現在、科博で「人体展」が行われており、好評のようです。この展覧会の記者発表では、「人体を理解するためには何をしてきたのか」「人体を理解するとはどういうことなのか?」という投げかけがされています。自分自身がいかにして人体を理解してきたかの記録を兼ねてまとめておこうと思います。
*写真は主催者の許可を得て撮影しています。
- ■タモリ×山中伸弥「驚き!人体解明ヒストリー」
- ■「理解する」「わかる」ってどういうこと?
- ■人体を理解するとは?
- ■最初に学んだ腎臓の機能
- ■ 理解するためにかかった一年以上の時間が、凝縮された模型
- ■腎蔵の体内美術館
- ■腎臓の位置
- ■「人体を理解する」ということについて
- 【追記】(2018.04.03)EPO(エポ)・・・・エリスロポエチン
- 【追記】(2018.04.03)糸球体 足細胞
- 【追記】(2018.04.04)「人体展」を楽しいと思えるのは?
- ■参考
- ■関連
■タモリ×山中伸弥「驚き!人体解明ヒストリー」
昨日(2018.3.31) NHKスペシャル「人体」の司会、タモリ×山中伸弥氏による「
学生時代に学んだ「脳はすべての司令塔」・・・・ この考え方に、長きに渡って支配されてきました。最初に聞いた時には、にわかに信じがたく受け入れられませんでした。人体のことを考えた時、その全ての発端は脳にいきつきます。それは、神経細胞と神経線維を伝達する信号。それは微弱電流によってもたらされる。つまり、電気信号によって体は支配されている。
心とは何か? 考えるとは何か‥‥ それさえも、微弱な電気信号がおこしているにすぎない。では、その微弱な電気信号はどのようにしておきるのか? そこがまだ、自分の中で解明ができていない。というのが「人体展」を見る前の私の体に対する理解でした。
〇新しい情報をどう受け入れるか?
「司令塔は脳ではない」 臓器が相互作用しメッセージ物質を出してネットワークでつながっている。最初に聞いた時は、ホント? 私はNHKの情報だって、すぐには信用しないんだから…って(笑)
よくありがちなのは、学会のトピック的なことを取り上げて、視聴者の興味を引き付けようとする取り上げ方。あるいは、おもしろそうな仮説を取り上げて、さも実証されたかのような放送をしたり・・・・ この番組もそういう可能性だってある。というところから入っていきます。山中先生が出ていらしても、それは台本によって、テレビ局側の求めに応じているだけ。それに従って、伝えているだけかもしれないとまで思いながら見ます。
しかし、この情報が確かかどうか、調べる手段が私にはありません。そんな時は、信頼する医師に意見を求めます。情報を広範囲に渡って御覧になっていらっしゃり、その取捨選択が自分の求めるものと一致する。何か説明を求めた時、私が欲することを過不足なく的確に提示していただける医師です。その先生によると、信頼していいですとのことでした。これで懐疑的な視線は一気に納まりました。
さらに、内覧会の時、この企画に携わった方にも、この一連の情報って本当のところどうなんですか? と失礼極まりない質問までしていました。しかし、それができたのも、展示の全体を見ていて、確かにそうなんだろうな…と思えていたということがあったからだともいえます。
■「理解する」「わかる」ってどういうこと?
