コロコロのアート 見て歩記&調べ歩記

美術鑑賞を通して感じたこと、考えたこと、調べたことを、過去と繋げて追記したりして変化を楽しむブログ 一枚の絵を深堀したり・・・ 

■汐留ミュージアム:日本の四季 近代絵画の巨匠たち 本邦初公開

今年はパナソニック創業100年の節目。それを記念し、パナソニックが収蔵する作品から四季にちなんだ絵画を期間限定で展示されています。これらは本社が所蔵する作品。いつもの汐留ミュージアムとは一味も二味も違う世界が広がっています。日本人の心に訴えかける展示です。 

*写真は主催者の許可を得て撮影しております。

 

 

■ギャラリートークの開催

会期は4/2~4/15 たった13日間。2週間足らずです。

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その中盤の4/6に、ギャラリートークが行われました。何度か、汐留ミュージアムに訪れたことがあります。しかし、今さらながら、そうだったのか・・・ と思うこともいくつかありました。

いつもの汐留ミュージアムで行われる展示作品とはガラリと違う雰囲気。今回の展示は本社が所蔵している作品で、松下幸之助のコレクション。これまで未公開だそうです。100年目の今年だからこそ粋な計らい。たった2週間の魅惑の時間です。

 

「今後はない(だろう)」とのお話。100年にして初めてのお披露目。この展示を知ってしまったのは、きっと何かの縁だと思います。知るべくして知ったのだと・・・・ この機会をのがさず、ぜひお目にかかっておくことをお勧めします。

 

入館料も500円 クーポンを使うと100円引きです(印刷の必要なく提示でOK)

もし、次があるとすれば、100年後の200年記念でしょうか? 天体観測のようなめぐりあわせなのかもしれません。 

 

 

■作品のラインナップ

本邦初公開。しかし、近代絵画の巨匠の特徴が、とてもよく現われた作品なので、初めて見る作品でも、「これは〇〇〇〇の絵」と認識できる特徴的な作品群です。その一方で、こんな作風のものもあるんだ・・・というものもありました。

学芸員さんによれば「代表的な作品を展示しようと思ってセレクトしていたのですが、こんな作品もあるというのも見せたくて選んだので、意外なものもあります」と、まさに見て感じられたようなセレクトをされていたことがわかりました。それぞれの画家の特徴を把握し俯瞰してみるのにも適した展示となっていました。

 

また、本社所蔵の作品管理は、学芸員がいないため、作品の調査をしていないそう。購入した年月日の記録はあるそうですが、書かれた年月日がわからなかったため、可能な限り調べて記載してあるとのこと。

例えばこちらの作品‥‥ 

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(右)中川一政 椿 制昨年不詳(となっています)

が、今回調べてわかったのは、1950年ぐらいまでの若い時は椿をよく描き、その後、桜を描いたことなどがわかっているので、1950年前の作品ということはわかるそうです。 

 

■ここは企業ミュージアム

パナソニック汐留ミュージアムは企業ミュージアムです。そんなわけで、毎回、展示ではパナソニックの商材を入れて、さりげなく、商品初回をしていたというお話がありました。(確かに振り返ってみると、照明など新商品が導入されていました)

 

今回の商材は、プロジェクターとスピーカー。こちらはエントランスの映像です。

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展示場内に入ったら、しばしこの画像を立ち止まって御覧になってみて下さい。あることに気づかされます。

 

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後ろにはプロジェクターとスピーカーが天井に配置されています。壁に映し出されたこの映像、じっと見ていると何かが動きます。プロジェクターで映し出されているのは動画だったのです。一見、静止画に見えますがわずかに動いているのがわかります。そして山の中にいるような自然の効果音も響いてきます。そんなパナソニックの技術がさりげなく織り込まれています(⇒映像は雲が流れ、木々がざわざわしていました) 

 

■作品解説や作品が動き出すLinkRay

〇展示作品の横にある丸いライトは何?

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ギャラリートークの前に見ていて気になったのがこのライト。作品をきれいに見せるための補助ライトなのかなと思っていたのですが、光の方向が、作品とは違う向きです。こちらも、今回、登場した新しいシステムでした。 

 

入口に下記のようなパネルがあり、アプリをダウンロードします。 そしてこの光にスマホをかざすと作者の解説が表示されるというシステムです。(作品解説ではありません・・・念のため)

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〇玉堂の作品に雪が降る

最後のブースに展示された河合玉堂の《雪景色》にスマホをかざすと、玉堂の絵の中に雪が降ります。いわゆるAR体験です(⇒現実世界で人が感知できる情報に、「何か別の情報」を加え現実を「拡張」表現する技術)

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展示されている作品はこちら

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河合玉堂《雪景の図》 解説パネルの上には小さな文字 それは 複製!

