- ■《心臓のアーカイブ》へのアクセス
- ■《心臓のアーカイブ》
- ■《心臓のアーカイブ》を見る前に思っていたこと
- ■ハートルーム
- ■リスニングルーム
- ■一期一会に導かれ
- ■潮の満ち引きと人の生き死に
- ■ボルタンスキ―談
- ■【関連記事】豊島 ボルタンスキー
■《心臓のアーカイブ》へのアクセス
豊島の周り方は、いろいろありますが、レンタカーが絶対的におすすめです。そして時間を最大に有効に利用するには、なるべく早い時間に到着するフェリーに乗ること。家浦港に到着するフェリーの一番早い便は8:30頃でした。そのあと効率よく展示品を回っていきます。
豊島は時計回りに回るのがおすすめ。家浦港付近の施設は後回しにして、順番に回っていくのが順当です。が、9:00前に家浦に到着するフェリーに乗った場合は、迷わず「心臓のアーカイブ」へ行くとよいです。これはレンタカー店の方、ボランティアスタッフの方からもアドバイスをされました。
〇芸術祭開催期間の島へのアクセス事情
ちょっと余談になりますが、芸術祭開催のピーク時は、フェリーに乗れないという事態が発生します。30分前に行っても、積み残しになることがあると聞きました。
豊島(家浦港)へのルートは、
①高松から・・・・高速船 直通
②直島から・・・・高松 → 本村港 → 家浦港
③宇野港から・・・本村港→宇野港 宇野港→家浦港
①の高速船は乗船人数が80人と少なく、ピーク時は乗れない可能性があります。
②は高松からの本村経由なので、高松で乗客がほぼいっぱいとなってしまうことも。
本村で乗れるのが10名ぐらいということもあると聞きました。
③そこで提案されたのが、直島の本村から一旦、岡山の宇和島港に渡り、
そこから大型フェリーに乗り換えて豊島に渡るという提案。
以上のように、芸術祭で人がピークとなる時期の豊島へのルートは、希望の時間に乗れない可能性が多分にあります。そのため、かなり時間に余裕を持って行動をしなければなりません。しかも、その日によって状況は変わり、どの船に乗れるか、事前に読むことができません。早く到着したら、8時台に。乗り切れなかった場合には10時頃になってしまうかもしれず、いずれの場合でも対応できる計画が必要です。
8時代の到着となった場合、施設がオープンするまでの時間をどうやって過ごすのか。港周辺のお店はオープンしているのか。モーニングができるようなお店はあるのか。どうやら、その時間にオープンしているお店はないことがわかりました。となると、その日の朝食は、前日のうちにどこかで確保しておかねばなりません。作品の開館は大抵が10:00からです。それまでの時間を無駄にしないよう、屋外展示で、時間に関係なく見ることができる場所を調べておき、そこを先に見ておくなど、事前の下調べと綿密な計画が必要です。
〇詳細はボランティアに聞くのが一番
ある程度、計画を立てていきましたが、郷に入っては郷に・・・ 港に着いたらボランティアさんに見学ルートの相談をしました。
・レンタカーはすでに借りてあり、島内はレンタカー利用であること
・宿泊が高松なので、最終のフェリーで絶対に高松に渡りたいこと。
・積み残しがおきていると聞いているので、それを避けるには
どれくらい前から並ぶ必要があるのか
・その時間を元に可能な限り、全作品制覇したいこと
・すでに豊島美術館は予約を確保してあり、そのための行動制限があること
・時計回りを考えていて、港回りの展示は後回しにして、
帰りのフェリーの並びを見て、回れるだけ回ろうと計画している。
・以上のような計画を立ててきたのだけど、それでいいか。
・他におすすめの計画ルートがないか、ぜひ見ておくといい場所の見落としがないか
レンタカーを借りてあって、すでに豊島美術館の事前予約も入れてあるなら、全作品見ることは十分可能です。その計画、ほぼ、完璧です。せっかくレンタカーを借りているのですから、ぜひ、全作品コンプリートしましょう。計画のお手伝い、僕も全力でお手伝いしますので、一緒に計画をたてていきましょう! ととても心強いお言葉。
