コロコロのアート 見て歩記&調べ歩記

美術鑑賞を通して感じたこと、考えたこと、調べたことを、過去と繋げて追記したりして変化を楽しむブログ 一枚の絵を深堀したり・・・ 

■クリスチャン・ボルタンスキー個展「アニミタスⅡ」(後編)(エスパス ルイ・ヴィトン東京)

クリスチャン・ボルタンスキーの個展「アニミタスⅡ」が東京・表参道のエスパス ルイ・ヴィトン東京で開催されています。7月上旬の18時頃から閉館まで、変化をウォッチしてきました。会期は2019.6.13~11.17)

「アニミタス」についての解説などは、下記前編 にて紹介しています。

 

■クリエイティビティーな空間

エスパス ルイ・ヴィトン東京は、ルイ・ヴィトン表参道ビルの7階に位置し、まるで空に浮かぶガラス張りの異空間のような印象のアートスペースです。ルイ・ヴィトンと日本のクリエイティビティーへの情熱の象徴で、この空間がインスピレーションを喚起させ、コンテンポラリーアートの創造を育むスペースとして2011年に誕生しました。

ガラス張りで囲まれたオープンなスペースには、昼は自然光が降り注ぎます。訪れる時間や、お天気によって、作品の違う表情と出会えます。特に日没時は期待大。作品と周囲の空が一体化して、刻一刻と変化する様子に浸ることは、ボルタンスキーが提唱する沈思黙考の時間になります。 

 

■《アニミタス(ささやきの森)》 

〇夕方から閉館まで 外の変化

【18時頃】に会場に到着。これから陽が暮れてゆくところです。

 

【19:30】陽は落ちて館内はすっかり暗くなり・・・・

 

 【19:30頃】窓の外も夜の帳が下がると、そこがスクリーンとなってもう一つの映像が浮かびあがりました。

 

 

左右のガラスには、都会のネオンとともに、豊島の森が浮かび上がりました。

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その間、ビルの谷間でライティングされた建物が浮かびあがります。

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さらに床に敷いた藁、風鈴や蝉の音など、様々な要素とともに映像に引き込まれます。「匂いや音、すべてが作品の一部」だと語るボルタンスキー。この空間が持っているインスピレーションを喚起する力とあいまって、日ごろの感覚が鋭敏になるのを感じさせられました。

 

〇夕方からの変化 蝉の声、風、光・・・・

【18時過ぎ】騒がしい蝉の鳴き声が、おちつきだします。風は単調で、光はまだ落ちてはいません。
【19時前】蝉の鳴き声は、別の虫にバトンタッチしました。風も一旦、強くなり風鈴の音も増幅して膨らみます。

【19時すぎ】日が落ちました。風が一旦、とまります。そして再び、そよぎだします。止まっていた風鈴も鳴り出します。風の動きは、風鈴の音や揺れから感じさせられます。またずっと画像を見ていると、画像の両サイドの端の映像の動きでも、リアルな風の動きを伝えます。木々が画像の枠に入ったり出てたりしていました。

【19時15分頃】蝉から虫の音に、はっきりチェンジしました。風が通る道も見えてきます。森の中にも木の生え方が密と疎の部分があります。疎の部分を抜けていくのがわかります。だんだん、響きが弦楽器のように感じられてきました。

【19時30分すぎ】ここに来て、なぜか草の香りがふわっと漂いました。実は、それまであまり藁のニオイを感じていませんでした。漂う香りは、突如立ち込めた感じ。ニオイというのは、慣れてしまうと次第に感じなくなるものです。逆の現象に遭遇。急ににおい立ったことにあれ?もしかして・・・・と考えたりしています。

【20時閉館】閉館の時間がわずかに過ぎました。ささやきの森の映像は、どんな締めくくりとなるのでしょうか? 真っ暗に? 砂嵐のような状態? それとも・・・・ 時間になったら、映像は自動オフ? どんなふうにシャットダウンするのか。そこを見極めたくて最後までいました。

 

〇フォトムービーで見る《ささやきの森》

7月8日 18:00~20:00 フォトムービー 
(クリック後、画像をもう一度クリックすると開始します)

 

〇現地で見える景色 vs エスパスで見える景色 

ボルタンスキ―は語ります。現地に訪れることは問題ではない。しかし・・・・
現地を訪れているとどうしても、思ってしまいます。おもちゃにしか感じられない。 

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ところが、暗くなるまでの間、光のあたる部分が消える瞬間をウォッチしていました。写真左の中央奥の木の根元にあたっている光が消える瞬間を確認。写真右の中央の木の幹にあたる光が消える瞬間。残照を追いかけて消えていく様子を確かめていました。するとささやきの森の中にいるのと同じ感覚になっていたのです。

 

最後の光が、確か画面中央のこの光。それが消える瞬間を追っていました。

 

気づくと、ささやきの森の中を、さまよっていました。実際に訪れた時よりも、ずっと長い時間を過ごしていました。そして夕暮れ時の《ささやきの森》をここで追体験できたような気分になれたのでした。