言われなければわかりませんでした(笑) この作品は、最後の撮影コーナーにあります。自由に撮影していたので、いいのかな? と思ったら、複製品だったのでした。

 

本物はこちらです。

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本物との違いをぜひ比べてみて下さい。写真では、わかりにくいですが、 よ~く見れば、その違いが一目瞭然です。(こちらを見て、最後の作品を見たのに、本物なのかなぁ…と思ってしまいました。あらかじめ知ってしまうとすぐにわかってしまうかもしれませんが・・・)

 

◆知っトク情報

玉堂美術館の館長さんが来られた時に話されていたこと。玉堂は必ずスケッチをして描いたのだそう。雪がやんだあとにスケッチにでかけたので、雪が降る景色は描いていないのだそうです。 想像で雪を描くことはなかったのかな? と思いましたが、それはなかったようです。

 

 

■ブース作りに注目

今回の作品の展示は、工夫が凝らされています。パーテーションの壁ではなく、木枠が組まれ、透ける生地が作品の背景になっています。

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間仕切りの向こうには、人影が見えかくれします。ここは「秋」コーナー 

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人恋しくなる秋をイメーさせているのかな? とか‥‥

 

これ、絶対に何か意図を持っているんだろうな。どういう意図なんだろうと考えていました。松下幸之助がこんなことを言っていたそうです。

「いろいろな姿で巡ってくる四季によって、私たちは適当な緊張と適当な気楽さを味わうことができ、自然の恵みを受けることができる。日本のこのはっきりとした季節の変化が日本人の優れた特質を育んでいるし、季節によって変わる食が、繊細な心とゆかしさを持つ日本人の身体を形成するのだろう」

この展示は、日本人の気質や文化を伝えようとしているのではないか。豊かな森林を素材にした木造建築で作られる柱構造を見せようとした? あるいは、完璧に仕切らずに人の気配を感じながら間仕切りをしてきた御簾。同じ空間に同居しながら屏風などでセパレートしつつ、相手の気配を感じながら生活する習慣。日本人の空気を読むとか配慮とか‥‥ 密に接しながら上手にバランスをとってきた文化を示しているのかも。そんなことを考えていたら、ギャラリートークで解説がされました。

 

 

木とオーガンジーを使って、四季ごとに色を変えてあり、その移り変わりの変化を色のグラデーションで表しているのだそう。 

▼春と夏

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↑ ピンクの春から              ↑ グリーの夏へ

 

▼春⇒夏⇒秋

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オレンジ(?) 茶(?)の秋へ

 

▼そして冬‥‥

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日本人は忍耐強いと言われます。今回の展示を担当された岩井美恵子学芸員によると、松下幸之助は、1963年、アメリカから帰ってきて、同志社大学で講演した際、日本人の性質、我慢強さは、日本に四季があって、それに耐えているから忍耐強さが備わったのでは?と語ったようです。

 

東北の震災があった時、東北の方たちは辛抱強いと言われました。冬の厳しい環境を生きてきたことが影響しているのかもしれません。このコーナーは、これまでの鮮やかな色から、厳しさを感じさせる景色に変化しています。しかし、真ん中の《大観山の富士》(小野竹喬)は、明るい富士を選び、印象を変えています。

 

背景の壁をあえて透けさせたのは何でだろうと思っていたのですが、季節によって色が違うということは、全く気づきませんでした。こうした微妙なニュアンスを受けとめることができるのが、日本人の感性なんだと思いながら見ていて、気づいたこと。

  

▼夏から秋へ季節の変化

裏の夏色のカラー(グリーン)と重なりあって、微妙な変化をしています

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右の絵は茄子です。茄子の絵の背景は夏色のスクリーンの色と同じです。そして夏の野菜である茄子ですが、「秋茄子は‥‥」という言葉が浮かぶように「秋」へと連想させつなげているのでしょうか? 茄子は小さい実が描かれ、これから成長する未来を示唆しているのではとのこと。

 

 

