熱海のMOA美術館のもう一つの看板作品、国宝《色絵藤紋茶壷》 これまで何度か訪れた際、いつも展示されていた記憶があります。それもそのはず、MOA美術館の常設展示品だったのでした。何度となく見てきたのですが、《紅白梅図屏風》以上にその価値がわからなかった壺でした。が、今回は、私なりの発見がありました。
■作者:野々村仁清について
〇読みは「ノノムラニンセイ」
まず、作者の名前を聞いたことがありませんでした。「ジンセイ」ではなく「ニンセイ」です。尾形光琳なら、何をした人かは知らなくても、名前ぐらいは聞いたことがあります。名前を耳にするというのは、なにがしかのとっかかりがあります。しかし、作者の名前すらも知らないとなると、興味も沸いてきません。
柿右衛門、源右衛門のように、名前だけでも聞いたことがあれば、どこかで目にしていたり・・・・ということがあり、少しは調べてみようと思えるのですが・・・・
〇野々村仁清の名にふれる
今回は、ちょっとしたきっかけがありました。それは、現在、サントリー美術館で行われている展示サントリー美術館:「コレクターの目 ヨーロッパの陶磁と世界のガラス」のコレクターのお一人、辻清明氏が、子供の頃に「野々村仁清」の香炉を買ってもらったことがきっかけで、コレクションするようになったというのです。ささやかではありますが、やっと私の目の前に現れた・・・・という感じがしました。
野々村仁清が幼少の頃にプレゼントされた香炉をきっかけに、
ガラスのコレクションへとつながったという辻清明氏・・・
「清」は「仁清」からいただいたのでしょうか?
〇wiki pedhiaより
生没年不詳 江戸時代前期の陶工。通称清右衛門(せいえもん)。17世紀の人物。
京焼色絵陶器を完成したと言われている。
中世以前の陶工は無名の職人にすぎなかったが、仁清は自分の作品に「仁清」の印を捺し、これが自分の作品であることを宣言。
近代的な意味での「作家」「芸術家」としての意識をもった最初期の陶工といえる。
仁清の号は、仁和寺の「仁」と清右衛門の「清」の字を一字取り門跡より拝領したと伝えられている。
仁清は特に轆轤(ろくろ)の技に優れたと言われ、現存する茶壺などを見ても、大振りの作品を破綻なく均一な薄さに挽きあげる轆轤技には感嘆させられる。
〇制作技術について
この壺をずっと見てきましたが、この形、大きさをこの時代に轆轤(ろくろ)で作り上げるという技術の高さ。さらに、仕上がりが均一で薄いということが、一つの絶賛点だったということのようです。
現代の均一化された陶器を見慣れていると、丸い形のきれいな壺なんて、すごいものだとも思わなくなっていて、簡単に作れてしまうと思っていたということなのでした。この時代にこれを作るということの意味を理解できていなかったのでした。改めて、その時代の技術に照らして考えてみるということに立ち変えさせられました。
《紅白梅図屏風》を見て、そんなこと、誰でもやってきたことじゃないの? と思っていたことと似ていると思いました。
今回は、鑑賞していた時に、これどうやって作ったんだろう。ということについては、頭をかすめていました。これは、どういう方法で作ったのか・・・・轆轤? だとしたら、どうやって、この口をすぼめたのだろう・・・・ 轆轤じゃなく、ひも状の粘土をぐるぐる重ねていったのか、手びねりなのか・・・・・ それにしたってこの形にするのは困難ということに気づきました。ところで轆轤はいつ頃から登場したのでしょう。(奈良時代からあったらしいです)この壺、見た目の厚さは薄そうに見えます・・・・ となるとやはり、轆轤でつくられたのかなぁ・・・・と。
明治時代の超絶技巧の磁器を見た時は、その大きさ、手の込み具合で、それはそれはすごいものだという技術的なことは、すぐにわかりました。ところがこの手のツボだと、制作が大変だということを忘れさせます。明治時代の大きな作品は、繋げているということだったので、《色絵藤文茶壺》は、半々で繋げたあるとか? もしかしたら、こういうこの時代の制作の大変さがこの壺の価値なのかも・・・
■音声ガイドの解説
音声ガイドの解説で、印象に残ったのが、葉の葉脈が丁寧に一枚、一枚、描かれているということでした。
たしかに一枚、一枚に中央の葉脈が描かれています。そして葉っぱの色は、拡大してみると、単なるベタ塗りの緑ではありませんでした。微妙なニュアンスで描かれていて、濃淡表現されています。また葉脈は上書きされているのか。白抜きなのでしょうか・・・・ もし、これが白抜きで描かれていたとしたら、大変な作業です。(鈴木其一の朝顔の曜が、)またよく見ると、葉の部分の葉脈は白だけども、葉柄の部分は緑。途中で色分けされている葉脈もあって芸が細かいことがわかります。
出典:植物用語と説明図
■絵付けについて
現存する仁清作の茶壺は、立体的な器面という画面を生かし、金彩・銀彩を交えた色絵で華麗な絵画的装飾を施している。
と音声ガイドにありました。
同行した友人にも、この壺の何がすごいのかを聞いたところ、「曲面に絵付けするというのは、とても大変なことだと思う・・・そしてあの蔓や藤の表現とか・・・」 と言われ、平面に描くことと、壺の曲面に描くことの違いというのもあるかも・・・と思っていたら、音声ガイドでも、蔓や藤の描き方について解説されていました。そこで「蔓と藤」にスポットあてて、観察をしてみました。
■閉館間際の至福の時間
閉館間際になってくると人もまばらになってきます。とうとう私一人となりました。360度、周回して見ることができるガラスケースの特徴を生かし、蔓に着目しながら、ゆっくりとぐるっと一周、回って見てみました。
びっくり! 新発見をしました!