 

〇ささやきの森の時間と、都会の時間

ちなみに《ささやきの森》時間と、ここ、表参道「エスパスルイ・ヴィトン東京」時間は連動しており同期しているのだと思っていました。東西に広がる日本の日の長さ違いを、感じていました。

【20時】瀬戸内豊島 《ささやきの森》まだ闇になっていません

西は20時でも、まだ明るいんだなぁ‥‥ と思っていたのですが、映像の時間と、実際の時間は、一致していないそう。5時間ほどカットされて編集されているようです。(となると、逆にどこをカットしたのか気になります)

総撮影時間:12 時間 52 分 21 秒  上映時間:12時~20時(8時間) 

 

■《アニミタス(死せる母たち)》

こちらは、2017年、イスラエル死海のほとりで制作された《アニミタス》のシリーズ。日の出から日没までをワンカットで連続撮影したものを上映。スクリーンの前には、藁が敷かれ、草花があしらわれています。

 

〇霞んだ向こうは湖

上の写真。午後になると、ガスってしまうため、砂漠のように見えています。が、ここはイスラエル死海のほとりです。午前中の映像は、向こう側には青い海のような死海が見えているらしいです。

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 エントランスのパネル写真

 

〇会場オープン時に見える太陽

オープンは、 12時。オープンと同時に行くと、太陽が昇る光景と、向こう岸の海が見えるようです。

「歩いて知った麻布ガイド」さんが紹介されています。画像をお借りしました。

引用:クリスチャン・ボルタンスキー展 国立新美術館とエスパス ルイ・ヴィトン | 歩いて知った麻布ガイド

 

ちなみにこの映像作品の総撮影時間は 10 時間 33 分 上映時間は12時~20時(8時間) 《アニミタス(死せる母たち》の映像は、2時間半ほど端折られたことになります。しかし、12時からの開館時には、朝の太陽が昇る様子を見ることができるよう編集されているようです。

 

藁が敷き詰められ、その合間にあしらわれた草花。この変化も含めたインスタレーションだと聞いていました。草花は時の経過とともに、自然の摂理に従って姿を変えるという解説を事前に見て、生の植物が使われているのだと思っていました。そこにあったのはドライの植物。

時の経過の自然の摂理を、5か月の長丁場の期間、生で示すのかとちょっと心配だったのですが杞憂でした。 

 

〇地平線に近づいてみる

 この映像の地平線は、死海の水際だとわかり、近寄ってみました。そこに死海があると思えばあるようにも感じられますが、言われないとわかりません。 

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地平線に見えているのは、何でしょうか?

 

斜め方向から近づいてみました。いきなり映像に奥行きが出てきました。

 

〇引き込まれる没入感

砂漠のようなところに紛れ込んでしまった感じです。写真を撮影するためにフレームで切取っていると、周りの景色を排除した画像ばかりを見るので、次第に映像に没入していくのを感じます。

砂、砂漠をさまよっている感覚。そして荒涼とした砂漠のような先に水が存在している・・・・ 蜃気楼のように。そして鈴の音と一緒に、チョロチョロ、水が流れる音もするのです。しかしその水は死海。生物が生きていけないと言われている湖です。(最近は、小さな生物が発見されたそうです)

 

〇音の分化 

映像の中に入り込んで、見えたのは、風鈴は揺れていないこと。風は吹いていません。丁度、凪の時間帯でしょうか?陸風から海風に変わる無風状態。

ところが・・・・ 風鈴の音はしているのです! 耳をすませばそれは、バックで流れている映像《ささやきの森》の風鈴の音が、一体化していたことに気づかされ蝉の声まで、ここから聞こえているかのような・・・・

ところが、両方の映像から目をそらし、パンフレットに目をやっていました。すると耳は、2つの鈴の音を認識し始めました。風鈴の音が分離されるのです。目をつぶってみました。明らかに音の方向性も認識ができ《アニミタス(死せる母たち)》の映像から発せられている風鈴の音が分離されます。そして水の音もはっきり聞こえてくるのです。

しかし、その音は、映像が無風の状態でも、鈴が鳴っているということまで、気付かせてしまうのでした。映像と音は、同録ではないってこと?編集されてる?

見えなくもいいものも見えてきました。

 

〇フォトムービーで見る《死せる母たち》

7月8日 18:00~20:00 撮影した写真のムービー 
(クリック後、画像をもう一度クリックすると開始します)

 

■消える瞬間 

最後、映像が消える瞬間はどうなるのか・・・・  どう終わりを告げるのか。興味はその1点になりました。最後、霧に囲まれ何も見えなくなります。そして閉館の時間が来たとき、その映像はどうなるのか・・・・

 

私と同じような興味を持った方がいらっしゃいました。その瞬間を見届けたくて・・・・と、それまでどこかで時間調整をして戻ってこられました。

 

興味がわいたらぜひ、でかけて確かめてみて下さい。

 

会期は2019年11月17日まで。映像とそれをとりまく空間。日の落ち方のギャップも興味深そうです。(無料)

 

 

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