コロコロのアート 見て歩記&調べ歩記

美術鑑賞を通して感じたこと、考えたこと、調べたことを、過去と繋げて追記したりして変化を楽しむブログ 一枚の絵を深堀したり・・・ 

■山種美術館:日本画の教科書 東京編

 山種美術館では、日本画の教科書」と題して、京都に引き続き東京編が開催されています。(4/16まで) 京都編は行けませんでしたが、東京はどうしても見たい、知りたいことがあって、ぜひと思っていました。また幸いなことに以前、速水御舟展で気になっていた作品が、撮影OKとなっていました。思わぬ再会となりました。

 

 

 

■「昆虫二題 粧蛾舞戯 葉蔭魔手」1926年

 

 

展覧会名:日本画の教科書 東京編展

作家名 :速水御舟

作品名 :「昆虫二題 粧蛾舞戯 葉蔭魔手」

所蔵者名:山種美術館

 
二作で一つの作品ということで、展示は近づけてあるとのこと。
昼と夜、静と動の対比。
 
 

〇《 粧蛾舞戯》(しょうがぶぎ)

あの《炎舞》の翌年に描かれています。

 
 
 
  ↓ 蛾の羽根の振動               ↓ 映り込みを避けて下から撮影
  ↑ 中心に向かう蛾               ↑ 中心部
 
 
個人的には、《炎舞》よりもこちらの方が好き・・・・・
 
 
 

〇《葉陰魔手》」(よういんましゅ)

▲ヤツデに「蜘蛛の巣」と「蜘蛛」。
 
 
▼糸には雲母(きら)が塗られているので、光を受けてキラキラ輝きます。
その中心の蜘蛛・・・・
 
 
▼「円の蜘蛛の巣」と、「面ではった糸」
 
 
▼私が注目したのは葉の描写  表と裏を描いた構成により広がりが・・・・
 
 
▼向こう側に伸びる裏側の葉 この一枚によって空間がぐっと広がります
 
 
▼裏葉の対面には、表面の葉が描かれ手前にググッと伸びる。

 

 

▼左右に配された葉が、空間に広がりを与えている  

 その間をつなぐように四角い面の蜘蛛の網がかかっています

 

▼中心でバランスをとっているかのような蜘蛛

 

 

以前、行われた「速水御舟の全貌ー日本画の葉かいと創造ー」を見た時に、上記のようなことを感じていたのですが、言葉で表すことができませんでした。

 

《炎舞》より、《粧蛾舞戯》の方が私はいいと思うなぁ・・・・・と思った記録がこちら

   ⇒速水御舟の全貌 ―日本画の破壊と創造― ④《炎舞》. (2016/11/04)

 

上記より以下転載 

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速水御舟  日本画の破壊と創造 より 

〇情報がない方がおもしろい

事前の情報が少なかった、《昆虫二題 粧蛾舞戯》 《昆虫二題 葉陰魔手》に心ひかれました。

これは《炎舞》を描く前の習作的な作品なんだろうか・・・・制作年を《炎舞》のところまで行って確認してきました。

《炎舞》の翌年(1926年 32歳 )でした。ということは、また、新たなチャレンジをしようとした作品?

私が最初に見た印象は、《炎舞》の前に描かれた作品で、習作のようなもの。ここから模索を重ねて、《炎舞》に至ったのかなぁ・・・・と思いました。でも、吸い込まれていく感覚はこちらの方が上だなぁ・・・と思いました。それにこちらの方が蛾が飛んでる気がする・・・

炎の回りの色は、《炎舞》とどれくらい違うんだろうか・・・ 横に並べて見てみたいなぁ・・・・第二展示室を行き来して比べてみようと思ったのですが、もともと照明も違うので、比較するのはあまり意味がないかぁ・・・

2度と描けないと言ったけど、こちらの色と何が違うのだろう。《炎舞》に対して、こちらの絵の評価はどうなんだろう・・・

蛾を細かく観察してみると、《粧蛾舞戯》方が面白いと思うな・・・ それにしても、蛾の色が氾濫しすぎだけど・・・・ (笑)

「昆虫二題」のうちの《葉蔭魔手》の蜘蛛の巣の張り方は、どうなんだろう・・・・ 後光が出てる!(蜘蛛の巣の中心から) 糸が光ってる! なんだか、見ていて楽しいのです。いろんな発見があって・・・・



ところが・・・・

 

 

〇評価が低い?

お昼を食べながら、御舟の資料集を見ていました。山崎館長の解説があって、うろ覚えで、印象ですが、《炎舞》のあとに描かれた《昆虫二題》は、脱力している。《炎舞》に遠く及ばない・・・・と。

そうなのかぁ・・・・・ でも私にとっては、《炎舞》よりも見ていて楽しかったし、
自分で一から解釈するおもしろさがありました。

 

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重要文化財の認定 

というように、私にとっては、重要文化財《炎舞》よりお気に入りだったこの作品の撮影が可能で、うれしいはからいとなったのでした。

 

ところで、重要文化財の制定について、下記のような見解を発見!