人体を理解するために、人類は何をしてきたのでしょう。そもそも人体を「理解する」とは、どういうことなのか。この展示は問いかけています。
たとえばアートを「理解する」「わかる」ということを漠然と考えていました。「理解する」というのはどういうことなのか。何を持って「理解する」「わかった」といえるのか‥‥
「理解する」というのは、人によって捉え方が違う。そもそも、アートを「理解する」ことなんてできるものなのか‥‥
高校1年、始めての生物で先生が話されたこと。今でも頭にこびりついています。「科学の研究においていろいろなことが解明されます。しかし結局のところ、真実はわからないものなんです。でも研究の過程において、他の研究でわからなかったことが解明されていく。こうして、いろいろなことが次第にわかっていくのです。」
真実は闇‥‥ 本当のことは、だれもわからない。その時から、インプットされた気がします。物事が「わかる」「理解できる」ということはない・・・・・
〇「わかる」「わからない」にはレベル、深度がある
一口にわかると言っても、その「わかる」にはレベルがあること。そして「わからない」にもレベルがあって、最初の全く、右も左も「わからない」状態と、いろいろなことを調べて、ぐるり一周してみたけど、やっぱり「わからない」状態。同じ「わからない」にも知識レベルの深度に違いがあります。
どの「レベル」で「わかった」とするのか。それもヒトによって違うだろうし、求める深度も、人によって違う。また「わかった」と認識する深度がどれくらいなのか、と意識している人もいれば、上辺の理解でわかった気になる人も‥‥
〇どの「側面」から理解するか
例えば、美術界の「茶碗」について理解しようと思った時、私はまず、茶碗は何でできていて、どのように作られ、どのような反応によって、図柄ができるのかということを理解しようとしました。組成や製法についてを理解したいと思いました。
ところが美術の世界は、伝来やその時代の価値観などにスポットがあてられており、知りたいことの側面が違うということを強く感じさせられていました。「茶碗」を「理解しよう」と思った時に、何を理解しようとするかが違うということを感じていました。茶の湯の世界に流れる根源的な部分から理解するという一面もあるはず。
従って、一口に「人体を理解する」と言っても、「何を理解するか」というのは、違うと思ったのです。
■人体を理解するとは?
「人体を理解する」ということについて、記者発表の際に、次のような解説が行われていることが、漏れ伝わってきました。
人体を理解するためには基礎となる「機能的な説明」「進化的な説明」「発生からみた説明」という3つの制約がある・・・・・と。
これを見た時に、やっぱり私は科学の世界が好きだとつくづく感じました(笑) 科学の世界は「人体を理解する」という言葉を漠然と捉えるのではなく、何を理解するかという視点を明確に提示してから、スタートする。その条件の元、考える‥‥ こういうアプローチが自分には、しっくりとなじむのだなぁ…と。
〇いかに人体を理解してきたか?
今回の人体展を見ていると、人体のことがわかった気になります。しかしそれは、まだ入口の部分で、真の意味の理解には至っていないはず。本当の意味を理解するには、もっと基礎知識も必要で、その理解があって初めて、体の機能の理解ができます。
それは、下記の腎臓の模型を見た時に思い出しました。
懐かしさとともに、この構造や機能を理解するまでに、どれだけの時間を要したか。どれだけの学びが必要だったか‥‥ 立体模型を理解するために、パーツ、パーツの理解を積み上げながら、つながりを確認し、縮尺を意識してやっと、全体像が見えてきたこと。
人体をいかに理解してきたか‥‥ という問いかけに対し、私が腎臓をどのように理解してきたのか‥‥ 自分の記録も兼ねて、紹介しつつまとめておこうと思います。
■最初に学んだ腎臓の機能
高校を卒業し、短大に入学。高校で履修したのは生物1だけ。受験では生物を選択していませんでした。最初に向き合った臓器は一般検査の中の尿検査で学ぶ腎臓の機能でした。
上記のようなイラストを元に、腎臓というのは糸球体という毛細血管の集まりと‥‥‥
①「糸球体」から、血液が「ろ過」され近位尿細管にいきます。
②「近位尿細管」で、一度ろ過されたものが「再吸収」されます。
③そのあと「ヘレンのループ」にいって水を「吸収」して濃縮
④「遠位尿細管」では、また「再吸収」と「排出」が行われる
おおまかな概要がこんな感じです。ポイントは「腎臓」は血液を「ろ過」してから、体の状態に応じて必要なものを「再吸収」したり、いらないものを「排出」したりするということ。
テストでは、近位尿細管、遠位尿細管で、どんな物質がやり取りされているかを覚えることがポイントです。
以上を理解すれば、テスト対策はほぼOK。なんとなく腎臓の機能、尿の生成については理解できたことになります。
〇模式図の本当の構造はどうなっているの?
ところが、ここで出てくる名称。「糸球体」「近位尿細管」「遠位尿細管」「ヘレンループ」が腎臓のどこにあるのか。実際にはどんな構造なのか。それを自分の目で確かめておかないと気が済まない。上記の図は「腎小体」と言われるもので、調べてみると模式化された図が、いろいろなイラストで表現されていました。
▽こんなふうに縦に描かれたり
出典;https://www.kango-roo.com/sn/k/view/2340
▽一般的には、こんなふうに横の図で描かれます
出典:1日にどれくらいの尿が生成されるの?|尿の生成|看護roo![カンゴルー]
これらは簡略化した模式図。実際はどんな形、構造で、腎臓のどこにどのようにあるのかを視覚的に確かめたい。と思っていたらこんな図を目にしました。
なふほど‥‥ ヘンレのループって本当にカーブしていたのかぁ‥‥ 糸球体はお椀のようなカップが受けているみたいに描かれているけど、毛細血管はぐるぐるに巻になったものがその中に入っていたんだ・・・ 近位尿細管、遠位尿細管っていうのは、イラストみたいにまっすぐではないと思っていましたが、集合管の回りを取り囲んでいたとは!
