コロコロのアート 見て歩記&調べ歩記

美術鑑賞を通して感じたこと、考えたこと、調べたことを、過去と繋げて追記したりして変化を楽しむブログ 一枚の絵を深堀したり・・・ 

■空気遠近法とは? 「芸術界」と「科学界」の解説は違う?

「空気遠近法」って知っていますか? 聞いたことあるでしょうか? 美術ファンなら聞いたとがあると思いますし、ご存知かと思われます。知っているとしたら、このテクニックをどのように解説されるでしょうか?

いざ、この方法について、説明しようと思って調べてみると、よくわからなくなってしまうのです。

 

 

■空気遠近法との出会い

私が「空気遠近法」を知ったのは、2007年国立科学博物館(屈折に関する解説があったので、科博で行われたと勘違いをしていました)東京国立博物館行われたレオナルド・ダ・ヴィンチ -天才の実像」の展示の時でした。

 

その解説の記憶は定かではないのですが、当時のwebサイトには、次のような解説がされていました。

(出典:東京国立博物館 - 展示 日本美術(本館)

    特別展「レオナルド・ダ・ヴィンチ -天才の実像」

 

 建築物や人の配置から補助線を引くと、画面中央の1点(消失点)に集束する。「1点透視法」という遠近法です。ルネサンス時代の最先端の技法を若きレオナルドはすでに吸収し、自分のものとしていました。

  さらに注目すべきは画面奥に描かれた景色です。遠くにあるものがかすかにぼやけ、やや青白い。これは線の集束によらない遠近法、すなわち大気による遠近法(空気遠近法)です。

 大気中の水蒸気などによって起こるこの現象をレオナルドは見出しました。それを理論化するにはさらに時間を要し、代表作「モナ・リザ」では幽玄な世界を現出していますが、はやくもデビュー作にその萌芽が見られます。    

 

「空気遠近法」はさらに高次元の描写となり、当時の展示では5章で、項目を立てて解説されていたようです。

  

 V絵画への結実

   1:目-視るための装置
   2:人体の描写
   3:影、光、色
   4:空気遠近法

 

出典:レオナルド・ダ・ヴィンチ −天才の実像
受胎告知」観てきました オクターブの共鳴音/ウェブリブログ より

 

私のかすかな記憶では、「モナリザ」に描かれた背景の空の部分が「空気遠近法」が使われており、その解説がされていました。どのような解説だったのか、手元に記録がなく、ネット内を調べてみたのですが、記録がみあたりませんでした。

 

あやふやな記憶になってしますが、

「遠景は近景よりも、空気の層が厚くなるのでその分、水蒸気が多くなり、光がそこを通ると水蒸気にあたって乱反射して青く見える。」(もしくは、水滴がプリズムの役割をして光が屈折し青く見える)

そんな内容だったかと・・・・

 

 

■「モナリザ」を見る目が一気に変わる

その解説を見た時というのは、目から鱗が落ちるようで、「モナリザ」という作品に対する見方が変わった瞬間でした。それまでは、「モナリザ」が名画と言われても、どこがすばらしいのかが、全くわかりませんでした。

 

ところが、「モナリザ」の何気ない背景の描写の中に、自然科学の原理が描かれていたということを知って、見方が180度変化したのです。「空気に含まれている水蒸気」「それを粒子ととらえていて」「粒子にあたる光の反射」あるいは、「水滴をプリズムととらえ、光の屈折」 という物理を理解した上で、絵を描いていた・・・・

 

絵画の中に、科学の要素をみつけると、俄然、作品に対するの興味の持ち方が変化するということを繰り返してきました。他にも巻き髪は水流の渦と同じ・・・など、レオナルドの描くものの背景には、自然科学が存在していたことを、この展示で知ったのです。

 

表現手段は「絵画」ではあるけども、「光の性質」「反射」「屈折」「水蒸気」といった「物理学」を「絵」という手法で置き換えていると感じ、絵画であって絵画でない。科学レポートを絵画という手段を使って書いたのだと。

 

そんな、多才な才能を知り、私の中でレオナルドは画家ではなく、「科学者」レオナルドと認識を新たにしたのでした。実験、観察、研究から得られた、思考、考察、発明を伝える方法として選んだのが、絵画という手段だった・・・・  絵画は、レオナルドが探求している自然科学の表現手段にすぎなかったのだと思うようになったのでした。

 

 

■理系の心をつかむレオナルド

このあたりが、理系人間のマインドをつかむポイントだと思うのです(笑) 描きだされるものの意味や根拠が「科学」に基づいている。自分が学んできた学問の基本の思考でもある「自然科学」の法則が描かれている。というところが、しっくりとなじんで、興味を誘ってくれるのでした。これが、「宗教的に」「精神性が」「心象風景が・・・」と言われると、そんなこと、だれにもわからないじゃない! って思ってしまうのでした。(笑)

