コロコロのアート 見て歩記&調べ歩記

美術鑑賞を通して感じたこと、考えたこと、調べたことを、過去と繋げて追記したりして変化を楽しむブログ 一枚の絵を深堀したり・・・ 

■くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質 東京ステーションギャラリー

 隈研吾と言えば、言わずと知れた建築家。これまでの30年の業績を振り返る展覧会素材でひもとく、隈研吾の歩み「くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質」が、東京ステーションギャラリーで3月3日より始まりました。「建築とは、結局のところ物質である」と語る隈氏。その言葉を、展示にどう表現されたのか探ってみました。 

   *撮影はプレス内覧会のものですが、今回、会場は写真撮影可となっています。

追記しました ⇒【追記】2018.03.16 建築とは? 

 

 

■建築とは物質 物質と人間との会話

【2018.03.10記】

昨年、11月、都内4美術館合同 2018年開催企画展 合同記者発表で、興味深い挨拶文が配布されました。それは「くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質」の展示の紹介文で次のようなものでした。

 

もう一度、様々な物質と、いきいきとした会話をはじめよう ――。

国内外で膨大なプロジェクトを抱えつつ疾走する世界的建築家、隈研吾(1954 ~)。
古今東西の思想に精通し、「負ける建築」「自然な建築」などの理念を実践してきた約30 年に及ぶプロジェクトを集大成して展観します。本展では特に、隈が仕事を通じて対話を重ねてきた素材に着目し、建築設計やプロダクトデザインなどの蓄積を、時系列ではなく主要なマテリアル(竹、木、紙、石、土など)ごとに分類・整理することで、“もの” という観点から概観を試みます。“もの” の開放によって、人の感覚や意識、そして環境を媒介する建築の可能性に迫ります。
東京ステーションギャラリーにおける建築関連の展覧会は「東京駅 100 年の記憶」展以来およそ3 年ぶり、建築家の個展としては「前川國男建築展」以来じつに12年ぶりとなるこの機会にご期待ください。

建築とは、結局のところ物質である。物質と人間との会話である。世界という得体のしれない大きさなるものが、物質という具体的存在を通じて、人間と会話するのである。物質が違うと、会話の仕方も変わり、こちらの気分も大いに変わってくる。20 世紀は、コンクリートのせいで、会話は固くなり、人間の表情もずいぶん暗くなった。
もう一度、様々な物質と、いきいきとした会話をはじめよう。

――隈研吾

 

「建築とは、結局のところ物質である」

 

この言葉、非常に心に響きました。建築とはそんな「物質と人間との会話」だと‥‥

 

10種類の材料をテーマにした展示。物質としてとらえた「建築の素材」は次のカテゴリで分けられています。

1.「竹」  2.「木」     3.「紙」 4.「土」   5.「石」 
6.「金属」   7.「ガラス」 8.「瓦」 9.「樹脂」 10.「膜・繊維」

 

さらに、これらをいかに組み合わせるか7つのワードで分けられます。

1.「粒子化」  2.「格子柄」  3.「編む」   4.「多角形」

5.「支え合う」 6「螺旋」    7.「包む」

 

 

 

美術とは何か‥‥と考えた時、非常に乱暴な言い方をしてしまうと、所詮、それは「物質」にすぎないのではないか‥‥ そんなことを考えていたところでした。

 

人とは何か・・・・・これまた「物質」にすぎない。すべては「物質」に帰結するのでは? と思い初めていたところだったので、隈研吾氏が語る「建築とは物質である」という言葉に強く惹かれるものがありました。

 

 

 「物質」と「人間」の「会話」

 

それは、どのような形で提示されるのか、開催前から非常に興味深く注目しておりました。この展示では、物質と「会話」することを、「いかに作るか」に置き換えられたのだと理解し、7つのキーワードで構成されています。

  

