静嘉堂文庫美術館で行われている「かおりを飾る~ 珠玉の香合・香炉展 」 これは、茶の湯に関連した「香」に関する展示ということらしいのですが、「茶の湯」に「香り」を楽しむというプロセスってありましたっけ? どうも腑におちない気持ちを持ちながらの鑑賞でした。
■お茶の形だけを調べた時に・・・
旅行に行った先で、お抹茶が提供されることがあります。形だけでもお茶のいただき方を知っておこうと思って、お茶について調べたことがありました。そこに「香を楽しむ」というプロセスを見た記憶がありませんでした。「お茶と香り」いったいどういう関係で、どのように組み込まれているのか? そこの部分にひっかかっていました。
〇今は端折られてしまったらしい
どうやら、その昔、茶道の中に、香も楽しむというプロセスがあったようです。ところが、昨今、大茶会といった大勢で茶会が開かれるようになり、そういうことが端折られているということを知ってやっと、香が茶の湯の中に入り込んでいて密接な関係があったことがわかりました。
では、お茶のプロセスの中で、どうやって香を楽しんでいたのか・・・ それがわからないと前に進めないという状態に。
今、お茶をカルチャー的にたしなんでいらっしゃる方たちは、そういうことも踏まえていらっしゃるのかしら? とそんなことまで疑問に思ってしまい、過去にお茶を習ったことがある友人に確認してみたりしました。そんなこと、知らない人、多いんじゃない? とのこと。それくらい、お茶と香りの関係というのは、今の生活では離れてしまっていると思ったのでした。
〇どうやって香を楽しんだのか
お茶の簡単ないただき方を調べた時も、なかなかわかりやすい情報がなく図解、もしくは動画で紹介されているのをみつけるのに苦労したという経験があります。
そんなこともあって、今は行われていない「香」の楽しみ方を、わかるように解説されているところを見つけるのはおそらく至難の業だと思いました。だからこそ「道」なのでしょう。そこを知るためにはその道に入門しなければわからない世界・・・と、どこか調べても無駄、結果が見えているようで、調べる気もおこらない状態でした。…
トークショーに多くの人が集まっていますが、ここにいらっしゃる方たちは、そういうことは常識として身につけている方たちばかりなのかしら? と自分のモノを知らなさを心の中で嘆いていました。
お茶の作法も分からない。お茶の歴史もわからない。わらかないづくしで、どうやって香合、香炉を鑑賞すればいいのか・・・・
■トークショーでの解説
茶の湯や香道は、敷居の高い世界と思っている人が多いだろう・・・ という前提でお話が進んだので一安心。しかし、途中からお手上げ状態となっていきました。やはり基本知識がなさすぎます。室町あたりの中学の歴史から出直さないと、理解ができません・・・途中で挫折。
〇合子って?
「ごうす」という言葉が何度も出てきました。「ごうす」「ごうす」「ごうす」どこかで聞いたことがあります。でもなんだったけ? 漢字は確か「合」に「子」だったような・・・? それが気になりだすと、そこばかりが気になって、他のことが上の空状態・・・(笑)
◆ 合子(ごうす、ごうし) wiki pedhiaより
香合(こうごう)とは、香を収納する蓋付きの小さな容器。茶道具の一種であり、また仏具の一種でもある。香蓋とも書かれるが当て字。また合子(ごうす、ごうし)ともいう。
なんだ、合子は香合のことだったのです・・・ 紛らわしい(笑)
茶の湯の歴史、香の歴史、日本の歴史がわからないと、ちょっとしんどい世界・・・ 茶の湯と香の概略年表が欲しい!