〇生理学から全貌が見えてくる
そんなことがわかったのは、「生理学」を学び始めた頃だったと記憶しています。同時に解剖学の教科書で、その器官の位置が腎蔵のどこなのか調べていました。「近位尿細管」「遠位尿細管」「糸球体」。しかし、下記のような図の中にその部分が見つからないのです。
血液循環を記した腎臓の模式図。(wikipedhiaより)
1.腎錐体 2.輸入細動脈 3.腎動脈 4.腎静脈 5.腎門 6.腎盤 7.輸尿管 8.腎杯 9.腎被膜 10.下端 11.上端 12.輸出細動脈13.ネフロン 14.小腎杯 15.大腎杯 16.腎乳頭 17.腎柱
そんな折、下記のような図を目にしました。
図1腎臓の構造
右側の図には、「腎小体」「糸球体」の文字を確認できます。この部分は「左の図」のどこの部分なのか… まだ、理解ができませんでした。
腎小体、尿細管はいったいどこにあるのか‥‥ そんな疑問をずっと持ちながら、解剖実習、組織学の実習が始まりました。そこでやっと「腎小体」「尿細管」がどこにあって、いかなるものかを知ることになったのです。
〇ミクロの世界 マクロの世界
解剖実習、組織学実習が始まると、腎臓の組織標本のスケッチをします。それによって視野の違いといことを理解します。
「解剖学」と「組織学」の間にあった壁? それは、「肉眼的視野」と「顕微鏡的視野」の違いでした。肉眼的視野で見ている解剖図の中から、「腎小体」「糸球体」を探そうとしていたのです。顕微鏡下で見える器官が、みつかるわけがなかったのです。
下記のような腎蔵の組織のプレパラートを観察する中で、それを理解していきました。
そして、「腎臓」と「腎小体、尿細管」との位置関係と、縮尺の違いということを知るに至ります。やっと「部分と全体」ということを理解できたという経緯がありました。それは下記のような図を目にしたからです。
出典:腎臓の解剖生理 No:185 2013-06-15 23:31:30 | 看護師・看護学生のためのお役立ちサイト☆☆
結局、部位の「囲み」と「引き出し線」 この補助線があるかないか。たったそれだけのことが、理解を妨げてしまうのです。その記載をするだけで、理解のための時間が、激減するのに‥‥ 何が理解を阻むのか。そんなことに意識的になりました。
今、時を経て、ネットで腎臓の解説図を探ってみました。そのほとんどの図に、この引き出し線が示されていました。当時、図書館に行き、いろんな医学書の図譜を見て、その表現の違いから、少しずつ腎蔵の組織の全貌を理解していきました。それが、今は、さささと集めてくることができてしまいます。隔世の感があります。
組織学の実習から「皮質」と「髄質」がどのような組織によって構成されているかを理解すると同時に「生理学」からも腎臓の機能と構造を理解してきます。
〇腎蔵の「髄質」と「皮質」
腎蔵の構造は、簡略的示すと記のような構成であることは、生物でもやった記憶があります。「皮質」と「髄質」の違いは、下記のような図式化された視覚の境界で違いを理解していました。
糸球体とボウマン嚢から成る「腎小体」は「髄質」に存在します。 ヘンレのループや尿細管は「皮質」にあることを理解しました。皮質と髄質に、それぞれの器官が配置されていたことがわかりました。
(さらに糸球体の回りには、尿細管がぐるぐる回っていて、皮質の断面には、尿細管もいっぱい詰まっていることを、映像から改めて理解しました)
■ 理解するためにかかった一年以上の時間が、凝縮された模型
この模型にも「囲み」と「矢印」の指示があります。これがいかに重要であるか‥‥ 腎臓の構造を理解して、このつながりがわかるまで、1年ぐらいかかったのに、この模型を見たら、一瞬で理解できてしまうわけです。
〇腎蔵
腎蔵の「皮質」には、「腎小体」(糸球体+ボウマン嚢)が密集しています
〇腎単位(ネフロン)
「皮質」「髄質」にどんな器官があるか、このような模型で一目で理解できます。それと同時に、見ているものの倍率もつかめます。
〇腎小体
「 糸球体」を構成する血管がどのようになっているかが手にとるようにわかります。そして「ボウマン嚢」「近位尿細管」この模式図は、ミクロの世界の話であること。それを腎の肉眼的な模型で探そうとしていました。その名称を見つけることができないのは当たり前。スケールがまったく違ったのです。
〇最初に見た糸球体とボウマン嚢の図
お椀のようなボウマン嚢の中に、一本の血管が通っていました。
