コロコロのアート 見て歩記&調べ歩記

美術鑑賞を通して感じたこと、考えたこと、調べたことを、過去と繋げて追記したりして変化を楽しむブログ 一枚の絵を深堀したり・・・ 

■絵の見方:昼と夕方で見え方が違う!? 「カンディンスキ―、ルオーと色の冒険者たち」の一枚から

絵画鑑賞って難しいと感じる方は多いのではないでしょうか? 何を言いたいのかわからない。時代背景や画家のことを知らないと絵は理解できないと言われたりします。そんなことは抜きにして、同じ絵を「朝」と「夕方」で見たら違って見えました。いったいそれはなぜだったのか探ってみました。

 

 

 ■始めてみた時は真っ暗な闇の世界に‥‥

現在、パナソニック汐留ミュージアムで行われている「表現への情熱 カンディンスキ―、ルオーと色の冒険者たち」の中で展示されているルオーの《法廷》という作品があります。(著作権の関係で、画像の掲載ができないため、下記のリンク先を御覧いただければと思います)

 

   ⇒ルオーコレクション | 汐留ミュージアム | Panasonic

      上記の「その他」のカテゴリー内 《法廷》

 

この絵を初めて見た時は、離れて見ていたため、真っ黒な闇の中に、赤い服を着た人たちが、妙に浮き上がって見える絵だなぁ・・・と思いました。ところが近づいて見ると、真っ黒だと思っていた部分には緑色が入っていることがわかりました。

そして左側には、人がいることに気づかず、突如、浮き上がって見えた時は、びっくりしました。なんだ、この人たちは‥‥ そして、右側を見るとそこにもでっぷりした人がいることに気づきました。闇だとばかり思っていた空間に「人」が存在していたのです。 

 

 

■2度目に見たら、最初から人も見えて緑もはっきり

山田五郎さんによる講演会があり再び、この絵を目にしました。すると、なかなか見えなかった暗闇の中の人が、はっきりくっきり最初から見えたのです。真っ黒だと思っていた部分の緑色も、比較的わかりやすく緑色が確認できました。

 

 

■同じ絵の色が違って見えたのはなぜ?

同じ絵を見て、なぜこんなにも見え方が違ったのでしょうか? ちょっと考えてみました。

〇朝と夕方の照明が違う

パナソニック汐留ミュージアムは照明のメーカーの美術館です。朝・昼・夕方の光に合わせて変えていると聞いたことがありました。

panasonic.co.jp

そのため朝と夕方の色が変化したのだと理解しました。ところが、現在はそのような照明はしていないことがわかりました。

 

〇先入観で見えてしまう

何が描かれているか一度、知ってしまったため、次に見た時は、最初からそれが見えてしまったとか?

 

〇外光によって目の反応が違う

「昼間」の明るいところから美術館へ。「夕暮れ」の明るさから美術館へ。外光の明るさが違うので、目の反応が変化し、同じ絵も違って見えたのかも・・・

 

 

同じ絵を見ても、絵に対する認知の状態や、外光の明るさなどによって、色の見え方が変化することがわかりました。絵画鑑賞というのは、目の身体機能を使って見ていて科学の部分がある…とわかると、とても面白く感じられました。

 

 

■赤がよく見える最新照明だった

あとでわかったのですが、この展示では照明が最新のものに交換され、赤がよく見えるものに変えられていたことがわかりました。上のグラフの赤のところが98になっています。通常の照明だと20~30ぐらいなのだそうです。98ということは、かなり改善がされていたことがわかります。

妙に赤が目立つなぁ・・・・と思ったのは、赤をより再現できる最新の光も影響していたようです。

 

 

■絵は見えない色が重なっている

これは、西洋美術館で撮影したルオーの《リュリュ》(道化の顔)です。

 

部分拡大をしてみると、こんなに色が重ねられています。

表面に見える色以外にも、たくさんの色が絵の中に存在していることがわかります。

 

 

パナソニック汐留ミュージアムの「ルオーギャラリー」には、下記のようなモニタ―があります。(実はこれ、大型のiPad なんだそうです) 

特に、ルオーの絵をこのモニターで拡大して見ると、実際に肉眼では見えなかった色がにたくさん重ねられて描かれていることがわかります。見えていない色が、まだまだあることが想像され、そんな隠れた色が、これからの照明技術によって引き出されてくる可能性を感じさせられました。

 

 

■最後に

作品名《法廷》 作者はルオー。赤い服を着た人たちは裁判官で、左が傍聴人、右が被告。画家のルオーは法律を学んでいましたが、途中、思いたって画家に転身しました。

こうした絵の背景を知ると、また別の見方ができます。「人を裁く」ということについて、いろいろ思うことがあったのかなぁ…とか。この他にも「法廷」をテーマにいくつか絵を描いているそうです。

 

でも、そんなことを知らなくても「色の見え方が昼と夜とで違う」というおもしろさに気づきました。それは、目の機能と関連しています。そしてまだまだ見えていない色があって、光の技術によって見えてくる可能性があるかもしれません。

 

パナソニック汐留ミュージアムでは、退館の際にスタンプを押してもらえば、再入館が可能です。機会がありましたら、午前と午後に見比べてみるのも面白いです。今回、他の絵で赤が使われているものも比べてみましたが、《法廷》が一番顕著な違いがありました。

 

絵画鑑賞というのは、いろいろな角度から自由にとらえることができます。絵画の中に視覚の科学があるというのは新たな発見です。美術鑑賞から目の仕組みや、周囲の光によって変化するということを体験できます。

 

そして、絵の中には、私たちには、まだ見えていない色が存在しているというのも、ワクワクさせられます。それを発見できるかもしれないという楽しみが増えました。同じ絵も何度か見ているうちに、自分だけにしか見えない色を発見! そんな密かな楽しみをみつけてみてはいかがでしょうか?

 

 

*掲載の写真は、撮影、掲載許可をとってあります。