東京国際フォーラムにてパナソニックによるSUPER BOX2017が、11/15~11/17まで行われました。その中で学芸員、当該設計者向けの「美術・博物館LED照明講座」が行われ参加させていただきました。
■気になる赤の色
現在、パナソニック汐留ミュージアムで行われている「表現への情熱 カンディンスキ―、ルオーと色の冒険者たち」を内覧会で鑑賞した際に、《法廷》という作品の裁判官が着ている法衣の赤がとても目につき、気にかかっていました。
内覧会にて、この展示の照明が最新のものにすべて変えられていたことがわかりました。その照明は、従来のLED照明の赤の見にくさが改良されたものでした。
■どうやって赤を見やすくしているの?
従来の照明では、「赤が見にくい」という感覚は特に感じていませんでした。それなのに、今回、赤がよく見えたこと。また赤をより見やすくするというのは、どういう仕組みなのか興味を持っていたところ、「美術・博物館LED照明講座」に参加させていただく機会をいただきました。
■講義内容
〇「美術・博物館のライティングについて」
アメリカの美術館のライティングについて紹介がありました。全体として自然光を取り入れた照明が多いこと。そしてLEDの普及はまだまだという印象でした。照明デザイナーがどのようなことに配慮されているかというお話も興味深かったです。
また国内の使用事例についてのお話もありました。赤い色がよく見えるようになった新型ライトが出ても、所蔵する作品が人物画が多い場合などは、肌の色がよく見えるライトが選ばれたといった事例が紹介されました。
〇「パナソニック建築設備総合内覧会 SUPERBOX見学」
ルノアールのポスターに従来型の照明と、最新の照明をあてたもので比較がされていました。
〇「照明の測定」
会場の照明の赤がどれくらいの数値か、測定が行われました。会場の照明は20程度。最新型では90以上。かなり高いことがわかりました。
数値の上での違いはかなり大きいですが、視覚は、それだけの違いとしてとらえているかというと、数値とは比例はしていないそうです。
(新型90以上、旧型20~30 数値上はかなりの差です。しかし、実際に見た感じというのは、正直いって、そんなに差があるように見えませんでした。数値は見る感覚を相関的に反映しているのかな? と思ったというのが正直な感想でした。)
■基本知識を会場で
会場の説明では、LED照明と白熱電球との違いといった基本的なことや、LED照明の研究の歴史などを通して、白熱電球とLEDの照明の基本原理が全く違うということがわかりました。
また、新型電球の測定グラフや数値(Ra)(R1~R15の意味)(Kの単位)などもわかり、なんとなく理解できるようになりました。測定評価数という数値の100というのは、どういう状態なのかということがわからなかったのですが、それは自然光のことで白熱電球とほぼ同じであるということもわかりました。
■理想の照明とは?
様々な状態を作ることができる照明ですが、絵画に対して理想の照明というのはどのような照明なのでしょうか? 100という数値の自然光で見る状態なのか。学芸員が見せたい光の状態なのか、照明デザイナーの意向なのか、その兼ね合いはどうなるのか?
最終的には、学芸員がその展示企画でどのように見せたいかというところで決まるとのことでした。アメリカでの調査でも照明デザイナーが同様のことをおっしゃっていたそうです。
その絵が描かれた時代のイメージを演出する、あるいは色をクリアに見せたいなど、企画に合わせてどう見せるか最終的には学芸員にゆだねられるそうです。一方、鑑賞者にも好みがあり、年齢によっても差があるそう。若い方ははっきりした強い光を好み、年齢が上がるとやわらかい光を好むようです。
学芸員さんが主になりながら、照明デザイナー、技術者の意見などを参考にして照明が決定されていることがわかりました。
■新しい照明の解説について
見学中、「照明が新しくなったことを解説などで知らせないんですか?」という質問がなげかけられていました。私も同様なことを感じていました。そしてパナソニック汐留ミュージアムの今回の展示の照明が新しいものであることを知らせた友人たちも同様なことを口にしていました。
「お知らせしてしまうと、先入観を持って見てしまうから、先入観なしに見て欲しい」「そういう表示をすることも検討した方がいいかな?」「パナソニックの宣伝に思われてしまわないか」
新しい技術を鑑賞者に伝えるということに対しても、様々な思いがあることも感じられました。
■照明は黒子?