〇敷居の高い展示をどう見ればいいのか
しかし、学芸員さんはこう、おっしゃいました。
「茶の湯」「香道」というとどうしても敷居が高いと思われてしまいますが、堅苦しく考えなくもいいです。「小さな容器。かわいい! 自分の大事なものをかわいい容器に入れて大切にしまう。自分だったらどの容器に入れようか・・・・」そんなふうに見てもらえればいいです。とのことでした。
最近、日本の「かわいい」が文化となりつつあるのを感じます。もしかしたら、これは新たな価値観の創造? ともとらえられるかもしれません。もしかしたら、何千年後には、この時代が「かわいい文化」の発祥と位置付けられているかもしれません。
可愛い かわいい 香合い
「香合」を「かわいい」と読み変えてみては? と学芸員の長谷川さん。今様文化としてその名が残されるかどうか(笑)
ということで、かわいいをみつけつつ、以前から自分が気になっていたところや、知っていることからのつながりで「香合」「かわいい」のアプロ―チしてみようと思います。
■香の文化史
と思っていたら、その日の夜にこんな記事がアップされていました。
香に関する文化史を、お香から香道になるまでを解説されていました。こうした全体を見据えた概略を知っていると、お香、香道を理解するのにとても役立ちます。また、コメント欄にても、北山文化、東山文化について解説がされ、私のわからないかゆいところに手が届いたような情報でした。
■香道に関する予備知識
一方、香道については、生活の中で触れたり、これまでの美術鑑賞の中で目に触れる機会がありました。最初に香道を知ったのは、ホテルで提供された浴衣の模様でした。
〇ホテルの浴衣の模様
箱根のハイアットに泊まった時の浴衣の模様が源氏香でした。
出典:アメニティ@ハイアットリージェンシー箱根(*^^*)|旅とグルメと韓流と…時々お仕事♪
ここで源氏香とは何ぞやと調べて、その深淵なる世界を知りました。
〇香木を包んだ《柳図香包》
琳派展で、光琳による香木を包んだという《柳図香包》を目にし、あの香道の香木は、こういうものに包まれていたのか・・・・
その包み方というのが、
香木がここに包まれ、広げる過程で上記のように描かれた絵が展開していくことを想像すると… 空間をのびやかにひろげていく柳の枝などを見て、「香木を包む」その包紙にまでも、これだけの配慮がされている。香道っていったいどれだけの奥深さを持っているのかを目の当たりにさせられました。
〇庭園美術館 朝香宮艇のラジエターカバー
ここにも源氏香がモチーフになっていました。
建物探訪番組で、観月ありささんがゲスト。学芸員さんが、「ありささん、 これ何かわかりますよね?」の質問に、「あっ、源氏香ですね!」と答えていたのがとても印象的でした。こういうところで、知っているか、いないかの差ではあるのですが、教養や知性のようなものを感じさせるのだな・・・と。
そんなわけで、「香道」については、ちょっとちょっと触れる機会があり、とっても興味を持っていました。
昔は生活の香を焚いていて、それが、香道へと昇華されていったようなのですが、そのあたりの変遷がいまいち、わからなかったところを、KIKUさんにフォローしていただけた感じです。
足利義政が自身が収集した香木に加えて前世紀に名を馳せた佐々木道誉の残した膨大な香木を吟味し、分類を試みました。そして、三条西実隆(御家流流祖)や志野宗信(志野流流祖)を中心に、"六国五味(りっこくごみ)"という分類法が編み出され、用具やお香の聞き方も様式化され、香道が成立していきました。
やはりここでも、分類による体系化が行われていたことが伺えます。
そこで、香道の道具について、ご紹介します。
■吉野山蒔絵十種香道具
まずは御覧あれ~ この神々しいばかりの輝きを持った金の玉手箱。
現在、サントリー美術館で玉手箱展が行われておりますが、そこでも見なかったような全面の金細工。これは、解説によると、金地に金鍬の「高蒔絵」の金属の薄板が貼り付けた金貝技法だそうです。
【追記】2017.06.28 手箱の金の技法について
金の施し方による違いによるもの。後述の「金貝技法」は金、銀、錫など薄い板を文様の形に切って貼っているため、光の反射が直接的なので、こちらの方が輝いて見えていたもよう。
〇高蒔絵