 

時々、「理系だから絵がわからない」という声を耳にします。私もそうでした。感覚的なものを、どうも受け入れ難いのです。でもレオナルドの絵は、これまで学んだ科学の裏付けをもとに、現象を描いているので、そんなことまで考えて絵を描いていたの!? それを知っていたんだ・・・ という引きがあると感じているのでお勧めです。

  

ここで知った「空気遠近法」というのは、「光」「水蒸気」「反射」(屈折)といった科学に戻づく描写法ということで理解してきました。

 

あれから、10年がたって、改めて「空気遠近法」について確認してみました。

 

 

■空気遠近法について

wiki pedhiaより

レオナルド・ダ・ヴィンチ

それだけでなくダ・ヴィンチは新たな発見もした。幾何学的な透視図法に「遠くのものは色が変化し、境界がぼやける」という空気遠近法の概念を組み合わせたのだ。彼は遠近法の理解が芸術にとって非常に重要であることを悟り、「実践は強固な理論のもとでのみ構築される。遠近法こそその道標であり、入り口でもある。遠近法無しではこと絵画に関して期待できるものは何もない」と述べている。

ただし、彼の遠近法は正しいものと比較すると、パースが強く設定されており、誤りがある。

 

 上記は「遠近法」という項目の中で、補足的に解説されているだけで、項目立てはされていませんでした。

また、下記のようなインフォメーションも出ています。 

 

 

 

美術の見方~美術鑑賞をもっと気軽に、もっと知的に~ より

 空気遠近法・色彩遠近法とは :

空気遠近法は、下記のモナリザの背景の描写で、遠い景色は青く描かれています。

     f:id:korokoroblog:20170119113021p:plain

 

この原理は、大気中に含まれる水蒸気の乱反射によって、

遠方の事物ほど青味がかって見え輪郭がぼやけ霞んで見えます

 

空気遠近法・色彩遠近法は、上記のような大気の性質を利用した表現法です。

(同じ大気の性質を利用しているので、「空気」と「色彩」の言葉の使用が混在している)

 

遠くに見える風景を描く際に、薄紫色や薄青色を多く混ぜて、遠景にあるものを青灰色にぼかしたり、霞んだように描いたりして空間の奥行きを表現する方法。

 

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▲実際の見え方も、遠くは薄い青、近くの山は濃い青に見えます。

 

 厳密にわけると

空気遠近法遠方の対象物ほどぼやけて見えるという現象を描く為に、
      細部を省略したり描線を細くしたりする表現方法を指します。

色彩遠近法遠方の対象物ほど青味がかって霞んで見えるという現象を描く為に、
      遠景になるにつれて青味を帯びた明るい色調にし、
       色彩によって奥行きを表現する方法を指します。

 

ちなみに、色彩遠近法については、下記のような記載もあります。

 ⇒出典:色彩遠近法  | 武蔵野美術大学 造形ファイル

 色彩遠近法は、色の持つ心理的な作用や視覚的な効果を利用した空間表現法です。色彩は主に暖色と寒色に分けられ、暖色系の赤や黄などは、前方に迫り出してくるような圧迫感を与えます。一方、寒色系の青などは、後方に向かって吸収されていくように感じます。こういった色彩が人間に与える視覚・心理的特質を利用し、それぞれの色彩を変化や対比させることで、遠い近いなどの空間を表現する方法です。


一般的な具体例として、深緑の山々がそびえるような風景をこの方法で描く場合、手前の山は暖か味のある黄色味などを含んだ緑色で描き、遠方の山々を描くに連れて徐々に暖色系の色は薄れ、寒色系の青味をおびた色彩で描くことで、山々が奥へ連なっていくような遠近表現をすることができます。ちなみにこの方法は、空気遠近法の一部も担っています。

 

 

武蔵野美術大学 造形ファイル より

空気遠近法 |

空気遠近法は、大気が持つ性質を利用した空間表現法です。例えば戸外の風景を眺めてみると、遠景に向かうほどに対象物は青味がかって見え、また同時に、遠景ほど輪郭線が不明瞭になり、対象物は霞(かす)んで見えます。

こういった性質を利用して空気遠近法では、遠景にあるものほど形態をぼやかして描いたり、色彩をより大気の色に近づけるなどして、空間の奥行きを表現します。具体的には、晴天で地上には深緑の山々がそびえるような風景をこの方法で描く場合、その山々の色は遠方に行くほど、深緑から徐々に青味をおび、さらに空の明るい色調へと近づいていきます。また、山の輪郭も遠方の山ほど大気の中に取り込まれるように薄れていくように表現します。

ルネサンス期においては、レオナルド・ダ・ヴィンチも熱心に研究を行ったことが知られています。当時、すでに遠近技法として、線の消失点への収束や、遠くの物ほど小さく見せるなどで奥行きを表現する「線遠近法」がありました。しかし、戸外の情景を描く場合など、遠景を平面の画面上で表現する際には、線の効果だけでは充分でなく、色彩の効果が必要であることをレオナルドは認識していました。色彩上の工夫はそれまでにもありましたが、ここで初めて「空気遠近法」という技法が確立されることになりました。

 

 

■美術用語を調べるためのしかるべきところは?

