■建仁寺 方丈障壁画について
(出典:東京国立博物館 - 1089ブログ より)
■方丈が台風で倒壊 襖は・・・
ところが・・・・
法事の予定があったため、襖は外され、別の場所に保管されていたのでした。不幸中の幸いにも・・・・ もし、法事がなかったら・・・・大量の大遺産が、泡と消えるところだったのでした。
そこで、今後同じようなことが起こって、貴重な文化財を消失させてはならないということで、襖を掛軸に形を変えて、現在は京都国立博物館に保管されることになりました。
その掛け軸などが公開されたのが、開山・栄西禅師 800年遠忌 特別展「栄西と建仁寺」(2014年)だったのでした。
本来、あるべき「襖」は「掛け軸」となり、京都国立博物館へ・・・・襖なきあとの方丈は・・・・・そこで、襖の再現プロジェクトが始まったのでした。
■間の抜けた《山水画》
《山水画》が設置されている24畳の「上間二の間」その前に立った瞬間に感じたこと。
なに? なに? この心もとない絵は・・・・
それは、《雲龍図》の龍の迫力があまりにも凄すぎたため、拍子抜けしてしまったのでした。《雲龍図》はある意味、罪作りな襖絵に思えてしまいました。
法堂の天井に描かれた《双龍図》に対しても、な~んだ・・・と思わせてしまい、《山水画》に対しても、またまた、な~んだ・・・と思わせてしまったのです。
■シミだらけの襖
しかし、この「間」を理解できるようになることが、美術作品に近づく一歩。理解の階段をまた1段あがることになる・・・・なんて思いながら、しげしげ見ていました。
そこで、思いました。
「そうか・・・このシミを、リアルに再現してるってことが、すごいことなんだ・・・ いかにも、古めかしい、時代を経た襖に見せることができるか。それには、このなにもない「空間」をどう再現するか・・・・ 時代を経た、重みを何もないところに、押し込めているわけね。 その技術を堪能することも、鑑賞のポイントなんだ・・・」
と、無理無理、鑑賞ポイントをずらして、価値を見出そうとしていました。
■鑑賞
何も描かれていやいようなシミだらけの絵(※) ↓
一番左の襖、「左下」に岩場があります。↓
なんだろう、この横筋は・・・・
襖を貼る時にでも、折れてしまったあとなのか、和紙(?)の目が、表れてしまったのか。傷がついてしまったのか・・・何かわかりませんが、そのあたりもリアルに再現したということなのでしょう。
全体をみるとぼんやりで、描き込まれていない感じが・・・
ほぼ何にも描かれていない、空白状態ですが・・・・
その隣の襖になってやっと、景色が見えてきました。
▼一番端の襖は、「楼閣滝」と解説がありました。
左から2番の襖、何も描かれていないように見えます ↓(※)
舟の部分を拡大してみました。
▼舟の上から網(?)をたらして漁をしている?のが確認できます。
▼もう一艇の舟は、人を乗せています(※)
■次に逆側の襖を見ると・・・・
これ、水面だったのです!
水面を境に水面に写る鏡面反射の構図だったのだと、ここで気づかされました。
▼この直線は、横へとずっとつながっています。(※)
↑ さらに、最初に見ていた反対側の襖にまで
つながっていたのです。(※)
▼拡大すると水面を境に、描かれている景色が明確になります(※)
▼シミがシミでなく景色に変わりました(※)
当初、ぼんやりした絵・・・・ 間抜けな絵・・・・空白が多すぎない?
シミをリアルに再現した絵なのか・・・・ とか そんなことを考えていましたが、とんでもありませんでした。
《雲龍図》は、迫力ある画面から、ズドンと浮かび上がる驚きでした。
《山水図》は、なんにもないぼんやりした画面から、ジワリと浮かびあがった感じ。
その対比もまた、絶妙だと思いました。襖の傷と思わせておいて(勝手にそう思ってしまったのですが)実は全面を貫く水面だったなんて・・・
■構図の秘密
何も描かれていないと思っていた絵が、いきなり、うわっと、全体像が見えて、
姿形を表して自分に覆いかぶさってくる感じでした。
こればかりは、この場で体験しないと、絶対にわからない感覚です。そして、鏡面反射を描いた絵だと知って見るのと、何も知らずに見ていて、そのことに自分で気づいたというのは、なにものにも代えがたいものがあると思いました。
〇印刷だと思ってみてしまうと・・・
この部屋の覗き込んで「これ、印刷なんでしょ・・・・」と言って通り過ぎていった人がいました。
確かに印刷ですが、じっくり見れば、いろんなことが、見えてきます。古さの再現とか、かすれた感じとか。そして、構図の秘密だって潜んでいます。もったいないなぁ・・・・と思いながら見送ったのでした。
〇お寺の方もびっくりの技術
お寺の方とちょっとお話しをしました。「あのキャノンの再現、すごすぎませんか? あの紙質とか、ざらつき感とか・・・・」と話したら、「私たちもびっくりしました。実際に、触ってみたことがあるのですが、触ると、つるっとした感じがしました。しかし、見る限りは、わかりません。あれだけの再現ができたということは、すごいことだと思っています」・・・・と。
お寺の方でさえも、その技術を絶賛しています。最初から、「プリントだ」と思ってて見てしまったらそれまで。しかし、いつもこの襖を見ていたお寺の方が、すごいというほどの技術なのです。そのすごさを、先入観を持ってしまったことで、感じることができないのは、もったいないことだと思ってしまったのでした。
《雲龍図》を見て、私自身は、こちらも、キャノンプリンターによるものということは、知ってしまいました。しかし、それを知っていたとしても、この再現力は、すごい・・・と思えたのです。本物でなくても、感じることはできるのです。
そして、多分、この絵が、鏡面反射の絵だということに気づいた人って、そんなには多くないと思いました。一人悦に入って、見ていたのでした。
■絵の見方のヒントに
山種美術館で行われている 「奥村土牛 ―画業ひとすじ100年のあゆみ―」そこで見た吉野山の桜を描いた《吉野》 山あいをピンクに覆う霞みなのか、桜なのかわかりませんが、その下に、木々が描かれていることを発見しました。
○③奥村土牛展:美術館内で、京都の桜と吉野の桜の饗宴 (2016/04/07)
また、これと同じような作風の日本画を目にすることもありました。
○墨から隅まで・・・あなたを魅了します♪菅原さちよ展より
海北友松の襖絵は、その後の美術鑑賞に、絵を見る上で、大きな視点を与えてくれたのでした。
【参考】全体図