東京国立博物館では、特別展「縄文ー1万年の美の鼓動」が始まりました。主催者の熱い思いとともに、土器類を貸し出した自治体や博物館の方々の熱いまなざしで、会場はメラメラ炎をくゆらせていました。縄文とは何か? 縄文人とは? その先には日本人のマインドの源流がみつかるかもしれません。
*写真の撮影は、主催者の許可を得て掲載しております。
■縄文時代って?
〇6期に分かれる縄文時代は一万年
縄文時代は、旧石器時代が終わったおよそ約1万3000年前から始まり約1万年間続きます。その時代、縄目模様を持つ土器が使われたことから、縄文時代と呼ばれるようになりました。
縄文時代は考古学的には6期に分かれています。展示室に入ると、年表が示されており、その大まかな時代の流れをとらえることができるようになっています。
6つの時期によって特徴があり、専門家の方は、縄目模様や出土地域などから、どの時代のものであるかがかわかるそうです。しかし我々は、そんな細かいことを理解しなくても、おおまかにとらえればよいとのお話はハードルが下がります。
〇一万年の縄文と、2018年の長さの比較
ちなみに1万年といっても、通常、私たちが学ぶ歴史の時間とは全く違います。今は西暦2018年。約5倍のスパンで緩やかに時間が流れていた時代の変化です。
時間のスケールを同じにして「縄文時代」と「旧石器時代」を比較すると水色の帯の状態に。縄文時代はさらに6期に分かれますが、これでは分割しにくいので、10倍に拡大して引き出しました。
次の「弥生時代」はその中に埋もれてしまいました。「縄文時代」「弥生時代」と並列で語られますが、弥生時代は黄色の部分の長さしかなかったことがわかりました。現在2018年。この長さを表すと緑の部分にしかなりません。こんな悠久の時間の流れの中でおこった変化であることを理解しつつ・・・・
(ちなみに、2017年3月に科博で行われた「ラスコー展」の洞窟は、旧石器時代で2万年前のお話)
縄文時代を大まかに3期に分けてとらえて見る視点について、東京国立博物館 特別展室主任研究員 井出浩正氏の解説と、そのあとのインタビューで伺ったお話を交えながら、2章を中心に見どころをご紹介いたします。
■「美のうねり」を感じよう
〇「前期」「中期」「後・晩期」でとらえる
展示構成の「2章 美のうねり」では、1万年という時間の流れを「前期」「中期」「後・晩期」と大まかに、3つの時代に分けてあります。その中でどのように変化したか、細かいことは抜きにして、美のうねりとして感じて下さいとのこと。構成も大きなまとまりで展示されています。
下記が、2章の展示室のフロアマップです。
上記のように、「前期」「中期」「後・晩期」と3つのエリアを貫いた空間構成は、全体を俯瞰できます。それぞれの時代の特徴がわかりやすいよう土器はグループにまとめ塊で見せているのが特徴的です。1万年という縄文の時代を、時空の旅をするかのようなしかけです。
〇それぞれの特徴
◆前期・・・・埋め尽くす美 ⇒縄の文様
◆中期・・・・貼り付ける美 ⇒粘土を幾重にも張り付けた装飾
◆後・晩期・・・・描き出す美 ⇒描線によって描き出す美
縄文の1万年は「縄があって」「粘土をつけて」「あえて縄模様を消した」という大きな流れのうねりと捉えて、その時代を感じてほしいとのことでした。
■見どころポイント
解説やインタビューから、個人的にとらえた「見どころ」をご紹介します。
〇露出展示で縄文の空気を感じよう
縄文中期の中央に展示された「火炎型土器」と「王冠型土器」のコーナーは、なんと露出展示です。通常はガラスケースに入っていますが、今回は所蔵先である新潟十日町博物館の特別なはからいとのこと。縄文の息遣いが、空気を通して伝わってくるようです。
こんな土器を用いて煮炊きをしていたというのですから驚きです。どこにどうやってしまったのでしょう。移動中に壊れたりしなかったのでしょうか? もしかして据え置きで使っていた? いろいろ想像が膨らみます。
↑ 展示風景
〇ニワトリのトサカのような把手が4つ
↑ 火炎式土器 「鶏冠状把手」
土器の縁の突起。これらの装飾は粘土で「貼り付け」て制作されました。立体感が際立っており、これらは4つの組みになっています。
この時代、ニワトリがいたわけではないのですが、ニワトリのトサカ模様に見えることから、「鶏冠状把手」と言われているそう。移動のためのハンドルのようなものだったのでしょうか? 4つというのは2人で抱えるためでしょうか?
トサカの部分が、王冠タイプのものもあります。
〇縄文人は、ハートも描いた!?
↑ 火炎型土器 部分
「火炎型土器」を見ているとハートの模様が至るところに見られます。これは「火炎型土器」に限ったものではなく他にも似たような文様がみられるそうです。縄文人がハート型を作り出したということでしょうか?
井出浩正氏によると
縄文土器の文様で多いのは、S字を横にしたり、クランクの文様。ハート型というのは確かにめずらしい。最初からこの文様があったかどうかは判断しづらいのですが、制作するうちに形が整ってきて、使われるようになったのではないでしょうか?
ハート型というと、イノシシの目を形どったといわれるハート型の「猪目紋」と言われるものがあります。若冲の孔雀や工芸品にも見られます。もしやそのルーツは、縄文時代にあったのかも? と思ったのですが、縄文時代のハート型は、このあと受け継がれてはいかなかったそうです。
現代的なデザインかに思えるハートマークを作りだしてしまった縄文人。そのデザインセンスには驚かされます。ハートの形もちょっといびつなものもあって、どんな形がバランスがいいのか、試行錯誤をしていたようにも感じられます。あなたのハートに響く形を探してみてはいかがでしょうか?
