのですが、出遅れてしまい、着いたのは12時頃でした。

 

〇入館に長い列

静嘉堂文庫美館では、入館するのに、これだけ行列をしているのを見たのは初めてでした。三館同時公開の影響と土曜日で、刀剣のイベントが重なったことが影響しているのでしょか?招待券があったので、並ぶことなく入館することができました。

 

曜変天目を見るのも行列

曜変天目を見る にも列ができていました。3列で並び10人1組で見学です。時間は1分半です。ストップウオッチで測りながら入替制です。しかし、14時には自由鑑賞に切り替わりました。

急遽、2団体が来られ急な混雑状況になったため、ミホミュージアムを参考に列を作ったそうです。混雑が緩和したら自由観覧にと、状況に応じ臨機応変に対応されいました。

 

 

 ■見る時間による変化

 その日は、曇りでした。晴れた日の方が、光があたり、鑑賞には適していると思っていました。ところが、曇りの日も、なかなか良い感じの表情を見せてくれいました。強すぎない軟らかい光が織りなすページェント。

曇天の空から太陽が時折、顔を出し、次々に新しい表情を見せてくれます。

 

〇オレンジ色の発色

これまで見たことがなかった色。それはオレンジ色に輝く光。絵葉書などに見られるオレンジの反射は、特殊なライトを充てるか、自然光の元でないとはっきり見えないと聞いていました。

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静嘉堂文庫美術館 曜変天目 絵葉書

ここまでのオレンジには見えませんでしたが、オレンジ色の輝きを始めて目にすることができました。上下に動いて見るとさらに変化します。やっとこの光を見つけ出しました。

 

〇テカテカしたガラスの表面

自然光の元で見る曜変天目は、表面がつるんとして、ツヤツヤとまさにガラスそのもの。これまで見たよりも、ぶ厚いガラス質で覆われていることがよくわかりました。

人の目に映る色や形というのは、それが持っている固有の色なのではなく、当たる光が反射することによって目に届いているということが、この茶碗を通してとてもよく理解できました。
⇒(*2:なぜ空は青? 太陽は白?)
⇒(*3:曜変天目の色の見え方について)

 

 

〇自然光の力

自然光は、多様な光を持っている。そのことを教えてくれます。曇りというお天気もよかったようです。

よく、このような写真を見るのですが、実際にこのように見えたことがありませんでした。しかし、今回、自然光では、本当にこんなふうに見えるんだ・・・と感慨もひとしお。左側おオレンジの発色、右側の白い発色など、まさにこのまま。

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週刊ニッポンの国宝4号 「伝源頼朝像/曜変天目」より

多様な波長を持つ光の一部が、反射して、今、目に届いている。その自然光は、宇宙の彼方からやってきてた光であること。これだけたくさんの色を持った光を、曜変天目の表面がプリズムのような役割をして、届けてくれているということを、感じさせられました。

照明のなかった昔。自然光の中から、選択されて返えってきた光を目にしていました。そんなことを知らない時代でも、自然と一体化し抱かれている感覚があったのではないかと思います。瑠璃色の地球、海底、銀河の宇宙などがイメージされます。

曜変天目ツアーのあと、東寺に寄りました。宝物館の公開で、解説されていた方が言われたこと。「地球が丸いということも知らない時代に、宇宙をとらえて想像していたいたわけです」

曜変天目茶碗を見て、誰もが「宇宙みたい・・・・」という言葉を口にします。昔の人も、そう思っていました。しかしその意味することは、時代によっても違うということに気づきました。

時代によって違いますし、そして今も個人によって、宇宙観は違っているはず。しかし、暗黒の中に浮かぶ星のイメージは共通しているのかもしれません。

 

当たる光によって、見え方は変化すること5回の鑑賞で感じていました。では、どんな光が最適なのでしょう?最適な光というのはあるのだろうか?と思っていましたが、自然光の持つ力は偉大、人工の光には、かなわないことがわかりました。⇒*4

 

ミホミュージアムに展示された大徳寺曜変天目のチラシも自然光によるものでした。あえて自然光で見せた意味が見えた気がします。私たちは「自然と一体化」しているといった意味があったのかも・・・・

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〇一期一会の光 曇天のよさ

ぜったいに晴れの日がベストだと思っていました。しかし、曇りの日に見て、強すぎない光はバランスもよく、優しく全体を包みます。そして、雲間から時々、顔を出す太陽によって、大きな変化も見せてくれます。

 

その時々に見せる曜変天目は、一期一会ので、唯一無二の姿。そう思うと、どんな天候の時でも、そこによさがある。その瞬間を目に焼き付けて大切にしておくとよいと思いました。

ちなみに、その日、朝から来ていた方とご一緒になり、朝の曜変天目がよかったとおっしゃっていました。朝から行って、自分のベストタイムを探してみるのもいいのではないでしょうか?

