2017年の美術展 行ってよかったベスト10を選んでみました。
順位を決めるのってなかなか難しいので、何を基準に選ぶかを、自分なりのポイントを絞ってみることにしました。
美術鑑賞の面白さは、新たな知識や視点をもたらしてくれたり、全く違う何かとつながっていく面白さだと感じています。あるいは、長い間、理解できなかったことがやっと理解できたという満足感だったり・・・・
ということで、見る前と見た後、自分の中の変化が大きかったこと。その後の鑑賞に大きな影響をもたらしてくれたということをポイントに、リストアップしてみました。
- ■1.海北友松展
- ■2.天下を治めた絵師 狩野元信展
- ■3.国宝展
- ■4.ミュシャ展
- ■5.あこがれの明清絵画
- ■6.びょうぶとあそぶ
- ■7.特別展「茶の湯」
- ■8.かおりを飾る~ 珠玉の香合・香炉展
- ■9.名刀礼賛-もののふたちの美学
- ■10 ジャコメッティ展
- □ラスコー展
- □挿絵本の楽しみ
- □浅井忠の京都遺産
- □デザインの解剖展
- □南方熊楠 100年早かった智の人
- □典雅と奇想―明末清初の中国名画展
- ■後記
■1.海北友松展
建仁寺でレプリカを見て、これは誰? なんだかすごい人‥‥ と思わされた絵師。何の知識を持っていなくても、そのように感じさせる絵師がいること。回りの評判でなく自分の感覚で、この人、すごい! と思えるようになってきたと感慨深いものが。
いつか本物を見てみたいと思っていたところに、大回顧展が行われました。都合がつかず、あきらめていましたが、最終日、滑り込みで見ることができました。わざわざ見に来てよかったと心底思えた展覧会。レプリカでもすごいと感じるさせられた作品の本物はいかに!
若冲ブームのきっかけが2000年 京都国立博物館「若冲展」(若冲没後200年)と言われているように、この展覧会が、将来の海北友松への注目の試金石のような位置づけとなるのではないかと密かに思っています。
■2.天下を治めた絵師 狩野元信展
狩野派って何? ずっとわからないまま。そのうち外野から狩野派はマンネリに陥り廃れた。という話が耳に入ってきて、知る前にそういう認識になっていました。狩野派の元を立ち上げた元信。なんかすごい人だわ・・・ 永徳がなんぼのもんじゃいって国宝展に行って思わされました。
■3.国宝展
門外不出と言われる、大徳寺の曜変天目を見ることができたことは付属的で、日本美術を網羅的に見ることができ、俯瞰できたこと。予習をしながら、そして行ってみてわかったこと。そして見たあと、じわじわ、いろいろなことが、そういうことだったのか‥‥と理解に至るための情報がいっぱい存在していて、あとからボディーブローのように、いろいろな理解の糧になっています。
■4.ミュシャ展
美術展を見るのに、これほど予習をしたことはなかったというくらい、自分では下準備をした展覧会。日本史はもとより、世界史ともなるとちんぷんかんぷん。スラヴの歴史を知ることで世界の歴史がいかなるものであったか。それを知ることができたと同時に、日本の歴史を強く意識させられました。当たり前に思っていたことが当たり前ではない。それによって形成されるアイデンティティーの違いなど。今後の西洋美術を見る上で、いろいろなヒントを与えてくれました。
■5.あこがれの明清絵画
日本人は、何で中国のような景色を描き、人物を描いていたのか‥‥ 日本美術を見ていても、中国風の絵を見ると拒否反応を示し、スルーしてきました。
やっとその理由、中国と日本の関係がわかり、興味の対象外だった中国画に興味が持てるようになり、日本画の中国風の画題も見ることができるようになりました。
■6.びょうぶとあそぶ
レプリカだってすごい! そして映像と組み合わせることで広がる世界。松林図屏風は、どんな景色描いたのか‥‥ わたしなりに調べて、自分なりの答えを出していたので、この映像で押し付けられるのはいやだなぁ… と思っていたら、全くそんなことはなくて、私が調べていたいろいろな説が、すべて盛り込まれていたことに感激。
このレプリカと、本物を比べるために、国宝展にも行きました。
■7.特別展「茶の湯」
茶碗なんてみんな同じに見える。何が違うのがわからない。と思っていたところに、曜変天目事件があり、それがきっかけで茶碗を見るようになりました。
茶碗というのは、その素性によっても価値が変わる。あるいは、権力者の価値観が茶碗の価値を決めるということに対する個人的な違和感。物の価値とは、人によって変わらないという自分のもののとらえ方の違いを感じさせられた展示。
■8.かおりを飾る~ 珠玉の香合・香炉展
香道というものを知っていたけども、それがいかなるものか、雲をつかむような状態。この展示によってその一旦がわかりました。また、茶道についても、全くわからない世界だったのが、なんとなくですが、どんな世界で何に向かっているのかが見えた気が‥‥
茶の湯展などの関連で、なじみのなかった世界が近づいてきた感じ。
■9.名刀礼賛-もののふたちの美学
どうやって見たらいいのか、全くわからない刀剣の世界。やっとその一旦に触れることができました。刀も同様、来歴によって価値が変わります。物、物質としてどういうものなのか‥‥ そっちの方が私には興味があることを再確認させられた展示。
■10 ジャコメッティ展
美術における本質とは? 私がとらえる本質とは?