ここでいつもなら、高蒔絵って? となってひっかかってしまうのですが、今日は大丈夫! 先日、東博に行った時に、蒔絵の技法について、ばっちり情報収集してあります。東博の常設展では、基本的な技術解説がされているので、こうした展示を見たあとにいくとより理解が深まるのでおすすめです。
炭の粉などを蒔いたりして文様の部分を盛り上げて、その上に漆を塗って金属粉をまきつけるのだそう。
部分アップの撮影ができませんでしたが、吉野の桜の花びらが、こんもりと浮いたようになっていて、吉野山の桜の満開の様子をより際立たせるような描写で表現されています。
〇金貝技法
一方、玉手箱の全面は、フラットな感じです。これは「金貝(かながい)技法」といわれる部分のようで、金、銀、錫など薄い板を文様の形に切って貼っていることがわかりました。
↑ 東博 常設にて撮影
香合同様、玉手箱も大切なものを保管するためのあらゆる技術が駆使されたと考えられます。に、技術の粋を尽くされていたようです。
〇江戸時代の女性の教養アイテム
江戸時代になると、女性の教養として香合をたしなみ、婚礼調度品として携える箱は、家の格式などもそこに表現するべく、技術の粋をかけて制作されたことが考えられます。春画も同様で名だたる絵師がそれを担い、嫁入り道具として携えていたと聞きます。武家の嫁入りにはどれだけの絵師や、工芸が携わったのかと想像すると・・・・
〇香合の道具
その中身はというと・・・・
源氏香の組図が見えます ↓
↓ 何にどうやって使うのかわかりませんが、その複雑さが垣間見えます
↓ こちらは香木が包まれているのでしょう
香木が包まれていると思われる包紙がいろいろそろっています。
この包み方にもいろいろ工夫がありそうです。
一連のこれらを見て、香道というものが、どういうもので、どう使っていたかを想像することは難しいですが、でも、全貌がやっと見えた気がしました。
〇源氏香図
香道の解説で、源氏香の5本の線で、同じ香だと思ったものを線で結びますという説明がありました。もうちょっと知りたいと思ったら、こちらのサイトがわかりやすく解説されていました。
↑ 組香に、組み合わせの数式が・・・・(笑)
また、組香は和歌などの素養も必要で、とても高い教養が必要な高尚な遊びだと言います。そこまでの理解に至らなくても、部分部分で、これまでに見てきたものが、凝縮されてここに詰め込まれていました。
これらを、戻すのも一つ一つ包んで同じ位置に戻さないと収まりきらないそうです。そのための控えなどがあるそうですが、お嫁入りしたお嬢様は、あんちょこを見ることなく戻せたのかなぁ・・・なんてことを考えたりしながら、見ていると当時のお遊びの優雅さに浸りながらタイムスリップします。
■野々村仁清作品
野々村仁清という人を知りませんでした。今年、MOAに行って、あの壺の人か…と認識した状態。(⇒ ■MOA美術館:国宝 色絵藤文茶壺(常設)の新発見!?) 今年は仁清の作品があったら、ちょっと意識して見てみようと思っています。東博、常設展にあれば撮影してストックしていました。会場に入るなりお出迎えしてくれたのはこの白鷲でした。
〇《銹絵白鷺香炉》
白鷺が気持ちよさそうに天に向かってのびをしています。
この内覧会が行われる2日前にも訪れていたのですが、なんと鷺をこの静嘉堂の回りを流れている川の中で目にしていたのです。こちらはアオサギのようですが・・・
首だけが見えています ↓↓
こちらは首を伸ばしています ↓↓
そのあと、仁清のサギの香炉があることを知り、その偶然の一致にびっくり!
仁清のサギが、呼び寄せたのでしょうか? 美術館への道のり、川を渡る時に、サギがいないか要チェックです。お目にかかれたら、何かいいことがあるかも(笑)
↓ 香炉の内部
仁清の鷺の内部はこのようになっていて、香をたく構造になっています。造形の美しさに、香炉としての機能が加わり、蓋と台の構造に。背中には3つの穴があり、口からも煙が出る構造になるよう空気の通りを考えられていると言います。実際に焚いたら、煙はどのように浮かびあがるのでしょか? 背中と口の両方から同時に? あるいは、先に口から、そして背中から? 実際に焚いて見ることはできないのでしょうか? 誰もが思うこと考えること(笑) 実際にその質問も出ていました。
今回、香炉や香合内部も写真を添えて、示されているのでそのあたりも、要チェックです!