まずは、「心臓のアーカイブ」まで行っちゃって下さい。車ならここから30分かかりません。あそこは9:00からオープンしていますから、そこを見てから、豊島美術館の予約時間に十分間に合います。予約時間に合わせて見学したあと、すぐに、島キッチンの整理券をとって、予約の時間まで周辺の散策をして下さい。・・・・といった裏技を教えていただきました。そのあと、レンタカーを借りたお店でも、同じことを言われました。
〇豊島に行くのは大変
こんな細かな旅行計画を、ボルタンスキ―の作品の紹介にわざわざ加えたかというと、とにかくこの場所にたどり着くのはとても大変な場所だということを知っていただきたかったからです。この作品が存在する場所がどういう場所なのか・・・・瀬戸内海にある島の一つ「豊島」にあって、フェリーに乗っていく場所。ただそれだけの場所ではないということなんです。
芸術祭というイベントで、人の出がピークの時期、島に渡るためには、あれやこれやといろいろな可能性を鑑みながら、計画的しておかねばならず、たどりつくのにも一苦労を要する場所なのです。船にのれば、そこに運ばれるという場所ではありません。そういう場所に「この作品が存在する」ということの意味。単に地図上のここ。ではなく、そこに立つまで、いかなるプロセスを経なければならない場所であるか・・・・
さらに船で渡るということだけでなく、「船に乗る場所」まで、「飛行機」や「新幹線」「高速バス」・・・・というように、それぞれの人に応じた行程があるわけです。こうした距離の体感は、やはり行った人にしかわかりません。それが作品に、別の意味をもたらします。
■《心臓のアーカイブ》
レンタカーを借りる手続きや、ルート案内をしていただいていたら、到着は9:00をちょっとすぎました。9時からのオープンということで、「心臓のアーカイブ」は、時間を有効に使えるということで、豊島で一番、最初に訪れた場所となりました。
出典:
asahi.com(朝日新聞社):ボルタンスキー氏、人の心臓音が作品 瀬戸内・豊島に美術館 - 文化トピックス - 文化
途中には、こんな車が、畑の中に置かれて物置替わりに使われていたりしてさすが、アートの島・・・・
■《心臓のアーカイブ》を見る前に思っていたこと
心臓の音がサンプリングされていて、自分の心臓音も録音できるという事前情報。いろいろ頭の中で想像を巡らせていました。実習で心電図をとった経験があります。超音波検査の心臓の画像を見たことも・・・・ 心臓の仕組みや働きを、他の人よりは知っていると思うので、他の人とは違う何かを受け止めることができるのではないか・・・・ そんな期待を抱きながらでかけました。
心療内科・精神科の先生が話していた、生命を維持するための「心拍」と「呼吸」。呼吸は止めたり、速度を自分の意思でコントロールできるけども、心臓は、自分の意思で止めたり、早めたりというコントロールができない臓器・・・・ 呼吸をコントロールすることで、精神的な落ち着きをもたらすことを提唱されていました。自分の意思でコントロールはできない心臓。そんな臓器の音を集めたというインスタレーションがいかなるものなのか。せっかくの記念なので、自分の心臓音を記録して帰ろう・・・・といろいろな期待でいっぱい。
■ハートルーム
部屋の中に入ると、腹の底に響くような心臓音が鳴り響いています。心臓音をこんなふうに使うんだ・・・・と思っていたら、そこはプレルームで、心臓音を提供した人がサインしたノートが陳列されたり、現在流れている心臓音のデータがモニターに移されています。そこに大きな心臓音が流れています。これが、作品なのだと思って見ていました。
すると、その先に扉があることに気づき、そこを開けます。これまで聞こえていた音は、その先の作品から伝わってくる音が流れてきていたことを知りました。てっきり作品だと思っていた場所は、作品へのナビゲ―ションエリアだったのです。ここが作品・・・・・と思えば、作品になってしまうことに苦笑しつつ・・・・
作品が展示されている「ハートルーム」に入ります。暗闇の中で大音響で流されています。しばしたたずんでいると、本当に、いろいろな心臓の音が流れ、人によってこれほどまでに違うものなのかということと同時に、心臓の音ってこんなにも力強かったっけ? 自分の記憶の中にある音と比べていました。