〇次に見た糸球体の図
ボウマン嚢の中の血管は、一本なのではなく、実は血管がぐるぐる巻きになって入っていたことがわかりました。模式図というのは簡略して描かれていることを理解しました。
〇糸球体と尿細管の関係を理解する
「糸球体」それに続く「尿細管」は、この図のように配列されていること。近位・遠位尿細管はまっすぐなわけではない。でもヘンレのループは、図と同じでループ状だったと妙に感心したり。
〇総合的な理解と、病態との関係
腎蔵の構造、機能の理解は、こうした段階を踏みながら、相乗的に相まって、やっと見えてきたという経験をしました。そして、吸収、排泄は、ホメオスタシスにより、体内を一定に保とうとする働きがあります。
その時の状況によって、吸収、排泄の状態は変化し、体内を一定に保つように調整されています。ここの部分が人の体のすごいところで、こうした関連性が次第に見えてくると、人体の神秘や奥深さを感じていったわけです。
最初は単に覚えるだけの器官の名称、基本的な機能。それが相互作用によってバランスをとり、絶妙に調整される仕組への驚きや神秘。それぞれの臓器の中に存在することを少しずつ理解していったのでした。
本来、たんぱく質は、篩にかけられることなく、血中から流れ出さないようになっています。ところが腎機能の異常によって、篩の穴が大きくなってしまうと、タンパク質が漏れてしまう。というように、病態と物質の動き、それが検査にどのような形で現われるのか、ということを総合的に理解していくのでした。
参考に見ていた書籍の個々に示されたイラストがどこの部分を示しているのか。どれくらいの倍率の図なのか。この模型のような関係であることを理解できるまでに、多くの時間を費やしました。今は、この模型を見れば理解に至ってしまいます。恵まれた時代だなぁ‥‥と思う反面、自分で理解できた時の、感動みたいなものを味わえなくなってしまうのは、いいことなのかどうか:::::(笑)
そこにこんなtwitterを見ました。
「ネットがない頃ってどうやって勉強してたの?」 女子高生が語る、今どきのテスト勉強法 (1/5) - ねとらぼ https://t.co/qfTSP3Y1pZ
— 少佐 (@major9696) 2018年3月22日
これぞデジタルネイティブ。「最近の若い人は読書時間が云々」なんて原始人の戯言に聞こえる…
まさに原始人の戯言なのかもしれません(笑) 今はネットを見ればすぐにわかるし、人体展に行けば模型があって、簡単に理解できてしまいます。でも、自分でみつけて理解する面白さとか楽しさ。達成感とか味わえなくて、どうなんだろうと思っていました。しかし今の時代には今の時代の学び方がある。上手につかいこなす人は、使いこなしているのだなぁ…と。
■腎蔵の体内美術館
走査顕微鏡による写真。白黒画像にイメージで着色。ラットによる撮影。電子顕微鏡によるより微小世界がわかってきて、最新の腎臓の撮影です。
〇腎糸球体
(ラットで撮影)
〇腎蔵 近位尿細管微絨毛
(左写真)これ、勝手に小腸の絨毛だと理解していました。小腸の絨毛ってこんなに密だったんだっけ? ところが「腎臓」の「近位尿細管の絨毛」だったことがわかりました。尿細管にも絨毛があったなんて知らなかった。
吸収を担う器官だから、あって当然といえば当然? 表面積を広くする・・・ 微細小器官にある絨毛だから密で繊細・・・ 小腸の口径、尿細管の口径。それを考えたらこれだけ密になるのも納得。まさに機能美です。
最初、管の外側にある絨毛だと思ってしまった。(たぶん糸球体を外から見た図の流れで、そう思ってしまったのかと)何で管の回りに、絨毛が必要なんだろう? と思ってましたが、よくよく考えればわかりそうなものでした。
〇腎蔵の足細胞
足細胞・・・・ 初めて聞きました。上の図では着色されています。調べてみたけど、イマイチよくわかりません。同じように記載がないと質問している人がいました。⇒ 解剖学のテスト勉強をしていて、分からなかったところなのですが…足細胞の意... - Yahoo!知恵袋
どうやら、細胞から足がのびて、それによって篩の役割をするらしいです。
20:00あたりから
蛸足細胞(wikipedhiaより)
蛸足細胞(podocyte)は糸球体基底膜の反対側に沿って並んでおり、ボーマン嚢の裏の部分にある。蛸足細胞は、ボーマン嚢に糸球体からのタンパク質の濾過を抑制するため、多くの偽足がかたく絡み合って網状組織を作っている。