〇一度つけた模様をあえて消していた!
晩期の特徴は一目見てわかるとおり、土器のサイズが小さくなっています。
↑ 展示風景
その代わりと言ってはなんですが、細部にわたって巧妙な技術が見られるようになります。その一つは、磨消(すりけし)という技法。一度、縄をころがしてつけた模様を、わざわざ消すという手の込んだものです。
これによって、模様をつけたところが浮かび上がったり、あるいは、消した模様のないところが浮かび上がって、コントラストが際立つ効果があるそうです。
縄模様と消した部分に、さらに「磨き」をかけることによって、渦巻がよりはっきり見える効果が加わりました。遠目に見ても縄の文様がはっきりくっきり見えます。
↑ 重要文化財 壺型土器 青森県十和田市滝沢川原出土 文化庁蔵
上部が黒くなっています。煮炊きによるススでしょうか? こちらの土器は、着色が施されているとのこと。この土器は煮炊きの実用というよりは、鑑賞用に近く、縄文晩期の土器は、工芸品のような位置づけも担い始めたようです。
また、今では漆製品はジャパンと呼ばれ、海外でも親しまれていますが、縄文時代には漆が使われていました。工芸品としての位置づけを見せ始めています。
↑ 赤い漆が塗られた器
井出浩正氏 いわく
縄文晩期というのは、弥生時代に移行する時期で低く見られがち。しかし工芸的なものも多く作られた時代で、種類も増え、注ぎ口がついた土瓶のようなものやサラダボールのようなものなどバラエティーに富みます。そんな中からお気に入りを探してみて下さい。
↑ 注ぎ口がついた土瓶
↑ サラダボールのようなもの
■世界に類をみない造形美
「第3章 美の競演」では、日本の「縄文時代中期」と同時代の世界の土器が展示されています。
↑ 第3章「美の競演」 展示風景
世界各地の土器をこうして比べてみると、日本の縄文土器の造形美が、いかに特異的であるかが見てとれます。
↑ 展示風景
なぜ、日本だけがこのような装飾を発展させたのでしょうか? 一方、他の国では、装飾が発展しなかったのでしょう? 縄文の装飾は日本の美意識の原点と考えられるのでしょうか?
井出浩正氏 によると
まずは安全で使えるものであることが第一。そのあとに美というものを考えるようになった。美意識は縄文のスタートの時からあったと考えてよいのではないか。一方、他の国は、機能が最優先でした。
これらの繊細であり、大胆な装飾の道具類から、縄文人の道具に対する思いのようなものが伝わってきます。使い捨てでなく大切に丁寧に扱おうという気持ちというのは、作る側の思いなのか、あるいは、その思いを込めることで、使う側の人にもその気持ちを喚起していたのではないでしょうか・・・・
道具を次の世代に代々、受け継いでいくという意識も持っていたのでしょうか?
縄文時代は、1万年という時間の流れがあります。その中で次の世代へと言っても一瞬の時間にすぎません。しかし、文様の伝統というのは受け継がれていかなければ続かないということを考えると、代々受け継いでいくということも考えていたかもしれません。
このあとは、祈りや子孫繁栄の道具、土偶などの展示へとつながります。
■まとめ 感想
日本の美の源流は縄文にあり。
一見、装飾過剰ともいえそうな陽明門や、絢爛豪華な金屏風の美。その一方で、「わびさび」のようなそぎ落とされた世界。相反するような美の世界が日本には存在しています。
これら日本の原点と思える美のとらえ方が、縄文時代の流れの中で生まれていました。「豪華」vs「質素」それは一種の反動であったのかも・・・・ と思いながら、土器をはじめとする道具を目の前に置き、機能面では不要とも思える過剰な装飾をひたらすら施した縄文人の姿が浮かびあがってきました。
縄文人は熱い思いを秘めていました。そんな縄文マインドを伝えたいというこの企画を担当された方々の思いも熱く伝わってきました。そして今回、縄文土器を出品された自治体、博物館の方たちも、我が町のアイドルをお披露目して広く知ってほしいという思いが、会場内で渦巻き熱気となっていました。
全国からビデオレターも届けられています。
地域の宝、かわいい我が子の晴れの舞台ともいえるトーハクは、紅白歌合戦の舞台のようなもなのかもしれません。地元に戻ったら箔をつけて迎えられるのではないでしょうか?
もしかしたら「御朱印めぐり」のように、各地の土器めぐり、土偶めぐりのブームが到来するかもしれません。
■展覧会情報
展覧会名:特別展「縄文―1 万年の美の鼓動」
会 期:2018年7月3日(火)〜9月2日(日)
会 場 名:東京国立博物館 平成館
住 所:東京都台東区上野公園13-9
問い合わせ先:03-5777-8600(ハローダイヤル)
■参考
縄文という時代の長さの比較
〇asahi.com:歴史を見る物差し 年表あわせ、時代感覚を養う
縄文時代を、スケールで表すと
⇒〇平安時代の年表は何色だったか?という問いかけ
引用:■ラスコー展:②感想:1章を見ればラスコー洞窟情報はほぼバッチリ - コロコロのアート 見て歩記&調べ歩記より
〇■(2017/01/28) / [01/26] ホモ・サピエンスと芸術~縄文人とクロマニョン人と岡本太郎からさぐる芸術のはじまり より