年も明け、美術館ではお正月にちなんだ企画が行われています。東京国立博物館では、待年恒例、「博物館に初もうで」というイベントが行われているということを、昨年のお正月に知りました。14回目という今年は、ぜひ行ってみたいと思っていました。
■毎年、お正月に見るを10年続けたら?
目的は長谷川等伯の《松林図屏風》 この屏風は、毎年展示されるということを聞きました。一年のはじめに《松林図屏風》を見る。毎年これを恒例行事として続けていったら・・・・ 絵の見方がどう変わっていくのか、経年変化を観察してみようと思いまいした。
昨年は、10年の歳月経て再会する作品の面白さということを体験しました。今年からは、毎年、年頭に見てその変化を観察するという新たな見方をスタートさせてみようと思ったのでした。
■メインイベントは、2日、3日に
2日、3日は、いろいろなイベントが盛りだくさんで、和太鼓、獅子舞など披露されると聞いており、それに合わせたかったのですが、この日は都合が悪く行けずじまい。昨日、行ってきました。箱根のポーラ美術館の帰路、缶詰に近い状態になった翌日。連日訪問で、美術館のリレー状態です。お疲れも出ているし、キャパもオーバーぎみなので、《松林図屏風》オンリー、この一枚を見るためというつもりででかけました。
■国宝が常設展で写真撮影可能
すでに行った方のレポート見ると、国宝の《松林図屏風》の写真が掲載されています。撮影可能なのは、確か常設展だけだったはずなのに・・・・ 私は、てっきりお正月の「博物館で初もうで」は企画展だと思っていたので、現在行われている企画展と並行して、お正月用特別企画展が行われているものとばかり思っていました。そのため、料金も企画展価格だとばっかり思っていまいた。常設展の料金と聞いて、とてもお得な気分でした。
■すばらしいラインナップ
〇本阿弥光悦の《舟橋蒔絵硯箱》
おととし、琳派400年の際の、アイコン的作品です。こんなものまであります。
〇若冲《松梅群系図屏風》
もうこのしっぽの表現を見ただけで、これは若冲だ! ってわかるようになった私はスゴイ! 「筆の筆跡で作者をあてられるようになってる・・・!」と自画自賛していました。しかし、このしっぽの表現は(昨年、山種で見た鶏なのですが、細見所蔵らしい)、誰でも一度見たら、忘れないかも・・・・(⇒《群系図》)
誰が見ても一度見た人なら、若冲だってわかるだろう・・・・と思うようになったことが、進歩してると言えるのかも・・・・・(笑) 昨年の1月にこのしっぽを見た時には、これを「迷いのない筆遣い」なんて言ってるけど、若冲に迷いがあるかどうかなんて、そんなもん、わからないでしょ! って思っていたのですから(笑)
そして、この石灯篭を見て、これって、あれだ! と理解できるわけで・・・・
若冲が点描で描いた《石灯篭図屏風》 ←これを描く前の習作的な存在?・・・・といった感じでしょうか?
〇《花鳥図屏風》イ失山黙隠(いっさんもくいん)
そしてこの絵のなんともいえないデジャブ感・・・・・若冲と似てるよね~
↑
一番右の一扇、なぜか《池辺群虫図》の構図の元ではないか? って感じました。
▼
一扇 四扇 六扇
一扇:若冲の図録でその他の作品を見ると、隠元豆(p130)にも見えます。
四扇:こんな絵、描いてましたよね
六扇:こんなののもあったなぁ・・・
と思って、どの絵と一致するか確認してみると、全然違うのです。
動植綵絵とそっくり・・・・と思って、若冲ってオリジナリティーの塊の人かと思っていたら、こういう基になる絵があって、参考にしていたんだと思ったのですが、描かれたものは違いました。でも、テイストはとってもにているように感じるのです。
〇青い岩の表現は?