■同じモチーフがまとまって展示

トークの前に見ていて、思ったのが「モチーフ」がお隣同士で並んでいるので、作風の違いをとても比較しやすいと思って見ていました。

 

▼バラの集まり             ▼鶴の集まり

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▲ゆりの集まり             ▲燕子花の集まり

 

 

▼圧巻のバラ

 12:梅原龍三郎          13:中川一政        14:中川一政

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15:中川一政 16:梅原龍三郎  17:林武  18:林武          19:林武

 

実は、この手の絵が苦手・・・・・ ところが、バラをそれぞれの画家がどう描いたのかを比較鑑賞するのに、よいお勉強コーナーとなりました。薔薇の輪郭の描き方、絵の具ののせ方、描く素材などに注目。

 

〇鑑賞のポイント  

12 梅原龍三郎 花はボタン ルノアールに傾倒 明るく輪郭線ない花 

13 中川一政  一つ一つバラバラ

16 梅原龍三郎 かたまりとしてのバラ

17 林武 ペインティングナイフで描かれたモリモリ 黒い輪郭線 

18 林武 モリモリで油絵のようだけども紙本 もしかしたら色紙かも

19 林武 絵の具モリモリ 油絵のよう

 

 

■真打登場! 《山峡朝霧》 東山魁夷

今回のメインビジュアル 東山魁夷の《山峡朝霧》をフライヤー、ポスターで目にし、この幽玄さにノックアウト状態でした。ぜひこれを見たい。この作品目的の来訪でした。

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▲▼ 新橋から汐留ミュージアムへ行く途中のパネル

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 そして、ジャ~ン!!

(正面から)

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この展示を見て、初めて「屏風」だったことを知りました。ずっと平面の画像で見慣れてしまったので、屏風の折り目があるのに、てっきり平面画だと思っていました。

 

(右から) 

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これまで「六曲二双屏風」に見慣れていたことも影響するのと、平面の延びた状態のイメージが強かったので、思っていたよりもコンパクな印象を最初受けました。が、右から見ると、手前の濃い杉林から、奥の白い空間へのグラデーションに奥行きを感じさせられます。

  

東山魁夷へ依頼したそうですがどのように依頼をされたのでしょう

松下幸之助の思索の場(PHP実践の場)であった、南禅寺の近く「真々庵」東山魁夷を招待。その時に、この庭を描いてもらえないかと依頼(1980年)。ところが恐れ多いと東山魁夷は辞退しました。その変わりとして3年後(1983年)にこちらが完成したのだそう。

 

東山魁夷が辞退するほどの庭 真々庵とは?

京都南禅寺の近くにあり、1961年、社長を退任し会長に就任したのを機に、一時中断していたPHPの研究活動を再開するために求めた別邸。現在一般非公開のパナソニックグループの迎賓施設として運営。その庭の随所に、創業者の創意と感性が反映されている。

 

 

Qこの山はいったいどこなのでしょうか? 

特定はされていないそうです。スケッチ旅行などをもとにして描いた東山魁夷空想の景色なのだそう。しかし、ただの空想ではなく、依頼者である松下幸之助が、真々庵に「杉を植えたい」と言っていたことや、「庭に白砂」を敷いていたことなどを、本社からみえた方が、絵を見ながらお話されていて、そうしたことがこの絵の中に盛り込まれたのだろうと考えられるそうです。

 

白い霧の広がりは「真々庵」の石‥‥ 右側の木は植えたかった杉‥‥ 

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この絵に描かれたものに意味が生まれました。 

東山魁夷の本の表紙にも使われるほど、お気に入りだったそうです。空想の世界ながら、依頼主の好みを反映させ、さらに依頼主のみならず、見る人の心をつかむ。日本人のツボに語り掛けるようです。

 

 

■撮影スポット 

汐留ミュージアムの一番最後のコーナーには、撮影スポットが毎回、設置されています。そういえば、こちらでも毎回、新しい商材やシステムが紹介されていました。(以前は、手元で自撮り可能なシステムなどもありました)

 

〇3Dの撮影スポット

今回は平面でなく3Dの立体化した背景となっています。正面から撮影してもわからなかったので横から‥‥

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↑正面から               ↑横から

舞子さんを立体的にしたのは何でなんだろう‥‥ 元の絵はこちらです。

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手をついたあたりの影が、撮影スポットはより強調されて濃くなっていると感じたので、その影から立体感を表し3D化したのかな? と勝手に想像していました。

 

Q さて、この絵の季節はいつでしょうか? 