この藤の蔓は、壺を一周して取り囲み、つながっていたのです。適宜、スタート地点を決めて、そこから順番に横にずれながら写真を撮影していました。すると、壺の首のあたりから始まって、うねうねしながら壺を蔓が取り巻いていたのでした。
■360度の展示の意味
これで、この展示の意味もわかりました。360度、周回しながら見ることができるということだったのです。蔓がどう描かれているのか。蔓が上に下に上下しながら、下の方に延びています。どのように壺を取り囲んでいるのか・・・ それを余すことなく見ることができるケースだったのです。こうして壺をとり囲みながら、葉と藤の房が垂れ下がっている光景が描かれていたことがわかりました。5年越しで、やっと、この壺の見方のポイントが一つ発見できました。
そして、この状態は、壺の口の部分。真上から見た光景が想像されます。藤棚に咲く藤を上から見るかのような描き方。実際には、蔓は壺を周回しながら下方に延びているので、藤棚状態とは違いますが・・・・ この螺旋、何か宇宙さえも感じさせられてきます。丸い茶壷は地球。その上の照明は「月」とか・・・・
■月と宇宙 そして茶壷は地球?
月に照らされてぽっかり浮かぶ?
そう考えるとこの空間が宇宙空間にも思えてきました。
▼こんな入り口のある空間の中に展示されています。
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ここはひょっとして宇宙空間の入り口?▼
▲出展:MOA美術館 | MOA MUSEUM OF ART »
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■蔦の動き
この蔓の描かれ方がよりわかりやすいように撮影された写真を繋げたムービーにしてみました。蔓の動きがわかりやすいように矢印を加えています。(画像の矢印付加については、美術館に了解を得ています)このガラスケースの照明は、とてもやわらかい光で、月明りのようにも見えます。(BGMは「月光」に乗せて・・・・)
咲き盛る藤花が巧みな構図で描かれており という解説があります。
「巧み構図」その言葉には、こんな構図が秘められていたのでした。また、球面のツボに、このような連続した蔓を、一気に(?)描いていたのは、さすが! 今回、初めてこの作品の見どころをみつけることができました。
野々村仁清 色絵藤文茶壺 月の光のもとに輝く・・・(?)
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(こちらをクリックして、表示された写真をクリックすとスタート)
静止カット:ムービーが追えないようでしたらこちらで クリックで拡大します。
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■いつでもお目に描かれる国宝
《紅白梅図屏風》は年1回の展示です。こちらの《色絵藤壺文茶壷》は、ここに永遠の居場所が与えられました。今後、貸出の予定はないとのこです。陶器は、屏風などの日本画と違い、展示による劣化の影響は考えなくていいらしいです。
必ず出会える国宝・・・・・
これまで、訪れるたびに目にしてきました。が、よくわからなかった作品です。このリニューアルをきっかけで、そして、「蔓」というキーワードが与えられたことで、壺の新しい表情に出会うことができました。
人気のいない時を狙って、ぜひ、一周してみてはいかがでしょうか?
そうそう、この壺は、磁器ではなく陶器なのだそうです。磁器への絵付けは、比較的簡単なのだそうですが、陶器への絵付けはむずかしいのだそう。そのため、うわ薬なども研究して、絵付けができるよう茶壷の地の色がこの色になっているそうです。
その時代の技術を知る。ということも作品のすばらしさを知る一助になります。
■関連
■MOA美術館:見どころ(個人的なおすすめなのであしからず)
■MOA美術館:国宝常設《色絵藤文茶壺》の新発見!? ←ここ