【関連】■都内4美術館合同 2018年開催企画展 合同記者発表

「建築は、マテリアルだ」と語った隈研吾さんの初の展示。マテリアルの先には何があるのか・・・・  美術作品は、素材であり物質だと思っていたこともあって、何か自分のとらえ方に共通するものを感じました。(⇒〇本質のとらえ方の違い

 

美術作品を「物質」ととらえてしまうなんて邪道? あるいは冒涜? とも感じていたところにドンピシャ、自分の感覚にぴったりとはまるキャッチコピー。それが発表された時の質問コーナーで、ステーションギャラリーの冨田章館長のお話を伺いました。「隈さんも理系の方ですから同じようなとらえ方なのかもしれませんね。でも哲学、宇宙といった深いところまで知っていらっしゃって、すごい方です。」「美術は答えがないところが面白くて、それそ議論することが美術の人間は好きなんです」そんなお話を伺っていました。

 

 

■五感に訴えかけられる展示

館内に入ると、香りが漂ってきます。すぐに何とは認識できないのですが、素材がもつ香なのだろうということが想像されました。会場は、素材ごとのブース分けがされています。

 

〇竹

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〇木

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〇紙 

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〇土 

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■物質への挑戦の系譜

これらの素材には、下記のようなチャート、樹形図のようなパネルが添えられていました。  

    【木】      【石】      【金属】      【竹】 

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グループ分けされたそれぞれの素材に対し、どのような手法を用いたか「積む」「粒子化」「包む」「編む」といったカテゴライズをしながら、時系列に並べられていました。

 

こういうまとめ好きだなぁ‥‥ 心の底から何か湧き上がってくる心地よさに包まれていました。以前、樹形図好きでしょ…って言われたことがあったなと思い出しました。熊楠展でこんなノート見た時も、なんだか、うれしくなって写真に納めていました。

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▼隈氏がまとめた樹形図を見てもつくづく感じたのです。ホント、樹形図に反応するんだ‥‥ 

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これを見た瞬間に感じた高揚感・・・ 時代を追って「系統化」しつつ、その中に何かキーワ―ドをみつけてカテゴライズしてまとめる。こういう手法や考え方がしっくりしみ渡ってくる感覚。好きなんだということを確認させられました。

 

 

〇物質の樹形図

素材ごとに独立していた系統図は、一連の壮大な大きなマップとなって繋がり合っていました。それらを壁に映し出され、順を追って示されていました。これが今回の展示の肝であり、全てだと思われる部分です。

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隈研吾の仕事を、10種類の「物質」について、手法や形状で分類し、樹系図にまとめたもの

 

次のように語られています。

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▼そして最後に、樹形図は横のつながりを持ってまとめられていました

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これを見た瞬間、体の中に電流が流れるような感覚を覚えました。

 

 

隈研吾氏の頭の中 大放出

この樹形図、隈研吾の頭の中を見たと思いました。これまでの全思考がここに広げられたような・・・ 隈研吾の仕事とは、このような巨大樹形図が構築されいて、その中からどのピースを切り取り、どう組み合わせて再構成していくか。ここに示されたようなプロセスを経て送り出されてきたものであることを、なんの衒いもなく提示されてしまった。この樹形図はいつ頃、出来上がったものなのだろうか‥‥ そんなことを思いながら、隈氏の解説の時間となりました。 

 

 ↓ スライドショーのムービーにしたもの

 

 

隈研吾氏の挨拶と解説から

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30年、様々なプロジェクトに携わってきましたが、それは建物を作り続けてきた時間。これまでの取り組みを振り返ることなく走り続けてきました。今回、このような場をいただいたことで、振り返る機会を持つことができました。

建物を作り続けるということは、素材の研究を続けてきたということでした。その研究の結果としての集大成が、この樹形図です。建築は、素材研究であり、材料への愛(love)であった。建築とは物質の研究で、一つの発見が次の発見を生む。建築の現場はラボラトリである‥‥ 

 