「実存主義」「本質主義」というキーワードを知りました。「本質は人によって変わるというとらえ方」が美術の世界のとらえ方ということなんだろうか? 「人によって変わるわけない」と私は、ずっと思っていたことに気づかされた展覧会で、目からウロコ状態。本質は人によっては変わらない。と思っているから、受け入れにくいことがあったんだなぁ・・・と理解しました。
次点
□ラスコー展
ミュシャ展が予習をいっぱいした展示だとすると、復習を一番したのがラスコー展。人はなぜ絵を描くのかという根源的なことから、人類の進化の過程を把握するのに、地球館に行ったり‥‥ 「人類にはできるけどしない」という遺伝子があるという視点が面白かった。
□挿絵本の楽しみ
復習をして、それがその後に違う意味で広がりを持った展示。見終わったあとになっていろんなことと結びついて響いた展覧会。こんなこと何の意味があるのかなぁ…と思いながらも、無駄になることはないということを確認できました。
□浅井忠の京都遺産
工芸製品を科学としてとらえる。やっぱりそういう方向が好きなんだなと。過去にそういう視点で、海外に向かい、日本にそれを普及させようとした人がいたこと。また、コレクションした中のティファニー製品に何を見ていたのかが気になっています。
□デザインの解剖展
自分の物事のとらえ方を自覚できた展示。解剖というとらえ方がデザイン領域でも生かせることに、物事の基本というのはなんにでも応用できると思った展示でした。
□南方熊楠 100年早かった智の人
昨年末の開催ですが、いろいろなことを考えさせられた展示。「知る」とは 「学ぶとは」という基本的なことを考えさせられる展示。
他の人のランキングを見ていたら、やっぱりこれも入れたくなりました。
□典雅と奇想―明末清初の中国名画展
この展示見たら、単純に、中国、すげ~!! って思いました。これまで中国に対して抱いていた感情が根底から覆された感じ・・・・ 見る目が変わりました。これによって、中国絵画、ちゃんと見てみようという気になれて、高い高いこれまでのハードルが下がりました。
■後記
毎年行われるランキング。人が選んだのを見るのは好きなのですが、自分が選ぶのはちょっと‥‥ そもそも、そういうことを決めたり考えることがめんどくさいって思ってました。そういえば、食べログでも毎年、年末になると、マイベストレストランの年間ランキングを発表するのが恒例になっていましたが、冷ややかに見ていました。(食べログに情報提供して利用されてるだけなのに…って)
順位なんて、そんなもの決めようがない。それに興味の対象は人それぞれに違うわけだし、それを平均して順位をつけることに意味を感じていなかったというのも事実。それぞれにいいわけで、上も下もないでしょ。(食べログを初めとする口コミサイトのランキングがはやり、ああいうものに捕らわれて、自分の目で判断しないことがナンセンス)← これが本音でした。
でも、年末からいろいろランキングを見ていたら、ああ、同じ、それそれと思ったり、私はあっちかな‥‥というのが出てきて自分も選んでみようかなぁ… と気持ちに変化が出てきました。(一番の原因は、海北友松 1位というランキングを見て誘発された感じがします。私もそう思う! 絶対にこれ、今後に語り継がれる美術展だったと思うから、それを私も残しておこう‥‥ いっちょかみしたと思い心が動きました。)
そして「〇〇の最高峰」と評価される作品について、何をもって「最高峰」なんだ? とずっと疑問に思ってきました。それが昨年、理由がわかりました。評価するポイントが、ある「範囲の中で」考えられていたり、「歴史の中の変化」という点で評価していたということがわかりました。
行ってよかった美術展ランキングも、何に着目するかを限定すれば、順位付けもできると思いました。ということで、自分の中に、順位をつけてみようという変化が起きたのでした。見る前と後の自分の中の変化量の大きさで美術展のランキングを選んでみることにしました。言い換えたら、美術展が自分にもたらしてくれた大きさの順番というランキングで自分主体の評価になります。
【追記】2018.1.3
いろいろな方のランキングを見ていて面白いと思ったのは、ランキングなのではなく、どういう展覧会をどういう視点で選んだかという、「選んだ理由」「着眼点」の部分だったことに気づきました。
そういえば、食べログも点数や順位は気にしておらず、見ているのはレビューの内容で、どこをどう評価しているのかに注目していました。
ランキングを出すことに意味を感じていませんでしたが、個々のランキングを見るのは面白いと感じていた理由が見えたということでメモ。