隣接した足細胞の突起の間のスペースにはポドシンやネフリンを含むいくつかのタンパク質からできた濾過層がある。突起の表面は負に帯電するグリコカリックスに覆われており、負に帯電する分子(例えばアルブミン)の透過を抑制している。
蛸足細胞は腎小体の本質的な濾過層であると考えられている
腎蔵の機能を理解しようとするとき、視点は腎蔵の外から見ていました。上記の映像は、腎臓の中のさらに糸球体の毛細血管の中に入り、立体的な視点で見るというのはとても斬新でした。血管内の物質の視点で、血管壁を通れるか通れないか‥‥ 赤血球があんなに大きなものだとは‥‥ それがもし、ここから漏れ出した、どれだけの損傷がおこっているか。
■腎臓の位置
腎蔵は、背中側にあります。レオナルドは、小腸を描きながらその背後に腎臓を書いていたという解剖学手稿が紹介されていました。⇒(【公式】特別展人体 神秘への挑戦【左】「解剖手稿」より消化管と腎臓、そして尿管部分 1508年頃(イギリス・ウィンザー城王室コレクション))それが特筆するべきことだと。(私は、小腸に毛が生えているように見えたので、絨毛を描いていることかと思ったのですが‥‥)
腎蔵の手前にある小腸。ぐにゃぐにゃしているけども、腎臓とはどうやって接しているのでしょうか。小腸は腹腔内で浮いているのでしょうか? だとしたらなぜ、下に溜まってしまわないのか。
それは腸間膜で体とつながっているから保持されています。
⇒http://plaza.umin.ac.jp/~web-hist/hukumaku.html
そうやって一つ一つの疑問を埋めつつ、解剖実習で確認し、体の全体像を把握してきたのでした。
■「人体を理解する」ということについて
「人体を理解する」その言葉の裏にある自身の体験を、この模型を見て思い出しました。一度、理解をしてしまうと、わからなかった時のことを忘れてしまいます。それが当たり前のことになってしまいます。一度、乗れるようになった自転車は、乗れない状態には戻れないのと同じでしょうか。理解する前の状態には戻れなくて、何がわからなかったのかを忘れてしまいます。
すでにあんなに疑っていた、臓器同志のネットワーク。もう、そういうものなんだと受け入れ始めています。腎臓から伝達物質が出ているというのですが、腎臓には副腎があって、そこからホルモンが出ているわけです。そのホルモンをこれまでは脳がコントロールしていると思っていましたが、近くの腎臓が、直接指令を出すということは、十分あり得ます。というか、メッセージ物質が、そこから出ているホルモンのことを意味していたこともわかりました。
⇒修正:腎臓から出ている伝達物質のホルモンは、副腎皮質から出ているわけではなく腎臓そのものから。
⇒メッセージ物質とは?(参考:図録p150)
各臓器などの細胞からメッセージを伝えるために放出するミクロの物質が発見された。医学界では「ホルモン」「さいとカイン」「マイクロRNA」などの名称で呼ばれているが、NHKスペシャル「人体」では、よりわかりやすくするためにメッセージ物質と呼ぶことにした。
これまでずっとひっかかっていたことがやっと理解できました。メッセージ物質が「発見」されたというけども、それってホルモンのことじゃないのかなぁ‥‥ 私が学生時代に学んだものがいくつか含まれています。既知のものなんだけどなぁ‥‥ (hCG レニン・アンギオテンシン エリスロポエチン・・・・)発見と言われると、これまで知られていない未知の物質のことだとずっと思っていました。
ここで言う発見というのは、これまで既知の物質もあるけども、それらが作用する瞬間を映像などでとらえ、直接臓器同志でやりとりをしていることを確認できたという発見だったのでした。
「人体を理解する」ということは、いろいろなレベルがあって、その先へ先へと追っていくと、「発生学」に辿り着くというあたりまで、当時は辿り着いていました。しかし発生学はまだ過渡期。私たちはその分野を独立して学んではいない時代でした。
(【追記】2018.04.08 発生学は解剖学に盛り込まれていた・・・・
ずっと、発生学は学んでいないと思ってました。まだ過渡期の学問だったから… ところがその歴史を見ると、私たちが学んだ頃よりもかなり前に成立していることがわかりました。単に履修科目になっていなかっただけだったのだと理解。