若冲展で、岩が青く渦巻くように描かれていました。⇒《白梅錦鳥図》《菊花流水図》 どうしてこんあ描き方をするのだろう。この色には意味があるのか。何でこんな表現をするんだろう・・・ととても気にかかっていました。
まさにそれと同じ表現をここに確認されました。南頻画の表現方法だったことがわかります。
▼こちらは右隻です。
なんとなく見覚えのあるような構図や描き方をしているように見えます。
〇若冲と南頻画
この絵は、南頻画なんです。解説によれば
イ失山黙隠(いっさんもくいん)は曹洞宗の禅僧で、書家。来日清人、沈 南蘋(しん なんびん)が日本に伝えた写生風の濃厚な花鳥画(南頻画)を長崎で取得。モチーフの種類や形態など、同時代の伊藤若冲との関係が注目されている。
南頻画と言えば、この前、サントリーで見てきた、小田野直武展と繋がるわけです。小田野直武展を見ながら、若冲は、きっと南頻画を参考にしていたんだろうな・・・・と漠然と思っていました。描き方が似てるなぁ・・・と。ところが、こんな絵を見てしまったら・・・・マネしてる! って思ってしまうくらいの酷似しています。(笑)
なんであんな構図や形で描いたのかな? と思っていたのですが、若冲と言えども、何かをヒントにして描いていたんだなということがわかりました。というか、これは今の時代感覚でとらえる「な~んだ、若冲、マネしてたんだ!」ということなのですが・・・(笑)
この時代、いち早く西洋から南頻画というものが入ってきたという情報をいち早くキャッチする。それを実際に手に入れたり、実際に見に行くということが、とても希少な価値だったわけです。小田野直武の生没年周辺の絵師を、小田野直武展を見たあとまとめてみたのですが、若冲も影響されていそう・・・・と思っていました。それが今回の展示で、より明確になった感じられました。⇒生没表
〇多くを見ることによるつながり
数多く見るってこういうことなんですよね。⇒【*1】
いろいろな展示を見ていると、思わぬところでリンクされます。南頻画ってあまり好きじゃありませんでしたが、若冲の描いた絵の元になっていたと思えば、それらはまた違う目で見るようになります。
そして、「何か変・・・・」と感じていた引っかかりや疑問が、思わぬ別の展示で解決されたりという楽しみをもたらしてくれます。
■常設展を侮るな!
昨年も常設展の見学を年末にしていて感じたことなのですが、企画展が華々しく開催される裏で地味に(と言っては失礼ですが)開催されている印象だった常設展。ところが、企画展で見たものが繋がっているのです。
山楽という絵師を知りませでした。ところが、企画展で山楽の《龍虎図屛風》を見たあとに、日を改めて常設展に訪れました。その時に、山楽の屏風があったのです。すかさず、「あっ、山楽だ! 私、知ってる! この前、ちょうど見てきたところじゃない!」と、とても興味を引かれたのです。
ところが、これは、偶然だったわけではなく、意図的に関連付けて展示がされているということを、ボランティアガイドの方の説明で知りました。つまり、企画展の内容をより膨らませたり、別の角度から知識を固めたりというように、構成されていることがわかりました。
常設展、侮るなかれ! 関連知識を得て、理解を深めることができるのでした。
常設展の620円でこれだけの作品を鑑賞をできてしまうのは、なんだかとってもお得感がいっぱいでした。まだ名前だけしか知らない円山応挙や、池大雅などの作品も見ることができました。
《松林図屏風》の前は、人、人、人、人・・・・
私はこの作品、昨年、知ったのですが、そんなに有名な作品なのでしょうか? 毎年、人が増えているらしく、美術の愛好家が年々、来ていることの表れなのかもしれません。詳細は、また改めます。(続)
■長谷川等伯:《松林図屏風》 感想② 2017年 描いたのは海岸? 山並み?
*1:■感性を磨くには? ①よく見る 『アート鑑賞、超入門』 数多く見る より
ーーーーーーーーーーーーーーー