私自身、照明ということに興味を持ち始めて、美術作品を見るようになると、見なくていいことまで見てしまうということが起きていることに気づきました。(○直島:家プロジェクト「南寺」 滞在中に3回鑑賞 改め実験 )
光に着目すると、「視覚の認知」ということにまで広がり、本来の絵画鑑賞とは違うモードに入ってしまいます。これは、もしかしたら本末転倒ではないか・・・と思っている面もありました。
照明は黒子なのではないか・・・・
あまり、技術にばかり目が向いてしまうと、本来の鑑賞から逸脱してしまい、それはどうなのだろうと思ったり。でもそれが自分の見方だから・・・とも思っていました。
会場に訪れるまでの移動中に、根津美術館の建築と照明を担当された方たちのレポートを読んでいました。建築を担当された隈氏は「天井のライトが目に入る。それを見えなくしたかった」とおっしゃっていました。私もたまたま山種美術館の照明担当の尾崎氏のお話を伺い、天井の照明を気にするようになりました。しかし今、その記事を見ながら「鑑賞者はそんなところは見てはいない」と自分のことを振り返って思ったのでした。
■照明の役割
設計側はいろいろ考えます。それらは表だたないように黒子になるための手法です。開発の方も、照明は黒子であるべきだと考えているとおっしゃっていました。照明が表に出てくるのではなく、「なんとなくこの光、違う気がする‥‥」そんなふうに感じていただけるのが理想なのだそうです。
そんなことからも、あえて表示はしないという意向もわかる気がしました。「あれ? 何かが違うみたい・・・」と感じてもらえることが、技術者冥利なのかもしれません。
美術鑑賞で照明をちょっと気にしてみることで、新たな世界が広がってきたという一面もありました。その一方で、技術的なことばかり気にしてしまうと、本来の鑑賞を楽しむということから逸脱してしまうことも(笑)
尾崎氏が、鑑賞のコツとして、ポイントをそれぞれ変えて3回見るとおっしゃっていました。最後に照明を見るのだそうです。照明によって見え方が違うということを知った時は、ここの照明はどうなっているのか? ということが気になりました。
ところが、最近はそれをあまり意識しなくなっていることもわかりました。「あれ?」と思った時にどうなっているんだろう・・・と確認するような感じです。意外にバランスよく見ることができるようになってきたのかもしれません。それでも明らかにこのライト違う! と目に飛び込んでくることもあります。
最近、感じるのは、美術鑑賞は知ることによる面白さが深まる一方で、知らないで見るおもしろさが損なわれてしまうということでした。知ってしまったあとの鑑賞は、知らない状態に戻すことができにくくなってしまいます。それをあえてリセットして見るというテクニックも必要になってきます。
油絵は、いろいろな色が重ねられています。(⇒パナソニック汐留ミュージアムのルオー展示のコーナーに、作品のモニターがあり、拡大もできるのでその様子が手にとるようにわかります)「色が重なっており、その中に埋もれている色があります。それらの色は、様々な条件によって、引きだされてくる」そんな可能性があることを知っていると、それを常に意識していなくても、何かの機会に表情が変わったという体験ができるかもしれません。
同じ絵を何度も見ることの楽しみの一つではないでしょうか? 昔のLPレコードにもいろいろな音源が隠れていると言います。様々な技術によって、聞こえなかった音が引き出され、音の表情を変えると聞きます。絵画の中にも埋もれていた色が、光の技術によって引き出されてくるのかもしれません。
■パーソナル利用も可能?
今回紹介された照明は、美術館、博物館仕様でしたが、美術好きの友人にこの照明の話をしたところ、「好きな絵を飾る時に、4万円台なら手が出せないわけではない価格じゃない?」と話していました。
この一枚! というお気に入りの絵が見つかった時、照明にもこだわって、調光機能を備えた光で、一枚の絵をいろいろな表情で楽しむ。あるいは、購入して何年もたって見慣れてき絵も、この照明を使って気分を変えてみるという楽しみ方もあるかもしれません。そして、美術館でも使われている最新の照明・・・というのは、ちょっとした自慢になるかも・・・(笑)