暗闇の中、心臓音に合わせて赤く点滅する電球。この空間が、細長い空間であることを、点滅するたびに、その広さを映し出しています。子供は、母の心臓音を聞くと泣き止むと言います。それは胎児の時の記憶ともいわれいるようですが・・・・ この空間も心臓音に包まれ休まるか・・・といえば、心休まるというよりは、心をざわつかせて掻き立てるような音に思えました。
注:赤く点滅する電球・・・ この作品では赤くなかったようです。
庭園美術館の作品を見たことで、記憶がすり替えられてしまったようです。
■リスニングルーム
しばしその場に留まり、その音量にも慣れてあたりで、リスニングルームへ。これまで録音された心臓音を聞きました。するとあれれ・・・拍子抜け。大音響で聞く力強い心臓音の迫力とは全く違いました。そりゃそうです。あんな大音量で、ウーハーの効いた低温が鳴り響いたところから、ヘッドホンごしに聞いているわけです。だから、心臓ってこんな音だったけ? と思わされていたのかもしれません。
自分の心臓音を録音する気、満々でいたのですが、これだったらいいか・・・・ なんとなく、インスタレーション用に誇張された展示。そんな気がしてしまい、自分が想像していたものと違っていたようで、期待がしぼんで行くのを感じていました。
とりあえず、リスニングルームでいろいろな心臓音のサンプルを視聴しました。〇〇人、〇〇人・・・・ 日本人は? とそれをセレクトすると、日本人の心臓音は、総じて「か細い」のです。一方、西洋人、欧米人の心音は、力強くドクドクと血液が送り出されていく様子が、目に浮かぶようでした。こんなところに日本人の繊細さが?(笑) そして、一つ一つの音には、どのような状況で録音されたのか、コメントがありました。
子供が生まれてその記念に心臓音を録音。高齢のおばあちゃん。おばあちゃんが生きた証に・・・・ また、この作品を展示するにあたり、地元の人たちが録音したと思われる心臓音。
それらに触れて、やっと、この作品の意味が見えてきたように思いました。心臓が音を発するということは、まぎれもなく「生きている」という証だということ。体内で生を受けてから鼓動を始め、終焉とともに止まる。その音は、人によってかなり違っていて・・・・ 大人、子供という年齢ということだけでなく、国籍の違いがあることにも、驚きました。みんな一人、一人、違うんだということ。聴診器で心臓音を聞くことはなかったので、ここまで音が違うという認識はありませんでした。電気信号に変換された心電図からは見えなかったことです。
■一期一会に導かれ
もし、心臓音の視聴をせずに、ここをあとにしていたとしたら・・・・ なんだかよくわからない作品という印象しか残らずに終わっていたと思われます。たまたま、リスニングルームにも足を向けたこと。そして、たまたま選んだ心臓の音が、生まれた赤ちゃん、そして老いたおばあさんの心臓音だったこと。そのことが、何か意味を持たせてくれたように思ったのでした。
■潮の満ち引きと人の生き死に
建物の外にでると、唐櫃(からと)の海が広がっていました。その海を見ていたら、月の引力による波の満ち引きがイメージされました。人の生死は、潮の満ち引きのリズムに関係がある。そんな話を思い浮かべました・・・・ 非科学なのかもしれませんが、でも、そういう力にコントロールされているかも・・・・ そんなことを感じさせられたのでした。
■ボルタンスキ―談
「心臓は人間の要。行き着くのは自然の流れだった。心臓音は私にとって、人間の命のもろさや、はかなさのサンプルなのです」
「私はこの作品を豊島に設置することを望みました。そうすると、人々は作品を体験するために豊島まで時間をかけて行かなければなりません。そうした時間を考えると、自分たちが聞く心臓音かどんなものか豊島に向かいながら想像するかもしれません。 」
「アーティストの使命は、きれいなものを作ることではなく問いかけをすることだ」と
私はいろいろ想像して豊島に向かいました。そして、時間かけて、計画を練り、やっと島にたどりつき、最初に案内をされ、導かれるように訪れたのがここでした。一度は、な~んだ・・・・と、裏切られ(?)そして、個々の心臓音を聞くことで気づかされました。そして、ここにはさらなる意図が隠されていることを、このあとの《ささやきの森》に行って知るのでした。
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心臓音を録音した人のブログ