〇色絵の仁清が・・・
ところで、仁清といえば、先日、東博常設展で見た《色絵牡丹水指》やMOAの《色絵藤文茶壷》など色絵作品に卓越した優美な作品を残しているという印象が、私の少ない鑑賞体験でも感じていました。そのため、真っ白けっけの白鷺が、仁清なの? と思ってしまったのですが・・・
《色絵牡丹水指》(東博にて撮影)
《色絵藤文茶壷》(MOA美術館にて撮影)
色絵の他に、轆轤(ろくろ)の技術で薄く仕上げることも仁清の特徴で、このサギの体も薄く仕上げられており、そこに彫りで羽根の模様が彫られ、顔や足の部分に鉄彩を施して、墨絵のような効果を施していることなどから、仁清と判断されたようです。
〇《色絵法螺貝香炉》
フライヤーなどでも目にしていた法螺貝ですが、実物を見て一番、驚くのはこれかも。
これは、仁清と言われると確かに仁清っぽい! でも、これ轆轤では作れないわよね・・ それにしてもまあ、よくもこれだけ細かく絵がいたことだし形にしたものです。しかも絵付けには金も用いて、色彩のワンダーランドです。
内部は、↓ こんな構造。
↑ ↑
内部 貝の色、これとなんか似てる気がする(笑)
〇仁清羽子板香合
江戸時代17世紀の作品。制作の前後関係はわかりませんが、《色絵藤文茶壷》などの「色絵」の作風が共通しているよに感じられます。
〇仁清蝸牛香合
《銹絵白鷺香炉》も17世紀江戸時代の作品。こちらも同じ。制作の前後関係はわかりませんが、シンプルな造作物の作風も仁清にはあるようです。
仁清のキーワードとして、シンプルな中の造作という世界がありそうです。作風のバリエーションの広さ、あるいは変化・・・ ひとところに留まってはいないを感じさせられます。
「蝸牛」という名がついた香合。てっきり、茶色い部分を「蝸牛」の造形に見立てているのかと思っていました。随分と省略されたシンプルな作り・・・と思っていました。写真を拡大してみると、白い蝸牛がちょこんとあしらわれていました。
うわっ! 思わず「かわいい~」の一言が・・・
やっとみつけた「かわいい」です。どうも世代のせいか、「かわいい」という言葉を発することに、抵抗を感じてしまうのでした(笑) なんでも「かわいい」ですますのはどうも・・・教養のなさの表れ? それを隠すために、せめてその言葉を発しないことで、保とうなんて浅はかさがあるわけです・・・(笑) それでも漏れてしまう「かわいい」の一言・・・・でした。
■資料:香道 香の歴史
香りに関する歴史がよくわからないと思っていたら、パネルに詳しく解説がありました。内覧会では時間がないので、解説は読まず、撮影をしてあとで、ゆっくり見ることにしていたので・・・ これらも参考にしながら、ちょっと自分でまとめてみょうかな・・・
■香を楽しむ
香には様々な種類があります。それらは目ではわかりません。百聞は一見にしかず・・・・ ということで、香のワークショップが開催されます。
お線香でも天然物と、合成のお線香の香とは全く違うと言います。このワークショップでは、天然の香料を自由に混ぜて、オリジナルの香が作れるそうです。人工の香に慣れた嗅覚に、天然物はどのように香るでしょうか?
【ワークショップ】
A:匂い香づくり体験
日時:7月1日(土)
1)午前10時30分~ 2)午後1時~ 3)午後3時~
所要時間:約60分
定員:各回30名様(予約優先)
会場:地下講堂
教材費:1,620円(税込)
担当:香老舗 松栄堂
松栄堂さんは、先に香についてまとめていただいたKIKUさんが参考書籍とされた(⇒書籍『香三才』 - 迷ったら 楽しい方を えらぶのが いいと思う)香三才―香と日本人のものがたり の著者が代表取締役をされているお香の老舗だったというのも奇遇です。サギといい、ワークショップといい、何か縁がありそう。苦手な香にチャレンジしてみて・・・という思し召しでしょうか? (笑)
*写真撮影、掲載につきましては、主催者の了承を得ております。
■関連
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・静嘉堂文庫 - 東京都世田谷区 - 美術館、アートギャラリー | Facebook
〇静嘉堂関連
■静嘉堂文庫美術館:曜変天目茶碗を見た!(かおりを飾る〜 珠玉の香合・香炉展にて)
↑ ここ
【散策・アクセス】
〇関連展示会
→蒔絵の香合が展示されています。
薫物箱が手箱の中におさめられ、のちの茶の湯への影響。
蒔絵の香合の大きさや種類など、別の角度から香合を見ることができます。
〇饒舌館長のブログ