 

 

〇光の強さと種類の好みの変化

最初、東博で見た、曜変天目。光量が少なく心もとない。もっと光を!と思っていました。2度目に見た時も、心もとなく感じていました。LEDの強い光をあてて、この茶碗が持っている強い輝きを感じたい。

この時は、自然光で見たいという気持ちはありましたが、きっと、弱く鈍く光るだけで物足りなく感じてしまうはず。キラキラを感じることができないだろう・・・と思っていました。

次に見た時は、曜変天目茶碗に合わせたベストな状態の照明。本当に美しいと感じました。それが確認できてやっと、自然光で見ることを受け入れる態勢が自分の中にできた気がしました。

 

ところが、その後、光が鈍く地味と言われる大徳寺龍光院曜変天目を国宝展で見ました。すると、次第に渋さを好むように変化していきました。しかも今回、静嘉堂曜変天目を見る直前、MIHOMUSEUMで、大徳寺曜変天目を見ていました。しみじみ、その渋さに心惹かれていました。3椀で一番メリハリのある静嘉堂曜変天目は、どうもギラギラしすぎて派手すぎると感じるようになっていました。

 

実際に曇りの日、ベールに包まれたやわらかく鈍い光の中から見せる輝きを見たら、今度は、人為的にきれいに見えるように当てた光を、不自然に感じ始めているのです。人は、ないものねだりで勝手・・・ 

 

〇人の影による変化

じっと、ひとところの角度から見ていると、人が行き来します。人が茶碗の前に立つことによって、光がさえぎられると、茶碗の表情は変化します。強い太陽光の時は、影となって現れてしまいますが、曇天の柔らかい光の中では、ひとの動きによるベールのような影にならない影が、見え方に面白味を加えてくれます。

よく写真撮影は自然光や、花曇りがいいと言われます。なんだかその意味がわかるような気がしました。

 

〇モアレ模様の発見 

最後に今回のあらたな発見がありました。茶碗の外側は、黒の漆黒の世界。一部、斑文のようなものが見ます。

その裏側の部分。腰を下ろして、光があたるとモアレ模様のようなものが浮かび上がるのを目にしました。映り込み? と何度も確認しましたが、茶碗に浮かび上がる模様でした。

茶碗の外側は漆黒の釉で、黒光りしていますが、一部に斑文がみえ、その周辺が青く光っています。その反対側・・・・ 外光があたる部分を、腰を下げてじっとみているとモアレのような模様が見えるのです。展示台の模様が反射しているのかな?と思ったのですがそうではなさそうです。

その前に人が立っていると、その模様は見えなくなってしまいます。これまで人工の光では見ることができなかった文様です。自然光、そして丁度よい光量になった時い浮かび上がる模様のようです。

暗い場所で、上からのスポットでは見つけることのできなかった表情でした。

 

■内覧会で見た時の曜変天目

*写真は内覧会にて許可の上撮影したものです

 

夕暮れの光の中で

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外側に斑文が見える側

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このアングルから見ると、外側の 左側に斑文が見えます。

 

この時の見え方は、実は、今一つピンときていなかった・・・

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きれいだと思うように、自分に言い聞かせていたような・・・・ 

 

 

このアングルから、腰を下ろして茶碗の外側を見るとモアレ模様がみえました

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その日の外光の状態によっても、見え方は違うかも…

 

 

■感想・雑感

〇好みは変わる

通算5回目となった静嘉堂文庫美術館曜変天目茶碗。その時々の自分の知識レベルや鑑賞の経験によって、どんな茶碗の表情を好むかが変化しているのを感じました。また、どのように見たいかという自分の好みも出てきています。その好みも変化しています。
 