この樹形図は、早くから頭の中で出来上がっていて、それをビジュアルとして落とし込んだものなのだと思っていました。それに基づきこれまで仕事は進められてきたのだと・・・・・ 頭の中がすっきり整理されている方。と思っていたら、さにあらず。今回の機会を与えられ、立ち止まって考える機会となって、出来上がった集大成であったこと。まさに研究の場であり、ラボの仕事‥‥

 

 

本展で10種類に分けた素材は「ビジュアルだけではなく五感すべてに刺激を与える」材料はニオイを発し、音を奏でる‥‥ 

 

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竹はしなり、その上を歩くことによって音が発せられます。

 

 

竹ひご割いて細くし組見直す。最小から最大の効果 そこにニオイを加え五感を刺激。

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 ▼竹は裂ける性質があり、細く割いてスクリーンにしたら映像も投影ができます

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「建築とは物質である」という言葉から「美術も物質である」と私は考えていました。

 

しかし、単なる物質が、なぜ人の心に訴えかけるのか。そこの部分の答えが見つかりませんでした。隈氏はその答えまでもここで、用意されていました。

 

「物質」が持つ性質が、五感を刺激するから‥‥

 

臭覚、聴覚、視覚、触感、味覚? 物質には、それらに語り掛ける力を持っている。物質の性質を最大限に生かし、さらに五感への作用も引き出して形にしていく。それによって、見る人の心に作用し、何かをもたらすのだいうことが見えてきました。

 

 

〇その場所で学ぶ

素材選びには、その土地、その場所で得意なものがある。そこで探し、技術を学ぶことで新たな素材や、使い方を蓄積してきたということを掲げられました。

 

大きなプロジェクトもある。しかし実験的なことは、ラボの場所として職人とみっちり作り出していく時間も持つ。

 

たとえばこれ‥‥ なんだかわかりませんでした

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焼き杉模様のランプの型だったのでした。f:id:korokoroblog:20180310011618j:plain

2つ作ると型がダメになってしまうそう。このような実験的なラボの場所は小さいプロダクトで職人と一緒に時間をかけて制作します。期限に捕らわれずに作業ができます。

 

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チェコのガラス職人から、教えてもらう。郷に入っては郷に従え? そこには、長年培われた技術や土地に根差した素材がある。職人はそれを知り尽くしている。こちらのスタイルを決して押し付けない。

 

 

〇材料を小さなピースで使う

材料を小さく軽いピースにすることで組むことがラクに。移動や作業面でも。またコンパクとにたためる。持ち運べるといった観点から、膨らむ茶室、畳める茶室なども展示されていました。カーボンの傘で避難シェルターなども。

 

▼国立競技場

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材料を小さな形に‥‥10cmのピースにすることで親近感がわく

   

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アイレベルから見ると木しか見えない

 

 

すべては小さなピースによる集合体

▼《虫塚》・・・鎌倉建長寺内 虫供養モニュメント 
昆虫好きの養老孟司により犠牲にした虫を供養するために依頼

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ステンレスメッシュ+土+ガラス+接着剤 土(左官)は挾土 秀平氏 軽やかに

 

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▼Water Branch House

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工事現場の仮説のバリケード(水を入れて使うもの)をヒントにレゴブロックのポリタンクで構成

 

▼ストーンカードキャッスル

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↑石を10㎜カード状の板にして構造物に トランプで作るカードキャッスルがヒント。分解搬送が容易でヨーロッパ各地で展示された

 

▼エアー・ブリック

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膜による空気枕のような構造。空気により膨張、収縮が可能

 

▼カサ・アンブレラ

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15の傘が集まるとシェルターに。自由に組み立て自由に解体 

軽い、小さい。従って持ち運びも容易。ピースの組み合わせによっていかなる形にも変化。建築とは「物質」という最小単位にまで分解した上で、それぞれを持ち運び可能なピースとして形を作り変える。その組み合わせは、素材同志の組み合わせパターンも広がり無限となる?