季節に沿ったセレクトがされているとのことですが、この舞子さんはいつの季節の絵なのでしょうか?(答えはあとで‥‥)

 

写真撮影スポットは、「SNSの拡散効果も大きいので毎回、力を入れています」と本音トークも。希望があれば、学芸員さん自ら、撮影しますと撮影のサポートをされていました。

 

 

Q どうして、この絵を選んだのかお聴きしてみました。

まず、選んだポイントは、風景ではなく人と一緒に撮影できる絵ということ。そして女性のお客様が多いので、きれいな女性と一緒に絵画の中に入って撮影できるという設定にしたのだそう。

舞子さんと肩を組んで撮影したり、床についた手と手を合わせて撮影したり、いろいろなシチュエーションをみなさん、考えて撮影されているようですとお話されていました。

 

こんなふうに肩を組んで… 

 

さてこの絵の季節はいつなのか。答えはです。それは着物の柄で秋を表現しているのだそうです。こんな細部でも季節が表現されています。 

 

 

■感想

〇絵よりも展示方法が気になった

《山峡朝霧》を楽しみに訪れたのですが、最初に着目したのは、展示のパーテーションでした。これまでに見たこともない背景。透けているんです。裏側にいる人まで見えてしまいます。(一瞬、これって気が散らないない? と頭をよぎっていました)しかし、そこには作り手の意図が必ずあるはず。それが何なのか、読み解くことに集中してしまいました。

作品よりも、展示の構造やその理由が気になっていました。背景を章ごとに色分けするというのは、最近よく見かけるパタ―ンです。背景の色で作品のイメージも変わるのですが、その色を極力なくして透明化することによって、どんな効果をもたらすのでしょうか?

 

裏側に人がいて、気が散るなぁ‥‥ しかし、そういうことを調整しながら暮らしてきたのが日本人であり、日本の文化だったと気づかされました。

 

日本の文化について、UXデザイナーの目。ちょっと面白かったのピックアップ

jp.globalvoices.org

 

 

 

〇作り手の意図は?

本当の意図は、柔らかいあいまいな季節の変化を表現されていたようでした。的ははずれてしまいましたが、モノづくりの裏には、必ず作り手の意図があることがわかります。それを受け止めて想像してみること。一方、作り手側も、使い手が何を望んでいるかという側面から見ているのだと思います。

 

〇アートをビジネスに生かす

最近アートとビジネスの関係についてよく語られます。美術鑑賞をビジネスに生かす松下幸之助も、アート作品をコレクションし、そこから多くのことを学んだのでしょうか?

学芸員さんによると、松下幸之助は、作品の蒐集はしても、美術については一切、語ることはなかったというお話がありました。ただ、ただ、作り手の力になることを考えていたのだそう。「お金は出すけども、口は出さない」描き手にとっては最高の応援者です。

 

作り手は自分の作りたいものを作るのか。求められるものを作るのか‥‥ 売れるものを作るのか‥‥ アート作品を通して松下幸之助も模索していたのかもしれません。

 

 

〇起業家はアートを学ぶ 

起業家にとって必要なことは、全く違う世界を結び付けて、新しい視点を見出し、新たな価値を作りだすことだと。いろいろな企業が美術館を持っています。正直なことを言うと「〇〇対策」の一環の一面もあるのでは? と思っていました(笑) しかし、蒐集することで目利きにもなれるし、ジャンルを超えた発想のヒントにもなる。それがビジネスに好循環をもたらすことができたということなのでしょうか?

 

私たちがアートから本当に学ぶべきことは、無関係な点と点を結び新たな意味を創り出す、その物の見方や考え方にあると言えます。

21世紀においてアートを学んだ起業家が大きな成功を収めているのは、これまでの物の見方や捉え方を壊し、新しい意味を作り出し、ジャンルや境界といったボーダーを越えて点と点を繋いで、その意味を具現化できるからなのです。

 

 

その他にも紹介したい作品がいっぱいあります。作品との出会いは一期一会‥‥ 今、ここで出会うべき一枚の絵がきっとあるはずです。

今回、私は絵よりも、展示方法から、いろいろ想像することで、日本の暮らし、そこから生まれる文化、日本人の気質などに思いを馳せることができました。 

 

 

次の展示はない‥‥ とのことでしたが、密に「評判が大きくなって、お披露目せざるえない」そんな状況になって再会できることを願いたいです。

 

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