〇発色の原理を理解・・・干渉から構造色へ

昨年、地下講堂で解説されたビデオの中に、曜変天目の色は、モルフォ蝶と同じ構造色。という解説がありました。それまでは「干渉」と捉えてきたのですが、新たに構造色と言われてもよくわかりませんでした。
 
「構造色」について理解すれば、曜変天目の理解につながると思い、昨年から1年、折につけて「構造色」というKWに反応し、なんでもいいから集めてきました。

コロコロ(@korokoro_art)/「構造色」の検索結果 - Twilog 

今年、自然光で見ることで、曜変天目と構造色の関係や、モルフォ蝶と貝殻の色の見え方がわかるようになってきました。 

 

〇伝来理解の深度

また、伝来について、その意味も次第に理解できるようにはなってきていたのですが、MIHO MUSEUMで大徳寺龍光院の400年の歴史を知り、ずっしりと響いてきました。 

その一方で、徳川のお宝が稲葉家へ渡る。モノの移動、一般的な贈答の感覚でしかとらえてませんでした。その意味を、理解できていなかったことに、会場で気づきました。「徳川家のお宝を、渡しちゃうって相当なことだよね」この会話で、徳川家の持ち物が移動することの意味が、やっと理解できた気がしました。

自分の中では、歴史のトップが珍重したということであって、その価値感は絶対的なものではではないと思っているところがあったようです。

例えば、このお店は、総理が利用されるお食事処と言われても、総理が必ずしも食通なわけではない。総理の味覚が絶対なわけではない・・・ すべてをそんな感覚でとらえてしまうので、歴史のトップが珍重したといっても、それは、歴史の背景が生んだことととらえてしまうことが、伝来を理解するうえで、ネックになっていたことがわかりました。 

 

〇3椀を並べた同時は実現する?

今回、国宝曜変目3椀同時展示という、奇跡的な展示が実現しました。今後、本当に3椀が一緒に並ぶという奇跡はおこりえるのでしょうか?その時、宇宙はひっくり返ってしまうのでしょうか・・・ 
 
何度見ても、違う姿を見せてくれます。それと同時に、自分のものの見方が変化していくのも教えてくれます。 
 

*1:自然光で見る展示

これまでも、自然光のもとで展示し、時間帯によって光の違いを鑑賞できる展覧会がありました。ラリック美術館や、庭園美術館でのガラス作品です。時間によって変化する光の違いによって、見え方が変わる作品を見るというのは、個人的に好きなテーマです。

外光での鑑賞を実現するためには、自然光が入る展示空間がなくては実現ができません。、静嘉堂文庫美術館のフロアは、2方向から光が入ってくるので、その変化もより複雑かもしれません。

 

*2:■なぜ空は青? 太陽は白?(2019.05.27)

下記の動画3:00あたりから、色の見え方につて解説されています。 

そして、よくありがちな、「こんなこと勉強して意味あるのか?」という受験期の疑問に対して答えています。「今やっている勉強には意味があり、いろんなところで使われています」と力説。しかし、高校生の反応はどうも薄いようでした。

学生の頃は、知識の範囲も限定されていますが、年を経て、いろいろなものを見たりという経験をすると、曜変天目を自然光の中で見た時に、こういう自然科学の原理が、生かされていることを理解できます。なんとなくわかっていたことでも、自然光と人工光の違いが明確に感じとることができ、自然光の偉大さ(?)も理解できた気がします。とても感慨深いものがありました。物理、苦手だったけど、色の見え方の原理を知っていると、自然光と人工光の違いを茶碗を通して理解することができました。曜変天目も違った角度から見えてきます。

 

*3:曜変天目の色の見え方について(追記:2019.05.27)

参考:杭州出土の曜変天目 水上和則

曜変天目であることの条件

曜変天目釉についての科学的調査は、昭和 28 年に小山冨士夫・山崎一雄「曜変天目の研究」『古文化財の科学 第六号』古文化資料自然科学研究会、19頁に掲載されたものが最初(p200)

釉の表面に屈折率の異なる極めて薄い物質が存在すると、この膜の表面で反射する光と、膜を通過して釉の表面で反射する光との干渉によって生じた色である。(p201)

 

*4:■理想の照明?

■基本知識を会場で   ■理想の照明とは?より

測定評価数という数値の100は自然光であることの意味がわかった気がします。