 

 

〇歴史的建築の中で

  レンガで作られた東京駅は、鉄骨とレンガという構造で成り立っています。それによって、建物を支えることができます。f:id:korokoroblog:20180310021408j:plain

▲鉄骨とレンガの構造 

 

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天井からの照明や丸いステンドグラス

 

大先輩、辰野金五郎先生の設計された場所を借りて、建築における「物質」「素材」を提示する。最高のステージを与えられたと語られていました。

 

 

【追記】2018.03.16 建築とは?

建築をちょっとだけかじった主人に、図録や写真を見せました。その感想が…

「建築家はデザインに走るんだよな。建築はデザインじゃなくて空間なんだよ。デザインはデザインの専門の意匠がいるんだから…」

「都庁建てるにしても、建築家はどんなデザインにするかを考えるんじゃなく、どんな空間にするかを考える。どこに建てるかを考えるんだよ…」 

「だって、都庁は場所が決まっててそこに建てるように依頼されるんじゃないの?」 

「どこに建てるかから考えるのが建築家。都市計画から始まる。最近はみんなデザイン重視…」と。

 

ふ~ん… と思いなながら図録を見ているとこんな文言が…

 

◆物資にかえろう(図録p8より要約)

20世紀はコンクリートの時代。これによって物質と付き合う人間がいなくなる。猛スピードで建築を作らねばならない時代の要請に、コンクリートはぴったりはまる。それによって建築がどう作られたいたかを忘れコンクリートに走る。

 

建築とは空間であるという考え方が、20世紀を席捲。19世紀の建築は、物体であり、壁、柱であるという建築感だった。しかし隙間、物体と物体の間の空間だという説得力ある建築感が広がり、建築とは空間であるという定義がしっくりはまった。 

 

床・壁・天井より、空気が大事。壁の触覚など軽視。床面積だけが評価の対象に。「建築とは空間」という考え方によって物質は軽視、貧しいスカスカの時代が1世紀続く。物質を取り戻す。人間と物質をつなぐという思いで30年。

 

物質との関わりは3つのレイヤーで考える。「物質の多様性」「物質の操作性」「幾何学」3つの項目からマトリックスを作成。それを樹形図に。これは隈研吾が物質にどう挑戦したか、挑戦をどう継続してきたかを表すヒストリー。

 

作品を残すのではなく、一つのラボ(研究室)を残す。物質の研究は、物質と研究者、技術者と一緒になって試してみる。建築はその一側面。大事なのは継続、つながり。結果として樹形図となったが、このツリー構造は、からまり逆行もする。

 

建築作品とは、継続的な努力、建築をつなぐ流れ。20世紀の建築家は建築を作品と呼びたがる。アーティスティックな付加価値のついた商品として… デザイン優先は、特異性が求められ環境から切断、破壊していく。オーラは必要ない。特別であることに価値あるのではない。建築は作品ではない。失敗を続け、失敗から学ぶこと。建築を繋ぐ流れが作品。物質と付き合うことで、一番大切なことを教わった。

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「建築は空間なんだよ…」その最もらしい言葉は、20世紀の建築の象徴的な考え方だったことがわかりました。一見、自分の言葉、思考のようでいて、実はその時代の学び、そのものが思考の元になっていたのでした。

物事をとらえるときの基本的なとらえ方というのは、こういうところにあるのだと思いました。結局、自分が学んだこと。その知識がベースとなって、その物差しをあてて判断しているにすぎない。それを破るには、別のとらえ方に触れないと…

 

「建築は空間」ととらえられていることを私は知りません。しかし、自然科学を学んだ背景があるので「建築は物質」が妙に響きます。樹形図は、進化の系統図のようです。それを自分の仕事にあてはめ、このような形で表現することに面白さを感じました。それぞれの建築がどのような関係でつらなってきたのかを探る。進化の進み方も行きつ戻りつする状態をアレグサンダーのセミラティスと表現されていました。

 

また、素材をピース化してその集合体による構造化というのは、生物が持っているフラクタル構造にも通じるものがあるように思えました。建築とは、ある種の生命体を作っていることにもなるのではないかなぁ…と。

 

科博で「人体」を見ましたが、何か共通するものを感じさせられていました。