 

  ⇒ ●新美術館開館記念特別展 速水御舟  日本画への挑戦

 

 

■「速水御舟 日本画の破壊と創造」を見て感じていたこと

最大の見どころは、画風の変化。その変遷。一人の画家が描く画風、テーマ、描きかた、構図、ジャンルなど、同じ画家とは思えないというほどのバリエーションがあり、他館から借りて、それをあますところなく見せたという展示会。

 

それに対して感じていたことは・・・・

ネット上で作品を見る限り、売りの画業の広さはこの程度のもの? と感じていました。それは、その前に其一展でそのすごさを目の当たりにしてしまったから・・・それを差し引いたとしても、画家なら、これくらいの画業の変化はするのでは? というのが私の率直な感想でした。

友人は、テレビで見ただけの感想ですが、単に新しいものをみつけたら、飛びついて、渡り歩いただけに感じる。一つ一つのチャレンジが、昇華されていないように思うと・・・

 

周囲の作品、速水御舟への評価を見ると、こんなことを言ってしまっては、石が飛んできそう・・・(笑)と思って、公開されない自分のメモに上記のことを記録していました。

 

〇 新美術館開館記念特別展 速水御舟  日本画への挑戦

 カフェに据えられている新美術館の開館に寄せた山下先生の寄稿に意を得たり!

 

山下裕二先生寄稿 (p11)

御舟の「よく?折」により老大家、あるいはのちの老大家によって称えられたことで以後の院展日本画全般のありようにとてつもない影響を与えてしまった。また山種による一括購入による御舟のブランド化が加速。御舟は特別という風潮が・・・・

 

全能の神のごとくあらゆる技法に習熟しその技法を画面に余すことなく定着したタイプの画家ではなかった。線画を排除した塗る日本画に傾倒。日本画壇が御舟に冠をいだくことでつまらない美術史作った。大観、天心の評価とともに見直すことが必要。

山種美術館顧問の立場でのこの発言は大英断・・・・?   初めて横山大観を見た時も、何がいいのかわからない・・・と感じた第一印象。天心からの日本美術史を見直せと・・・

 

山下先生が『こう見てヨシ!をもう一度/驚くべき日本美術』で言われていること。

作品を「はじめて見る」という体験は一度限り。
解説を読むのは後回しにして、まず作品を見る。 

 

はじめて見た時の直感・・・・ やはり大事だと改めて思いました。

 

●2016.11.17 記録

今の私には、《炎舞》のよさがいまいちよくわかりませんでした。


重要文化財だから・・・・・ 自分にとっていい絵だとは限らない。
美術家が言ったこと・・・・ そのまま鵜呑みにしない。

私は私の見方で絵を見る。
御舟、一番の(?)最大の代表作を見て思ったのでした。

 

 

■追記(2017.04.09) 林先生の痛快生きざ大辞典 速水御舟

www.youtube.com

 

祖父が日本画。子供のころから日本画に接してきた林先生の一押しが御舟。絵を見た瞬間、息をのみ、展覧会に出るたびに見に行ったという絵を紹介。とにかく頭をガーンと殴られたこの絵を見て欲しい・・・それが《炎舞》

 

(子供のころから絵本のように日本画美術書を見て、日本画に対してなみなみならぬ思いのある林先生の一押しが速水御舟なんだ・・・・  その心は?)

 

 

www.youtube.com

 

上記の2:00~に注目!

別冊太陽「速水御舟」を取り出し、日本画松井冬子さんと山下裕二さんが、「プロの目から見た時に、本当にうまい画家ではなかったのではないか」と書かれていることを取り上げていました。一つのことに没頭して打ち込んで描いているうちに、描けるようになってくると。

 

ここで、すごいと思ったのは、ただ速水御舟がいいと言っているだけはないということでした。違うとらえ方にも目を向け、それを受け入れた上で、自分の推し画家を紹介していたことでした。

 

速水御舟について、評価する声が蔓延している気がして、私には、どうも腑に落ちない状態でした。山下先生、松井冬子さんも「別冊太陽」で疑問を提していたことを知りました。

 

■追記(2017.12.11)別冊「太陽」速水御舟 日本画を「破壊」する

「いま、御舟の絵に向き合う」より(p116~125)

天才か努力の人か

山下:御舟について思うことは、この人はうまれつき絵描きとしての天才的な資質を持った人ではないと。見たものをさっと再現できてしまって、素描もすごく達者という人では全然ない。(中略)《炎舞》といった有名なものを見ても、すくなくとも線が達者な人では全然ないね。だから面的な色彩の効果というものを、とことん突き詰めようとした極めつけの努力家なんだろうね。

松井:私もそう思います。中略 努力する才能を持っているというか…

 

9ページの特集の中で、否定的(?)にとらえていたのは上記の部分だけ。たったこれだけの部分を、林先生は拾い上げていることの方に驚きました。

 

一方、昨年行われた『日本美術全集』完結記念文化講演会でも、山下先生と松井冬子さんの対談が行われ、速水御舟や《炎舞》について言及がありましたが、そのようお話は、されていませんでした。

(この時は、山下先生の10周年の寄稿文をまだ目にしていなかった時期でした。また松井冬子さんが、《炎舞》の秘密をさぐるべく、軽井沢で火を焚き、御舟に迫るといった番組もありましたが、そのようなお話はなかったように記憶しています)

 

語られていることをどう受け止めるか・・・

 

 

■脚注