コロコロのアート 見て歩記&調べ歩記

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■日本刀の華 備前刀:職方実演会「日本刀にたずさわる職方の技」

静嘉堂文庫美術館で行われた「日本刀の華 備前刀」にて、職方実演会「日本方にたずさわる職人の技」が開催されました。(2019.05.18) 謎多き、刀剣制作を目の前にできる貴重な機会でした。刀剣制作の資料としてまとめました。

*写真撮影可

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日本刀の美しさの一つに、多様に浮かび上がる刃文があります。このような文様がどのようにして現れるのか、ずっと疑問でした。調べてみても、言葉の解説だけではよく理解ができません。 

日本刀制作にたずさわる職人による実演が行われました。

・日本刀師:水野美行氏…鞘のかき入れ(削り出し)
・刀匠:小澤茂範氏、
・研師:川上陽一郎氏

かねてからの疑問だった、刃文はいかにして作られるのか。「土置き」という技術によってもたらされます。「土置き」の方法を中心に、刀剣制作の工程を紹介。こんな見学のチャンスはなかなかありません。

 

解説は、刀剣用語解説集を参考にしました。


 

■日本刀の制作プロセス

〇材料

 材料                         材料の小割

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〇折り返し 

何度も折り返して強度を強くします。

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タテ方向にも折って、たたみながら強度を増していきます。

 

 

〇造り込み

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日本刀は、曲がらない堅さと、折れない粘り、柔らかさを合わせ持ちます。「堅さ」と「柔らかさ」という相反する性質を持つ日本刀は、造り込みという手法で作られています。

粘りがある柔らかい鉄を芯にし、硬い鉄でくるむ。という方法です。これによって、2つの性質を持つことができます。

 

謎:このような技術を、さかのぼれば平安時代に作り上げていたわけです。どうしてこのような方法を思いつくことができたのでしょうか?刀匠の小澤茂範氏に伺ってみました。

 

⇒たたいて延ばしながら形にするというのは、思いつくところだと思います。西洋でも行われた技法。そこに畳んで延ばすという方法は、あくまで想像の域ですが、そば打ちなどがヒントになっているのではないでしょうか? こねて、広げて、かさねるを繰り返すと粘りがでる。それを刀づくりに応用した?

 

 

■刃文をつける

〇土置き

刀身に刃文を施す作業。焼入れと共に刀剣制作の最終段階の修復のできない最重要行程。刃文を想定して土を厚く塗り重ねる。

 

 

〇焼刃土

刀匠により秘伝とされる。不純物のない粘土に墨粉や荒砥粉など混合した粘性の高い物質。よく練り、均一にする。

 

〇引き土

刀身全体に引き土を施す。乾いた後、表現する刃文を想定し、土を厚く塗り重ねる。

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〇土取り

薄く描きとる土取りの作業で薄厚、高低、広狭等、焼刃土の量に変化をつけて、刀身上に描き出す。これらを総じて土置きと称する。

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直刃

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乱れ刃

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この後に、刀身を炉内で赤熱し、焼入れ作業を行う。

 

土で厚く覆われた部分は焼が浅くゆるやかに入り、土の薄く置かれた刃部は焼が深く入る。

 

 

〇研磨

研磨を施すと見事の刃文として現れる。

小さなやすりで丁寧に磨き上げられます。 

 

■ 鞘師の仕事

刀身を入れる筒状の鞘を作る。朴の木を使用。主に拵(こしらえ)の下地と白鞘の2種類の鞘をつくる。

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(左)鞘を張り合わせるノリづくり。ご飯を練りつぶし、水に溶かして使用(続飯そくい)

(右)白鞘の制作。刀を家で保管するときに入れる鞘 刀の保護のため。拵えはよそ行き。展示をする際に、よそ行きの鞘の中に入れる刀(つなぎ)の作成も。

 

思いもよらないところにまで気を配り、繊細な仕事を担っています。よそ行きの鞘は漆塗り。家用は白木のまま。よそ行きの鞘の中に漆は、基本塗らないが、時に要望で塗ることも。金を張ってほしいというリクエストもあったりするそう。

 

■まとめ・感想 

刀剣になぜ、あのような文様が現れるのか。それは、鉄という素材が持つ様々な特徴を混合し、過熱によっておきる反応がもたらすものだと理解しました。

■参考資料:鉄の組成 火入れ 冷却による組織状態

 

その点でいうと、陶磁器も同様で、土の中に存在する物質と、加熱による反応という点で、共通点があり、今回の刀剣と曜変天目の親和性を見ていました。また明日の命もわからない武士が、心の平穏を保つためにたしなんだ茶の湯。武士が持つ刀と茶碗というつながりも感じさせられていました。

 

平安時代に制作が始まったという刀剣。その時代に、理論的な知識はありません。いかにして、このような刀の製法に至ったのか。経験的に習得するにしても、最初に考えた人は、どのような発想でこのような製法を思いついたのかなと思っていました。

また技術の伝承はどのように行われていたのでしょうか。

刀剣は工房制作されており、工房ごとに技術が伝わっていったそうです。理屈ではなく見て覚える。そこに所属することによって、伝わる空気のようなものもあるのかもしれません。

 

丁子のような複雑な文様はどのように制作しているのか。土置きで文様を作っても、直刃に戻るという性質があるそうです。ところが、焼入れによる土の収縮はないそうです。そうした様々な性質は、経験によって蓄積されていくそうです。さらに工房でも学びながら、自身の刀剣に作り上げていく過程がわかりました。そして、様々な刃文は、磨きによって浮かび上がるというのは目からウロコでした。

 

世界に類を見ないという日本の刀剣。世界の刀剣は型押しでこのような複雑な製法ではないそうです。身の回りにある産物の特徴をつかみ、上手に使いこなしてきた歴史ともいえそうです。さらに機能とは別の進化も遂げたようで、装飾性も極めています。刀剣は工芸技術の粋の結集とも言えます。これらの技術を次世代へ継承するという、大きな課題もあるように伺いました。

 

■関連ブログ

【日本刀の華 備前刀(静嘉堂文庫美術館)】

 

【名刀礼賛 もののふたちの美学(泉屋博古館分館)】

 

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