改めて調べてみて思ったのは、私が国立科学博物館東京国立博物館で見た、科学的な理由を含めた「空気遠近法」の解説がみあたらないのです。 また、美術に関する用語を調べる時、信頼すべきサイトというのはどこなのかもよくわからなくなりました。

 

サイトの情報を確認するときには、その情報が、誰が(どんな団体が)どんな目的で提供しているのかを確認します。その上で、信頼性があるかどうかを判断していますが、提供者の目的に「?」がついたとしても、内容としては、信頼できそうと判断することも・・・

 

wiki pedhiaについて

正確性は保証されてはいませんが、まず何かを調べる時の基本として利用します。しかし、今回「空気遠近法」といった美術界では基本用語と思っていた言葉は、独立した説明がなく、「遠近法」の中で解説がされています。また、「遠近法」という用語に対して。信頼性に対する懐疑のインフォメーションが出ていました。

 

美術の見方~美術鑑賞をもっと気軽に、もっと知的に~ 

こちらの情報は詳しく、何かを調べる時に、ここにたどり着くことも多いサイトです。ところが、個人のブログで、情報発信されている方のプロフィールはこちらです⇒(ごあいさつ

 

美術に関するキャリアを持たれた方で、とてもわかりやすく解説されています。しかし、基本用語の定義のような「空気遠近法」という解説を、こちらのサイトを持って美術界の見解として理解してよいのかどうか、判断しかねているところです。

 

「空気」と「色彩」の言葉の使用が混在しているという指摘があり、「空気遠近法」「色彩遠近法」の解説をそれぞれにされていますが、この解説が美術界のコンセンサスが得られている解説なのか・・・  混在しているということは、正式な定義がないからと言えるのではないか・・・と思ってしまうのでした。

 

 

 武蔵野美術大学 造形ファイル 

武蔵野美術大学のサイトで、 「空気遠近法」についての解説があります。こちらは、googleで検索するとトップに掲載されます。一大学の解説を持って、美術界の共通認識と判断していいのかどうかも、よくわかりません。

 

また、解説が、「空気遠近法とは何か」について、歯切れのよい解説でなくて、今一つ理解しにくいと感じてしまいました。

 

 

以上のように、「空気遠近法」についてを知り、理解できたと思ってから10年の月日を経て、改めて調べてみると、どうも納得いく解説がみつからず、それぞれの視点で解説がされているように感じられるのです。

 

 

■美術界の用語の定義とは?

美術界における用語の定義というのは、どうなっているのか。そこのところに最近、疑問を感じる場面が多くなってきました。

 

医学の世界には、言葉がわからない時にはまず調べる入り口として「医学大辞典」というものがあります。そして、化学では「理化学辞典」、生物では「生物学辞典」、物理には「物理学辞典」というものがあって、その先の専門になると、そのジャンルにおける、しかるべき辞典や専門書が存在しています。

 

わからないことは、まずは言葉を知らべて、そこからスタートするという学習法を学生時代に身につけていていました。⇒【*1
そのため新しい世界に興味を持つと、言葉の意味、定義を調べるということを習慣にしてきました。

 

ところが、これまで調べてきたように、わからない言葉が、すっきり解説されて明確にならないことも多い・・・ということがわかってきました。入り口でつまづきそのあたりでずっとジレンマを感じていました。

 

美術界において、「医学辞典」となるようなものは何なのか・・・・・ 日本画について調べていた時には、図書館のレファレンスや、藝大の図書館に問い合わせてみたのですが、美術全体の用語についての参考図書は、確認していないので、上野に行ったときに訪れてみよう・・・と思いながら、まだ調べることができていないのが現状です。

 

 

ということで、「空気遠近法」という手法がどういうものなのか、それについて調べようと思っても、どの情報をたよりにすればよいのか。また、国立科学博物館東京国立博物館で見たような自然科学の原理にもとづいた解説がみあたらないのは・・・・・

 

ということころで、一区切り、また改めます。(続)

 

 

*1:〇基本を学ぶことを選択

↑ 国試の勉強をするにあたって、まず基礎となる用語を辞典で確認してから、全体像を把握するという習慣がその後の学習の基本になっています。新たに興味を持ったジャンルについては、まずは言葉を調べるということが習慣になっています。ところが、医学や科学の世界のように、多くの世界が、スパッと、解説がされていないことが多く、戸惑いを感じています。

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