コロコロのアート 見て歩記&調べ歩記

美術鑑賞を通して感じたこと、考えたこと、調べたことを、過去と繋げて追記したりして変化を楽しむブログ 一枚の絵を深堀したり・・・ 

開館15周年 特別展 ジョルジュ・ルオー 聖なる芸術とモデルニテ

パナソニック汐留ミュージアムでは、開館15周年を記念して特別展「ジョルジュ・ルオー 聖なる芸術とモエルニテ」が2018年9月29日(土)より始まりました。(会期は12月9日(日)まで)

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開催に先立ち、9月28日(金)内覧会が行われました。

*写真は許可を得て撮影しております。 

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ジョルジュ・ルオー財団の理事長であり、ルオーのお孫さんでもあるジャン=イヴ・ルオー氏が来日。本展の監修者、西南学院大学教授、後藤新治氏、展覧会を担当された萩原敦子学芸員による解説が行われました。レクチャーより見どころをご紹介致します。

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ジョルジュ・ルオー財団の理事長 ジャン=イヴ・ルオー氏による解説

 

 

■展示構成と展覧会概要

展示構成は、下記の通りです。

第Ⅰ章 ミセレーレ:蘇ったイコン

第Ⅱ章 聖顔と聖なる人物:物言わぬサバルタン

第Ⅲ章 パッション:受肉するマチエール

第Ⅳ章 聖書の風景:未完のユートピア

 

敬虔なキリスト教徒だったルオーは、宗教主題を数多く描きました。キリスト教になじみのない日本人には、見出しの意味がつかみにくいかもしれません。本展の監修者、後藤新治氏より、それぞれのキーワードの解説がありました。

表題の「聖なる芸術」は、キリスト教芸術のこと、「モデルニテ」は現代性、近代性、モダンという意味から転じて、はかないもの、消えやすいものというニュアンスを含みます。この展覧会では、ルオーの古典的な部分の意味と、現代性を改めて問うものになっています。

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監修者、西南学院大学教授、後藤新治氏の解説

 

 

■ここを見逃すな!

3氏の解説の中から、ルオーに関する知識がなくても鑑賞できそうなポイントを拾ってみました。

〇ヴァチカンから初めてやってきた作品

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4章展示風景

何と言っても今回の売りは、カトリック教会の総本山ヴァチカンから、3点の油彩と、七宝作品がやっててきたことです。中でも《秋 または ナザレット》に注目。ナザレットはキリストが幼少時代を過ごした場所。ルオーがこの景色で表そうとしたのは、どんな世界だったのでしょうか?後半の風景画のところで紹介します。

 

〇ガラスが入っていない作品

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第2章 展示風景
《サラ》は、ジョルジュルオー財団の理事長の机の後ろに飾ってあるそうです。今、オフィスになく寂しいと、ジャン=イブ・ルオー氏。ルオー最晩年の作品で何層にも重ねた絵具が彫刻のようになっています。そのためもろくなり「旅ができない」という表現をされました。10年に1回、旅立たせるそう。そんなデリケートな作品なのですが、ガラス越しではなく直接、ルオーの肉厚に盛られた筆致を見ることができるのです。

このような機会はまたとありません。10年に1度の巡り合わせ。ルオーのお孫さんがいつも傍らに置き、子供のような視線でみつめていらっしゃることを感じさせられる大切な絵。ぜひこの機会に間近で、ご覧いただきたいです。

その他にガラスケースに入っていない作品が2点。No41キリスト《受難》 No32《聖顔》です。この時代の絵を裸で見ることができるのは、ありえないと、後藤氏が力説されました。

 

 

〇「受肉」というマチエールに注目

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第3章 展示風景

第3章の「パッション」では、「受肉」するマチエールというサブタイトルがつけられています。「パッション」は、一般的には「情熱」ですが、キリスト教では「受難」を意味します。「受肉」は、積み重ねられた絵具の技法を表しています。晩年の表現は溶岩のように体積した塊になっています。まるで物質に変貌したかのようです。この企画に携わった萩原学芸員によると、第2章の青い部屋は重厚で重い作品が展示され、第3章の赤い部屋は、小ぶりの作品で親しみやすい作品を展示しているとのことです。

壁面の色からも、作品のテイストの違い、変化を伝えていることがわかります。

 

〇圧巻の風景画

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第4章 会場風景

第4章の「聖書の風景:未完のユートピア」では晩年の代表作、風景画が一堂に会しています。これだけ集まることは、なかなか経験できないと後藤氏が熱く語ります。そしてこれらの風景画には定型パターンがあるのだそう。地平線があり、手前に広場。そこには人々の語らい。遠近法的な三角形の道が奥にのび、彼方に建物が建っています。そして天空には月もしくは太陽の光。風景画はこれらの構図が反復して描かれています。この風景こそがルオーが考えたユートピアだったのではとのお話です。

ルオーが考えたたくさんのユートピアに囲まれた空間にしばし浸っていました。一つ一つの風景画から降り注ぐあたたかな光のシャワー。その元で語らう人々の穏やかで満ち足りた表情。自分もその中に溶け込んでいくような感覚を覚えます。すると、冒頭に掲げられていた言葉が頭に浮かんできました。

 

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ルオーの作品の根底にあるものが伝わってきました。

 

■ルオーの色の秘密

ルオーの絵を見て、どのように感じたでしょうか?おそらく好意的にとらえる方と、そうではない方に分かれるのではないかと思うのです。実は私も初めて見た時に、よくわかりませんでした。

ところが何度か目にするうちに、次第に心惹かれるようになってきました。見ればみるほど、味わい深く、色の深みのようなものが感じられてくるのです。それは、てっきりルオーの絵具の重なりによるものだと思っていました。

しかし、今回、ルオーがどのように絵具を重ねていたか、その一旦を知ることができました。それは、絵具を重ねてぬりたくって厚くしていたわけではなく、重ねたあと削って、また重ねるということを何年も続けたことによって作り出された厚みの時代があったのです。「重ねる、削る、薄くする」の繰り返しは、光の透過と反射を変化させて複雑な色を発色させていたのでした。

 

ミュージアムショップ&グッズ

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ミュージアムショップ全景

以下は、今回のオリジナルグッズや、ショップの方のおすすめアイテムです。ヴァチカンから初めてやってきた作品がグッズとなって取り揃えられいます。鑑賞の思い出にお手元に・・・・