ひさびさに解剖の教科書を見たら、発生学的な知見が、要所要所に盛り込まれていました。ところが、その部分にほとんど、アンダーラインは引かれておらず、スルーしていたことが判明。顕微鏡的視野の確認する方法をやっとみつけ、さらにその先の視野を確認する手段がなく、置き去りにしていたようでした。)
「人体を理解する」という側面に「発生学的理解」があげられています。腎臓の構造や働きは、おおよそのところは理解できていると思っていました。しかし足細胞なんて知らなかったし、ろ過には、ろ過膜(血管壁の穴)のサイズによるもので、他にも帯電によるろ過もあるなんて、今回、始めて知りました。学んだあとに新たにわかったこと。さらに、これからわかること。まだまだたくさんありそうです。
「理解する」「わかる」ということの奥深さ。何をもって「理解できた」というのか。結局のところ一生かかっても、理解することはできない。ということを、漠然と悟った高校一年の生物の授業。それが今も、続いています。
知りたいという欲求の過程の中に、他の学びから、わからなかったことが、理解できていくことを経験。知りたいという欲求の原動力は、その驚きや楽しみがあるからではないかと思うのでした。
会場で耳にした2人連れの話。「糸球体ってさ、実は、毛細血管の塊なんだよね」コメディカルの人たちでしょうか? 学生さんかな? 「そうそう、そうなのよ‥‥」それを理解するまで、彼女たちは、どれだけ時間がかかったのでしょうか? 彼女たちも糸球体の模式図を見ながら、ここには、血管が詰まってることを次第に理解したのか、あるいは、そんなことは最初から図を見て、理解できてしまったのか・・・
今回も、標本見ながら、あれやこれやと語っている人が多かったです。腎臓のこんな模型を見て、ここに潜んでいる機能や本当の構造を理解している人は、どれだけいるんだろう。こんなもの見て面白いって感じるのだろうか? と思っていました。
そもそも、この「人体展」の展示は、だれでも楽しめるのだろうか。私はとっても面白いと思うけど、どれだけの人が面白いって感じるんだろう‥‥ しかしそれは杞憂のようでした。
高校1年生の入学時、理系に行くなんてことは、よもや思ってもみませんでした。「女子は生物なんて理解しなくてもいいですから‥‥」とも言っていた先生でした。それなのになぜか、「わからないことは、結局わからない。でも、過程においてわかってくる。」この言葉はずっと頭の隅から離れることはありませんでした。
その先生が亡くなられた時に、母校の先輩だったことを知ったのでした。
【追記】(2018.04.03)EPO(エポ)・・・・エリスロポエチン
Nスぺ「人体」では「酸素が不足している」というメッセージを受けて、赤血球を増やすと解説されていました。エリスロポエチンは確か、造血機能をつかさどるホルモンだったはず。骨髄で血液を造る指令を出すホルモン。
赤血球の産生を促進する造血因子の一つ(ホルモンともサイトカインとも)。
当時は血液学、骨髄あたりに含まれる知識でした。ところが、その裏に、腎臓から「酸素少ないぞ~、赤血球、どんどん作れ!」というメッセージが飛んでいて働いていた。腎蔵とつながりがあるホルモンだったことを知りました。
エリスロポエチンって、どこで作っていたんだっけ? その記憶が全くありません。調べてみると、主に腎臓の尿細管間質細胞で生成され、補助的に肝臓でも作られるそう。それまで存在は確認されていたけども、どこで作られているのかわからなかったのだそう。
【追記】(2018.04.03)糸球体 足細胞
血管から、腎の糸球体に移行すると、血管壁の穴が大きくなっていて、その穴から物質が篩落とされていたというのは目からうろこでしt。そして糸球体を覆っているのが足細胞。足はからまりあっていて、それによっても篩の大きさを調整しているというのも…
「糸球体は篩の役割をしている」ということは理解していました。しかし、どのようなしくみでふるっていたのか‥‥疑問に思うことはありませんでした。それは、そういうものなんだと納得していました。
血管壁の構造は、糸球体に入ると変化し隙間ができていたなんて‥‥ さらには足細胞なんてものがあって、その足でふるい落すものを調整している。それは、電子顕微鏡というさらにミクロの世界が視覚的に認識されることで見えてきた世界。「糸球体はどんな仕組みで物質をふるい落しているのか」そんな疑問が持つことができるかどうか。それによって「人体を理解する」という深さが変わるのだな‥‥と。
【追記】(2018.04.04)「人体展」を楽しいと思えるのは?
「人体展」を面白いと感じる人はどんな人たちなのでしょうか‥‥ 人体になんらかの形でかかわりのある人。生物学を学んだ人。生命、命ということに興味のある人etc その一方で、特に興味を持っていなくても、楽しめたという人も‥‥ 展示の何に興味を持つかというのは本当に人それぞれ。
やはり自分が学んだり、専門分野がある方は、そこに興味を惹かれるというのは当然のことのようです。乳牛の第一胃(ルーメン)栄養学者の方が興味を持たれたのは「胃」。ご専門の牛の胃と、キリンの胃を比較され、キリンの反芻のことに思いを馳せていらっしゃいました。
私が比較解剖学のコーナーで「へ~」って思ったのは心臓でした。「なぜ、このようなかたちになったかには理由がある」その理由には、いくつかの側面があるので、様々な解説が可能。
一つは「機能面」ですが、機能面で合理的でないものもあります。それは「発生や進化の歴史に裏打ちされている」 そのため、様々な生物の構造を比較してみることが大事。(図録p34より)
人間の心臓しか知らなかったので、カエルの動脈は左右対称で、鳥は左の部分がない。哺乳類は左だけになったという進化による変化になるほどと思わされました。
人の左の動脈は全身に血液を送らなければならないのだけども、右側は肺だけに送ればいい。
肺循環と体循環。これは陸上生物に適し、ほ乳類や鳥類に見られ、心臓は2心房2心室。ところが、エラ呼吸をする魚や両性類は、体循環のみなので1心房1心室。爬虫類は2心房1心室。(体循環と、爬虫類の肺循環は不完全なため)
これまで他の動物の心臓が、どうなっているかなんて考えたことも、想像したこともありませんでした。それぞれが生きていく環境の中で、最適な形態を獲得していったということは、とても興味深いことでした。
心臓は、2心房2心室。それが当たり前に思っていたのですが、他の生物は違うか‥‥ 考えればそうなのですが‥‥ 原始生物に心臓なんてないわけです。
そういえば、ポーラ美術館の「エミール・ガレ 自然の蒐集」を見にいったのですが、クラゲがたくさんモチーフに使われていました。クラゲについて、ちょっと調べていたら、面白いことがわかりました。クラゲのあの動き、実は心臓のポンプの変わりのような役割をしているのだそう。
クラゲ特有のプカプカと傘を閉じたり開いたりして移動する動き。これは移動するための動きでもありますが、栄養分や酸素を吸収して、体全体に送るポンプの役割をしていたのでした。心臓はないのに、心臓のような動きを自らが作り出して、酸素を体全体に送っていました。
クラゲには、脳はありませんが神経を始めて持つようになった動物なんだそうです。心房、心室が登場する以前は、自分の体そのものを心臓の変わりにしていたという進化の過程もあったのでした。
(参考:2013/09/08 9は9ラゲの9~(その8)クラゲのパクパク運動 | 新江ノ島水族館)
ちょうど、「エミールガレ 自然の蒐集」でも、ガレが作品の中に進化論を表現しようとしていたということがわかり、思いもかけずこんなところでつながりました。
■参考
初心者のための腎蔵の構造 順天堂大学医学部解剖学市Ⅰ 酒井建雄